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第二百十一話:新しいメンバー

「んっ……あぁ……あり、やっべ。いつの間にか寝落ちしてたか……」


 第五回イベントを終えて早一週間……朧之剣の話題で持ちきりだったSBOも段々と落ち着いて、今は何もない平和な日だ。

 要はやることのないつまらない日なんだけれども、やっぱりSBOでの空気を吸って過ごすことも俺──ブレイブ・ワンとしての生活の一部になってるワケだからこうして何の気になしログインをしていたんだが、領土内に移築したギルドホームの懐かしさに浸っているうちに寝落ちしていたみたいだ。

 せっかくの休日なのに、ゲーム内で爆睡してもう夕方だ……ランコはログアウトしてるし、鞘華がリアルの方で起こしてくれたって良かったのに。


「ふぅ……んっ、っと……どうすっかなぁ」


 寝っ転がっていた縁側から降りて、俺は軽く体の関節を伸ばす。

 流石に寝起きに狩りに行くほど脳筋じゃないし、フレンドリストを見ても暇そうなやつはあんまりいない。

 なら一人で何するか──と思っていたら、何やら旧ギルドホームの玄関前に人影が。


「っと……誰だ?」


 そこには背中まで伸びた金髪に似合う碧眼をしていて、ウサミミっぽい黒のカチューシャと水色と白のエプロンドレスを身に着け、しましまニーソと革靴を履いた女の子が佇んでいた。その格好に似つかわしくないような白い塚の剣を、腰から下げながら。


「……あな、た、は。ブレイブ・ワン?」


「あぁ、そうだよ。ブレイブ・ワンだけど……お前は?」


「私、は。アリ、ス。アリス」


 アリス、ね……見た目通りの名前だなー、狙ってこういう格好出来るようになるまで頑張ったのだと思うと凄いプレイヤーだ。

 ……プレイヤー、だよな。目を合わせるとプレイヤーとして表示されるカーソルが出るし、間違いなくプレイヤーだと思うんだけども、なんか人らしさを感じない気がするなぁ、気のせいか?


「えーと、何の用なんだ? 俺のこと呼んだ辺り、俺に用か?」


 アリスはかなり小柄だったので、俺は膝をかがめて目線を下げて聞いてみる。

 同じ目線に合わせれば、話しやすくなるだろうな……さっきはなんだか言葉に詰まってた感じだったし。


「ここ、入り、たい」


「……ここ?」


 集う勇者旧ギルドホームに住みたいって意味なのか、それとも集う勇者自体に所属したいのか。

 どっちの意味だったとしても、集う勇者の一員になりたいって言ってるのと同じだ。

 となると、だ。


「面接する、ってことになるな。ステータスとか見せられるか?」


「……ん」


 アリスはポケットから羊皮紙を取り出すと、本人のステータスと思われるものを見せて来た。

 プレイヤーネーム、ステータス、装備、習得してるスキル……びっしり書き込まれてるので読むのに少し時間がかかったけど、ステータスは申し分ない値だった。

 レベルは80、バランス良く振られたパラメータに、中々優秀な効果を持っている装備、強力なスキルの数々……七王の幹部級と言えば大げさだが、少なくとも並みのギルドのエースプレイヤー級の強さはあると見ていい。

 魔法剣士タイプのステータスで、持っている武器は剣だが魔法を唱える際の杖の代わりにもなる代物だ、とも書かれている……スゲーな。


「じゃあ、集う勇者に入って何がしたい?」


「……人の、ココ、ロ……を、知りた、い」


「人の心……ね」


 人の心ってことは、なんだろうか……皆で遊ぶ楽しさとか、そういう類のもの……ってことなのか?


「んーと、その人の心って、具体的にどういうものかを教えてくれるか」


「笑っ、たり……泣い、たり、怒った、り……する、理、由」


「お、おう……そういうのね……はいはい……」


 俺はこの幼さにして機械的な声色で答えているアリスを見て、ほんのちょっぴりぞーっとしながら頷く。

 ……どうしようかな、この子……強いのは間違いないし、少なくとも悪い子とかじゃあなさそうなんだけどな……。

 Nさんが隣にいないだけに、判断を仰ぐことなんて出来ないしなぁ……。


「あ、そうだ。つ、集う勇者に入りたいって思った理由は?」


「……勇、者の、集、まり。それ、は。きっと、私の、求めて、るもの……だ、と思う。か、ら」


「そうか……よしわかった」


 話し方と声色はちっとばかし不気味だが、話してて悪い気を感じることはない。

 このSBOにもクソみたいなプレイヤーってのはいるし、会ったことだって何度もある。

 そういう奴らとは少し話せばすぐに腹立つような何かを感じるけど、この子からはそういうものを感じない。

 だから、この子を信じよう。


「なら、俺たちと一緒にゲームを楽しもうぜ。そしたら、お前の求めてるものが見つかるかもしれないし、人の心ってやつもわかると思うしよ!」


「……ん」


「よっし。今日からお前は集う勇者の一員だ! よろしくな、アリス!」


 俺はアリスに向けてギルドへの招待を送り、それが承認されたことを確認する。

 アリスの名前が集う勇者のメンバー一覧に乗ったことで、うちのギルドも19人目……七王の中じゃ一番少なくても、確実に増えてることは感じられるな。


「……さてと、アリス。それじゃあ早速やりたいこととかはあるか?」


「ん……あそ、こ。いき、たい」


「あそこ……ん? んんん?」


 アリスが指さした先にあったのは、集う勇者領土から出て数百メートルほどの場所にある洞穴っぽいダンジョンだった。

 幸いにもすぐダンジョンに潜ることになっても問題ないほどの準備はしていた──けれど、この二人だけで行くことになるとは思いもしなかった。

 まぁ、俺はそうそうくたばるようなヤワな感じに出来てねーし、大丈夫だろう……多分。


「じゃあアリス、おさらいだ」


「ん」


「俺が前に出て敵の攻撃を受けるから、お前が倒す。それでいいか?」


「わか、った」

 

 鎧をカチャカチャと鳴らしながら歩いている俺の隣をてくてくと歩くアリスは、片手に剣、もう片方の手にたいまつに使う木の棒を持ち歩いていた。

 さっきまで手に持っていたバスケットは俺が腰当に着けている雑嚢と同じ役割を果たしてるみたいだが、ダンジョン内では邪魔だと思うのでストレージにしまって貰うことにした。

 にしても……いくらダンジョンに向かうためフィールドに出たとは言えど、抜身のまま剣を持ち歩くのはどうなんだろうか。

 腰にある白い革の鞘は飾りかよ、なんて言ってやりたくもなるが、ここは敢えて言わないでおこう……本人のこだわりが何かあるかもだし。


「よし、じゃあ作戦はさっきの通りにだ。洞穴系だから暗いし、横穴とかを見落とす可能性もあるし、なるべく隅々まで注意を払うようにな」


「う、ん」


 入口に着いたところで俺も腰から剣を抜き、盾を括り付けた手にたいまつを持つ。

 このダンジョンの仕掛けとかモンスターについては全然知らないけれど……まぁ、大体は何とかなるだろ、多分、そんな気がする。


「それじゃ突入! さぁ、漢ブレイブ・ワン! まかり通るぜ!」


「う、ん」


 ……ちょっぴりノリが悪いなぁ。けど、ノリってのはノってくれる側次第のものだから強制すんのは良くないよな。

 集う勇者はたまたま、皆少なくともゲーム内では『応!』って返してくれるような奴らだったし、それに慣れすぎてるんだろうな、俺が。


「うお……結構暗いな。アリス、たいまつに火ぃつけて準備しといてくれ」


「わかっ、た。ん、しょ……」


 アリスはポケットからマッチのようなものを取り出して、たいまつの先に火をつけた。

 俺はそのアリスのたいまつから火を分けて貰い、自分のたいまつにも明かりを灯した。


「事前に説明したように、横穴とかに注意を──って、もう来やがったか!」


「あ、横、から、も。来てる」


「おーぅ……まぁいい、防御は俺に任せろ、お前は安心して攻撃の準備に入ってくれ!」


「わか、った」


 たいまつを翳してみると見えた横穴と、俺たちの進行方向の穴から出て来たのはトロール、ナーガ、ゾンビ、オークがそれぞれ一体ずつ。

 ゾンビとオークは普通の人間と大差ないようなサイズだけれども、トロールとナーガは全長3mはあろうサイズだ。

 虫が出なかったのは幸いだが……ちょい広めな洞穴ってだけあって、トロールとかナーガみたいなデカい奴らも平気で出て来るんだな……と思った。

 まぁ、広い分こっちも安心して剣を振れるんだけど。


「アリス、自分のペースでいいからな」


「う、ん」


 アリスは右手を突き出し、そこに左手を重ねて片目を閉じて詠唱を始めた。

 ……魔法の詠唱。なら、撃たれる時はアリスのの射線に合わせてしゃがんだり避けたりしねえとな──と、頭に入れながら俺は剣と盾を構える。

 向こうも陣形を組んでいるのか、ランスと盾を持ったナーガが先頭に、剣を持ったオークとゾンビがその背後、素手で構えるトロールが意外にも何か詠唱してやがる。

 トロールって言ったらフツーは脳筋スタイルで殴りに来るもんだろ!? と突っ込みたかったが、俺はアリスがいる手前もあって黙っていた。


『シャアアア!』


「来るか!」


 ナーガが舌を震わせながら鳴くと、オークが走り出して斬りかかって来る。

 狙いは──視線的に、アリスの方か!


「ヘイト・フォーカス!」


『ブルアアアァァァ!』


「ふんっ!」


 オークのヘイトを強制的に俺に集めて、狙いを変える。

 素早く振り下ろされ剣戟を盾で受け止め、競り合わずにすぐ弾く。

 だが奴も馬鹿じゃないのか、追撃は出さずにすぐに下がり始める。

 となると来るのは!


『ガアア!』


「炎……ならこれだ!」


 トロルの手からは大きな大きな火球が放たれたので、俺はフェニックス・アーマーを発動させてそれを真正面から受けきる。

 魔法のライトエフェクトに隠れて、ゾンビとオークが同時に斬りかかって来る。


『ウヴァァ!』


『ブルァ!』


「フィフス・カウンター!」


 タイミングをずらしているならともかく、同時の攻撃ともなれば一つの攻撃と解釈できる。

 それ即ち、二撃に対してカウンターを発動させられる!


『ウヴゥ……』


『ブグゥ!』


「流石に頭じゃねーとダメージはショボいか……」


 オークの方は鎧を着ていたし、ゾンビは恐ろしいほどの物理耐久を備えている。

 だから当然だ、と言わんばかりに俺のフィフス・カウンターでも二割と削れていない。

 が、そろそろだ。


「フィフス・ホーリー・ランス」


「流星盾!」


 カウンターを受けてなお追撃を放ってくるゾンビとオークの攻撃を今度は流星盾で受け止め、アリスの魔法の射線を通した。流星盾は敵の攻撃は防ぐが、味方の攻撃は通すからな。

 アリスが放った光の槍はトロルに狙いすまされていたが、盾を持ったナーガが魔法を止めてしまった。


「中々厄介な連携だな。アリス、作戦変更だ。お前、しばらく俺の守り抜きでも魔法の詠唱完成させられるか? 出来れば広範囲のを」


「出来、る」


「オッケー。なら、シンプルに行こう。俺がナーガをぶった斬ってやるから、お前が決めろ」


「わ、かった」


 アリスは腰から剣を抜き、地面に突き刺して軽く穴を空けたと思うとそこにたいまつを突き刺した。

 そして、剣を構えたまま空いた手をトロルたちに向けながら魔法の詠唱を始めた。

 トロルも魔法の詠唱を再開していて、ゾンビとオークもナーガの後ろに隠れて剣の刀身にライトエフェクトを纏わせている。


「超加速!」


『フシュッ!?』


「ディフェンス・ブレイク!」


『シュオルギャアアア!』


 一撃でナーガの盾と、ソレを握っていた腕を斬り飛ばす。

 すぐにスキルの詠唱を完成させたオークとゾンビが斬りかかって来るが、当然それは予測済み。

 だから──!


「フェニックス・スラスト!」


『ブギャアアア!』


 ゾンビからの攻撃を盾で受け止め、オークの攻撃は避けながらも、オークの頭に向けて炎の刺突を浴びせる。

 で、次に腕を斬り飛ばされてもランスの突きを放ってくるナーガの攻撃をかがんで避け、その勢いを利用してジャンプ! 魔法の詠唱を続けているトロルの顔面に蹴りをぶち込む。

 蹴った時の反動をも利用して後方へと飛び、そのままかがんだ体制で、スキルの詠唱を素早く行う!


「超加力……ゴブリンズ・ペネトレート!」


『シャギャアアア!』


 俺の最大級の必殺技をナーガの頭に向けて放つと、クリティカルヒットとなってナーガのHPは尽きて死んだ。

 次に、蹴られて邪魔されながらも立派に魔法の詠唱を完成させたのトロルが魔法を放ってくる。


『ガアオ!』


「氷! だったら──コイツ、だああああ!」


 この広めな洞穴内でも道をふさぎそうな氷の塊が飛んできたので、すぐにフェニックス・ドライブを放って相殺する。

 そしてゾンビが俺に、ヘイト・フォーカスの効果が切れたのかオークがアリスに向かって斬りかかる!


「出来、た。【フィフス・ブリザード・ストーム】」 


「何それええええ!?」


 アリスに斬りかかったオーク──どころか、ゾンビやトロルまでにも視界が真っ白に染まるような、巨大な吹雪が放たれていた。

 俺はなんとか地面に飛び込むように転がり、ギリッギリで巻き込まれずに済んだけれども……ゾンビもオークもトロルもカッチンコッチンに凍てついていた。

 なんつー威力だ……カオスの氷魔法にも匹敵するんじゃないか、コレ。


「でも、これでも倒れてないのか……動くのかなコレ、つんつん」


「そ、れ……芯まで、凍って、る……」


「え」


 試しにつついたゾンビの氷像がぐらり、と揺れたと思うと倒れ……パシーンと砕け散り、そのまま消滅した。

 ……コイツぁ、中々にスッゲー魔法だな……スゲー綺麗な彫刻みたいになってんなぁ。


「まいいや、全部壊しとくか」


 でもそんなに深く考えることじゃねえや、と思って俺はオークのもトロルのも蹴っ飛ばして破壊する。

 よし、これで二匹まとめて撃破ってワケだな。


「さて、と。奥にはどんなのがいるかね」


「いるかねー」


 アリスが俺の口調を真似始めた、でもまぁ悪くないな、ムカつかねえ。

 

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