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第二百十五話:私たちの力

『ガアアア!』


「っ……! カウンターを狙う隙すらない……!」


 サンド・ドラゴンゾンビの攻撃が、数えるのも飽きるほどタンク隊の盾に直撃する。

 このままダラダラと戦いを続けていても、時間がいたずらに過ぎて行って、タイムリミットに至ってしまいかねない。

 まだ何時間もあるとは言えど、この光景が延々と続いていたり、再スタートを切るなんて事態にはなって欲しくない。


「……Nさん、モルガン。俺のスピードとか動きに合わせられますか」


「無論だ。一応、最速のお前を数メートル離せるほどの速度調整はしてある」


「私も、アーサーをギリギリで追い抜けるほどの走力や瞬発力まで調整していますから、あなたに合わせるのは容易です」


「なら良し。じゃ、タンク隊を休ませてやりますか」


 俺は二人を連れて列からはみ出て、構える。

 KnighTは……何も言わずとも、指揮官としての役割を全うするみたいだ。

 俺たちがサンド・ドラゴンゾンビを直接叩いて、隙を作る作戦……話さずに伝わるとは思いもしなかった。


「よし……! タンク隊はいったん下がって休め! KnighT! アタッカーへの指示頼んだぜ!」


「言われずとも!」


 KnighTは剣を地面に突き刺し、アタッカーたちに各自指示を出し始める。

 俺、Nさん、モルガンたちはタンク隊の脇を抜けて走り出す。


『ガアアア!』


「ヘイト・フォーカス!」


「っ、と!」


 俺にヘイトが向いたことでサンド・ドラゴンゾンビは攻撃の矛先を変えて来る。

 それに合わせてモルガンとNさんは左右に転がって、サンド・ドラゴンゾンビの振り下ろしてくる爪を躱す。

 俺は二人を巻き込まない程度のギリギリを見極めて攻撃を躱し、サンド・ドラゴンゾンビの注意を引き付けたまま向き合う。


『グルアアア!』


「流星盾! フェニックス・アーマー! フィフス・シールド!」


 吐いて来た火炎ブレスをノーダメージで受け止めたところで、モルガンとNさんが跳び上がる。


「ドラゴ・カリバァァァッ!」


「星砕ノ太刀!」


『グゥアアァッ!』


 二人の攻撃がサンド・ドラゴンゾンビの頭にクリーンヒットし、HPがそれなりに削れたのを確認する。

 特に耐性のある属性でもない強力なスキル、それが二連続で頭に当たったとなればダメージがデカいのは必然だろう。

 ……つっても、ちょっと火力出すぎじゃないだろうか。


「全く同じ個所に攻撃を合わせるとは……器用ですね、N・ウィーク」


「フッ。お前のスキルには目印が出来るほどの威力が出ているからな。凄いのはお互い様だ」


 最後に攻撃したNさんに注意が行って、サンド・ドラゴンゾンビはNさんの方に視線を向ける。

 俺のヘイト・フォーカスを上回るほどのヘイトを出すって、とんでもねえ火力だし、スゲー芸当してんだな。流石、俺の憧れたNさんだぜ。


「こっちも負けてられねえな! 行くぜ!」


 俺は再度諸刃の剣を発動させ、思い切り地面を蹴って跳び上がる。

 狙うは頭……! Nさんが斬ったところは……わかんないけど、大体で狙いを付けりゃ多分当たるだろう!


「頼んだぞ、ブレイブ!」


 Nさんは空中でサンド・ドラゴンゾンビの顔面を蹴っ飛ばし、その反動で地面に着地する。

 奴の注意は依然Nさんに向いたままで、腐食ブレスが彼女に向かって吐かれている。

 まぁ、素早いNさんならばあんな攻撃に当たるワケないし、絶好のチャンスってワケだ!


「オーガ・スラッシュッ! うおおおおおぉぉぉぉぉッ!」


『ガアアアッ!?』


 頭に全力の一撃がヒットすると、サンド・ドラゴンゾンビのHPバーは一気に減る。

 俺はすぐに諸刃の剣を解除し、Nさんのように奴の顔面を蹴っ飛ばして地面に着地……と思ったら体勢が悪く、頭から落っこちた。

 けれど、奴が俺にもNさんにも攻撃をする様子はない……怯んだか。

 既に死に体のゾンビとは言えども、連続で急所に攻撃が当たり続ければ苦しんでくれたりするもんだな。


「いっちち……けど、今だ! チャンスは出来たぜ!」


「全員! 総攻撃です!」


 俺の一声にKnighTが応えるように指示を出し、レイドパーティのアタッカーたちが次々にスキルを繰り出し始める。

 ……が、問題はこの瞬間だ。俺とNさんとモルガンはそのスキルの射線上にいることを、俺自身が忘れていた。


「あ、やっべ」


 咄嗟のことなんで、回避もままならずに俺はただそう呟いて、砂浜で撮影しているグラビア女優よろしく、砂の上に寝そべったままだった。

 このままむざむざと命のストックを減らしてしまうのか……と思っていたら、突然視界が上の方に引っ張られた。


「何やってんですか、この馬鹿!」


「そうだよ……もう! 私たちは便利屋じゃないってば!」


「お、おぉ……悪い、な二人とも……」


 俺、Nさん、モルガンは空中を移動できるユリカとランコによって抱えられていた。

 ……Nさんとモルガンは丁寧に腰のあたりを持って抱えているくせに、なんで俺だけ首根っこなんだろう。


「それじゃあ、迷惑かけた分もう一発頼みますよ!」


「私たちの分まで、ブッ込んでこーい、兄さーんっ!」


「うおおおおお!?」


「ひゃあああ!?」


「ッ──普通、カウントダウン入れて投げるだろう……!」


 抱えられていた俺たち三人は、今もスキルによる攻撃を受け続けるサンド・ドラゴンゾンビ目掛けて投げ出される。

 けど、俺たちはトッププレイヤー……これしきの空中放流程度で、ビビり散らしてミスってたまるかよ!


「行くぞ! 俺に合わせてくれ!」


「いいでしょう……! ドラゴ──!」


「うむ……合わせるとも、完ッ璧にな!」


 俺は剣にライトエフェクトを纏わせ、サンド・ドラゴンゾンビの頭目掛けて突き出す。


「ゴブリンズ・ペネトレートォォォッ!」


「ミニアドォォォッ!」


「神天ノ太刀ッ!」


 全力の突きがサンドドラゴン・ゾンビの頭に突き刺さり、そこで出来た傷跡にモルガンの槍が更に刺さり、Nさんの一太刀が入った。

 蓄積されていたレイドパーティの攻撃、三人の攻撃を同時に受けたこともあってか、サンド・ドラゴンゾンビはその場で転倒する。

 更に時間は稼げた……HPバーも、二本目を削り切って、三本目の三割くらいまでは削れている……! ここが勝負どころだ!


「おおお前らあああああっ!」


「叫ばずとも、わかっていますよッ!」


 俺が空中で叫んだ時には、KnighTを始めとした近接攻撃手が一気に走り出して斬りかかる。

 カオスたち魔法の使い手は氷属性の魔法を次々に放ち、サンド・ドラゴンゾンビの体に次々に穴を空けていく。


「ブレイブ!」


「あぁ、こりゃ負けてられねえや……!」


「私たちの力、見せつけましょう!」


 俺たち三人が着地したところで、自由落下しながら氷属性のスキルを放っていたユリカとランコのコンビが降って来る。

 そして、二人がサンドドラゴン・ゾンビの腹にスキルをぶち込んですぐ飛びのいた……と思った刹那。


「クラレントォォォ……ッリャアアアアアッ!」


「トラジック・シンフォニー!」


「パワードタイム……! 【ジェノサイド・グラトニー】!」


 赤い稲妻を纏った一閃、百本を超えるナイフ、黒い化け物を纏わせた分厚い手斧の一撃。

 氷属性の攻撃が放たれる中で、ひときわ目立ったスキルがサンドドラゴン・ゾンビに突き刺さっていた。


「オイ、モルガン! 無理すんなよ! アンタ高所恐怖症だっただろうが!」


「お母さんと呼びなさい! それと私は高所恐怖症ではありませ。ちょっぴりビビって動きが鈍くなる程度です!」


 一瞬一瞬が大事な戦闘において、それは恐怖症って言うんじゃないだろうか──と思った。

 が、俺はそんなことはどうでも良いと思い、視線をちらりと変える。


「あなただけに良いところは持っていかせないわよ。N・ウィーク」


「フッ。言うな……普段からは感じられぬ執心ぶりではないか。サンドラよ」


 Nさんとサンドラは何か目線からバチバチしたものを感じるが……この二人、どっかでなんかあったんだろうか。

 なんて思っていたところで……、誰かの視線が俺に刺さるのを感じて振り返ると。


「突撃するなら、私も連れて行って欲しかったです、先輩!」


「いやだってお前速くなると酔うし、ユリカたちが俺とかのついでで抱えられるほど軽くないだろ」


「乙女に体重の話は禁忌ですからね!?」


「いや鎧の話! 鎧が重いってことな!?」


 ……どうやら、Nさんだけが俺について来いって言われたことが結構不服だったみたいだ。

 そこまでNさんと張り合いたいのか、ハルめ。


「おい! 無駄口叩いてる暇あったらもう一回突撃して来いよ! 敵のパターンまた変わるぞ!」


「あぁ悪い! 今行く!」


 サンド・ドラゴンゾンビが起き上がったところで、とうとう削るのは最後の四本目のHPバーだけとなった。

 おそらく新たな行動が二個ほど組み込まれるはず……なら、そこを叩く!


「おいブレイブ、何か来るぞ……! 気をつけろ!」


「わかって──ッ! これは……!」


 サンドドラゴン・ゾンビが起き上がってからブレスを構えていたと思ったら、それは火炎ブレスでも腐食ブレスでもなかった。

 

『ゴオオオアアアアアアアアアッ!』


「流星盾──っ! マジっ、か……!」


「ブレイブッ……!」


「Nさんっ……!」


 サンドドラゴン・ゾンビがぶっ放してきたのは、純粋な風力を込めたブレスだった。

 その純粋な風はダメージこそ俺たちに与えなかったが、モノを動かす力だけは最上級と言っても過言じゃなかった。

 軽いプレイヤーたちは紙細工のように吹っ飛んで行って壁に叩きつけられ、酷いものは天上にまで吹っ飛んだ。

 俺は何とか踏ん張って、Nさんの手を握って二人とも飛ばされないように構えていられたが……巻き起こった特大の砂埃のせいで、目を瞑らざるを得なかった。




「っ……止まった……か。Nさん、大丈夫っすか……?」


「あ、あぁ……なんとか、大丈夫だが……ぺっ、うっ……砂が酷いな」


「俺もです……っつか、皆は……!」


 目に入った砂などを落としながら、俺は周囲を見回す……と、そこはまぁ酷い光景だった。

 あちこち砂が飛び散った上に、プレイヤーの殆どが砂で埋もれていて、立っていられた奴は俺以外には殆どいなかった。

 カオスだけは氷でドームを作って咄嗟に凌げたみたいだけど、そのおこぼれにあずかれたのはサンドラだけだったみたいだ。


「マズいな……野郎、さっき巻き起こした砂に隠れて消えやがった」


「マジかよ」


 カオスがポツリと呟いた言葉にそう返さざるをえなかった。

 だって、実際辺りを見回してもサンド・ドラゴンゾンビは見つけられない……どこかに擬態化しているのか、それとも透明化なのか。

 どっちだったとしても、あちこち砂の山とかが出来上がっているようなこの光景……最悪と言っても過言じゃない。


「どうする、ブレイブ」


「……今はレイドパーティの立て直しが最優先でいいと思います、今は奴が攻めに転じてないから良くても、このままじゃすぐにすり潰されちまいます」


 Nさん、俺、カオス、サンドラしか動けない状況じゃ、残りHPバーが1本とは言えどサンドドラゴン・ゾンビを倒せるかはわからない。

 だから、俺たちはそれぞれ散って、砂に埋もれたり倒れてるプレイヤーを助けに向かった。


「おいKnighT、立てるか? 立てるなら立ってくれ、このままじゃ皆死ぬぞ」


「っ……わかっています……あなたに言われずとも……っつつ、流石に、酔いましたが……まだ、やれます」


 KnighTはややフラつきながらも立ち上がり、腰のポーチから取り出したポーションを咥えていた。

 ……他の皆も、同じように起こさなきゃな──と思ったところで、突然俺の足元が揺れた。


「っ……!? なんで──どわあああああ!?」


「ブレイブ!?」


 揺れただけじゃなく、そのまま俺の足元が崩れて……真下から、口を開けたサンド・ドラゴンゾンビが突っ込んできていた!


「KnighT! 絶対パーティ立て直せ! 急げええええっ!」


「わかっていますっ!」


 俺はサンド・ドラゴンゾンビの口……首を通って、腹の中に落ちるまでそう叫んでいた。


プレイヤーネーム:N・ウィーク

レベル:80

種族:人間


ステータス

STR:123(+200) AGI:123(+200) DEX:0(+50) VIT:30(+180) INT:0 MND:25(+180)


使用武器:煌星・神天刀

使用防具:大悪鬼の羽織・改 煌星・神天の面 煌星・神天の着物 煌星・神天の籠手 大悪鬼の草履・改 大悪鬼の首飾り・改


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