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第二百三話:魔王VS魔女

「戦争中に酒盛りとは、随分余裕の様ですね」


「いや? こんなとこで飲まなきゃいけないくらい、ヤバい相手と出くわしたワケだからな……余裕なんてないさ」


 何度飲んだか、もう常に飲み続けているかのように舌へ魔酒の味が残り続けている。

 けれど、そうでもしなかったらモルガンを相手にして勝てるとは思えない。

 ギルド戦争では、アーサーやブレイブたちが大苦戦させられたと聞いたしな。


「ヘラクレスはもう倒しました、次はあなたを討ち取るとしましょう」


「随分やるな。まぁ、倒しておいてくれてありがとう」


 ヘラクレスは十回くらいは死んでも生き返るようなスキルなんか持ってるせいで、倒すのに時間もMPも消費しまくるからな。

 俺はMPブーストのおかげでそれなりに長く戦えるようにはなっても、結局長期戦は苦手だし……だから、なるべく誰かに倒しておいて貰いたかったから、今のありがとうは心の底からのありがとうだ。

 

「この戦いが、SBO頂上決戦となると言っても過言ではないでしょう。お互い七王、その中でも上澄みです」


「言うね。でも、あながち間違いじゃないかもな」


 俺は玉座から降りて魔酒をストレージにしまい、腰にある杖を抜いて形状変化させ、杖の先端を剣の形に変える。

 ……目の前にいるのは七王の中でも最強クラス、真正面かつ一対一でも、俺が必ず勝てるって保証はない。

 だから、最初っから全力で、徹底的にやる!


「ハァァァァァッ!」


「ッ! これは……!」


 俺が一度に生成できる最大クラスの大氷壁を右手の杖から繰り出す。


「先手必勝……これでどうだ」


 無詠唱で魔法を使えるからこそ、俺のイメージ力だけで魔法は自在に形を変え、出力を変えられる……故に、俺だけの技だ。

 これで出来ることなら、氷の中で埋まっててゆっくりとHPを失ってって欲しいもんだけれど──そうは問屋が卸してくれなかった。

 ドォン、ドォン、と衝撃音が幾度か響くとモルガンが氷壁を砕いて、五体満足のその姿を俺の前に晒した。


「その程度で、私が止められるとでも?」


「へぇ。流石七王、コレくらいは破って来るか」


「当然です。あなたより強い私が、あなたの魔法で敗れる道理などありませんから」


「そうか……じゃあ、これならどうだ?」


 俺は一度大きく後退してから、今度は両手の杖を使って巨大な火球を放つ。

 受ければダメージは必須、避けてもその場で爆発させて攻撃範囲を広げてやるぜ。


「ドラゴ・カリバー」


 ソレを読んでいたかどうかはわからないが、モルガンは剣の方から黒いオーラを出した。

 そして、俺の巨大火球を一刀で真っ二つにし──斬った瞬間に爆破しても、槍をバトンのように回して風を起こしていたせいでダメージを与えることが敵わなかった。

 まるでアーサーを思い出させるような威力と判断力だ……ヤになるなぁ、この手の奴は。


「なら、今度はコイツだ!」


「ッ! と……! フンッ!」


 俺は地面に手を当て、無数の氷の棘を地面から連続で生やす。

 流石にコレを縫って避けるのはモルガンも無理と判断したか、生えて来る氷を剣でぶった斬って砕きながら進み始める。

 ま、縫って避けようが真っすぐ来ようが取る手は一つだ。


「じゃ、存分に味わえよ!」


「ッ……! 大風車!」


 もう片方の杖から青い炎を放射すると、モルガンは槍をバトンのように回転させて強行突破を図る。

 二種類の武器を器用に使い分けて攻撃する……良く出来てるけれど、どこまで持つかな。


「ニュークリア・ミサイル」


「ッ! 小癪な!」


 俺の額にある魔方陣からミサイルが三本ほど召喚されて、炎を迂回しながらモルガン目掛けて飛んで行く。

 ニュークリア・ミサイルには自動追尾モードと自由操作モードの二つがあるけれど、俺が好んで使うのは自由操作だ。

 無詠唱で魔法を扱うためにイメージ力を鍛えて来た俺からすれば、自由操作なんて赤子の手をひねるようなものだぜ。


「さ、どうする?」


「無論、こうするまで!」


 モルガンは剣に黒いオーラを纏わせて両手で握ると、全方位に向けて剣を思いっきり薙ぎ払う。

 なるほどな、氷も炎もミサイルもこの一撃で一気に吹き飛ばせるってわけだ。

 だが──


「お前にとっては究極の一が勝負を制するのかもしれないけれど、俺はその逆でな。

凡庸の百が、勝負ってのを決めるんだよ」


「ッ──ぐ、あ……!」


 モルガンは氷を薙ぎ払ってすっかり油断しきっていたか、それとも来るのがわかっていても避けられなかったか。

 俺がタイミングをずらして発生させた氷の棘に右脇腹と左足を貫かれ、動きが止まった。

 大したダメージじゃないだろうが……このまま全身氷漬けにしてやる。


「さぁ、凍れよ」


「まだだ……! くらえっ! 風槍炎剣!」


「させねえよ、メギドバースト!」


 氷を引き剥がしながらも俺に攻撃するために竜巻と炎のセットを繰り出してくるが、無属性魔法がソレを抑え込む。

 確かに氷こそ引き剥がせたが、モルガンは俺にかすり傷一つ負わせられちゃいない。


「ならば……! 昇降飛竜!」


「ソレは、俺には効きづらいと思うぜ?」


 槍を上に投げてから、剣を両手持ちしてから踏み込んでの斬り上げ。

 シンプルながらに良く出来ているスキルだけれど、このスキルには攻略法がある。

 まず一つ、真っすぐ突っ込んでくる相手は的に過ぎない──ので。


「一本で防げるかよ」


「っ、しま──」


 俺は最初に発動させた大氷壁をお見舞いし、真っすぐ突っ込んでくるモルガンを氷の壁で埋め尽くす。

 重ねに重ねまくった氷壁のおかげで中身のモルガンが見えないくらいだ。

 降って来る槍にはニュークリア・ミサイルをぶつけて勢いを失わせ、俺のちょっと近くのところに突き刺さらせた。


「出て来るまでにどれだけかかるかな、モルガン……槍がなきゃ、流石にちょっとは時間かかるだろ」


 減ったMPを回復するためにポーションを飲みつつ、モルガンがどれだけ足掻くかを見る。

 このまま氷で追撃しても良いが、補給を怠って襲撃されちゃ話にもならない。

 だから俺は敢えて様子見をしつつ、今も虎視眈々と俺の首を狙っている奴への警戒を怠らない。

 どこのプレイヤーだか知らないが、俺とモルガンの戦いが激化したところで、どちらかを確実に倒そうとしている奴ってことはわかる。

 そうなると真の魔王とも魔女騎士団とも別のギルド……アルゴーノートの誰かってところか、魔女騎士団の奴なら『ここにいますよ』ってアピールせんばかりに下手くそな隠れ方はしないだろ。


「さて、と……」


 モルガンはしばらく動けないし、俺が今からどう動くか。

 流石にこの状況で仕掛けて来るような奴じゃあないと思いたい、今仕掛けたところで俺とのタイマンしか待ってないからな。

 狙うなら、モルガンを仕留めにかかる瞬間とか……だろうな。

 つまり向こうも今は動かない膠着状態が続くだけで……。


「となれば、アイツが出て来る時が勝負の分かれ目か」


 モルガンは氷壁からの脱出を必ず成功させるだろう。

 だったら、俺はその瞬間にモルガンも俺を狙う奴もまとめて倒して見せる。

 片方の杖には巨大な火球を、もう片方の杖には細かく散らした氷の刃を生成して構える。

 ガガァン、ガガァンと衝撃音が段々と聞こえて来た。


「ハァァァッ! ッ……! やはり来るか……!」


「燃え尽きろッ!」


 俺は巨大な火球をモルガンに向けて放つ。

 氷の刃は保持し、次の行動に備えておく。


「ッ、【フィフス・スラッシュ】!」


「チェックメイトだ」


 槍を手放し、剣だけしか手元にない。

 そんな状態のモルガンがスキルを使い、隙を晒した。


「ッ!?」


「終わりだ……!」


 剣を振り抜いて、ダメージを最小限に抑えながら火球を斬ったモルガンは、俺の放った氷の刃をモロに受けた。

 ……まぁ、流石七王というだけあって手数を重視した氷の刃じゃ殺しきれなかった。

 けれど剣を持つ右手は千切れ、体中に穴が開いて、左足も凍てついて砕け散った状態。

 後、たったの一撃を浴びせるだけでコイツは殺しきれる。


「っ、ぐ……!」


「フィナーレは、美しく決めないとな」


 逃げることも許さない、どんな防御や回避に専念したスキルだろうと絶対に徹底的に倒す。

 最大級の戦力を誇る魔女騎士団を仕留めきるには、多少の隙を晒してでも確実に殺す。

 このチャンスは逃せない──!


「終わりだ、モルガン」


「……えぇ。まさに、終わりですね」


 俺は両手の杖から氷の刃を大量に生成し、宙に浮かべる。

 手数を徹底的に増やしたコイツで、殺しきる。

 そうして両手の杖から魔法を一気に放つ──前に、俺は斜め前に向かってステップを踏んだ。

 のと、同時に。


「ッ──! 【ライトニングソニック】!」


「バレない、なんて思ったか? この瞬間を待ってたんだよ」


 俺の後ろから雷属性を纏った衝撃波が飛んでくる。

 けれどそれは真正面に向かって飛んで行くスキルだ、だから今回避行動を取った俺には届かずむしろモルガンの方へ向かっていく。

 ついでに今の回避行動でモルガンの槍の前に立てたし、仮にコレを避けたとしても、モルガンは槍を掴むことなく潰せるだろう。


「奇遇ですね、カオス……私も、あなたがそっちに避けるのを待っていました」


「!? な──」


 真正面に飛んで行くはずの雷属性のスキルが、グワンと曲がって無防備な俺の左っ腹に風穴を開けて左腕ごと吹き飛ばしやがった。

 おかげで保持していた氷の刃は半分消え、俺は大きく体制を崩して隙を晒してしまった。


「な、っんだ、これ……!?」


「おや、穴も開いて私とおそろいですね」


 モルガンはそんな皮肉を言って笑いやがる。

 なんだこの威力……!? 自動追尾したりするようなスキルで、こんな威力出るわけないだろ……! 撃った奴が極振りでもしてるような奴じゃなきゃ、あり得ない威力だ……!


「なんで、曲がった……!」


「さぁ?」


 モルガンはそう言って憎たらしいほどの笑みを浮かべながら、地面に刺さる槍に視線を向けた。

 ……雷属性、地面に刺さってる槍、導かれるように曲がった軌道……!

 そうか、タダカツも使っていた槍のスキル、誘導槍か……! だから、敢えて槍を投げて撃ち落させて……俺が、避ける時は槍も封じるために動くのを読んでたのか。

 でも、相手が相手だと変な方向に避けられて終わるだけだぞ……普通やるかよ、こんな計算……!


「終わらせましょう」


「ッ! まだだ……!」


 モルガンは穴が開きながらもまだ動かせる脚一本で跳躍し、さっき剣や槍に纏わせていた黒いオーラを使って滞空し──俺に向かって飛んでくる。

 ここで逃げることは出来なくはない、けれどここで引くのは嫌だ、今この瞬間に回避なんてしない。

 合理性だとか、後のことよりも……! 俺は、俺の意地を取る! 今この瞬間を、楽しんで戦う! 


「フッ!」


 モルガンはただ俺を殺すということだけを考えているかのように、最小限のダメージと、無駄のない動きで氷の刃の雨を潜り抜けて来る。

 瞬く間に俺の魔法を全て避けきったモルガンは──


「ぐっ……! く、そ……!」


「真の魔王、カオス。討ち取ったり……!」


 剣を俺に投げ、切っ先が心臓部分に届く──といったところで、足で鍔を押し込み、その剣は俺の背中まで突き抜けた。

 深々と俺の心臓を貫いたその一撃は俺のHPを削り切り、全損させ──この瞬間、真の魔王の大将である俺の死亡によって真の魔王は敗北した。

 ……まったく、早すぎる敗北だ。

 サンドラやホウセン、ディアブレにも怒られるだろうな……それに、また……ブレイブと戦えなかったなぁ……。


プレイヤーネーム:モルガン

レベル:80

種族:人間


ステータス

STR:123(+180) AGI:120(+180) DEX:0(+100) VIT:25(+430) INT:0(+200) MND:25(+430)


使用武器:魔竜剣・ドラゴカリバー、魔竜槍・ドラゴミニアド

使用防具:真・漆黒の冠 真・悪魔の外套 真・血染めドレス 真・デビルニーソ 真・魔女の手袋 真・魔領靴 真・王の十字架

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