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第二百十六話:案外拍子抜け

「ブレイブ……!」


「彼ならきっと生きているでしょう。無駄にしぶとい男ですから」


「……あぁ、わかっている。指示を寄越せ、KnighT。一刻も早く、奴を斬る」


 私──N・ウィークは目の前で口元に火を溜めている、サンドドラゴン・ゾンビを睨む。

 奴の攻撃のせいでレイドパーティの陣形が一気に崩れ、ブレイブは奴に食われて体内に入ってしまった。

 一応生きてはいるようだが……それでも、大好きな男が化け物の胃の中にいるというのは気分が悪い。


「ではN・ウィーク。あなたはモルガンと共に奴の注意を引き付けなさい、次に放たれるブレスはタンクたちに防がせます。

ブレスが止まったところで、走り出して攻撃を仕掛けてください」


「わかった」


 KnighTの指示を念頭に置いて、レイドパーティの面々が陣形を組みなおす様を見続ける。

 まだ風で飛ばされた時の酔いでフラフラとしている者もいるが、今の私はそんな他のプレイヤーを気に掛ける余裕はない。

 ……早く、ブレイブをあの腐敗した龍から助けたい。


「……震えていますよ、N・ウィーク。落ち着きなさい」


「私は落ち着いている。貴様こそ、もう平衡感覚は取り戻したのか」


「もちろん。伊達にアーサー憎しで努力はしてきませんでしたよ」


 隣に立ってフフンと笑うモルガンを見て、私は全身に込めていた力をゆっくりと抜く。

 ……落ち着けN・ウィーク、太刀川千冬……私の愛した男はそんなにヤワじゃないし、きっと大丈夫。

 だから……考えることは、最速でサンドドラゴン・ゾンビをぶった斬ることだ。


「モルガン」


「えぇ。初撃はあなたに譲ります。それと、なるべくあなたの狙う場所に合わせて攻撃します」


「……助かる」


 タンク隊が整列し終わり、KnighTに伝えられた作戦とモルガンと相談した事を実行する時が近づいてくる。

 サンドドラゴン・ゾンビの溜めている炎ももう少しで放出されるのがわかるように、熱量を増している。


「構えなさい」


「言われずとも……!」


 私は八相の構えを取り、駆け出す準備をする。

 ……狙うのは、奴の腹。ブレイブも、きっとそこを狙って攻撃をするハズだ!


『ゴオオオアアアアアッ!』


「流星盾!」


 タンク隊のセンターに立っていたハルが防御スキルを発動させ、サンドドラゴン・ゾンビのブレスを防ぐ。

 断続的に続く属性攻撃だとしても、ハルの持つ硬さならば防ぐのは容易か……。


「今です! N・ウィーク! モルガン!」


「あぁ!」


「了解!」


 KnighTの合図で私たちは走り出し、私がほんの半歩前に出る。

 無防備なサンドドラゴン・ゾンビの腹に向け……私の全力の一撃を食らわせる!


「星砕ノ太刀!」


『ギャアアアッ!』


 真っすぐに振り下ろした刀がサンドドラゴン・ゾンビの腹を切り裂き──同時に、腹の方から衝撃を感じた。

 ……! まさか、ブレイブが?


「N・ウィーク! 離れなさい!」


「っ、あ、あぁ!」


 私は一瞬動きを止めてしまいそうになったが、剣に黒いオーラを纏わせて突っ込んでくるモルガンの言葉で我に返る。

 すぐさま飛びのき、モルガンが必殺スキルをサンドドラゴン・ゾンビの腹に打ち込むのを見守る。


「ドラゴ・カリバァァァッ! っ……おや?」


「やはりか……」


 モルガンが私の攻撃した位置に重なるように斬撃を加えたところで、妙な違和感を覚えていた。

 ……きっと、ブレイブは胃の中からサンドドラゴン・ゾンビに攻撃を加え続けているんだ。

 現に、HPの減りはさっきよりも少しばかり早い。


『ガゥァアアアッ!』


 サンドドラゴン・ゾンビがお返しだ、と言わんばかりに尻尾を薙ぎ払ってくる。

 モルガンが避けたそれをタンクのプレイヤーたちが全力で受け止め、拮抗し始める。


「カオス、頼みがある」


「俺にか」


「あぁ。ブレイブを助けるために、次の攻撃チャンスが来た時は奴の腹に向けて攻撃を撃ってくれ」


「……いいぜ。お前のことだ、策があるんだな」


「うむ。お前の力ありきだがな」


 サンドドラゴン・ゾンビが尻尾を薙ぎ払い切ったところで、KnighTからの指示で氷属性の攻撃が一斉掃射される。

 だが、流石に奴も馬鹿ではないらしく一部を弱めの炎ブレスでけん制したり、翼や腕を使ってダメージを抑えている。


「いくぞ、準備は良いな」


「おう。合図はお前に任せた」


 私とモルガンが再度駆け出し、カオスは二本の杖をサンドドラゴン・ゾンビに向ける。

 ……もう少しだ、待っていろ。ブレイブ!


「モルガン、防ぐのは任せた!」


「いいでしょう!」


『グゥゥゥ……ガァァァボォオオオオオッ!』


 サンドドラゴン・ゾンビが私に向けて腐食ブレスを放ってくる……が、私は迷わず進む。

 私が後方をチラリと見たところで、モルガンが槍に黒いオーラを纏わせているのが確認できたからだ。


「ドラゴ・ミニアドッ! っ……ハァァァッ!」


 モルガンの必殺スキルがサンドドラゴン・ゾンビのブレスを弾き、私は居合の構えを取る!


「神天ノ太刀っ! ハァァァッ!」


 神速の一撃がサンドドラゴン・ゾンビの腹に放たれたところで、私はすぐさま奴の腹を蹴っ飛ばす。

 そして、叫ぶ!


「今だ! カオス! ブレイブ!」


「了解! お前らどいてろ! かき氷になりたくなきゃなっ!」


 カオスが杖を地面に突き立てると、その場から大量の氷が生えて瞬く間にサンドドラゴン・ゾンビの足を固める。

 更に、モルガンの攻撃が奴の顔面に直撃し──時間もできた。


「メギドバーストッ!」


「星砕ノ太刀……! ハァァァッ!」


 再度八相の構えを取り、カオスの攻撃に合わせて腹にもう一度斬撃を放った……ところで。

 すさまじい衝撃が返ってきて、サンドドラゴン・ゾンビの腹に穴が開いた!


「あああああっ! やっと出れたぁぁぁっ!」


 胃液と思しき液体にまみれ──私でも鼻をつままざるを得ない臭いになったブレイブが出てきた。

 ……くっさ。


「うっげぇ……マジ臭かった……あ、ごめんなさいNさん。心配かけましたね」


「……フッ。私は常にお前を信じていたぞ、何せ私の愛した男なのだからな。フフ、フフフフフッ」


「……なら感謝です。けど、Nさんの可愛い顔を歪ませたあのクソトカゲゾンビは、ズッバズバにぶった斬ってやらないと」


 臭がった顔を見られてたらしいな……。

 ブレイブは腹に穴を開けられて動けなくなっていたサンドドラゴン・ゾンビに向き直る。


「最後の一発、くれてやるよ」


 ブレイブはシールドを使って高く跳び上がり、止まったままのサンドドラゴン・ゾンビに向けて剣を突き出した!

 落下する分の勢いも加えたその突撃は、ただ放つ以上の威力を剣に乗せてくれる。


「ゴブリンズ・ペネトレートォォォッ! セイヤァァァァァッ!」


 この一撃をもってしてサンドドラゴン・ゾンビのHPは全損し──奴の体はポリゴン片となって砕け散った。




「さてと……これで次がラスボスだと、時間的にも助かるんだがな」


「……そうですね。このボス戦でも結構疲れましたし」


 ブレイブが臭い消しとして、カオスに出してもらった氷を溶かした水で身を清めながらそうぼやく。

 サンドドラゴン・ゾンビとの戦いでかなり消耗したこともあって、レイドパーティは一度休憩を取っている。

 ……残っている時間はあと五時間、このタイムリミットまでにクリアできなければSBOの進行状況は巻き戻されてしまう。

 仮に全てリセットされても思い出が消えるわけではない、だが……ここまで来た以上、ブレイブにはトッププレイヤーの証たる七王であり続けて欲しい。


「にしても、案外拍子抜けって感じかなぁ。一本道でボス戦し続けるだけのダンジョンだし」


「まぁ、確かにギミックは足りなかったな……変なとこ触ると変なのが出て来る、ってくらいで……」


「その変なのも、ムラマサさんに一撃で倒されるくらい弱いですもんね」


 ユリカ、ムラマサ、ランコがそう呟いてはいるが……ボスに直接近づいて注意を引き付けた私としては、物足りすぎている。

 ブレイブがサンドドラゴン・ゾンビに食われた時は一瞬叫んでしまいそうになったんだぞ、私。


「ま、足りてようが足りてまいがいいだろ。クリアすることが最優先なんだし……ボス戦だけじゃ物足りないってのは、俺たち全体の成長ってわけだ」


「……そうですね、ブレイブ。あなたの言う通りです、レイドパーティ全体のメンバーの成長は祝うべきことでしょう」


 KnighTがブレイブの言葉に賛同すると、魔酒を呷りながらカオスとモルガンがうなずく。

 ……今のこのパーティメンバーは精強、強い意志に結ばれた者たちの集い。

 ならば、次に来る相手が誰だろうと負ける気はしない。


「現状、ここに来るまでにメンバーの欠けはない。

装備も特に何か壊れたって報告もないし、アイテムの消耗もそれなりに抑えられてる。

俺も、今こうして魔酒でMPはもう今までに見たことのない数字くらいまで溜まってるし」


「ならば、準備は万全と言ったところか」


「そうですね。となれば、言い訳の出来ねえ真っ向勝負ってワケだ」


「その台詞は、ちゃんと装備を着て言っていればまともなのだがな……」


 装備を脱いでお湯に浸かっているせいか、ブレイブの台詞にはどこか緊張感がない。

 ……だが、緊張せずリラックスして休めるというのは存外良いことだろう。

 レイドパーティの空気もどこか良くなっていて、皆がこれからボスに挑むとは思えないほど活気に満ちている。

 緊張でピリピリするよりかは良いだろうし……何よりも、これが最後かもしれないのだから。


「Nさん。俺は仮にこのダンジョン攻略が間に合わなかったとしても……それでも。

このゲームを遊んだ思い出は消えないし、あんたを好きだって気持ちも変わりっこない。

だから、悔いのないように全力でやりましょう」


「……うむ。そうだな、ブレイブ。そうしよう」


 私はお湯から出てきて装備を着直したブレイブを抱きしめ、心を落ち着かせる。

 これが最後だろうと、最後でなかろうと……私は私の全力を通すだけだ。


「えぇ。あとは進み、貫くだけです。行きますよ、皆!」


「応。魔王の力を存分に見せてやる、ふざけたペナルティ用意した運営に、ドヒャンって言わせてやるぜ」


「我が娘との鎹となったこの世界、戻させるわけにはいきませんからね」


 KnighT、カオス、ブレイブ、モルガンがそれぞれの武器を抜き、天に掲げる。

 ……大丈夫。きっと、このメンバーなら絶対にやれる。

 だからこそ私はブレイブの矛となって、このゲームが続くように貫き通して見せる。

書き溜めていた分のお話が減りつつあり、最近忙しいこともあって新しく書き溜めることも出来ていません。

このままでは週一投稿が出来ず、書いた分を随時更新という形になってしまうかもしれません。

感想などを頂けたら、時間を縫って書くと思います。

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