第二百二十八話:極悪鬼
「今日はわざわざありがとな、時間作ってくれて」
「別に。暇だから問題ない……それに、持て余してた装備だから、誰かにあげられるのなら丁度いい」
ホウセンとの激闘後、金キラかつ鬼の怖い顔が刻まれた雷鬼シリーズを手に入れた俺は王の騎士団領土──の、一軒の小さなプレイヤーホームに来ていた。
ファンタジーさを前面に押し出したログハウスで、彼女──ニナの元の種族である長耳族らしさを引き立たせている。
木のテーブルを挟んで向こう側に座っている彼女はお茶を一口飲んで、ふぅと息をつく。
こういう仕草一つでも、絵になるもんだな──と思っていたら、テーブルにドスンと音を立てて大きな袋が置かれた。
「これが風鬼シリーズ、ちゃんと確認して」
「……ありがとな。それじゃ──って、え?」
袋詰めされた装備をタッチして、情報を確認したところで俺は袋を持っていこうと手を出した。
そうしたら、ニナは素早い動きで袋を取り上げて、自分の隣の方の椅子に置いた。
「タダであげるとは言ってない。当然、私の欲しいものも要求する」
「お、おう……」
こんな甘い話があるわけなかったか──と、ニナにジト目で見られながら俺は心の中でため息を吐く。
問題なことに、俺のストレージの中にはこういう装備と釣り合うほどのレアアイテムはもう残っちゃいない、精々ドロップ品がいくつかってとこだ。
ホウセンにあげた装備代のせいで、財布の中身だってもうロクスポ残ってないし……。
要求されるものによっては、ひとっ飛びしてきてダンジョンボスでも倒してこなきゃならないかもしれないな……と、冷や汗をかいているところで。
「……ユージンと、デートしたい」
「はい?」
「集う勇者の、ユージン。あの人と、一日デートがしたい」
「……すまん、もう一回言ってくれるか?」
「っ! 集う勇者の! ユージンと一日デートがしたいって、言ってるの!」
「おぶっ!」
怒鳴り声と共に、装備の入った袋を顔面に叩きつけられた。
俺は座っていた椅子から転げ落ち、頭を強かに打ち付けながら倒れる。
……あまりにも衝撃的だと、ついつい聞き返しちゃうんだよな。
「マジでユージンなのか」
アイツでいいのか……と思っていると、ニナは人差し指をツンツンと突き合わせながら、顔を赤らめつつ言う。
「……うん。あの人と、いっぱいおしゃべりしたり……一緒に狩りとか、したい……あの速さを、また近くで感じたい」
「あ、そなの……」
良かったなユージン、お前のこと好いてくれてる感じの女の子がいるぞ。
肌真っ黒なダークエルフだけど、ユージンは大体どんな女の子相手にも鼻の下伸ばすし、ちょっと人を選びそうな見た目のニナでも喜んでデートに応じるだろう。
……まぁ、恋愛関係が原因で王の騎士団とひと悶着起こされちゃたまらないから、付き合いは慎重にと頼むのが大前提に入るが……。
「それで、頼めそう……?」
「あぁ、アイツ基本的にいつでも暇だからな。誘いの連絡入れとくよ」
俺はメニューからチャット欄を開いて、ユージンへ『王の騎士団のニナから誘いが来てる。座標送るからダッシュで来てくれ』とだけ送った
「ありがとう。はい」
「おう、サンキュー。ニナ」
俺はニナから袋詰めされた風鬼シリーズを受け取って……新しい装備に必要なものが全て集まったのを確認する。
装備のレシピが書かれた紙を取り出すと、全部マルになっている。
「よし……最後のピースも埋まった。これで新たなステージに進めるってワケだ……ホントにサンキューな、ニナ」
「ううん。私も、私のお願いを聞いて貰ったから丁度いい。ありがとう、ブレイブ・ワン」
ニナと俺は互いに例を言って……俺はプレイヤーホームを出て、再度メニューを開く。
アリスへのチャット欄を開いて、アリスがログインしているのを確認して『材料が集まった』と打ち込んで送る。
するとすぐに既読がついて──
「ブレイブ・ワン」
後ろから腕を掴まれた!
「どわぁぁぁ!? お、おま、いつからそこに!?」
「今」
誰もいなかったはずの背後から腕を掴んできたのは、アリスだった。
どういう仕掛けでこっちまで来たんだ……と思いながら、俺はレシピが全部マルになっているのをアリスに見せる。
「っ、まぁ、えーと、これでいいんだよな」
「……うん。これでいい、それじゃあ、来て」
「来てってどこに……」
「あそこ」
アリスが俺の眼前で指をパチンと鳴らす……と、眩い光に視界が覆われる。
俺は咄嗟に目を瞑る……と、見覚えのある場所に飛ばされていた。
「ここは……レシピを貰ったところか」
「そう。ここで、新しい装備を作る」
七王全員……と、Nさんが一緒になって飛ばされた真っ白な空間。
そこで魔方陣のようなものの所に立っていたアリスは、俺に向かって手を出した。
……なんだその手。
「材料と、今あなたが着ている装備を出して」
「え、あ、お、おう」
俺は着ている装備を解除して──でも流石にパンイチになるのは恥ずかしいから、変わりにテキトーな衣服を身に着ける。
で、モードレッド、イアソーン、ホウセン、ニナから貰った全てのエクストラシリーズと、俺の脱ぎたてホヤホヤな大悪鬼シリーズの全てを並べて床に置く。
アリスはそれらを確認したところで、魔方陣の上で両手を開いて、目を瞑る。
「システム・オールグリーン。エクストラアームズ、ユニークアームズ、リソース・コンヴァージョン」
「うお」
アリスが不思議な呪文のようなものを唱えだすと、床に並べていた装備はポリゴン片となって砕け散る。
だが、それらは蛍の光みたいにその場に留まっていて……アリスが手を叩くと、アリスの下に集まって一つになる。
「クリエイト・ネクストステージ。ユニークシリーズ」
また、そう呪文を唱えたところでポリゴン片たちは新たな形を成していき──俺の知っていた大悪鬼シリーズと似ていながらも、異なる形へと変わっていく。
そこにあるだけで、圧力のようなものを感じられるようになる深さ……アーサーと対峙した時のような、あの緊迫感にも似た何か。
そんなオーラにも似たような不可視の何かが、装備から放たれていた。
「……コンプリート。ユニークシリーズ、極悪鬼」
「極悪、鬼」
大悪鬼を超えた、極悪なる鬼……ますます、俺の名前やギルド名からはかけ離れたような装備へと進化した。
けれどその強さと輝きは……今までとは、比にならないほどのパワーアップを遂げたのだと俺に伝わって来る。
「はい」
「お、おう……」
俺はアリスから新たな装備一式を受け取って……早速、メニューを開いて身に着ける。
……着慣れたような安心感と、新品の服を買ったかのような高揚感があった。
それらが、まとめて存在する……ちょっぴり不思議な感覚だった。
「それが、あなたの新しい力。七王として、次のステージ……そして、新たな力もまた目覚める」
「ん……? うおっ」
アリスが何やら意味深なことを言ったと思うと、俺のアイテムストレージから勝手に一つアイテムが出て来た。
それは、ずーっと俺がストレージの中で放置しっぱなしにしていた、装備しようと思っても出来なかった腕輪だった。
手に入れた時にはすぐに試そうとしていたが、何故か「もう一つの装備条件が解放されていません」と出て、装備することが叶わなかった報酬。
そのもう一つの装備条件とやらも満たす方法が不明で、長らく装備することが叶わずにいた腕輪。
「神格ノ腕輪……」
「それは、今の段階のあなたで力を引き出すことが出来る」
俺の左腕にぴったりとハマったそれが合わさって、俺のステータスは大幅に進化した。
新たなステージ……それを全身で感じながら、今の俺ならば誰にも負ける気はしない──と、感じた。
プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン
レベル:80
種族:人間
ステータス
STR:100(+310) AGI:100(+210) DEX:0(+150) VIT:51(+730) INT:0 MND:50(+430)
使用武器:極悪鬼の剣、極悪鬼の小盾
使用防具:極悪鬼のハチガネ、極悪鬼の衣、極悪鬼の鎧、極悪鬼の籠手、極悪鬼の腰当、極悪鬼の靴、極悪鬼の骨指輪、神格ノ腕輪
極悪鬼シリーズ
一式装備時発動スキル:不撓不屈、心意、極悪鬼の恨み
極悪鬼の剣:超毒撃、ゴブリンズ・ペネトレート、幻影剣、フェニックス・シフト、オーガ・スラッシュ、防御貫通、【エクストリーム・ペネトレート】、【水鬼銀斬】
極悪鬼の小盾:肉壁、カウンター・バリア、ピアースガード、小鬼召喚、大鬼召喚、硬化、【武装変化】、【オーガ・シールド】
極悪鬼のハチガネ:再臨、光視、暗視、クリティカル攻撃耐性
極悪鬼の衣:物理耐性70%アップ、HP持続回復、MP持続回復、SP持続回復、【アクセルシフト】
極悪鬼の鎧:幻影歩、LV×1%防御力アップ、耐寒、耐暑、【デュアルアーマー】
極悪鬼の籠手:パワー・スマッシュ、イミテーション・シールド、握力増強、ウェポンリンク、【炎鬼金突】、【雷鬼鉄拳】、【ダブル・アーム】
極悪鬼の腰当:バランス力増強、ウェポンホルダー、アイテムホルダー、【スピードリンク】
極悪鬼の靴:騎乗完全補正、騎乗魔法・狼、召喚魔法・虎、【風鬼鋼脚】、【ブースト・ダッシュ】
極悪鬼の骨指輪:状態異常無効、低レベルエネミー高確率即死、即死反射、【食いしばり】
神格ノ腕輪:【模倣召喚】、【スキル模倣】