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第二百三十一話:鍵を開ける

「おおおあああああああッ!」


『ブッ、モォォォッ、ゴォッ!』


 武装変化。俺の持つ武器の形を自在に変化させ、攻撃力も既に装備している武器と同値まで変化させられる、極悪鬼シリーズの新たなスキル。

 左手に持っていた極悪鬼の小盾は右手に握っていた極悪鬼の剣と同じ姿となり、俺の放ったエクストリーム・ペネトレートの連撃数を二倍へと引き上げた。

 二十連撃。必殺の刺突がミノタウロスの足から胴体へかけて放たれ、その巨躯へと大量の傷を作る。


「ミノタウロス。お前のターンはやって来ないぜ、永遠にな!」


『ブモッ……! モォォォ!』


 ダブルエクストリーム・ペネトレートを受けて尚ノックバックだけで済み、今度は低姿勢になってタックルで突っ込んでくる。

 ……低姿勢になってくれたおかげで、クリティカルになるであろう頭が狙いやすいのは助かるぜ。


『モォォォアアアッ!』


「ダブルオーガ・スラッシュ!」


 二本の剣を背中の方に持って行って構え──ミノタウロスの突進に合わせて、真っすぐに振り下ろす。

 ミノタウロスの白い二本の角に吸い込まれるように剣が叩きつけられると、奴の突進は止まる。

 単純な力と力の競り合い……なら、ここは──!


「超加力! せええああああああっ!」


『グゥゥゥ……!』


「ブッ潰れ、ろぉぉぉっ!」


 俺は剣を振り抜く……と、ミノタウロスの角へヒビが入ってミノタウロス自身の勢いも止まる。

 この隙を見逃す間抜けなんて当然いない。俺は軽くジャンプしてからミノタウロスの顔面を蹴っ飛ばし、その勢いで後ろへ下がる。

 頼れる仲間たちを、前に出すために。


「決めろ、お前らァッ!」


「わかってる。桜花二刀……【八重桜】!」


 短剣を右手に順手持ち、左手に逆手持ちしたサンドラが高速の八連撃をミノタウロスの傷跡へと叩きこむ。

 そこにディアブレとカオスが放った魔法が追随するように命中し、ミノタウロスのHPが一気に削れてきたところで。


「菊一文字……! ハァッ!」


「デュアルパラディン・ストライク!」


「ランページ・スターダスト!」


 Nさんたちのスキルが一斉に放たれて、満身創痍になっていたミノタウロスの角を折り、腕を斬り飛ばし、体をズタズタに切り裂く。

 だが……まだミノタウロスのHPバーはかすかに残り、奴の目から闘志は失われていない。


『ブ、モォォォ、アアアッ……!』


「まだ立つのか……」


「大丈夫だ、俺に任せろ」


 カオスがやれやれと言いながら杖を翳したのを手で制し、俺は左手の剣を盾へ戻しながら再度構える。

 ミノタウロスの攻撃を受けきった上で、ブッ潰す!


『ヌゥゥゥ……! オオオォォォアアアアアアッ!』


「流星盾!」


 片腕だけで斧を振るい、弾けるようなライトエフェクトと共に叩きつけられた一撃。

 それを完璧に受けきったところで、俺はもう一度盾を剣へと変えながら真っすぐに走り出す。


「ダブルゴブリンズ・ペネトレート!」


『ゴォォォッ……! ガァッ……グ、アァッ……!』


「牛の料理……一丁上がり」


 俺の必殺スキルはミノタウロスの心臓を捉え、ミノタウロスのHPバーを全損させる。

 奴の体はポリゴン片となって砕け散り、ドロップアイテムや経験値となって俺たちへ還元される。

 ……さて、と。


「あぁ、疲れた」


 俺はその場に身を投げ出し、思いっきり寝っ転がった。


「おいおい、また休憩か? 随分お疲れだなブレイブ」


「あぁ、だってホントに疲れたんだよ……ボス戦でメインタンクやって、その上で攻撃も色々やって力んだから、疲れがドッと来た」


「そっか。じゃ、まぁ十分だけ休憩するか。皆もいいか?」


 カオスの言葉に反論する者はいなかったので、俺は彼に感謝しながらその場で十分間寝転がることにした。

 硬い床だけれど、立ってるよりかはマシ。そんな状態で十分間の休みを堪能し──俺たちは一度入り口まで戻ることになった。

 理由は一つ。ミノタウロスを撃破したことで【開かずの間の鍵】というキーアイテムが手に入り、その開かずの間というところに思い当たるのが一つしかないからだ。

 ……そう。序盤の方に入った、漢字の「中」って字みたいになってた通路、あそこの真ん中の方にあった南京錠付きの扉。


「しかしまぁ、最奥まで行ってから長距離を戻らなきゃいけないって中々不親切な設計だよなぁ」


「フフ、単にモンスターを強くするだけでなく、このようなやり口で難易度を上げるのもまたゲームの楽しみだろう?」


「ま、そうっすけども……」


「それに、道中倒した敵がリポップしないだけいいじゃないですか。ただつかつか歩いて戻るだけなんですから」


「そうそう、兄さん贅沢言いすぎ」


 方向音痴な俺にとっては、最悪敵がリポップしてもいいからもっと一本道とかで楽に進めるダンジョンが良かったんですけどー。

 なんて思いながら、妹たちの言葉を背に受けて道を戻っていく。

 マッピングしてくれていたサンドラがいなかったら、道がわからずに迷子になってたところだ。


「……それにしても、ここ要塞って言うわりに宝箱以外はトラップのギミックとかないわよね」


「罠のギミックでモンスター側が死んだりしたらヌルゲーになるしな、それに外ならともかく内側がトラップだらけだったら使う側も不便だろ」


「そういうものかしら?」


「そういうものだって。……お前も、自宅にトラップ仕掛けまくったりしないだろ?」


「するけど」


「すんの? え、何? お前そういう趣味あんの?」


「さぁ? 何となくやってるだけだもの」


「えぇー……」


 サンドラとカオスの会話をBGMにしつつ、俺はさっきの戦闘のことを思い返していた。

 物理防御力と物理攻撃力の両方が大きく上昇したおかげで何とか立ち回れたが……俺自身の戦術とか、技術は変わってない。

 ただ受けて、殴り返すだけのシンプルなゴリ押し……これでもいいんだろうが、もっと頭を使ったゴリ押しって奴をやらなきゃダメかもしれない。

 やれることは、まだまだあるハズ。


「ブレイブ?」


「あぁ、いや。装備に見合う強さにならねーとなー、って思って……」


「そうか。だが安心しろ、お前は十分強いぞ」


「いやぁ、まぁだまぁだ……」


 そう、まだまだだ。まだまだ、俺はもっと上を目指せる、そう信じられる。

 だから、装備だけじゃなく、俺自身ももっと強くならないと、カッコつかねえや。




 ───


「と、やっと戻って来れた……よーし、開けるぞ」


「うむ。消耗も少ない故、このまま行けるな」


 鍵のかかった扉の前まで戻って来た俺たちは、ミノタウロスのドロップアイテムを使って南京錠のカギを開ける。

 ……が。


「あれ、開かねえ……」


『扉が開く条件を満たしていません』


『鍵を使う……〇 扉を守る傀儡を倒す……1/2』


「あー……」


 つっかえたように開かない扉から返って来たメッセージウィンドウ。

 そして、通路の端にチラッと見える通路の一定の所を徘徊する大きな傀儡。

 ボロい布を腰に巻き、筋骨隆々とした巨躯で両手剣を引きずって歩いている奴。


「アレ、結局倒さなきゃいけなかったのね」


「あー、面倒な話だ」


 サンドラとカオスがため息を吐いたのを見て、俺もため息を吐きたい気持ちでいっぱいだった。

 けれども、そんな弱音をNさんの前で何度も履いていられないと思ったので、俺はそれをグッと堪えて前に出る。

 ランコたちは既にやる気みたいだし、ディアブレは早い段階から魔法の詠唱まで始めている。

 ……ともなれば、俺がやる気を出さずしてどうする。


「で、戦術は?」


「無論、お前が止めて私たちが斬る。ミノタウロスの時と同じだ」


「了解……じゃ、一丁やるか! 武装変化!」


 俺は早速盾を片手剣へと変化させ、同じ武器の二刀流になったところで真っすぐ踏み込んで大きな傀儡へと近づく。

 名前は……巨躯の傀儡、名は体を表すと言うがここまで直球とは思わなかった。

 近づいて行ったことで俺の存在を感知したか、巨躯の傀儡は振り向くように俺を見て戦闘態勢に入る。

 ……さっきは気付かなかったが、真っ黒な仮面を顔につけているみたいだった。


『……』


「オーガ・スラッシュ!」


 巨躯の傀儡はうめき声の一つもあげずに剣を振り上げ、真っすぐに振り下ろしてくる。

 それをオーガ・スラッシュで動きを逸らしながら……もう一本の剣で、顔面を狙う!


「ゴブリンズ・ペネトレートォッ!」


 パキャァン、という音と共につけていた黒い仮面を破壊したが……奴自身にダメージは与えられなかった。

 巨躯の傀儡の素顔は……うん、見ない方が良いくらい醜い顔だった。

 死体がベースにでもなってるのか、人らしさを微塵も感じられないし、近づいてわかったがどことなく臭い、それも腐った肉のような臭い。

 ゾンビに近いとは言えど……ここまでリアルに寄せる必要はあるんだろうか。ご老人が見たら死んじまうぞ。


『……』


「っとぉ」


 巨躯の傀儡が両手剣を薙いでくるので、それをバックステップで躱す。

 左手に持っている剣を盾へと戻し、改めて奴と対峙しながら武器を構え直す。

 ……が、巨躯の傀儡は俺を睨むばかりで動かず──静かに、静かに口を開いた。


『見たな、俺の顔を』


「喋んのかよ!!!」


 俺の、今日一番デカい声でのツッコミが出た。

 ……しまらないバトルになりそうだ、これは。

更新が遅れてしまい、本当に申し訳ございません。


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