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第二百二十九話:厄災の要塞

「っぱし、新装備のお試しにはこういうとこが一番だな」


「頼むぜ、ブレイブ。今回はお前に前衛任せるんだからな」


「おうとも。極悪鬼の力、とくと見せてやるよ」


 ──真の魔王、領土から歩いて二十分ほど。

 禍々しい雰囲気が地続きになっている、まるで要塞のような建物がそこにあった。

 化け物の鳴き声やら雷の鳴る音がよく響いていて、壁に使われている黒い石は、まるで血で染まったみたいだと思わせられる。


「にしても……兄さん、新しい装備になったって言ってもハルさんみたいに前衛務まるの?」


「まだ戦ったことがないからわかんねーけど、カタログスペックだけで言えば前の倍くらいは硬くなったと思うぜ」


「へぇ~っ……王様ってだけあって、凄い装備作れたんですね。それでも、ハルさんみたいに皆を守れるタイプかどうか不安なんですけど……」


 ハルのいないこのパーティに一抹の不安を抱いているランコ、ユリカの言葉を背に受けつつ俺はふふんと笑う。

 まだ実践では試していない……けれど、大悪鬼シリーズを遥かに超えたこの装備なら怖いものはない。

 ……確かに、ハルのような『集団を守る』タンクと比べて、俺はソロ向きなタイプの硬さなんだけど。

 それでも、前よりかは大きく大きく飛躍したっていうのは間違いないことだ。


「ま、ウチの魔法バカ二人が……ふわぁ、キチンと戦えるくらいの壁なのは知ってるから、期待させて貰うわよ……ふわぁ」


「そうかよ、ありがとな」


 髪をかき上げる仕草をしつつあくびを連発するサンドラ、やけに眠そうだけど……間違って俺に向けてナイフを投げないでくれるといいな。

 で、あとはやけに静かなディアブレとNさん……この七人で、この未知なる巨大要塞に挑むというワケなのだ。

 レイドパーティを組まなくていいのか……と気になったけれど、カオス曰く『大人数だと指揮系統がごっちゃになって、総括出来る奴がいないから真の魔王は基本少数精鋭』らしい。


「さて、じゃあ行きますか」


「応。準備は万端だしな」


 と、俺とカオスがそう言ったところで皆は力強くうなづいて……俺たちが挑むダンジョン──【厄災の要塞】の門が開く様を見守っていた。

 ……厄災、ね。鬼が出るか蛇が出るか……何でも出て来やがれ。


『ガアアア!』


『ウゥワアアア!』


「いきなりか」


 門を開けて、庭に入ったところで敵が出て来た。

 出て来たのは……【傀儡の獣】。

 狼の形をしているのと……もう片方は、人型。

 どちらも、普通に生きているのなら絶命していてもおかしくないような体の損傷の仕方をしている。

 ……ゾンビみてえな、アンデッドの類ってことか。


「さてと……動きは俺が止める! 止まったら集う勇者のメンバーで攻撃! トドメは真の魔王のメンバーに頼む!」


「OK、ならしっかり止めろよブレイブ!」


「もちの……ロン、だっ!」


 出てきて早々、一番前に突っ立っていた俺に向けて狙いを定めて敵は走り出す。

 勿論、俺たちもそれに合わせて走り出し──


「せええあああっ!」


『ガアッ!』


 飛び掛かって来た狼型の傀儡の獣による攻撃を盾で受け、弾き飛ばす。

 次に、両手を出して噛みつきに来た人型の方に向けて──


「フィフス・スラッシュ! せえあっ!」


『グゥァッ!』


 片腕を斬り飛ばし、一発蹴りを入れて体のバランスを崩させる。

 そこで、俺は一歩下がる。


「捨壱ノ太刀・韋駄天!」


「ライトニング・フィニッシュ!」


「流星剣! 二刀!」


 Nさんの高速の居合が人型傀儡の首を斬り落とす。

 首を失っても尚動こうとする傀儡に対し、ランコの剣による刺突が心臓部へと突き刺さる。

 そこへ、さっき吹っ飛ばされて今ようやく起き上がった狼型傀儡ともども、ユリカのスキルで更にダメージを与えられる。


「下がれ!」


 スキルを打ち終わった三人が後ろに向けてジャンプしたところで、今度はカオスたちの攻撃が傀儡たちを襲う。

 カオスが無詠唱で放った炎は既にかなりのダメージを受けていた人型の傀儡を燃やし尽くし──


「フハハハァ! 受けるがいい! 【ニュークリア・フレイム】!」


「バーストスロー」


 残る狼型傀儡へ、ディアブレの放った無属性の核撃魔法とサンドラの投げたナイフが命中。

 ポリゴン片となって砕け散るのすら見せない爆発で、戦闘は終了した。


「こんなもんか……基本的に、見つけたらすぐぶった斬るって感じで良さそうだな」


「サーチ・アンド・デストロイ、ね。ま、余裕はあるしそれでいいか」


 俺の出した方針に反対する者はおらず、このまま進むこととなった。

 庭を進み、要塞内へと侵入する玄関の扉をぶち抜いて開けて進む。

 さて、と……。見たところ、出現するはアンデッド系……となれば、鍵になるのはカオスたち魔法使いだ。

 上手いこと、コイツらの魔法を完璧に当てられるように戦わなきゃな。

 ……とか考えながら、要塞の最奥を目指して通路を歩いていると、また敵を発見した。

 今度はかなり大柄な人型で、筋骨隆々とした肉体にボロボロの布を纏っていて、武器であろう両手剣を引きずって歩いている。


「またお出ましか」


「今度は一体ね。なら、サクッとやりましょ」


「……待て、サンドラ。アレはちょっとヤバい、お前は前に出るな」


 さっき倒した傀儡たちとは格が違うどころの騒ぎじゃなさそうな敵と来た。

 名前は……まだ見えないが、あの大柄な敵を相手に攻撃を仕掛けるのは得策じゃない。

 幸い、まだ敵はこっちに気付いていないだろうし……


「逆方向から探索しよう、道はこっちだ」


 漢字の「中」って字みたいに出来た道……入って右側の方に奴はいた。

 ので、俺たちは左側の方を通って奥へと進むことにした。

 真ん中の方は、あからさまにデカい南京錠がついてる扉があったからな。

 後回しだ。


「……こっちにもいたか」


「だが、あのデカブツと戦うよりはマシだろう」


「そりゃね」


 左側の通路には人型の傀儡……今度は西洋の騎士よろしく全身甲冑で装備を固めてると来た。

 けど、右側の通路にいた奴に比べればまだ楽に戦えそうな相手と来た。

 一気に倒すとするか!


『ウゥゥゥ……!』


「来ます!」


 ユリカの言葉を合図にしたかのように、傀儡は真っすぐ向かって来て剣を振り被る。

 スローな動きだ……けど、避けるんじゃあなく敢えて盾で受け止める。

 ……中々の威力だが、今の俺にとっては大したことないぜ。


「っと……けど、簡単に押し返されてはくれなさそうだな……!」


 盾で弾いてバランスを崩させたいが、この剣の重さだと簡単に崩せそうにない。

 なら……弾かずに、俺自身が直接叩く!


「ゴブリンズ・ペネトレート!」


 おなじみの刺突撃……が、銀色に輝く四角い盾に受け止められていた。

 クソッ、量産型って感じの鎧やら盾やらのくせに意外とかてえなオイ!

 けど……大事なのは、俺がダメージを与えることじゃねえ!


「両手は塞がった! 今だ!」


「あぁ!」


 さっき人型傀儡たちを倒したように、Nさんたちが武器を構える。

 今は俺も近くにいるから、直接この傀儡を斬るためのスキルに変えるようだ。


「フッ──菊一文字!」


 両断には至らなかった──が、Nさんの斬撃が傀儡の鎧に大きな斬撃痕を作った。

 当然、俺の妹たちがそこを狙わない道理はなかった。


「ユリカ、合わせて!」


「もちろん……! それじゃ、一発お願い!」


「うん! イディオクロノス!」


 Nさんと交代するように前に出たランコは、槍と剣を交差させてから同時に振り抜く。

 その一撃はNさんが奴に与えた鎧への傷に重なり、傀儡の纏っていた鎧の胴体を更に大きく切り裂いた。


「素肌が見えた……! そこっ!」


 ユリカは二本の剣をクロスさせて──


「双竜斬!」


 かつてランスロットの剣をへし折った高威力のスキルが傀儡の胴体を切り裂き──初めて、傀儡がバランスを崩す。

 だが、奴はさっき倒した傀儡と違ってすぐに倒れずに持ち直そうと動く。

 なら……ここで、確実に崩す!


「オーガ・スラッシュ!」


『ウゥァッ!』


 ユリカと違って鎧の中へ斬撃を放つことはできなかった。

 が、鎧越しでも凄まじい衝撃を与えられた傀儡はとうとう床に崩れ落ちる。

 そこに、グッドなタイミングに攻撃が飛ぶ。


「メギドバースト!」


「桜花斬」


 ディアブレの放った魔法、サンドラが桜吹雪のように放った斬撃が傀儡を襲い、一気にHPを削り取る。

 トドメは、カオスだ。


「燃えろ」


 先端が刃になっている杖を突きだすと、鎧諸共傀儡は燃やし尽くされる。

 さっきと同じパターンだが……燃えている時間は長く、傀儡も燃えながらも這いつくばって、この世への未練を見せるが……コイツの未来は既になく、完璧なまでに消し炭にされた。


「一丁あがり、ってところか」


「さて……先を急ぐか」


 誰もダメージを負っていない……されど、ペースは遅い。

 ダンジョン攻略を急ぐためにも、俺たちはすぐに歩を進めたのだった。

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