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第二百六話:最後の命

「ここなら、ちったぁ休めるか。にしても、俺のアイデンティティみたいなものを模倣するとはなぁ」


「……ありがとうございます、ブレイブさん。それに、スターちゃんにも守って貰ってごめん」


「いや、こっちこそ、建物に引きこもるだけしか出来てなくてごめん」


 俺──ブレイブ・ワンは王の騎士団領主館──どちらかと言えば城、からユリカを救出し、スターの隠れていた建物に彼女をお届けしたところだ。

 カイトを撃破して王の騎士団領土に踏み込んだ時、まさか七人がかりで襲われるとは思いもしなかった。

 まぁ、魔女騎士団の軍勢が近くにいたおかげで、フェニックス・ウィングで離脱してからユリカを救出に向かえてよかったんだけどな。


「んじゃ、団長。私はこの通り大事な戦力を守ってるからさ、安心して戦って来て」


「おう。俺は多分この辺で死ぬだろうから、お前も後は頼んだぜ」


「死ぬの? マジで?」


「あぁ、十中八九な。でも大丈夫だろ。俺がいなくたって集う勇者の皆は強いし、俺は大将じゃねえからな」


「……そっか。なら、魔女騎士団や朧之剣のメンバーと戦う時は私が頑張るよ」


「おう。期待してるぜ」


 俺はスターとユリカにそう告げて、フェニックス・ウィングを展開して再度王の騎士団領主館へ飛び込む。

 ……王の間ってとこを守ってる奴は誰一人としていないみたいだな。

 丁度良い、一旦ここで考え事をするとしよう。このまま王の間を開けたら、余計なことを考えながら戦うことになっちまう。

 

「存外、城の中もバタバタしてるんだよな……」


 実際、正面玄関の方は既に乱戦になってるし、Nさんもモルガンやアルトリアと交戦中らしい。

 ギンガとムラマサとラシェルは死んでしまったし、自由に動けるのは俺だけだし、俺がアーサーを討ち取らねばなるまい。

 出来ることならモルガンの方をアーサーとぶつけ合わせたかったけど……まずそんな理想的な局面は訪れないと考えていい。

 だって、そんなことしたら俺かKnighTの勝ちが決まっちまうだろうし、賢いアイツらがそんな間抜けなことはしないだろうし。

 ともなれば現在の戦力での勝ちを目指すしかない、Nさんがモルガンを倒せるかどうかはわからないけれど、俺は彼女を信じるしかない。

 何故なら、これがこのイベントにおける俺の最後の戦いだから!


「さて……と。せいやっ!」


 俺は考えもまとまったところで、王の間の扉を全力で蹴っ飛ばした。

 両開きの扉がバーンと開いて俺の視界に飛び込んできた光景は、まさかの先客だった。

 魔女騎士団四天王……戦争ではユリカとランコが連携して倒した時雨、ランスロットが倒した東雲彩花、KnighTと戦って千日手だったセバスチャン、俺と戦ったモードレッド。

 この四人がアーサーを囲んで一方的にスキルを繰り出し続けていたが、アーサーはそれらを全部いなすか受けるかしてしのいでいた。化け物かアイツは。


「おいおい、マジかよ……」


「ん? なんだブレイブくんか……やぁ、見ての通り君が一番乗りじゃないんだ。それと、おしゃべりに付き合う余裕もないくらい忙しくてね」


「チッ、ブレイブ・ワンか。おい時雨ときあめ! セバスチャンと組んでお前がやれ! オレと東雲でアーサーを倒す!」


「俺は時雨しぐれだ! いい加減覚えてくれ!」


 シルクハットのカチュームをつけた刀使いと、ステッキを構えた執事の二人が俺を前に構える。

 この二人のこと、よく知らないから戦い辛そうなんだよな……けど、何とかなりはするか。

 四人がかりでもアーサーを倒しきれてないなら、俺だって二人くらいサクッと倒してやるぜ。


「……ベビーカステラの恩がある相手を斬るのは心が痛むが、今は許せ!」


「君には奥様を救う一助となった恩があるが、今は別でね。悪く思わないでもらおう」


「前者は覚えてねーが、まぁいい。二人まとめて三枚……じゃなくて、六枚おろしにしてやる」


「助かるよ、便利な便利なブレイブくん。これで、こっちも反撃に出れる」


「お前後で覚えてろよ」


 せっかく構えてカッコ良い台詞を決めたのに、アーサーのせいで台無しだ。

 この二人をぶった斬ったら、アーサーの方もぶった斬ってやる。


「じゃ、行くぜ!」


「ふっ!」


 俺が先手を取って一歩踏み込んだところで、セバスチャンが俺の攻撃を受けに来た。

 真っすぐ繰り出す突きを手刀で受け流し、片足を軸にして剣の間合いの内側に潜り込んで肘打ちを仕掛けて来る。


「ぐ、っと!」


 が、俺は肘に対して膝蹴りで対応し、そのまま真っすぐ蹴っ飛ばしてセバスチャンを引き剥がす。


「うむ……中々の反応速度だね。KnighTよりも鋭いと見た」


「伊達に七王やってねえからな」


 セバスチャンは余裕綽々って感じで構え直すが、その表情も金メッキみてえに薄いもんだ。

 もし俺が蹴りじゃなくて剣を合わせていたら、確実にぶった斬れてたってことが向こうもわかってるのか。


「ところで、君が大将ってことでいいのかな。ウチみたいに」


「へぇ、お前らんとこはモルガンが大将なのか。予想ついてたけど」


 時雨の質問は無視しながら、魔女騎士団で誰を倒せばいいかの目星はつけられた。

 ……と言っても、基本的にどこのギルドも大将狙うんだったら大体ギルドマスター狙いだけどな。

 仮に大将じゃなかったとしても、戦力が大きく削げるのは間違いないし。


「質問には答えないか……駆け引きがお上手ですね、七王ってのは」


「さてはアーサーにも試したなそれ」


 時雨が諦めたように刀を構え直し、セバスチャンと横並びに立つ。

 さてと……二人がかりとなると、こっちも攻め方守り方を工夫しねえとな。


「君の攻略方法は既に熟知している。なぶり殺しにされる覚悟は出来ているかい?」


「上等。やれるもんならやってみやがれ」


「だったら早速……! 【ウィンド・ブレイド】!」


「ッ!」


 時雨は刀に風を纏わせ、真っすぐ振り下ろしてきた。

 迫りくる風の刃を右にステップして避けると、セバスチャンが回避する先を読んでいたと言わんばかりに蹴りを繰り出してくる。

 俺は籠手で蹴りを受け止めてから弾き、一歩踏み込む……と、今度は時雨が刀身に手を添えて待ち構えていた。


「ブリザード・ブレイド!」


「うお──! バーニング・ソード!」


 時雨の薙いだ刀から放たれた吹雪をどうにかスキルで相殺する──と、今度はセバスチャンの攻撃が来た。


「【アース・ナックル】!」


「フォース・シールド! っ!」


 灰色のライトエフェクトを纏った拳が俺の出したシールドを打ち砕き、俺の鼻先をかすめる。

 ……こいつら、狙ったかのように属性攻撃を連発してきやがる。


「なるほどな、俺の装備の弱点を見抜いてるワケか」


「その通り。君は確かに俊敏で、火力で奥様とも並び立ち防御力も一流……だが、君のその強さは無属性の攻撃を繰り出す相手にとってのものだ」


「属性攻撃への耐性が低いことは、偵察隊の情報で既に把握済みってワケさ」


 確かに、俺の装備している大悪鬼シリーズは状態異常こそ無効化出来ても、属性を含んだ攻撃には耐性がない。

 ただ単に剣で斬りつけてきたり、ハンマーで殴ってくる程度ならそのまま受けたってダメージはかなり抑えられる。

 けれど、それに炎や氷が纏わされていると、俺のこの防御力も中々役に立ってくれないってワケで。


「つまり、ブレイブ・ワンの攻略はいたってシンプル!」


「集う勇者、恐れるに足らず……というところかな」


 時雨とセバスチャンはそう言いながら再度武器にライトエフェクトを纏わせ、今度は二人で挟み撃ちにするようにステップを踏んだ。

 セバスチャンは後ろからジャンプして攻撃を狙い、時雨は真正面から俺に斬りかかってくる。


「【セイント・ブロー】!」


「ライトニング・ブレイド!」


 セバスチャンの光を纏わせた拳が、時雨の雷を纏わせた斬撃が俺に迫って来る。

 ……仕方ねえ、ここで長引かせていても意味はないし……やるか。


「恨熱斬」


 俺は最後のストック分の命を削り、黒い炎を纏わせた剣を軽く後ろに投げる。

 そして、刃先がセバスチャンの方を向くように回ったタイミングで掴んでから、弧を描くように振り下ろした。


「ハァァァァッ!」


「なっ……!」


「これは──!」


 その一撃でセバスチャンは拳を握っていた右肩を切り裂かれ、時雨は刀を握っていた両腕の肘から先を失った。

 ……出来れば一撃で仕留めたかったところだけれど、咄嗟の判断でギリギリ避けたか。

 けど、だから何だ。恨熱斬は斬られたところから炎が燃え広がり、そのアバターを蝕む。


「ぐっ……! セバスチャン! 今すぐ俺の腕を斬り落とせ!」


「あぁ!」


 セバスチャンは自分の肩口を抜き手で抉りぬいて火を消し、剣を振り抜いた姿勢のままでいる俺の脇を通って時雨の火がついている腕を斬り飛ばす。

 それで、すぐにポーションを用意して戦おうとでもするんだろうが──そこまでの隙は与えてやらねえ。


「悪いけど、お前らの出番はここまでだ。そう長引かせるほど、俺も優しくないからな」


「ッ! ぐ……! クソッ、またいいとこなしか……!」


「……侮っていたね、君の強さを」


 俺はオーガ・スラッシュで二人をまとめてぶった斬り、HPを全損させる。

 ……さて、残ってるのは本丸のアーサーか──と、アーサーの方を見たら、丁度モードレッドと東雲彩花を倒し終わったみたいで、目があった。


「君とは、出来れば最後に戦いたかったんだけどね」


「そうかよ。でもお断りだ、俺は今回のイベントで最後まで残るつもりなんてなかったしな」


 このイベントが始まってから、ずっと思っていた。

 確かにやれるところまでやってやろう──とは思っていたけれど、俺自身が最後まで残って勝つ気はなかった。

 いや。それも嘘になるかもしれない、勝つつもりだってあった、けれど最後まで残るのはどう足掻いても無理だと思っていたんだ。


「……そうか。なら、僕の手で終わらせてあげようか」


「終わるのは、お前諸共だけどな」


 俺は剣と盾を構え直し、アーサーとにらみ合う。

 ……王の騎士団との勝負もクライマックスってところだな。


プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:80

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:100(+210) AGI:100(+170) DEX:0(+60) VIT:51(+460) INT:0 MND:50(+250)


使用武器:大悪鬼の剣、大悪鬼の小盾

使用防具:大悪鬼のハチガネ、大悪鬼の衣、大悪鬼の鎧、大悪鬼の籠手、大悪鬼の腰当、大悪鬼の靴、大悪鬼の骨指輪

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