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第二百七話:精一杯の負け惜しみ

「悪いが、あんまり余裕がないんでね……舐めプ抜きに、最初から全力で行かせてもらおう!」


「上等! こっちも出し惜しみはなしだ!」


 恨熱斬を使うための命のストックはもうない、あの技抜きでアーサーと戦うのは初めてになるが──まぁ、やってやる!

 元々、これでやっと条件が対等ってところだったからな!


「鬼化! 超加速! 超加力!」


永久之理想郷アヴァロン! 超加力! 超加速!」


 お互い使えるだけバフを使ったところで踏み込み、超高速の剣戟をぶつけ合う。

 今のアーサーはモードレッドや東雲彩花と同時に戦って倒した、だがそれ以前は時雨とセバスチャンも加わっていたのだから、多少は疲れているハズだ。

 俺だって時雨とセバスチャンの二人を倒して、ここに来るまでの激戦続きで結構疲れてはいる。

 なら──!


「ゴブリンズ・ペネトレート!」


「エクスカリバー!」


 互いの必殺スキルがぶつかり合い、互いに弾かれる……奴も考えは同じか。

 自分が多人数を相手にしていて疲れて、余裕もなくなった時、どうやって残った強敵を倒せばいいか。

 それはただ単に……!


「手数の勝負だ……! オーガ・スラッシュ!」


「同じ考えで、助かるよ! ロンゴミニアド!」


 またも必殺スキルが相殺される、だがそれでいい、元よりスキル同士の打ち合いで勝つつもりはない。

 そんな真似が出来るのは恐らくモルガンやカオスくらいだ、だから俺はスキルの打ち合いで奴の攻撃の手を潰す。

 その上で、俺がたった一手でも奴より手数で上回れば良い!


「バースト・エア!」


「フェニックス・ドライブ!」


 炎と風が爆発し、互いにその衝撃で下がらされる……この距離は奴の間合い! 使ってくるスキルは──!


「エクス……!」


「ッ! フェニックス・ウィング!」


 大上段に構えた剣を光り輝かせ、思い切り振りかぶっている。

 俺と奴の十八番では射程距離が違う、だからどうしてくる……ってのは、もう読めてる! 今までに奴の戦いぶりを近くで沢山見ていたし、三度も刃を交えてきた相手だ。

 だから、奴がどうやって戦うか、なんて考えてるかは手に取るようにわかる!


「フェニックス・スラスト!」


「ッ! やるね……!」


 俺がかつて逃げるジェシカを串刺しにしたあの時のように、フェニックス・ウィングを利用しての勢いに乗った刺突を繰り出す。

 エクスカリバーの強みは、とんでもない威力に加えて射程距離の長さだ。

 魔法や弓矢を使うような距離でも届くこのスキルは本当に厄介だ、嫌になるって程見て来たからこそわかる。

 だったら、発動前に超高速で潰しに行けばいい……と、俺は結論付けている。


「でも、間合いの内側に入ればこっちのもの……なんて浅い考えじゃないだろう、君は!」


「よくわかってるようで、なにより……だっ!」


 全速のフェニックス・スラストですらカスる程度で、追撃の薙ぎも簡単にいなされた。

 エクスカリバーを中断しながら避けたくせに、コイツは俺の攻撃をまともに受けてくれりゃあしない。

 まぁ、防御力が違うだけに当然なのかもしんないけどな。


「くそったれ……! 相変わらず、ふざけた回避性能してるなぁ、アーサー」


「君達にはそう僻まれるけれど、僕だって常にギリギリなんだよ。さっきも肝が冷えた、夏場のアイスみたいにね」


 俺の呟きにアーサーは余裕綽々に返してきやがる、何がギリギリだの肝が冷えただ。

 こっちだって、全力の120%を出してようやくお前に食らいつけてるって言うのに。


「だったら、ちょっとは危なそうな顔くらいしやがれ!」


「それは、格好がつかないからNGさ!」


 一歩踏み込んで斬りかかると、アーサーは俺の攻撃を真正面から受け止め、いなす。

 受け流された俺の背中に蹴りを加えると、距離を取って剣を大上段に構え始めた……クソッ、この野郎。

 また同じ流れが来ちまう。


「エクス! カリバァァァッ!」


「ッ! 流星盾! フェニックス・アーマー! ゴブリンズ・ペネトレート!」


 アーサーの剣から放たれた光の斬撃の勢いを流星盾で殺し、フェニックス・アーマーとゴブリンズ・ペネトレートで強引に打ち破ってそのまま進む。

 相殺して弾かれる程度じゃ、いつまでも俺の間合いに入って攻撃するってことが出来ねえ!


「フェニックス・スラスト!」


「ソード・セイントブラスト!」


 互いに高威力のスキルをぶつけ合い──その隙に距離を詰めて、再び剣戟の応酬を繰り広げる。

 いいように時間を稼がれているみたいで、俺の心の中には段々焦りの感情が出て来る。

 そうだ、俺たち集う勇者にはそんなに時間があるわけじゃない。

 この王の騎士団攻略メンバーが全滅すれば、そのまま領土自体が狙われてしまう。

 それを実行するにあたって俺の生死は関係ない、ただ俺が一つの場所から動くことが出来なければ問題ないのだから。


「くっそぉぉぉ!」


「随分必死じゃないか。自分の女が心配かい? ブレイブくん!」


「ったりめえだろ!」


「……へぇ、素直だね。でも、それでどうする? 君は僕をどうやって倒す!?」


 俺はアーサーと剣を打ち合いながら考える、どうすればいい。どうすれば俺の必殺スキルを奴に当てられる──!

 いや、当てるとか当てないとか考えるな! 当てることは前提で、ただひたすらに速く、ひたすらに重く……! 俺の剣を振るうだけだ!


「おおお! フェニックス・スラスト!」


「ソード・セイントスラスト!」


 俺とアーサーの剣がぶつかり合い、互いに弾かれて仰け反る。

 だが、その一瞬で俺はスキルを発動させる──!


「ウェポンリンク! いくぜ! アロンダイト!」


「ッ! エクスカリバー!」


 アーサーの剣と俺の剣がぶつかると、俺はそのまま押し切るためにフェニックス・ウィングを発動させて勢いをつける。

 元々のSTRは大体同じ、なら後はどれだけそこから上乗せできるかどうか……! それが、今の瞬間の勝負の要だ!


「おおおおお……! いけぇぇぇっ!」


「ぐっ……! 流石、だね──!」


「ゴブリンズ・ペネトレートォォォッ!」


「まだだ……! ロンゴッ! ミニアドォォォ!」


 俺はアーサーに止めを刺そうと剣を突き出すが、アーサーはダメージ覚悟か自身も剣を突き出してくる。

 その一撃は交差し、俺の剣は確かにアーサーの腹を貫き──アーサーの剣もまた、俺の腹を貫いていた。


「見事だね、ブレイブくん……。意地と仲間を秤にかけて、意地が勝ったのは君だけだったよ」


「……何の話だよ」


「気付かないのかい。僕、まだ精霊光を使ってないんだぜ。アレを発動してれば、今の打ち合いは僕の勝ちで終わってたんだよ」


 ……そういや、そんなスキルがあったことを忘れてたな。

 アルトリアたちも使っていた、ほんの少しの間だけ無敵になれるっていうスキル。

 確かに、アレを使われてたら俺だけが攻撃をくらって負けていただろう。


「でも……さっきの僕は、ソレを使わずに、真正面から君に打ち勝ちたいと思った。

ここで散って王の騎士団を、仲間の皆を敗北させてしまうってことよりも……君に勝ちたいって意地が勝ったけど、結果はこの通りだね……ハハッ」


「……そうだな」


 俺とアーサーはそう言葉を交わしたところでHPが尽きて、アバターはポリゴン片となって砕け散った。

 ……俺自身がここで死ぬことは予想出来ていた──けれど。

 それ以降の展開は、もうわからない、どうなるかなんて知りもしないし予想すらできない。

 残っているNさんが上手くやってくれるだろうか、KnighTとモルガンはどう出るのか……不安だらけだ。




「……逝ったか、ブレイブ」


「おや。頼りになる男を失ったようですね。随分と悲しげな目だ、N・ウィーク」


「そう言うな。貴様こそ、可愛い弟が斬られ、妹が消滅する様を見てか冷や汗が出ているではないか」


「……兄め、意地と仲間を秤にかけたが故の選択がコレか……まぁいい。強敵との戦いは楽しんだ。さらばだ」


 ブレイブ・ワンとアーサーが相討ちによって死亡したことで、王の騎士団は失格となる。

 したがって王の騎士団のプレイヤーであるアルトリアたちはそこで光の粒子となって消え、残ったのは魔女騎士団、朧之剣、集う勇者の三つのギルド。


「ハッハァ、これで俺たちはベスト3確定か……だが、やるなら目指すは優勝! いくぜぇぇぇ!」


 GianTは両手をハンマーのようにし、Nに向かって思い切り振り下ろす。

 しかしそれは空を切り、地面に思い切りめり込む。


「どうしたぁ、N・ウィーク! 俺が怖いかぁ? お前じゃ俺を倒せないかぁ?」


「別に……貴様を倒すことなど容易い。ただ、私が優先するのはそっちの魔女の方だ!」


「そうですか。同じ考えで何よりだ! 生意気な侍!」


 Nは納刀状態から身をかがめ、足に力を込めて強く踏み込み──


「神天ノ太刀!」


「ドラゴ・カリバー!」


「っ……! やはり、この重さは……! ぐっ!」

 

 全力で放った一撃を、モルガンの必殺スキルに弾き飛ばされる。

 しかし、弾き飛ばされる勢いを使ってNは後方に下がりながら、再度刀を鞘に納める。


「また居合技ですか。馬鹿の一つ覚えのようですね!」


「フ……そう言うな。お前を倒すために必死で習得してきた技で、まだ大好きな男にすら見せていないものだ!」


「おい! 俺を無視すんじゃ──ぶぺらッ! いってえなオイ! 誰だ!」


 GianTが文句をつけながらNに詰め寄ると、彼の後頭部に鞭が叩きつけられる。


「団長が死んだんだし……この命、時間稼ぎのために使うよ。さ、頑張んなよ、副団長」


「……感謝するぞ、スター・ドロップ」


「どーも」


 GianTが後頭部を抑えながら振り返った先には、ユリカを建物で寝かせてその番をしていたスター・ドロップが駆けつけていた。

 彼女は右手に鞭、左手に杖を握ってGianTと対峙する。


「お見せしよう、モルガン……私の新必殺スキルを!」


「来なさい。その悉くを打ち破り、あなたを下して見せましょう」


 Nは鞘から刀を抜き放ち、左手の人差し指と中指で素早く刀身に印を結ぶ。

 そして、両手持ちにした刀で真っすぐモルガンへ斬りかかる。


「いくぞっ! 【星砕ノ太刀】!」


「ドラゴ・ミニアド!」


 モルガンは槍を短く握り、ドス黒い闇のようなオーラを纏わせてからNに向けて突き出す。

 両者の一撃は先ほどとは違うように拮抗し、大地を揺るがし大気を振るわせる。


「ぐっ……んぬぅぅぅ……! ハァァァッ!」


「ぐっ!」


 そして、数瞬の競り合いを制し、相手のスキルを打ち破ったのはN・ウィークだった。

 彼女は刀を振り抜いた姿勢で、モルガンは槍を弾かれた姿勢。

 その状態から素早く行動に移ったのは──。


「震天ノ太刀!」


「ッ──! 月穿!」


 両者共に、自分の姿勢から最大の力を持って、最善の行動を取っていた。

 が、非常にも刃を先に届かせたのはモルガンであり、その一撃が激戦で消耗しきっていたNの腹を貫いた。

 Nの刀はモルガンの首に届くことはなく、彼女の衣服に軽く傷をつけた程度だった。


「ふ、ふふふ……一手足りませんでしたね、N・ウィーク。

ドラゴ・ミニアドを破られた時は流石に焦りましたが、私の勝ちです」


 この一撃で、先ほどまで掠り傷を負い続けて少しずつでもHPが減っていた彼女を全損させるのは容易かった。

 そして、Nは自分のHPがどんどんゼロへ向かっていくのを見て敗北を悟ると同時に、出撃前に伝えられていたブレイブの言葉を思い出した。


『もし、俺が先に死んでNさんが残っていて……それで勝ち目のない状況、完全に負けだって思ったら。

朧之剣が少しでも勝ちやすくなるように、どうにかしてやってくれないですか?

……そろそろ、アイツらだって優勝するって日の目を見たいと思いますから』


「はぁぁぁ……ぁぁぁ……まったく、本当に! 注文の多い後輩を彼氏にしたものだな、私は!」


「──っ!? 何を……! あ……! ぐ……!」


 Nは自分のHPが完全に尽きるよりも前に、刀から手を放して空いた右手に紫色のライトエフェクトを纏わせた。

 そして、自身を貫く剣を握りしめたモルガンの手をグイッと引き寄せ、右手で彼女の左目を貫く。


「な、なんだ、これは……! 貴様、私に何を──」


「なに。ただの再生阻害を込めた一撃だ。目にぶち込んでやったが故、しばらくは片目がロクに見えんだろう。

精々、距離感の計れん地獄でも味わっていろ。私の精一杯の負け惜しみでな! フフハハハハハ!」


「くっ……! まったく、強かな女ですね。N・ウィーク……!」


 モルガンがそう言いながらにらんだところで、Nのアバターはポリゴン片となって砕け散り、消滅した。

 そして、その数秒後にスター・ドロップもGianTに首を掴まれて投げ飛ばされ、HPを全損した。

プレイヤーネーム:アーサー

レベル:80

種族:人間


ステータス

STR:119(+200) AGI:119(+150) DEX:15(+90) VIT:20(+150) INT:0(+120) MND:20(+150)


使用武器:真・エクスカリバー

使用防具:真・獅子の兜 真・騎士王の鎧 真・暴風の衣・上 真・暴風の衣・下 真・騎士王の籠手 真・技砕ノ靴 真・理想郷の鞘

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