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第二十三話:どう見たってあのノンストレス大冒険系の奴だ

「さて……あとはどんな風にして時間を潰す?」


「そうッスね……このまま組体操で終わらせるッスか?」


「いや、その……僕の方が……キツいです……からっ!」


 現在、ユージン、俺、アインは三段サボテンをしている。

アインが一番下の土台で、俺がその上で更に土台になり、ユージンを乗せている。

暇つぶしの方法が浮かんでこないからこうするしかなかった。

ホーリー・クインテットがライブのようなものを終えた時点で、ステージが解体されてしまった。

その後は彼女ら五人とも会うことはなく、ただただ空虚な時間を過ごすだけだった。

そんな時、アインが「組体操でもしてみませんか?」とVRならではな事を言い出した。

VRなら首の骨を折るような落ち方をしようと、と現実の肉体には何一つ影響はない。

と、言うことで現在定番のサボテンの最中だ。


「わー、綺麗な組体操。男同士の綺麗な連携って感じ」


「アインへの負荷が凄いから闇の深い組体操だけどな」


「じゃあ先輩たち降りればいいじゃないですか、年齢が若い順で上に乗れば良いと思うのですが」


「それは嫌ッス!俺、組体操で上になるのが夢だったんッス!」


「そうか、じゃあ夢はおしまいだ。土台が死んだ」


 褒めるランコ、現実を語る俺、至極最もなことを言うハル、夢を語るユージン、崩れるアイン。

限界を迎えたアインを下敷きにして、俺とユージンは崩れ落ちた。


「ほぐぅ……なんでこんな目に……僕、なんで下敷きに……!」


「組体操提案したのお前だろ」


「確かにそうッスね、提案したのはアインくんッス」


 アインはその筋肉量と着こんだ鎧で上に立てるとでも思っていたのか。

ほぼ服だけの超軽装なユージンを下に出来るとでも思っていたのか。


「で……本当にどうしますか?

狩りも出来ない以上、凄い悩ましいですよ……時間あまりまくりですし」


「いっそ、ログアウトして時間を潰すと言うのはどうですか?現実で時間潰すのなんて簡単ですし」


「それじゃ店で待ってる先輩からの通知が来ねえだろ。

だからこの中で時間を潰すのが必然だ」


 悩むハルに提案するランコだが、その提案はダメだろ。

SBO内でのメッセージはSBO内でしか閲覧できないし通知があったかどうかもわからない。

だからこそ、SBO内で時間を潰すしかないと言うわけだな。


「じゃあ、何か美味しいモノでも食べに行きますか?

料理生産職の人の作る料理とか」


「俺は構わないッスけど、皆金足りるんスか?」


「しかも、俺は金額後払いだからな。

下手に散財すると、最悪ツケとかあり得ることになるからな。

初回からツケとか、かなり印象悪いだろ」


「うーん、鍛冶師の人に装備の強化などをお願いして時間を潰す……

それだけのことが、とっても苦労することなんて思いもしませんでした」


 ランコがまた一つ提案するが、予算的にNGだった。

ハルは腕を組んでため息をつき、完全に万策尽きたって顔してる。

まぁ、元々ノープランで出て来たんだし、金も使わずに暇なんて潰せねえよな。


「あぁ、何かいいとこでも――」


 と俺がロクに周囲の確認もせずに振り帰ってから歩き出すと、何かにぶつかって転んだ。

尻もちをついたのは、このゲームだと多分初めてだな。

ってか、人にぶつかって転ぶと言うこと自体が人生でも滅多にねえだろ。

俺に尻もちをつかせるって、どんなステータスしてたらそうなるんだ。


「っと……わりい、急にぶつかって悪かった。」


「あ、すみません。こっちもよそ見してて……怪我とかないですか?」


「VRだから問題ねえよ、街中だからHPも減っちゃいないぜ」


「ああぁぁぁ、そうだった……忘れてた」


 俺にぶつかったのは……驚く事に華奢な女の子だった。

真っ黒な鎧を着て、巨大な盾を背負う……どっかで見たことあるような姿だな。

ちょっと前にアニメで見た、VITに極振りしてる天然っぽい主人公みたいな印象を受ける。

隣にはもう一人女の子がいたが、そっちはそっちでユージンと似た装備だ。

……女ならではと言わんばかりのハイレグアーマーを着てるから、似てるってだけだけどな。

しかも色だって青だし、腰に下げている短剣も刃の形状が違うっぽい。


「あ、ほら、多分この人だよ、聞いてみなって」


「うん、わかった!」


 青い方が黒いのに耳元でぼそぼそと小さい声で何か話すと、黒い方は頷いた。

……なんの会話なのかわからなかったが、声だけなら丸聞こえだ。


「あの、一ついいですか?」


「あぁ、なんだ?」


「その……ギルドってもう入ってたりしますか?」


「いやまだ入ってはないな」


 そう言うと、二人は顔を合わせてパアァァと輝いて嬉しそうにしている。

……なんとなく察したから、俺は背中を向けて逃げたくなる。

だがどう見ても許して貰える状態ではないんだよな、だって周りからの視線が痛いし。

美少女二人に話しかけられて、それを一方的に無視して逃げ去るとか、周りのプレイヤーが許してくれないだろう。

あぁ、もう嫌な気分だぜ。


「あのっ、もしよかったら私たちのギルドに入ってくれませんか?」


「……理由は?」


「私たち、VRMMO物の小説に憧れて、ステータスをその通りにしてみたんですけど……」


「へえ、それでどうなった?」


「やっぱり現実は上手くいくものじゃなくて、あんまり強くなれなくて……第一回イベントでも、あんまりいい成績を残せなかったんです!」


 ……この見た目から察するに、アレだよな。

どう見たってあのノンストレス大冒険系の奴だ。

ただまぁ、アレを真似しようだなんてよく思えたな。

アレの主人公はほぼ奇跡の産物だし、実際ピーキーすぎる性能だぞ?


「それで、強い人を探してて」


「強い人のお手本を見れば、今からでもやり直せるかなって!」


「あー……まぁ、お前たちの言いたいことはわかった」


 自分たちが弱いのなら、強い人に頼ってそのお手本を見せて貰う。

俺も昔はそうやって強くなっていった。

けれども、俺はまだ人に何かを教えられるほど強くはない。

テンプレや定番などとは言っているが、それは全てのMMOで通じるわけじゃない。

それに、そのテンプレすら俺の中で出来たような物だ。

要は自分勝手な常識の押し付けのようなものなわけである。


「確かに、俺たちもギルドに入れば色々と得することがある。

そっちにも得で、こっちにも得……ギブ・アンド・テイクどころかテイク・アンド・テイクなくらいに得するな」


「じゃあ、入って貰え――」


「だが断る!俺は初対面の人間と数言話しただけで信用出来るような人間じゃねえ。

本当に俺をギルドに加入させたいなら、全力の俺と戦いでもしてくれ。

何せ、今は装備を鍛冶師に預けっぱな状態だからな……このまま戦ったら100%負けるしな」


 俺はそう言って、女子二人の横を通って先に行く。

ハルたちも「すみません」と一言だけ言って通り抜ける。

少し落ち込んでそうに肩を落としていたが……俺は間違ってないよな。

だっていきなりギルド入れとか言われて「はい入ります」なんて言えるかよ。


「あ、あのっ!」


「なんだよ、まだ何か用か?」


青いスカーフをつけた、回避盾っぽそうな奴の方が俺の前に回り込んできた。

足速いなオイ。


「もし、貴方が全力の状態になったとして、私たちが勝てたら、その時は!」


「あーはいはい、わかったわかった、考えるから」


「じゃあ、もしその戦える時になったら、ここに連絡お願いします!」


 そう言って、青スカーフは俺に紙を手渡して、そのまま走って行った。

黒い方が鎧を脱いだかと思うと、青いのが黒いのをおんぶして走っていった。

どこまで小説に従ってんのか、ってくらいに忠実だったな。

服装までそっくりにしてる辺り、本当にそのアニメのファンなんだろうが……で、名刺っぽい紙にはプレイヤーネーム【リン】と書かれていた。


「こっちの方は元の方準拠じゃねえのかよ!」


「先輩?」


「いや、なんでもえねえ……なんでもねえから」


 俺はツッコミを入れつつも、その紙をアイテムストレージの中に入れる。

しかし決闘ねえ……俺も驕る気はないが、俺に勝つとは随分大きく出たな。

……って言うか、俺と戦って俺に勝てたらそれもう意味なくねえか?

俺は基本、魔法攻撃に弱い敵以外には戦いやすいビルドだ。

そんな俺に物理攻撃系統で勝つってことは、大概の奴に勝てるわけだし。


「なんだか、あんまり先のことを考えてなさそうな二人だったッスね」


「言ってやるな」


 誰だって目先の事にはとらわれてしまう時だってある。

昔、俺もそうだった頃があったし……ゲームにおいては遠くの事を見据えた投資よりも、基本は楽しく目先のことを片付けていくのが一番だ。

例えそれが非効率的だったとしても……楽しむのが人間の性ってもんだ。


「さて……と。じゃ、やることは決まったから俺は失礼するぜ」


「え?先輩、やることって何ですか?」


「そりゃぁ、決まってるだろ。新しいスキルの習得方法を片っ端から探す、そんだけだ」


「何で急に決めたんですか? さっきまで暇暇暇暇暇ー、って感じだったのに」


 ハルとランコは首を傾げているが、アインとユージンは察しているみたいだ。


「だってよ……決闘だぜ?しかも、アイツらは「私達」って言ってたんだ。

二人、いや下手すると三人以上で来る可能性もある。

だったら、是が非でも勝つようにするだけだ」


 これ以上女と絡むとか冗談じゃねえ。

ただでさえ男のフレンドが少ないと言うのに、ギルドに入ったら更に関わりのある奴に女が増える。

だったら、全力でボコボコにして「甘いな」くらいに余裕持てねえといけねえだろ。


「でも先輩、今のこんな装備でスキルを習得する方法なんて……」


「いや、スキルによってはあるんだな、これが」


 俺はアイテムストレージからメモを取り出して、ハルたちに見せた。

そこに書かれているのは攻略サイトにまとめられていた物と、先輩から教えて貰ったスキルの習得方法。


「これなら、確かに防具は入りませんけど……」


「まぁ、単純作業だから時間は凄いかかるし、何よりも精神的な問題で疲れるよな」


「でも、折角これだけ時間があるんだからやるのが吉ッス!」


「僕もこういうスキルは欲しかったし、アリですね」


「じゃあ、それぞれ習得したいスキルを……のんびりとやって行きましょう!」


 ランコの一声で、俺たちはスキル習得に向けて動き出すことにしたのだった。

フフフ……覚悟しやがれ、美少女ども。

徹底的にブッ潰して、俺のことを嫌いになるくらいまでやってやる。

そうでないと、「今度こそ!」なんて再度勝負を仕掛けられるハメになるかもしれないからな。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:36

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:60(+30) AGI:70(+15) DEX:0(+5) VIT:34(+28) INT:0 MND:34(+14)


使用武器:鋼の剣、アイアンバックラー

使用防具:魔力シャツ(赤)、鉄の胸当て、鉄のグリーヴ、革の手袋、革のズボン(黒)回避の指輪+2

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