第二十二話:ホーリー・クインテット
「へぇ~……短剣もそれなりにいいものッスね。
俺の短剣よりも強いもんもあるッスし、買っちゃおうかなぁ」
ユージンはユージンで、ケースの中にある短剣と自分の短剣を見比べていた。
まぁ……エリアボスのラストアタックボーナスなら、それなりには強いだろう。
でも、武器によってはプラチナシリーズが隅に追いやられるような品揃えだ。
ユージンの見ている短剣がどんなのか気になるので、俺も少し見てみることにした。
「どれどれ……あぁ、片手剣より品揃えいいんだな」
片手剣はプラチナソードがこの店一番、それ以外はないよ!って感じだったが、短剣でのプラチナ装備、プラチナダガーは三番目くらいだ。
だから片手剣よりかは充実しているし、ユージンもメニュー画面と商品の値札を見比べているし。
装備を悩めることが羨ましいなぁ、なんて思いながら俺は誰も見てない両手剣や曲刀、弓に槌等を見てみる。
こっちはまぁ、パーティの中で誰も使うわけじゃあないからよくわからないけど、短剣とあまり変わらないな……気がする。
プラチナ系統は大体いい物として中心に近い所に置かれている。斧だけ例外なんだな。
……そういや、初期武器に刀ってのはないのに先輩はどうやって刀を入手したんだろうか。
「一つ気になったんっすけど、先輩って刀はどうやって入手したんですか?」
「この刀のことか?」
「いやいやそうじゃなくて、刀って武器自体の事です。
初期に選べる武器って、刀はなかったじゃないですか」
「あぁ、刀は最初に装備出来ない、と言うだけだ。
早い段階から受けられるクエスト、【侍の心】をクリアすればいい。
そうすれば刀が装備できるようになるから、ちゃんと刀を使える」
ふーん、刀ってのはそうやって手に入れる物だったのか。
……にしても、そうまでして刀が欲しかったのか、先輩。
確かに刀はロマンのある武器だけれど、扱い方が結構大変だろうに。
斬る時はただ叩きつけるだけでなく、刀特有の「押して引く」と言う技術が大切だからな。
俺じゃあ戦闘中にそんなこと考えてられないし、前にやってたVRMMOでも刀は使えなかったんだよな。
「ところで、ヤマダは杖とか見ないのか?」
「あぁ、買えぬものを見た所で意味はない。
私は金を溜めてからまた来ればいいだけのことだ」
ヤマダはそう言うと、ドアを開けて出て行ってしまった。
うーん、まぁ自分の事でもないなら退屈だろうし、仕方ないよな。
まぁ、そもそもここで数時間以上居続けるってのが無理があるよな。
流石に武器や防具を見てるだけじゃあ退屈になってくる。
アインとランコは、もう飽きたのかさっきまでキャッキャウフフとしてたくせに黙ってる。
まぁ、先輩も刀の所を見たらすることがないのか、暇を持て余してるようだ。
「……流石にああも時間が経つと言われたら、暇ですね」
「あぁ、しかも明確に時間がハッキリしていないと言うことが、それに拍車をかけているな」
先輩と俺は壁に寄っかかって腕を組んでいるが……こうしている間にも時間は過ぎるが武具の強化は簡単には終わらないだろう。
アインとランコの方に視線を向けると、二人は完全に暇を持て余してる様子だ。
ユージンは結局短剣を買うのを決めたようで、二振りのダガーを購入していた。
……武器を購入するだけなら、自動販売機のように金さえ払えばすぐに武器を貰えるみたいだな。
「はぁ、私の望む物はありませんでした……しょっくぅ」
ハルは防具売り場から肩を落とし、しょんぼりとしながら出て来た。
まぁ、ハルが望む物なんて基本的にすぐ手に入るようなもんじゃあないだろ。
第一……全身防具を合成して貰ってる以上新しく防具を買う意味もないだろうしな。
……しかし、防具か。
「ちょっと見て見るか」
防具の方は全く気にしていなかったし、もしかしたらいい物もあるかもしれない。
俺の腕につける装備とズボンに関しては……まぁ、そんな大したものじゃないからな。
もしかしたらいい物が手に入るかもしれないし、丁度いいから見て見るか。
俺は防具が飾られている側の部屋を見てみる。
「おぉ……」
鎧やら盾やらがあちこちにズラァッ、と並んでいる。
ケースには入れられていないが、勝手に持ち出そうとしたら弾かれるようになってるんだろうか。
まぁ、どっちにしろ盗みを働くような輩がいるとは思えないけどな。
一見さんお断りだし、信用できるプレイヤーしか入れて貰えないのならば、セキュリティなんてそんなにいらないだろうな。
「……これ、なんだ?」
俺が気になった小盾の内の一つ、【牙壁】。どんな物かと思って触ってみる。
うん……なんて言うか、盾を無理矢理攻撃に転用したって感じだ。
盾で殴るだけじゃなく、盾から投擲具みたいなものを飛ばすギミックがついてる。
使いどころが見当たらないどころの話じゃあないな。
これで攻撃するくらいなら大人しく小盾を装備しながら弓、とかでいいだろうに。
「で……鎧の方は……うーん」
やっぱり、ゴブリンキングシリーズを超えるような鎧とかはないか。
だが頭装備のプラチナヘルムは買おうかどうか迷ってしまう性能だ。
龍のハチガネより強いし、それなりのお値段だし……けれども、今は龍のハチガネも強化を頼んでいるから、ここで買うと損する気がするな。
それに、純粋なステータスアップの面以外にも重要な物とかはあるしな。
「こっちにゃ服まで取り揃えてんのか」
僅かながら服も店の棚に並んでいるとは……しかも俺の装備してる魔力ズボンも売られてる。
……まぁ、武具が専門だからか服は大したことないな。
革の装備とか魔力〇〇ってシリーズだけだ。
「……ん?」
盾も鎧も服も買う物はない、と思っていると――
革の手袋よりかは性能が良い腕装備を見つけた。
しかも、俺にはピッタリな奴だ。
「ゴブリンガントレット……か」
ゴブリンの顔を模したかのような造形が施されている。
結構籠手らしい籠手だし、見た目も性能も革の手袋よりも強い。
……しかも値段も割と良心的だ。
武具の強化分を支払っても、普通に買えそうだし……買ってしまうか。
「えーと、購入は……っと」
ゴブリンガントレットにカーソルを合わせて、パネルは出している。
それを隅から隅まで見てみると……【購入】の部分があったので、タッチ。
すると俺のメニュー画面に表示されたGがジャラジャラジャラ……と、小銭のようにケースの方に流れた。
で、ゴブリンガントレットが俺のアイテムストレージの方に納められた。
ふぅ……いい買い物が出来た、かもしれない。
と思ったが、やることはもうない……どうしよう。
「あぁ、もうやることなくて暇ッスよ。
ソロで狩りに行く気分でもないッスし、俺ちょっとそこら辺で暇つぶしでもしてくるッス!」
ユージンは痺れを切らしたと言わんばかりに、扉を開けて出て行った。
それに釣られた、と言うか……便乗するかのようにアインとランコも扉を開けて出て行ってしまった。
「……先輩、俺も外で時間潰しててもいいですか?」
「あぁ、構わない。私は時間になるまでこっちで寝る」
「あ、じゃあN先輩に待っててもらってていいんですね。
私も先輩について行きますよ~っと」
先輩は俺たちを見送りながら、壁に寄りかかって椅子に座った。
で、ハルも俺について来たので、街の中を歩いてみることにするか。
「時間潰すつったって、何すっかなぁ……」
「ゆっくり考えればいいですよ。時間は結構あるみたいですしね」
ノープランで外に出て来た俺と、それにゆとりを持たせてくれるハル。
さっき無言で出て行ったアインとランコも何故か俺たちの隣を歩いている。
「僕たちも行きたい所とか、あんまり考えてませんでしたね」
「そもそも、楽しい所って言うのがアバウト過ぎたかなぁ……」
アインとランコは目の辺りに手を当てて二人して悩んでいる様子だ。
……なんで動きをシンクロさせているかはともかく。
さっきから聞こえてくる、街に流れている街用のBGM以外の音が気になるな。
「ちょっとあっちの方が気になるから俺は行って来るぜ」
「あ、先輩が行くなら私も行きます」
「なら僕も!」
「アインくんがついて行くのなら、私もっ」
と、古い時代にあったドット絵のゲームのパーティみたいな縦の列で歩きながら、俺たちは音のする方向へ向かう。
……すると、まるでアイドルが立つかのような仮設ステージが組まれていた。
あんなオブジェクトはなかったと思うんだけれど、何があったんだ。
「何だあれ、なんかやんのか?」
「仮設テントと同じシステムで、ステージを建てたんじゃないんですか?」
ハルが人差し指をピンと立てて推測してくれた。
「そんなことが出来るんですか、このゲーム……僕知らなかった」
「まぁ、割と何でもありだろ、SBOって。脱ごうと思えば下着も脱げるからな」
全年齢対象のゲームのくせにマッパになれるんだよな、何故か。
まぁ、その代わり顔にまでモザイクがかかるようになるし、人に見られると警告メッセージが出る。
……え?なんでそんなこと知ってるのかって?実際に検証した馬鹿が書いた記事を見たからだよ。
「って言うか、あそこに立ってるのってアイドルか何かですか?」
ランコが指したステージに立っているのは、五人のプレイヤーだ。
……この世の物とは思えない化け物と戦ってそうな魔法少女みたいな衣装だ。
しかも全員色がバラバラだし、なんならコスチュームの形もバラバラだ。
共通しているところと言えば、全員女子ってことくらいだな。
『私たち、ギルド【ホーリー・クインテット】をよろしくお願いしまーす!』
「うおおおおおお!ツブラちゃーん!」
「愛してるよエンちゃーん!」
「最高にイカしてるぜアンズー!」
「ウズマキちゃんこそ真のアイドルだぜー!」
「萌えるぜミーちゃーん!」
『それじゃあ二曲目行くよー!』
「うおおおおおおおおお!!!!!」
……一応、ファンみてえなのはいるみたいだ。
綺麗に声揃えて喜んでるしな。
たった五人と、メンバーにつき一人と言う悲惨なものだ。
推しが被らなくて良かったな、仲間外れはいねえみてえだぞ。
「ファンとメンバーの数は一対一なシステムか?」
「先輩、それはちょっと……いえ、かーなーり、失礼です」
「いやでもメンバー五人に対してファン五人、しかも推しアイドルまでバラバラってのはな」
ある意味凄いだろ。
一人につきファン一人、って人気が横並びしてるぞこのアイドル。
VRアイドルと言うのはいくらか見て来たけど、まさかVRMMOでアイドルのロールプレイとか見たことねえよ。
それも、SBOってのは結構戦闘がメインなゲームだってのに。
「けどまぁ、歌とか踊りとかは割と上手いんだな。公開する場所さえ変えたら売れるんじゃないのか?」
ちゃんと動きがピッタリとくっついているし、歌声も綺麗だ。
ただまぁ、SBOの中でやるってのが致命的なまでにアウトなところだけどな。
実際、多くのプレイヤーがチラッと見てはすぐにどっかに行ってしまう。
「でも、いい歌で……僕は好きです、こういうの」
「私も。自然と聞き入っちゃいます」
「その気持ち、私もわかります」
……アイン、ランコ、ハルにはウケがいいみたいだなこの曲。
まぁ、いい曲なのは俺も否定しない。
ただ……俺が好きな曲はもうちょいガンガンしてて、アツーい感じの曲だ。
なんて、思いながらしばらくその場に立っているといつの間にか曲は終わっていた。
「……思わず俺も聞き入っちまった」
「先輩もこの曲の良さがわかるみたいで何よりです」
『皆ー!』
『ありがとー!』
『これからも、あたしたちのことー!』
『応援よろしくねー!』
『以上!ギルド、ホーリー・クインテットでしたー!』
曲が終わると、メンバーが一言ずつ言いながらそのまま退場していった。
……と言っても、仮設ステージを降りて、ステージの裏に行っただけだ。
小さいステージだから、回り込めばすぐに見れるんだろうが……そんな無粋な真似はしちゃダメだよな。
ファンの五人は曲の余韻に浸っているのか、なんか感想を語り合っていた。
さて……次は何で時間を潰すか、と思っていたら。
「うーん、私がいいと思った子はあのツブラ、って子ですね。
桃色の髪ですし、アイドルらしいアイドル、って感じで好きです」
「何やってんだ?」
いつの間にかハルとランコとアインがなんか語り合ってる。
「あ、今の五人の中でよかった子を言い合ってるんです。私はあの桃色ヘアーのツブラさんを気に入りました」
「私はアンズって赤色の子が良かったなぁ。元気が良さそうで、こう……カラッとしてる感じがあって」
「僕はエンって黒い人が良かったと思いました。やっぱり黒い服の人に悪い人はいないですよ!」
ランコとアインも感想を言いながら互いに思った良かった子とやらを挙げてくる。
……俺も言え、って感じの眼差しが三人から来る。
「あー……まぁ、全員、良かったんじゃねえの?」
「え?今なんて言いました?」
「冗談だ」
やべえ、コイツら是が非でも一人に絞れって目線を向けて来やがる。
しかも声までぴったり揃えてるから、流石の俺もビビった。
……ここは無難に済ませておくべきか。
「あー、俺は真ん中にいた、黄色のウズマキって子がいいと思ったな。リーダーっぽくて」
「おぉ、全員見事なまでにバラバラですね!」
……一人だけ思いっきりハブられてることになるが、こっちが四人だから仕方ないな。
と思っていると、ユージンがこっちに来た。
「なんの話してるんスか?」
「あぁ、さっきこっちで歌ってたホーリー・クインテットってアイドルギルドの話だ。
誰をいいと思ったか、って感想の語り合いについてだから、ユージンは――」
「えぇっ!? ホーリー・クインテットここで歌ってたんスか!
俺も聞きたかったッス……うぅぅぅ……!」
「お前も知ってんのかよ」
「たまにこの街とかでライブしたりしてる時があるんスよ。
あ、因みに俺の推しはミーって青色の子ッス!
健気に頑張る姿とかが可愛らしくて、俺の好みドストライクッス!」
……ちゃんとアイドルに対してのファン、均等化されたな。
プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン
レベル:36
種族:人間
ステータス
STR:60(+30) AGI:70(+15) DEX:0(+5) VIT:34(+28) INT:0 MND:34(+14)
使用武器:鋼の剣、アイアンバックラー
使用防具:魔力シャツ(赤)、鉄の胸当て、鉄のグリーヴ、革の手袋、革のズボン(黒)回避の指輪+2