第二十一話:折角だから私は
「して、何故此度は我が下へ参った?理由を申して見よ」
「今日は、お前のその鍛冶師としての腕を見込んでの相談だ。
私の仲間である、アイン……彼の武具を見て貰いたい。出来れば、他の者もだ」
「フ、私は代金さえ支払われれば相応の仕事はこなす。
例え軍隊ほどの人数であろうとも、我が力にて要望の通りにしてくれよう。
さぁ、装備を私に見せるがいい」
先輩とキョーコの問答が終わった。
するとアインが前に出て、元々つけていた装備をストレージから取り出し始めた。
ガチャガチャガチャガチャ……と、アインの装備していた鎧のパーツがその場に出てくる。
ついでか、双鉞と俺があげた方の斧も取り出した。
「あの、これは僕が使っていた鎧と双鉞です。
あと、こんな感じの手斧もあったんですけど、壊れちゃって……修理と、出来れば強化もお願いしたいんです。前よりも強く」
「ふむ……【黒曜の鎧】に、【双竜斧】か。
して、あと一つの手斧とやらはどのような装備だ?」
「鋼の斧をNPCに預けたら出来た、【プラチナアックス】って武器です」
アインの出した装備を、キョーコはアイテムストレージの中に格納し始めた。
……修理のためにストレージにしまったんだろうが、無言でやるなよ。
アインが「ちょっ」って言いかけてたぞ。
「つまり、この鎧と双鉞の修理をし、プラチナアックスを作れば良いと言うことか?」
「あ、それについてなんですけど……」
アインはアイテムストレージからまた何かを取り出すと、キョーコに差し出した。
……なんだ?何かの鉱石と、鉄板みてえな形をした何かだ。
「ほう……貴様、これはどこで入手した?」
「えっと、あそこのダンジョンの隠し部屋で、宝箱を空けたら出てきました」
キョーコが興味深そうに鉱石と鉄板を眺めてからそう言うと、アインは素直に話し始めた。
まさか、こっそりとダンジョンを攻略していたのか……と右を見るとランコが得意げな顔をしていた。
あぁ、二人で仲良くダンジョンに行って攻略してきた訳か。
俺の妹を連れて二人仲良くアイテム集めとはまぁ……恵まれてんじゃねえか、アインの野郎め。
「成程、このような希少な素材ともなれば、鍛冶師としての欲も湧くものよ。
ならば……アインと言ったか、貴様の武具……値段は割り引いてやろう」
「えぇ、いいんですか!?」
「あぁ、本来ならば修理と強化、新たに武器を作るとなると値段も30万Gは貰おうと思っていた。
だが……このような希少な素材を用意されれば、値段は特別に半額の15万Gにしてやろう」
「15万G……良かった、僕の持ってるお金なら全然払えちゃうや」
アインはメニュー画面を操作して、キョーコへ支払いを済ませていた。
そして随分とうきうきとした笑顔でこっちに戻ってきた。
キョーコは素材などをアイテムストレージに納めてから、カウンターで頬杖を突き始めた。
次は誰か、って顔してら。
「じゃあ、私の槍をお願いします」
ランコは蜻蛉切をカウンターに置き始めた。
デカすぎて穂先がはみ出してるぞ、キョーコの方に。
「ほう、蜻蛉切か……愛い武器よ」
「もしかして、タダカツってプレイヤーの武器も見てたんですか?」
「既に知っていたか。
そうとも、私はこの武器を幾度と見ている。
して……この武器をどうしたいのだ?」
「この武器に、スキルの威力をアップさせる効果を付けたいんです」
ランコがそう言うと、キョーコはアイテムストレージから何かを取り出し始めた。
丸く、角のないキラキラとした何か……宝石だな。
真珠とかそういう類に近いような感じのアイテムで、結構デカいな。
「ならばこの宝石から、己の望む効果を選ぶといい」
「えーと、何々……HP割合スキル威力アップ、スキル攻撃力アップ+20%、スキル威力アップ+30%及び全スキルクールタイム+5秒……迷っちゃいますね」
ランコはそれぞれ出された宝石についている効果みたいなのを読み始めた。
……宝石か……武器にエンチャントをするってことか?
「うーん、じゃあ折角だから私は、この赤の宝石を選びます」
ランコはスキル攻撃力アップ+20%と効果を読み上げていた赤色の宝石を持ち上げた。
さり気無くネタに走るようになったとは……コイツも成長したな。
「ほう、それを選ぶか。
折角だ……耐久値の修理もエンチャント代と一緒にしてやろう。
今後とも私を贔屓にしてくれるのならば……だがな」
「しますします、何なら月一で通います」
「ではいいだろう、代金はこの通りだ」
キョーコの見せた代金に、ランコはメニュー画面を開いてから操作を始めた。
……二人の反応を見るからに、難なく取引は終了したんだろう。
「さて……今の二人だけか?」
「あ、俺は防具のオーダーメイドをよろしく頼みたいッス。
予算と素材はこんな感じで――」
「帰れ愚か者。このような予算と素材でオーダーメイドなど、私である必要などないわ。
その辺の鍛冶師にでも頼んでおけ」
ユージンが予算と素材のリストを持ってオーダーメイドを頼みに行くと中指立てられてた。
……理不尽にもほどがなかろうか、この女。
「なっ、なんでッスか!
俺はN・ウィークさんから聞いたキョーコさんの腕を聞いて、この防具の制作を……!」
「何度も言わずしては理解できぬか? それは私である必要がない、と言ったまでだ。
ショボくれた素材にその程度の額では仕事がないも同然だ。
いわば、手間と金が釣りあっていないと言うことだ」
「じゃ、じゃあ予算を上乗せすれば……」
「素材ももっと良いものを選んでから出直してこい、愚か者」
わー、キング・オブ・理不尽だ。
ユージンは肩を落としてこっちに来たぞ。慰めねえけどな。
「酷いッス……何で俺だけ……俺だってそれなりにいい素材持ってきたってのに……しくしく」
「一応聞くけど……何の素材を見せたんだ?」
「あぁ、AGIを上げたかったんッスよ、だから”GGG”の素材を持ってきたんッス。
素材も結構レアなもんで、ソロ攻略は結構キツいモンスターだったんス」
「じーじーじー? んだそりゃ」
「ジャイアント・ゴールド・ゴキブ……」
「氷を頭から被って頭冷やせ馬鹿野郎」
「はぁ!?」
ふざけんじゃねえよ馬鹿野郎。
虫の素材で防具を作れ、とか俺だったら「殺されてえのか?」って言うからな。
実際、キョーコが素材のリストを見た時に顔を明らかにしかめてたし。
「あぁ、虫の素材を見せてしまったのか、ユージン」
「何がマズいんスか! ただの虫ッスよ!?」
「キョーコはこのような喋り方をしているが、中身は見た目相応の女子だ。
虫等の素材を持ってくると、場合によっては出入り禁止にすることもある。
例え、それがランキング一位の者だろうが、私であろうと、変わらぬ事実だ」
「うぅ……先に言って欲しかったッス……知ってれば出さなかったッスよ……しくしく」
まぁ、言わない先輩も悪いかもしれない。
けど、やっぱ女の子にあの黒い悪魔の虫の素材とか最悪だろ。
俺がキョーコだったら一発殴ってんぞ。
キョーコの中でのユージンがひでえ野郎だと認識されてるだろうけど、訂正はしてやらねえぞ。
「じゃあ、次は私の武具をお願いできますか?」
頬を膨らませて明らかに不機嫌です、って顔だったキョーコの前にはハルが。
よし、こういう時はやはり同性に限るな。
俺が行ったらしかめっ面をされる可能性もあるし。
「ほう、今着ている防具か?」
「はい、その通りです」
ハルはメニュー画面を操作してから防具と剣を外した。
そしてカウンターの方に置いたかと思うと、また新たにストレージから別の武具を取り出した。
最初に脱いでキョーコに渡したのは銀色のフルプレートアーマーと、一本の片手剣。
で、新しく取り出した奴は黒い鎧に黒い短剣だ。
「ほう……プラチナ系の装備一式と、黒鋼の装備か」
「これらを一つにする、ってことは出来ますか?」
「問題ない。私の腕ならばそのような事、児戯に等しい」
「では、予算の方はこれくらいでどうですか?
私の所持金の半分程なんですけど……足りますかね?」
ハルは予算の額をキョーコに見せると、キョーコは難しい顔をし始めた。
少し足りないのか、それとも別の問題があるのか。
「どうしたんですか?」
「なに、その金額では足りんと言うだけだ。
それと……少し現実の方の肉体の話だ。貴様たちには関係のないことであろう」
「じゃ、更に支払います。私の所持金の七割ほど……これでもダメですか?」
「まぁ、及第点と言う所だな。では契約は完了だ」
キョーコはそう言うと、ハルもこっちに戻ってきた。
……なんでキョーコの武具を見て貰った奴はこっちに来るんだろう。
まぁいいか。
「して……N・ウィークやそこのエルフに男は良いのか?」
「あぁ、私は先日見て貰ったばかりだろう。特に問題はない」
「私は、今の装備でもさしたる問題はない。それに……金欠だ」
先輩はまぁ、さっき雑談していたように装備に問題はなかったみたいだ。
で、ヤマダはヤマダで金欠なようで、何故か目の横にピースサインをつけながら言った。
アイドルとかがよくやる奴だが、何で今ここでやるんだ。
「では、その男は私に見せたい武具はあるのか?」
「あぁ、強化で頼みてえもんがある」
俺は装備している装備を全部外して、その代わりにストレージの肥やしと化している装備を身に着ける。
初期の頃の装備ばっかだから、この装備で戦ったら十中八九死ぬだろうな。
「俺の装備を一式強化したいってのと、このドロップ装備の効果を今俺が出した装備の方に移したりとか……出来るか?」
「ふむ……ほう、これは初めて見る装備だ。レア装備……どころではないな。
これならばリアルマネーを積んででも欲しがるような輩もいるであろう」
「へぇ、そんなに?」
ま、ゴブリンキングシリーズがどんだけスゲー装備かなんてのはわかってる。
壊れない上に成長していくし、自然回復の効果だってついてるし。
装備についてる固有スキルなんてのはもっと凄いもんだしな。
「それに、この装備の流用……か。いいだろう、やれるだけはやって見せよう。
失敗した場合は料金をタダにするため、貴様は後払いで構わん」
「了解了解、じゃあ……精々壊さないように頼むぜ」
キョーコは俺の預けた装備一式をアイテムストレージへと格納した。
そして奥の工房……と思しき場所へと入っていったと思うと、すぐ出て来た。
「装備の完成までにはかなり時間がかかる。それまでは適当に過ごしておいてくれ。
……店内の武器を見て回るのも構わないがな」
キョーコはそう言うと、また奥の方へ引っ込んでいった。
……さて、具体的な時間がないせいで結構暇だな。
かと言って狩りに行こうにも、今の装備が貧弱すぎて話にならないからな。
「じゃあ、店内の武具でも見るか……なっと」
ゴブリンキングシリーズよりもいい装備があるとは思えないが……まぁ、見るだけ見てみよう。
「いいですね、じゃあ僕は斧を見に行こっと」
にしてもまぁ、これだけ沢山の武器を並べているのが見れると、随分デカいなこの家。
もう一つ部屋があるが、そっちはそっちで防具まで売っている。
で、俺たちのいる部屋は武器しか並べられていないが、盾は防具の方にあるみたいだな。
「どれどれ……おぉ、沢山あるな」
俺はケースの中に入れられている剣などを見てみる。
ただ見るだけじゃ何も意味はないので、カーソルを合わせてみる。
すると、武器の情報がパネルになって表示された。
「プラチナソード……か」
攻撃力はかなり高い。俺の装備している小鬼王の剣……の今の段階と同レベルだ。
まぁ、それだけあってかお値段もそれ相応に高い。
しかしまぁ、プレイヤーメイド制は基本的にそこそこ、って感じだな。
レベル20台から成長させてきた小鬼王の剣が強すぎると言うのもあるんだろうけど。
「ふむ……やはり良い品揃えだな。流石はキョーコの武器だ」
先輩は先輩で、キョーコが作った武器を眺めてうっとりしている。
……そんなに凄いんだろうか、と思って見てみると何故か刀はいい物ばかりだ。
まぁ、根本の武器の性能が違うと言うことも考えれば納得か?
刀は両手で持つ武器だし、片手剣は大盾を持っていても使える武器だし。
ならSTRの要求値が違っていたり、装備した時の効果の表れ具合も差が出るところか。
「はぁ……俺の剣超えの武器は流石にねえか」
成長する力、と言う効果を持つ剣がいかにチート級か思い知らされた。
そうだよなぁ、当たり前のように使っていたけれど……俺だけなんかズルい装備で戦ってきたんだな。
そう思うと、なんだか申し訳なくなってきてしまうな。
「わー……予備の武器も買っちゃおうかなぁ……お金にまだまだ余裕あるし……」
アインはケースの中にある斧を見つめては悶々考えている。
何かと思って見てみると。
「すげえな、片手剣とは大違いじゃねえか」
アインが見つめていた斧の方も、品揃え良すぎだろ。
プラチナソードと同レベルと思われるプラチナアックスが隅の方にある。
まぁ……ネーミングも厨二くせえような武器ばっかだけどな。
十字架のマーク入りとか絶対他人に見せたくねえような名前だわ。
「アインくんアインくん、槍の方も中々凄いよ」
「そうなんですか?どれどれ……おぉ!」
ランコの見ていた槍を見ると……うん、蜻蛉切に方天画戟と有名な槍が中心に来てて、プラチナ系はその近くだ。
しかしまぁ、この二本は……真の魔王の連中と同じ武器と思うと背中がゾクゾクするな。
ホウセンを倒して以来、なんかたまに背中がゾワッとする時あるし。
俺、ストーキングとかされてねえよな?
プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン
レベル:36
種族:人間
ステータス
STR:60(+30) AGI:70(+15) DEX:0(+5) VIT:34(+28) INT:0 MND:34(+14)
使用武器:鋼の剣、アイアンバックラー
使用防具:魔力シャツ(赤)、鉄の胸当て、鉄のグリーヴ、革の手袋、革のズボン(黒)回避の指輪+2