第二百三十三話:圧倒
『喰らうがいい……!』
「っ……流星盾!」
ヴラードがマントを広げると、奴の周囲に大量の──なんだ?
尖った何か……ブレードのようなものか、トゲか……とにかく、当たって刺さったら痛そうなものが展開される。
当然身を守るために流星盾を展開するが、一撃で割られたりしないよな……。
『ハァッ!』
「来たっ……! 念のため、全員回避──ぃぃぃ!?」
悪い予感はあっさりと当たってしまい、ヴラードが放った攻撃はあっという間に俺の流星盾を砕いた。
しかも、まだ大量に飛んできていて──。
「ブレイブ!」
「っとぉ!?」
すんでのところで、Nさんが俺の襟首を引っ張ってくれたおかげで何とかなった。
ヴラードが放った大量の……黒い、何かは床に刺さっただけで俺たちに直撃することはなかった。
けれど……!
『キキィ!』
「っ、マジか!」
ヴラードの放ったもの、それは小さい小さいコウモリだった。
弾丸のように体を丸めたコウモリが、俺たちに突っ込んできていたのだ。
それが床に刺さった途端、羽を広げて俺たちに牙を剝いて来た!
「やべ、小さくて攻撃が──!」
予想以上のスピード、的の小ささに剣を当てられそうにないな──と思ったところで。
花弁のように小さくなった刃が周囲を舞い、瞬く間にコウモリたちを叩き落とした。
「桜花斬」
「サンドラ……器用だなお前」
「不器用なら、ナイフ投げなんてやってないわよ」
サンドラは短剣の刀身を花弁のように細かく分解することが出来るスキルを使える……というのは聞いていたが、実際に見てみると凄いな。
花弁一枚一枚が十分な威力を持っていて、その攻撃は俺たちを巻き込むことなくして敵だけを切り刻んでやがる。
『フ──喰らうがいい』
「面倒ね……私が撃ち落とすわ」
俺たちがコウモリに面食らってる横でヴラードは何してやがる──と思ったら、またもマントを広げてコウモリの弾丸を展開する。
流星盾はすぐに砕かれてしまったし、サンドラの言葉に甘えることにしよう……と思い、俺は防御をサンドラに任せてスキルの詠唱をする。
恐らく考えはNさんも同じ……だったら、ここらで俺もまた極悪鬼シリーズの新しいスキルを見せてやる。
『ハァッ!』
「トラジック・シンフォニー!」
サンドラがスカートの中から取り出した大量の投げナイフ、それらが高速で飛来するコウモリたちとぶつかり合い──相殺される。
ナイフは砕け散り、コウモリたちも同時に元々少ないHPを全損して消滅していく。
サンドラはちょっぴり苦い顔をしていたが……それにかまっていたら、隙を突くもクソもねえ!
「Nさん! 俺に合わせて!」
「あぁ!」
俺は左、Nさんは右からヴラードを挟むように走り出す。
正面に立つサンドラの隣にはランコとディアブレ、ユリカは飛翔で空中から真っすぐに飛ぶ。
カオスは一番後ろで玉座に座りながら酒を飲んでいるが──特大の魔法を連発するための準備ってところか!
『フッ、小賢しい……』
『【鮮血斬】』
「っ──くっ!」
「オーガ・シールド! っぅぅああああ……!」
ヴラードが鋭利な爪一本一本をナイフのように伸ばしてから両手を広げ、その場から動かずに両腕を薙ぐ。
そこから真っ赤な斬撃が飛んできて──Nさんは何とかギリギリ避け、俺は盾で受けるが……かなりの重さだ!
「っ、らぁあああっ!」
「ブレイブ! 行けるな!」
「もち、ろんっ!」
気合だけで斬撃を打ち払い、俺は剣の方に詠唱していたスキルを発動させる。
Nさんは刀を両手で握って構えて──!
「星砕ノ太刀!」
「ゴブリンズ・ペネトレート!」
真っすぐに踏み込んで放った俺の刺突、Nさんの上段からの斬りかかり。
ヴラードはそれを──
『【ブラッド・ブレイド】』
血のように真っ赤な剣を二本作り出し、スキルを発動させることもなく受け止めやがった!
しかも、ちょっとこっち見て笑ってやがる! なんか腹立つなこの野郎!
『どうした? その程度か』
「あんま舐めた口利いてんじゃねえぞ、このコウモリ野郎! オーガ・スラッシュ!」
今度は真っすぐな叩きつけ! を、受けさせて……コイツの両腕を、どうにか俺たちの攻撃を止めることに使わせる!
あとは……!
「今だ、お前ら!」
俺の指示で、ユリカたちが動いてくれる!
ディアブレは杖をこちらに向け、ランコは槍を抜いて構えて、サンドラは投げナイフを展開する。
カオスは──あ、まだ酒飲んでんのね。
「【ボルケーノ・カノン】! 燃え尽きろッ!」
「風槍炎剣! いっけぇぇぇっ!」
ディアブレの放ったマグマのような魔法にランコの起こした風と炎が融合し、より強力な一撃になってヴラードへ迫る。
そこにワンテンポ遅れて、サンドラとユリカのスキルが放たれる。
「バーストスロー!」
「【ダブルシャイニング・ソード】!」
爆発するナイフ、光り輝く二刀の剣戟が炎の連携攻撃に続くようにヴラードへ命中する。
当然、巻き込まれないように俺もNさんも最初の炎の攻撃が当たる前にヴラードに蹴りを入れてから真後ろにジャンプしておいた。
さて……これで、どうだ?
『この程度か?』
「なっ……マジかよ」
「随分と硬いな……おいブレイブ、出し惜しみはするな。こいつは想像以上だ」
「とは言いましてもね……はぁ、仕方ね」
俺は左腕につけている腕輪にチラリと目をやりつつ……ヴラードの動きを見る。
奴は服に着いた埃を払ったと思うと再度剣を構えて……Nさんを狙って斬りかかりやがった! しかも速い!
──間に合え!
「ヘイト……!」
『ハァッ!』
「ッ──超加速! くっ……!」
「フォーカス!」
本気を出したアーサーをも上回るのではないかというほどの速度の剣戟を、Nさんは何とか避けた。
だがそれも紙一重、数ミリズレていれば斬られていたであろうギリギリの回避……ちょっぴりカスっていたのだ。
俺がヘイト・フォーカスを唱えるのがギリギリ間に合わなかったせいで、危うくNさんが死ぬところだった。
だが、攻撃はまだ続く! 今度は俺狙いだ!
『フ……【ブラッド・ストライク】』
「流星盾! オーガ・シールド! ぐっ……! うぅぅぅおおおおお……!」
二本の剣を真っすぐに構え、地面にヒビが入るほどの強い踏み込みから繰り出される突進。
その猛攻は俺の防御力で出した流星盾を容易く粉砕し、オーガ・シールドで強化した俺の防御をも貫いていた。
……まさか!
「コイツ……! 防御力を無視してやがるのか……!」
カスり当てされたNさんが大したダメージを受けていない、しかし流星盾はいとも簡単に砕かれた。
そこから考えられるのは、コイツ自体の攻撃力が高すぎるのではなく武器やコイツ自身に防御無視が付与されているということだ!
「兄さん!」
「わかって、るぁっ!」
じりじりと押されながらもどうにか攻撃を受け流し、ヴラードの剣を壁に突き刺させる!
よし、隙が出来た……! その無防備な背中に、俺の必殺スキルをぶち込んでやる!
覚悟しやがれ、ヴラード!
「くらえっ! エクストリーム・ペネトレート!」
『甘いな』
「なにっ!? どうなって……!?」
握っていた二本の剣が壁にブッ刺さって、一瞬くらいは慌ててくれると思っていた。
だが、ヴラードはマントで自分の身を包んだと思うとその場から消え、俺のスキルを空ぶらせていた。
マズい、見失った……! 奴はいったいどこにいる!?
「ブレイブさん! うし──」
『ブラッド・ストライク』
「ッ──がはっ……!」
俺が反応して振り向いた時にはヴラードは右手を手刀の形にして、真っ赤な血のようなライトエフェクトを纏わせていた。
その一撃は俺の防具ごと腹を貫き──HPを、全損させた。
「こ、の、野郎……!」
「ブレイブーーーッ!!!」
Nさんの声が、ボス部屋中に響き渡った。