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第二百十九話:やりすぎ。

『グ……あ、アアアアアアッ! 賊どもが……! まとめて、滅ぼしてくれるわ!』


「ッ! 今度は何が来る……!」


 モルガンは槍を、俺は盾を構えて防御の姿勢を取ってモードレッドとNさんを守る体制に入る──と。


『出でよ! 我が最強の眷属よ!』


 ミイラキングが地面に手をかざして魔力を込めて叫んだと思うと、魔法陣が展開されると共に更なるエネミーが現れる。

 出てきたのはゾンビだ……だが、明らかに強化されているのがわかる見た目と重圧を放っている。

 表示されているHPバーから見ても、ボス級とまではいかなくても相当な強さだろう……!


「っ……! 安心しなさい、ブレイブ・ワン! ゾンビたちは私たちが受け持ちます! あなたは、そのミイラキングを狩りなさい!」


「そうです、先輩! 巨大なゾンビたちの方は、そっちに行かせませんから!」


「……恩に着るぜ、お前ら!」


 KnighTとハルの声を背に受け、俺はミイラキングに向き直る。

 尚も魔法の詠唱をし、自身の肉体を強化し始めた奴を前に俺たちは武器を構えなおす。

 

「モルガン! モードレッド! さっきと同じ感じに頼む!」


「いいでしょう。ですが、防ぎきれなくとも文句は言わないでくださいね!」


「ハッ。なぁに心配してんだか……オレと母さんの剣が、敗れるかよ!」


 心強い笑みを浮かべるモードレッドのおかげか、不安になっていたモルガンも笑みを取り戻す。

 Nさんは無言で俺の背中を押し、任せたぞ──と心意を伝えてきてくれる。


『滅ぶがいい……! 【リゼントメント・ブレイズ】!』


「流星盾! っ……! マジか!」


 ミイラキングが杖から放って来た黒い炎は、俺が展開した流星盾を三秒もかからずに消し飛ばした。

 だが、それだけかかった秒数は、モルガンとモードレッドのスキルを放つのに十分だった。


「ドラゴ・カリバー! 大風車!」


「うおおお……! 【スカーレット・ソード】! だあああありゃああああっ!」


 同じように黒い剣、槍から起こる竜巻、赤いオーラを纏った剣戟。

 二人のスキルがミイラキングの黒い炎を相殺する──が。


「ぐ……が、がああっ!」


「ぐわっ……! クソッ……!」


 二人はそのスキル同士のぶつかり合いのインパクトで吹き飛んだ。

 ……けど、隙は出来た!


「行きなさい……! ブレイブ・ワン……!」


「応!」


 俺とNさんはモルガンの言葉を背に走り出し、またも左右からミイラキングを挟み込む。

 ミイラキングの矛先は……! 俺か!


『死ねェ!』


「っと!」


 ミイラキングは怒りの形相でこっちに杖を向けてきたと思うと、杖からポピュン、とレーザービームが出た。

 俺はそれをスライディングで避け、跳び上がりながら奴目がけてスキルを──


「ブレイブ! 後ろだ!」


「ッ! マジか!」


 さっき避けたレーザーが、壁に当たらずに曲がって俺の方に飛んできた。

 簡単に避けられると思ったら、追尾機能付きのヤベー奴かよ……! マズい、こっちを避けたとしてもミイラキングの攻撃に当たっちまう……!

 と、空中で思考を巡らせている内に、俺は空中で体を捻ってどうにかレーザーを躱して壁に当てられたが、ミイラキングはもう俺に杖を向けている。

 当たる──!


「落雷ノ一太刀! ハアアアッ!」


『ぐぅっ……!?』


「……流石、Nさん!」


 Nさんががら空きだったミイラキングの背中に一太刀入れ、奴の体勢を崩してくれた。

 おかげで、杖も俺から逸れた!


「ハァッ!」


 俺は空中で更に体を捻り、ミイラキングの顔面を蹴っ飛ばす。

 これで、更に隙が出来た……!


「今度こそ……! ゴブリンズ・ペネトレートォォォッ!」


『グハァァァ!』


 ちょっぴり無理な体勢で放ったからなのか、狙った顔面には当てられなかったが……俺の剣はミイラキングの心臓に突き刺さった。

 ここで離脱を──!


「【フィフス・ブリザード・カノン】!」


「!?」


 俺が剣を抜いて後ろに跳んだ瞬間、氷の砲撃がミイラキングに直撃して奴を壁に叩きつけた。

 一体誰が、と後ろを向くと。


「アリス!? お前、なんでこっちに!」


「行かなきゃ、いけ、ない、と思った、から」


「んだコイツ。お前んとこの新顔か?」


「あぁ。そうだけど……ゾンビたちはどうしたんだ?」


「……あっち」


 アリスが指さす方向を見ると、いつの間にかゾンビたちは数を大きく減らしていた。

 残っているのはさっきミイラキングが呼んだ巨大ゾンビたちで、普通のゾンビたちはもう全然いない。

 ……追加で呼んでこないから、パーティにも余裕が出来たのか。


「モルガン」


「えぇ。これは……チャンスですね。ここで決めます」


「よし。なら、もう出し惜しみはいらねえな」


 俺は一気に集中力を高め──バフを一気に使い切って、スキルを詠唱する。

 叩きつけられたところから立ち上がり、欠損した部位を治しながらこちらへの攻撃魔法を詠唱してくるミイラキングを睨む。

 奴をぶった斬る、最速のルートと、最高の一撃を当てられる場所は……!


「オーガ・スラッシュ!」


『ッ──ハァッ!』


 随分、人らしい反応をするようになった。

 ミイラキングは、真っすぐに突っ込んでくる俺に対して杖を向けて、魔法を放ってくる。

 一本、真っすぐに伸びて来る紫色のレーザー。


「──ッ!」


 俺はオーガ・スラッシュを放つ体制を保持したままに盾でレーザーを受け流し、ミイラキングへ肉薄する。

 そしてガラ空きの胴体へ、一閃。


『ぐ──があああ……!』


「皆さん! もう出し惜しみはいりません! 全力のスキルでゾンビたちを討ってください!」


「そっちもか」


 KnighTの指示が下されると、後ろの方でも巨大なゾンビたちに向けて次々にスキルが放たれるのが聞こえて来る。

 雑魚を一掃し終えたからか、余裕も出て来たってワケか……なら、こっちもか。


「皆──」


「星砕ノ太刀!」


「【ブースト・バッシュ】!」


 俺もKnighTのようにNさんたちへ指示を出そうと思ったら、斬られたてホヤホヤのミイラキングの傷へNさんが刀をねじ込んでいた。

 更に、その刀の傷を深くするためと言わんばかりにモードレッドがNさんの刀に向けて剣を叩きつけて、強く押し込んでいた。


「わぁお、えげつな」


「ぐんぬうぅぅぅ……ハァァァァッ!」


「くたばりやがれぇぇぇッ!」


『グゥゥアアアアアアッ!』


 Nさんとモードレッドがそれぞれ武器を振り抜くと、ミイラキングの体が上半身と下半身で真っ二つになる。

 その瞬間、俺はとんでもない殺気を感じたので全力で真横に跳んだ。

 すると、俺の予感は見事なまでに的中していた。


「ドラゴ・ミニアド……ドラゴ・カリバーッ! ハァァァッ!」


 モルガンのぶん投げた黒い槍がミイラキングの首を貫いて壁に縫い付け、黒い斬撃がミイラキングを真っ二つにした。

 更に、この女性陣はここで終わらせてくれるほどに優しくなかった。


「クラレントォォォッ! 死いねえええッ!」


「流星刀! ハァァァッ!」


「イクリプス!」


 モードレッドの赤い稲妻を纏った斬撃、Nさんの星を纏った斬撃、モルガンの眼から放たれるビーム。

 それらが、ズタボロになったミイラキングの体に打ち込まれていき──ミイラキングのHPを全損させ、上半身の方は跡形もなく消し飛んだ。

 斬られた下半身だけが落っこちて、砂へと沈んでいく。


「……コレで、死んだな?」


「クリアの表示が出るまでは、油断できぬが」


「ですが、奴のHPは全損し、肉体は砕け散った……そして、KnighTたちが雑魚のゾンビたちを討ったのです」


「……なら、もう俺たちの勝ちは決まったってことだよな」


 俺たちは一言ずつそう述べて、おそらくこのダンジョンのラスボスであるミイラキングを討ったのだと確信した。

 しかし、これでも第五都市と第六都市の解放がされないのは、まだアーサーたちの方がクリアに至っていないからなのか。

 と、思っていると──


「あぶ、ない……!」


 ミイラキングに氷を撃ち込んだっきり、大人しくしていたアリスが突然そう呟いた。

 集中状態に入っていた俺は、その言葉をハッキリと聞き取った上で、まだ戦いが終わっていないことを実感した。

 ミイラキングの下半身は、砂に沈んでいった……!


「ッ! 間に合え!」


 俺は咄嗟にフロート・シールドを出現させて飛ばし、Nさん、モードレッド、モルガン、アリスを救い上げる。

 そして俺自身もフェニックス・ウィングで空を飛んでから、カオス目掛けて最後の1枚のフロート・シールドを飛ばす。


「ブレイブ! 一体どうした!」


「やっぱり戦いは終わってないんです! 地面から、なんか来る!」


「だからって、いきなり飛ばす奴があるか! ビビ──ってねえけど、ムカつくんだよ!」


「素直に怖かったと言いなさい。ブレイブ・ワン、もしそうなら助かります」


「……来る」


 救い上げた四人の方からそれぞれコメントを貰いつつ、カオスのことをシールドで救い上げ──られなかった。

 何も言わず、咄嗟にシールドを飛ばしたからなのかカオスは飛んできたフロート・シールドを炎で消し炭にしてしまった。


「ッ! お前ら! 出来るだけ高く飛べええええっ!」


「ブレイブ? 一体何を──」


 唐突な俺の指示には、アイツら高いところで何をしているんだ──なんて、困惑した目線と声色が返って来る。

 KnighTたちも危険を察知できなかったのか、若干呆けた感じでいる。

 俺はもう一度叫んで、皆を危険から回避させようと思っていた……が、もう既に遅かった。


「みん──」


 俺が叫ぶ前に、地面が動いていた。

 まるで、砂が大海原の波にでもなったかのように動き出して、地を揺らしてプレイヤーたちを飲み込んだ。

 それをすぐに見て、殆どのレイドパーティのメンバーは動くことが出来なかった。

 動くことの出来た奴らも、判断を誤ってしまった。


「流星盾!」


「止まれ!」


 ハル、カオスらはシールドや氷を出して砂の動きを止めようとした。

 けれど、その判断は大きな間違いだった。だって、二人が立っているところも砂なんだから、守って踏ん張れるわけがなかった。

 プレイヤーたちを守ろうとした奴らも、立つことが出来ないほどの揺れに襲われた。

 

「ッ──やべ、お、お、おわああああっ!」


「しまっ、きゃあっ!」


「ヘルフレイム──ぐぶっ! が……!」


 砂に飲み込まれたプレイヤーたちは、壁や地面へと埋め込まれてしまった。

 アバターのあちこちは出ていて、生き埋めで窒息死させられるわけじゃないようだ。

 けれど、まともに動くことが出来ないほどになってしまった。


『フハハハハハ! これで何も出来まい! さぁ、このまま朽ち果て、新たな我が眷属となるが良い……!』


 ミイラキングの声が部屋の中に響き渡ったと思うと、部屋の中央に身体を再生させたミイラキングが立っていた。

 あれだけ頑張って倒したのに……奴のHPは全快していて、法衣も杖も王冠も、全て元に戻っていた。


「ブレイブさん!」


「ユリカ、お前だけは無事だったか……!」


「でも、ランコが……!」


 飛翔を持っていたユリカはすぐに天井スレスレまで飛んだおかげか、砂に巻き込まれずに済んだようだった。

 けれど、ランコは壁に埋め込まれて動けなくなっている……そうか、天空歩だと上昇には時間がかかるからか……。


「……取り敢えず、動けるのがこの6人だけでも奴を倒さねえと」


「あぁ。部の悪い勝負かもしれんが、やれるだけやらねばなるまい」


「どっちにしろ、それしか選択肢ねえだろ。あのクソむかつくキングをぶった斬らなきゃ何も変わらねえ」


「そうですね。下ろしなさい、ブレイブ・ワン」


「あぁ」


 俺はフロート・シールドとフェニックス・ウィングを解除して、ユリカたちと一緒に全員で自由落下して着地する。

 そして、ミイラキングを倒すために武器を構える。


『貴様らだけは、眷属にもせん。永遠の死をくれてやろう……!』


「うるせえ、死ぬのはてめえの方だろうが!」


「元々死にたくねえっての……!」


 こっちに振り向いて、杖を構えるミイラキングに対して俺とモードレッドはそう答えてスキルの詠唱をする。

 まだバフの効果は残っている……最速で近づいて、オーガ・スラッシュで頭から叩き斬れば……!


『滅びよ、愚かな者どもよ』


「ッ……クラレントォォォッ!」


「オーガ・スラッシュ!」


 ミイラキングが紫色のビームを放ってきたところで、モードレッドと俺のスキルが放たれて、ソレを相殺──出来なかった。

 さっきまでなら、絶対に押し勝てていたであろう魔法攻撃に対して吹き飛ばされた。


「っ、うおおおあああああっ!」


「なっ、く、ぐ……! ぐあああっ! っぶ!」


 俺は剣ごと引っ張られるように後ろに吹き飛んで、モードレッドは片腕が消えて、地面から生えた砂の槍に背中を刺されていた。


「ブレイブ! ──っ、ぐあ……!」


「モードレッド! っ、うぶっ……!」


 心配するようにNさんが振り返って、ミイラキングから視線を外してしまった。

 その隙を狙われるように、ミイラキングが地面から生やした砂の槍がNさんの足を貫いて、斬り飛ばしていた。

 モードレッドを心配するように、無防備にも駆け寄ったモルガンも、同じだ。

 砂の槍が腹を貫いて、背中まで突き抜けていた。


『さぁ、棺桶をくれてやろう』


「ッ──しま……! クソッ! クソッ! クソアアアアアアッ!」


 吹き飛んで、背中から地面に転がっていた俺は砂にまとわりつかれて動きを封じられてしまった。

 ……超加力まで使ってブーストした状態でも、ビクともしねえ……! なんなんだ、この砂の拘束力!

 っつか……! こんな、絶望的な状況があるのかよ……! まともに戦えるのが、ユリカとアリスだけなんて……!


「っ……! はぁっ、はぁっ……い、いや……! なんなの、このボス……!」


 俺たちが一瞬で一蹴された、その事実を前にしてユリカも焦りを隠せず、息が荒くなって動きが止まっていた。

 アリスは、何も言わずにただ立ち尽くしていて──


『さぁ、滅ぶがいい……! そして、愚か者には永遠の死を、眷属を討った者共には眷属となる生をくれてやろう……!』


「ッ! 畜生アアアアアアアアアッ!」


 俺はただ、動けないままに悔しくてそう叫ぶことしか出来なかった。

 どうしようもない絶望、勝てずにSBOのリセットが訪れてしまう恐怖、何も出来ないことへの怒り。

 それらが混ざった叫び声を上げるだけで、何も出来ずにミイラキングの展開した魔方陣から放たれる攻撃でレイドパーティごと全滅する──




 ハズだった。


『あなた、やりすぎ。死んで』


『な──にゅっ』


 アリスが、俺の目にも追えない速度でミイラキングの頭を斬り飛ばしていた。

 切り離された頭はアリスにキャッチされると握りつぶされて消え、砂に沈もうとしていた首から下は氷漬けにされた。


『消えろ』


 アリスが今までにないほどの低い声でそう告げたと思うと、剣を振るったのか。

 氷は木端微塵に砕け散っていて……今度こそ、ミイラキングを消滅させたのだというのが俺たちに伝わって来る。


『congratulation! 【第五都市】・【第六都市】解放!』


 直後に俺たちが地国之金治塔を完璧にクリアしたのだ、と知らせて来るメッセージウィンドウが出現する。

 俺たちを拘束していた砂も消えて……俺は普通に立ち上がって、そのウィンドウを見ながら、呟く。


「リセットの危機、回避……?」

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