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第二百十話:終幕・第五回イベント

「ハァッ!」


「……スピードタイム!」


「ッ!?」


 真っすぐ斬りかかってきたKnighTさんの攻撃を受け止めるのは危険と判断し、私は一瞬だけ加速することで彼女の攻撃を躱しました。

 が、そこにはまた別の攻撃が待っていて──!


「ドラゴ・カリバー!」


「流星盾! ぐっ……! く、あぁっ!」


 すぐにシールドタイムに戻して盾のスキルを発動させたおかげ死には至りませんでしたが、それでもダメージは免れられませんでした。

 彼女──モルガンさんのスキルの破壊力はアーサーさんのエクスカリバーや、先輩のオーガ・スラッシュにも匹敵する威力。

 ともなれば、簡単に受けきれるハズがない……けど、躱すよりも受ける方がまだマシです……躱すってことは、その分スピードタイムを維持するってことですから。


「随分と耐えますね。それにあの加速……憧れたギルドマスターの真似事かは知りませんが、HawKたちを倒しただけのことはあります」


「真似事だなんて失礼な……これは、私だけの戦闘スタイルですから」


「そうですか。ですが、それでもあなたでは七王に届かない、七王のプレイヤーを超える強さには至らない」


 ……そんなこと、言われなくたってわかりきってることです。私では先輩たちのいるような領域にはまだまだ遠い。

 確かに新しいスキルとしてタイムブーストを身に着けて、様々な戦い方が出来るようになった。

 確かに集う勇者の中では格段に強くなれましたが、まだこのスキルそのものに慣れていないし、元々の私自身はそんなに戦い方が上手いワケじゃない。


「けど、だからって『はいそうですか、私じゃ勝てませんね』って諦める理由にはならないでしょうが! 私はハル! 先輩たちに信じられ、集う勇者の総大将を託されたただ一人の戦士プレイヤーです!」


 私は剣の鍔にある時計の針を3時の方向に回し、剣を魔銃へと変形させます。

 そして、唱える! タイムブーストの四つあるモードの一つ!


「【マギアタイム】!」


「ッ! 今度は魔銃か! 大風車!」


「マギア・ブラスター!」


「ヘルフレイム・バースト!」


 私の握る魔銃の銃口から無属性の爆撃が放たれるとモルガンさんは槍をバトンのように回転させ、KnighTさんは巨大な火力で相殺を図ってきました。

 ですが、そこが狙い目です! 私の攻撃をスキルで相殺して起こる爆発のエフェクト。それらを盾にすれば、隙が出来ます!


「スピードタイム、パワードタイム……! 流星剣!」


「甘いですね、30点です」


「ッ!?」


 HawKとCaTを倒した時のパターンで攻撃を放って、まずはKnighTさんから仕留める……ハズだったのに、私の剣を握る右腕はいつの間にか宙を舞っていた。

 何故──と思っていたら、後ろに立っていたモルガンさんの目が光っていて、私の腕の断面はポリゴンではなく焼けた痕に覆われていました……高熱で焼き払われたように。

 

「イクリプス。最初は娘を笑わせるために覚えたスキルでしたが……やはり、便利ですね」


「その便利なスキルのおかげで、こちらの隙がカバーされて何より。トドメは貰います!」


「ッ──!」


 KnighTさんが剣を構え、私に向かって振り下ろしてくる。

 私はすぐに転がってそれを回避し、斬られた腕を拾って距離を取るために走り出します。


「逃げるつもりですか、無駄なことを」


「背を見せるとは……無様。ブレイブ・ワンならば逃げずに戦い続けていたでしょうに」


 二人が剣を構え、それぞれスキルの詠唱をしていました。

 が、私はただ逃げるために走っているワケじゃない。逃げるつもりなんて毛頭ない。

 私が必死こいて走ってるのは、彼女たちをその場に留まらせるためだから!


「ドラゴ・ミニアド!」


「プロミネンス・ストライク!」


「シールドタイム! 流星盾!」


 私はどうにか斬られた腕が握っていた剣の鍔にある時計の針を動かし、小盾にしてから無事な手で持っている盾と合わせ、一つの盾にして──

 ソレを思いっきり地面に突き立てて、全身で防御の姿勢を取ります!

 あとはこの攻撃で私が死なないようにするだけ! それだけで、多分集う勇者の勝ちは決まる!


「ぐっ! く、ああああああ……! 死んで、たぁまぁるかああああああああっ!」


 押し寄せる黒い大槍、深紅の炎の斬撃……それらに身を焼かれながらも──! 私は合図を送る。

 逆転の一手。集う勇者を救う一手になる合図を!


「ゆ、リ……カさあああああんっ!」


「やっと、私の出番かっ!」


 CaTとHawKを倒した時、私が確認していたメッセージ。

 それにはユリカさんが体調を取り戻したので、領土へ帰還するということが書かれていた。

 賭けではありましたが、彼女が魔女騎士団や朧之剣のプレイヤーたちに捕捉されずに集う勇者領土へ帰還し、ここぞという時に現れてくれる。

 そう仕組んで、彼女にずっと透明化をした上で潜伏をしていて貰ったのです。


「これでもくらえ、モルガンッ!」


「ぐっ……! 貴様……! ずっと、潜んでいたというのか……!」


 透明化を解除したユリカさんが背後から現れると、彼女の剣がモルガンさんの心臓を貫いていました。

 透明化のためにSPが尽きていて、満足にスキルを繰り出すことも出来なかったのでしょうが、急所である心臓を貫いたのなら勝ちは決まりです!

 あとはKnighTさんを──と思ったら、既に彼女の姿がなかった。あれ? さっきまで、剣を振り抜いた姿勢だったようなハズなのに。


「残念ですが一手足りませんでしたね、ハル。この消耗ぶりなら、あなたのHPの方が尽きるのが早い」


「えっ……嘘──」


 モルガンさんのHPが完全に尽きるより前に、KnighTさんの剣が背後から私を袈裟斬りにしていました。

 そればかりは予想外だった。既に死にかけにも等しい僅かなHPしか残していない私は、先に心臓を貫かれたモルガンさんよりも早くHPを全損してしまった。


 ──ハル──

 貴方は死亡しました。

 死因:プレイヤー・【KnighT】の剣による攻撃

 『大将プレイヤーであるあなたの死亡により、ギルド【集う勇者】は敗北となります。お疲れさまでした。』

 最終順位:3位


 あぁ……ユリカさんに頑張って貰ったのに……皆が、あれだけ奮戦したのに……私は、集う勇者を優勝へ導けなかった。

 本当に……本当に、不甲斐ない大将でした……ごめんなさい、先輩……。




 ハルの死亡を知らせるメッセージを確認したところで俺──ブレイブ・ワンは、第五回イベントの最終結果を目にすることとなった。


 【総合順位】

 優勝:朧之剣

 準優勝:魔女騎士団

 3位:集う勇者

 4位:王の騎士団

 5位:アルゴーノート

 6位:真の魔王

 7位:メイプルツリー


 総合順位は今の通りだったけれど、どうやら順位以外にも活躍したプレイヤーに賞が与えられているようだった。

 賞を贈与されたプレイヤーにはそれぞれ報酬として順位とは別に、またレアなアイテムが手に入るのだとか。これまたサプライズな情報で、ちょっぴり嬉しかった。


『【敢闘賞】

 魔女騎士団:モルガン』


『【最優秀プレイヤー賞】

朧之剣:KnighT』


『【なめてるやつで賞】

アルゴーノート:イアソーン』


『【七王特別賞】

集う勇者:ブレイブ・ワン』


『【最多プレイヤー撃破賞】

王の騎士団:アーサー』


『【瞬間最大盛り上がり賞】

真の魔王:カオス 魔女騎士団:モルガン 集う勇者:ブレイブ・ワン 王の騎士団:アーサー』


『【おまけ賞】

メイプルツリー:カエデ』


 個人賞を獲得したプレイヤーはコレで全員みたいだが……俺は2個も貰えたけれど、イアソーンは随分不名誉なものを貰ったみたいだ。

 優勝こそ出来なかったけれど、たった18人しかいないギルドの中じゃ、中々な戦果を挙げた方だろうな、集う勇者も。

 だからまぁ、この結果を恥じることもなく、祝おう。


「お疲れ様。頑張ったな、ハル」


「うむ。最後の最後まであきらめずによくやった。偉いぞ」


 俺とNさんは、戻って来て早々涙目で申し訳なさそうにこっちを見るハルの頭を撫で、どうにか慰める。

 大将なんて役目を背負わせてしまったし、責任感が結構あるハルにはとっても辛かっただろう。

 戦術的にはそうするしかなかったからとは言えども、本当に申し訳ないことをした。


「よし、今日は三人で飯食い行きましょうよ」


「そうだな。今夜は私の奢りだ、好きなだけ食べろ。ハル」


「う……ぅっ、ありがとう、ございます……N先輩……!」


 ハルはNさんの着物に顔を埋め、声を押し殺すように少しばかり泣いていた。

 ……あとちょっとの所の負けってのは、やっぱりどうにも悔しいみたいだ。


「まぁ、今日は好きなだけ泣いて、好きなだけ食って、好きなだけお喋りしようぜ、久しぶりの三人だしな」


「……私の愚痴、長いですよ。先輩」


「おう。今日は聞き役に徹してやる、今日の主役はお前ってことでな」


 俺はそう言って鎧を装備から外していたハルの背中を撫で、Nさんと一緒にしばらく慰めていた。

 流石にギルドメンバーの皆は俺たちに話しかける気にはならなかったようで、各々でイベントの反省会や感想会を行うことにしたようだ。

 ……さて、と。リアルのNさん──千冬さんの財布が悲鳴を上げるようなことにならなきゃいいんだが。




「んむんむ……まったく、理不尽にもほどがありますよ。なんで私ばっかり狙ってきたんでしょうか、あの二人は……!」


「まぁ、そうだな……割と隙だらけだったのに、KnighTもモルガンもお前ばっか狙ってたな。モテモテだなーって思いながら見てたよ」


「ずーっ……ふぅ、そうなんです。私があの二人のどちらかの立場だったら、隙を突いて先に私以外を斬っていたのに……!」


 現在──午後十九時。第五回イベントが終わってから一時間。

 現実に戻った俺と千冬さんと春は約束通り、三人で肉や野菜以外の総菜など様々なものが食べられるファミリー層向けの焼肉屋に来ていた。

 『キチンと食べられるのであれば何をどれだけ取っても良い、尚且つ時間無制限』という内容の【無制限コース】という、お高めな食べ放題コースで、盾塚の愚痴をたっぷりと聞いて、肉を突き第五回イベントについてあれこれ話そうと思っていたのだ。

 なのだが。


「……勇一、焼肉とはこういうものだったか? 久しくやっていなかったせいで、私の感覚が狂っているのかもしれん」


「言わないでください、俺だって店で焼肉食うのは久々だから自分の感覚がおかしいって信じ込みたいんですから」


 三人席に用意された網の上には隙間なく肉が焼かれているが、テーブルに広がっているのは焼肉とは言い難い料理の集まりだった。

 唐揚げだの焼きそばだのたこ焼きだのパスタだの……肉にも様々な料理が出来ていて、それらを自由に取って食べられるのは魅力的ではある店だ。

 けれど、本当に自分たちが焼肉屋に来たのか疑わしくなる光景が広がっていては、俺たちも絶句せざるを得ない。


「お二人とも箸が止まってますけど、大丈夫なんですか? せっかくの食べ放題なんです、キチンと元を取って、たくさん食べて、この悔しい気持ちを少しでも晴らしましょうよ!」


「いや……まぁ、ぶっちゃけお前一人でも三人分の元取れるだろ」


 盾塚があれもこれもとバカみたいな量を取って来ていっぱいになった皿がギチギチにテーブルに並んでいたのは三十分前の出来事だ。

 それが今には、盾塚の素早い三角食べ……いや、皿の数は十枚ほどだったから十角食べとでも言うのだろうか。

 とにかくあちこちの皿に積んであった山盛りなんて比喩では済まされない量の料理が、次々に減っていって、普通の人の一人前の量も残っていない。

 何キロ食べたのかは不明だが、俺は目の前で箸を動かしている女の子にこれほどまで恐怖心を覚えたことは後にも先にもないだろうと思った。


「あ、それでです、先輩。あの時何故か魔女騎士団の残ったプレイヤーたちと朧之剣の他のプレイヤーたちが──」


 盾塚のお喋りと爆食、交互に繰り返されるそれはまだまだ続きそうで。

 俺と千冬さんは、とんでもない後輩を持ったものだなぁ……なんて思いながら、彼女のお話を聞くことに徹したのだった。

 けれど。その時間もまた大切な人たちとの時間で、とっても愛おしいものだった。

 だから、怖いとかなんとか思った盾塚の食事風景も、長く続く盾塚の愚痴兼お喋りも、結局最後にはなんだかんだで楽しい思い出として俺の中に残る。

 SBOを始めたおかげで二人との仲を深められて、多くの人との縁が出来たからこそ、この三人で集まって飯を食ったりお喋りをすることの楽しさが、より深く、より大きく俺の心に染みる。


「負けて、悔しかったりしても……楽しかったよな」


「……はい。そうですね、確かに悔しかったですし、涙だって流しましたけど……本当に本当に、楽しかったです」


「あぁ。私も確かにモルガンに煮え湯を飲まされた思いだったが、今思えばその瞬間すら含めて楽しい思い出だったな」


 ……だから。この楽しい思い出を忘れないように、思い出してまた笑い合えるように。

 こんな平和な日々が続けばいいなぁ……と、俺は思ったのだった。

『【敢闘賞】

 魔女騎士団:モルガン』

・強豪プレイヤーを次々に撃破したことから。

贈与:1000万G、スキルブック購入ポイント300、【栄光の玉座】


『【最優秀プレイヤー賞】

朧之剣:KnighT』

・最後まで生き残ったギルドのギルドマスターであり、様々な強豪プレイヤーを撃破したことから。

贈与:1000万G、スキルブック購入ポイント200、【信仰の神像】


『【なめてるやつで賞】

アルゴーノート:イアソーン』

・イベントに対して舐めてるような振る舞いをしていたことから。

贈与:-100万G、【間抜けなカカシ】、称号・【へっぴり腰】


『【七王特別賞】

集う勇者:ブレイブ・ワン』

・下馬評を覆す大きな活躍を見せ、イベントを大いに盛り上げたことから。

贈与:500万G、スキルブック購入ポイント200、【エールフラッグ】


『【最多プレイヤー撃破賞】

王の騎士団:アーサー』

・プレイヤーを撃破した数が第五回イベント参加プレイヤー中トップだったことから。

贈与:500万G、スキルブック購入ポイント100、スキル【ドミニオン・レイ】


『【瞬間最大盛り上がり賞】

真の魔王:カオス 魔女騎士団:モルガン 集う勇者:ブレイブ・ワン 王の騎士団:アーサー』

・七王同士の対決を繰り広げ、瞬間的にイベントの盛り上げを加速させたことから。

贈与:1000万G、スキルブック購入ポイント500


『【おまけ賞】

メイプルツリー:カエデ』

・観戦プレイヤーや運営を大きく驚かせたことから。

贈与:300万G、スキルブック購入ポイント100


この他のプレイヤーたちにも、様々な賞やアイテムなどをお送りさせていただきました。

セブンスブレイブ・オンライン運営より



 おまけ

 第五回イベント・観戦プレイヤーによる下馬評


1.王の騎士団:1.1倍

2.魔女騎士団:1.3倍

3.真の魔王:1.8倍

4.アルゴーノート:2.3倍

5.朧之剣:2.5倍

6.メイプルツリー:3.7倍

7.集う勇者:5.2倍

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