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第二百八話:タイムブースト

「……先輩、N先輩、スターさん、ムラマサさん、ギンガさん、ラシェルさん。皆いなくなっちゃいましたか」


「兄さん、どこか覚悟した表情だったからなんとなくわかってましたけど……Nさんまでいなくなるなんて。私たち、大丈夫かな」


 第五回イベントももう終わりに差し掛かってきたところで私──ハルは少し悲しい気持ちになっていました。

 王の騎士団が消え、先輩方が撃破され、集う勇者のメンバーもかなり減ってきました。

 ある程度消耗しているだろうと言えど、残っているのは最大最強の規模を誇る魔女騎士団と、先の戦での大敗を経て強くなってきた朧之剣。


「兵士たちもかなり減ってきたし、俺たちも結構キツいッスね。今は攻めの手が緩くても、いつ数の暴力が来るかと思うと怖えッス」


「もうこの局面になると領土の防衛は考えずに戦力フルで仕留めにかかってると思いますし、すぐにでも来ると思います。私たちはそれまでの命ってことです」


 さっきまで集う勇者領土自体に王の騎士団から攻撃に出て来たプレイヤーが何名かいました。

 それはまぁ何とか倒せましたが、集う勇者領土のNPCである兵士たちは八割ほど死んでしまって、戦力は激減しています。

 加えて、現在集う勇者に残っているのは大将の私を含めると……えーと、ユージンさん、ランコさん、ユリカさん、アインさん、イチカくん、ムーン・リバーさん、ココアさん、ツカサさんで九人です。

 

「ユリカはまだ帰ってこないし……大丈夫かな。生きてるのがわかっても、いないと不安だよ」


「死んじゃあないワケッスから、大丈夫だとは思うッス。でも、こんな状況トキでも帰ってこれない辺り、疲れて動けない……とかかもしれないッスね」


「あるいは、強敵に捕まって動けない状況か……どっちにしろ、もうユリカさんが死んだ前提で考えた方がよさそうですね」


 私は残っているメンバーの中から一応でユリカさんを除外して、作戦を考え始めます。

 今は幸いどこからの攻めも来てないようなので、安心して長考できますね。


「んー……これをこうして、あれは……」


 私は頭の中で図面を広げ、誰をどこに配置してどう動かすか、どう戦って貰うかなどを決めていきます。

 目を瞑りながら領土のど真ん中に突っ立ってそんなことをしていても、周囲をランコさんとユージンさんが警戒してくださってるので問題はありません。

 そもそも領土に侵入するプレイヤーがいれば、イチカさんの魔力感知かツカサさんの【鷹の目】で見つけてくれますし、領土外からの遠距離攻撃で私を殺すのは到底出来ないでしょう。

 何せ、どこから打ったとしても距離は変わらないので当たるまでに時間がかかりますし、距離が離れすぎていれば威力は減衰しますし。


「……よしっ。ではユージンさん、ランコさん。私の作戦の決定を伝えます」


「うしっ。待ってたッスよ!」


「お願いします!」


 私はまず二人に作戦の概要を伝えて、残りメンバーにそれぞれ個人チャットでどう動いて欲しいかを伝えました。

 ユリカさんはいない前提で考えているので、もし彼女が帰ってきたら彼女は切り札として使うことにしましょう。

 

「さて……と。向こうが進軍して来たら、そこが最後の勝負になります! 全員、持てる力を全て出し尽くして戦いましょう! 目指すは優勝、散っていた先達の想いもこの手に乗せます!」


『応ッス! 集う勇者最速、超速二枚目のユージン、頑張るッス!』


『兄さんやユリカが頑張ってくれた分、それに応えなきゃ集う勇者じゃないもんね。頑張ろっ、皆!』


 ユージンさんとランコさんからは快い返事が返ってきて、他の皆さんからもそれぞれ『応!』と返ってきます。

 さぁ、ここからは各々の能力を全力で活かすときです。

 私もここまで殆ど戦わずに残っていた分、全力で戦い抜いて……集う勇者を優勝に導きます!




『来るぞ! 南の方からは魔女騎士団だ!』


『東からは朧之剣が来ているぞ! 完全に俺たちが狙い撃ちにされる展開になりやがった!』


「やはりそうなりましたか……各員、全力で迎撃に当たってください! 突破されても文句は言いません、出来る限り一人でも多く仕留めてください!」


『了解!』


 私が指示を出すと、それぞれ南と東からスキルを詠唱するのが見えたり聞こえたりしてきます。

 東の朧之剣側にはツカサさん、アインさん、ランコさん、ココアさんを配置しています。

 南の魔女騎士団側にはイチカくん、ユージンさん、ムーン・リバーさんを配置しています。

 残った兵士のNPCたちはそれぞれ空いている北と西に配置して、裏側から攻めて来るプレイヤーに対処して貰うことにしています。


「さて……誰が皆さんの所を抜けて──ってえええええ!?」


「悪いな。大将首はさっさと取るに限るぜ!」


「フッ。当たりの方角はこっちだったか。DoGとSeePには悪いが、大将を討ち取る功は私たちのものだな」


 西の方から、砲弾でも使って打ち上げたのか──という速度で、HawKとCaTが降ってきました。

 ……あぁ、NPCの兵士じゃ空から誰が来るかなんて予想も反応も出来ませんよね。

 東と南から飛んできたDoGとSeePは、イチカくんとツカサさんに撃ち落されていたみたいですし。


「二人がかりで確実に仕留めるぞ、HawK」


「おう。コイツはタイマンで油断してたら俺でもあぶねえからな」


 どうやら最初から全力のようで、CaTは肩甲骨と脇腹から二本ずつ生やした義手を獣人化で一体化させています。

 しかも、第四回イベントの時みたいに毛並みは白黒でキラキラしてますし……ホントに殺しに来てますね、私のこと。

 HawKもHawKで何やら前と雰囲気が変わっていて、纏っているポンチョの形も色も違う……ハッキリ言って、かなりヤバそうです。


「けど。これは絶好の機会だから、あなたたちのこと……糧にさせて貰います」


「ほう……随分の自信をお持ちのようだが、君一人で私たちに勝てるとでも?」


「ヘッ。気にすんなよCaT。どうせただの強がりだ、集う勇者の奴らはどいつもこいつも強がりが大好きみてえだからな」


「それもそうだな。まぁ、本当に強いから困ったことになっていたんだが……私もレベルアップを重ねてここにいる。故に、負ける道理はないな!」


 私は第四回イベントや魔女騎士団との戦争を経て、自身の力不足をとっても感じ取ってしまいました。

 だからこそ、今までのようにただ硬くてちょっぴり攻撃が出来るだけのハルじゃないように、強くなる道を選んだのです。

 第五回イベントが始まるまで、一番わかりやすく、劇的な強化を得られるように!


「【スピードタイム】」


「ッ!?」


「な……なんだ、今の速度は……!」


 私は先ほどまで正面に捉えていたCaTとHawKの後ろで剣を振り抜いた姿勢を取っていました。

 何故なら、瞬きの間で彼らの間を駆け抜け、すれ違いざまに一太刀入れたからです。


「さて、付き合って貰いますよ。全モード使いこなすまで」


 私はトントン、と軽く跳ねてから再度踏み込みました。

 が、まぁ……流石に真正面からの攻撃ともなれば、彼らは簡単に対応してきます。

 CaTは六本ある腕の爪を使って隙間こそあれども剣では通らない密度の防御をしてきました。


「ふむ……! 確かにかなりの速さだ。だが、仮に速かったところでなんだと言うのだ。君の攻撃力など、たかが知れている! 私が第四回イベントで戦った魔法剣士の剣戟、あっちの方が特に重かったとも!」


「そうですか。なら、これで」


 私は剣の鍔の辺りにある時計の短針──今は12時の方向を向いているものを9時の方向にずらします。

 するとあらビックリ、私の剣はアインさんが使っているような手斧に姿形を変えました。


「【パワードタイム】……フンッ!」


「ッ!? ぐ……! なんだ、このパワーはっ……!」


 私が全力で振り下ろした一撃が、余裕綽々だったCaTの顔を歪ませるほどの威力を生み出しました。

 今までの私なら、軽く弾かれていたでしょうが……今の私ならば、彼の防御など……!


「大したこと、ない──ハァァァッ!」


「おうわぁっ!」


 私が競り合っていた状態から斧を振り抜くと、CaTは吹っ飛ばされていきました。

 存外軽いものですね。腕、これでもかってくらい沢山ついてるくせに──と思ったところで。


「どこを見てやがんだよ! ハルゥッ!」


「別に、見てなくても……あなたが何をするかは、かつて交えた二戦で覚えてますから」


 チョッパーにライトエフェクトを纏わせ、とびかかって来るHawKの攻撃を軽めに受け流します。

 私の新スキル、【タイムブースト】ならば今の彼とスピード勝負をしたって到底負ける気はしません。


「チィ……! だったら! おいCaT! 同時攻撃だ!」


「いいだろう! 目に物見せてくれよう!」


 CaTとHawKは己の武器──CaTは六本の腕の爪に、HawKは自身の持つチョッパーにライトエフェクトを纏わせます。

 確かに彼らは強敵ですが、それでも『彼らの覚えている私』と今の私ではギャップがありすぎて、彼ら自身の感覚がどこかズレているようで、思うように力を振るえていません。

 だから、そのズレが修正されきる前に私が彼らを斬って、今の私を知る人を減らす。


「覇山! 昇竜剣ンンンッ!」


「【イヴィルチャージ・セクタプルクロー】!」


 HawKのとんでもないパワーを秘めた斬り上げ、CaTの六本の腕から繰り出される超高速の斬撃。

 この数に速度に威力、確かに私がどれだけ速かろうが硬かろうが関係ない技でした。

 が、まだ私は底を見せていない。


「【シールドタイム】」


 彼らがスキルの詠唱をしている間に、斧についている時計の短針を6時へ動かし、斧を小盾へ変形させました。

 それを私が左手に持っていた盾とくっつけると盾は一つになり、まるで大きな時計へと変わったのです。


「時よ、戻れ!」


「ハァァァッ!」


「オォォォッ!」


 私がそう叫び、盾についている時計の針をぐるぐると逆方向に回し始めると、今にもCaTとHawKのスキルが私に届きそうだった所で、効果が現れました。

 CaTだけが足を一歩前に踏み出すのではなく、逆再生したように後ろに戻しました、それも丁度一歩分だけ。


「がっ、ぐ……! きゃ、CaT……! テメェ何しやがる……!」


「なっ!? は!? な、何故……!?」


 本来なら二人の足並みはそろい、攻撃はキチンと同時に私に浴びせられるはずだった。

 けれど、CaTが丁度一歩分足を後ろに戻したことで攻撃のタイミングはズレて、CaTの攻撃は私ではなくHawKに浴びせられた。

 これもまた、私のスキルと武器の組み合わせから起きた事象だ。


「説明してもわからないでしょうし、わからないまま悩んで死んでください」


 私は盾を分離し、時計の針を12時へと戻して右手に剣を握り、スピードタイムとパワードタイムを発動させます。


「終わりです……流星剣!」


「ぐ、あああ……! クソッ、初見殺しすぎるだろう……! とんだ貧乏くじだったな……!」


「クソッ……テメェ、集う勇者らしくふざけた奴になったじゃねえかよ……ヘッ」


 剣に纏わせた星々が薙ぎ払われると、CaTとHawKはHPを全損してアバターを砕け散らせました。

 ……ようやく彼にリベンジを果たせました、悔しいと思い続け何ヶ月、私の悩みの種であった彼を倒せたのはとても嬉しいことでした──が。


「うっ……ぷ、うぇ、おっ、げ……やっべ……」


 私はとんでもない吐き気と眩暈と倦怠感に全身を支配され、立つことすらままならずにフラッフラになりました。

 あぁ……元々この防御主体のステータスにしたの、私自身の脳みそが過度な速さを処理できないからだったのを忘れていました。

 動体視力が先輩方みたいに優れているワケではない私は、あまりにも高速で自分を動かすと凄い酔いに襲われるのです。


「うぇ……うぷ、吐きたい……のに、吐けない……誰か、ちょっと……うっ、ぐぇ」


 だから今、エチケット袋があればそこに何もかも吐いてしまいたい──という程の酔いやめまいが全身を支配していて、もう立てません。

 先ほど二人と戦っていた時は、酔いも何も起きないように先輩みたいに集中力をブーストしてみたのですが、かえってそれが全身の倦怠感を招いてしまいました。

 おかげで、私はアバターが普段の十倍ほど重く感じて……マジでヤバい状況、って感じです。


「な、情け、ない……無様すぎます、わた、し……!」


 せっかく先輩方に託されたというのに、こんな無様な終わりがあってたまりますか……!

 瞬きと深呼吸をして、少しでも荒くなっている息を抑え、少しずつでも頭の痛みやダルさをやわらげ、吐き気と眩暈も振り払います。

 まだ終われない……皆が、必死に戦っているんだから……私を信じて、その身を盾としているんだから。


「まだ、終われない……!」


 私は剣と盾で自分を支えながら立ち上がらせ、フラフラになりながらもとにかく立つ姿勢を維持します。

 ……今後、スピードタイムは雑に使わないでおきましょう。

 そう思いながら、私は一通のメッセージを確認していました。

プレイヤーネーム:ハル

レベル:80

種族:人間


ステータス

STR:100(+150) AGI:20(+90) DEX:0(+70) VIT:91(+430) INT:0(+150) MND:90(+430)


使用武器:タイムガッシャー・改、タイムシールド

使用防具:大悪鬼の兜・改、アダマンアーマー・改、大悪鬼の鎧直垂・改、アダマンフォールド・改、アダマングリーヴ・改、アダマンタイトガード・改、守りの指輪+3

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