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第二百話:決着、メイプルツリー

「イノセント・スラッシュ!」


「流星盾!」


 ヒナタの放つ横薙ぎをスキルで相殺し、剣ごとヒナタを弾く。


「【ソードウィップ】!」


「ソード・セイントスラスト!」


「ッ! っつ……」


 その隙を突いてくるシャドウとレイの攻撃を盾でまとめて受け流す。

 ……というのを、シェリアが撃破されてからずっと続けてしまっている。


「いい加減気づけよ。それで俺が倒しきれるって思ってんのか」


「あら。これはチームプレイよ? 私たちがあなたを倒す必要はない。

私たちは、ただあなたをここに釘付けにしているだけで良いもの。

尤も、あなたを倒せないわけじゃないけれどね」


「チッ……そうかよ」


 少しでも動揺して勝負を急いでくれたら、逆に隙を突けるんだが……中々上手くいかない。

 コイツらの連携は教科書通りってくらい綺麗なもので、中々に相手しづらいと来た。

 ……守りに徹してちゃ勝てないな。


「バーニング・ソード!」


「ウィンド・ソード!」


 シャドウとレイによる左右からの同時攻撃。

 俺はそれをバックステップで躱し、真正面から突っ込んでくるヒナタの攻撃に備える。


「【双撃・零】!」


 素早い二連撃技が放たれ、俺はそれを盾で受け止める……が、この攻撃はフェイクだった、双撃なんてスキル名のハズなのに一撃目で止まったからだ。

 本命は――!


「――後ろからか!」


「気付いても遅いよ」


 突然後ろから現れた女が、俺の背中に一太刀浴びせた。

 クソッ、いくら後ろからとは言えど……鎧の上からHP削る威力かよ……!

 

「チッ……!」


 その女は俺が反撃の一撃を振りぬく前にすぐに地面──いや、影へと潜っていった。

 確か、MPの消耗量が凄まじい潜伏スキル……一度、ムーン辺りが魅せプで使ったことのある【潜影】とかいうスキルだったか。

 実戦で使う奴がいるなんて思わずに油断していた、何よりもコイツらのせいで忘れていた。メイプルツリーはこういう変な奴らの集まりだってことを。


「流星剣!」


「ソードウィップ!」


 更に、追い打ちをかけるようにヒナタとシャドウの斬撃が飛んできた。

 俺はその場にしゃがんで、頭上ギリギリを二人の攻撃を回避する。


「フェニックス・ドライブ!」


 しゃがみながら不死鳥を飛ばし、ヒナタへのけん制をする。

 このままじゃじわじわとすり潰される……こうなったら!


「超加速! うおおおおおっ!」


 AGIを2倍にし、一度の踏み込みでシャドウとレイの二人に一太刀ずつ浴びせる。


「ぐあっ!?」


「速ッ……!」


 二人のHPは2割ほど削れたが……ヒナタの奴はフェニックスをスキルも使わずに一撃で斬りやがった。

 俺は後ろに跳び退いて、距離を取る。


「ふぅ……」


 そして、息を整えてから再び構え直す。


「なるほどな……」


 今の攻防で分かったことがある。

 それは、コイツらの強さはメイプルツリー由来の強さでないことだ。

 メイプルツリーってのは、末端から頂点までふざけたステ振りやらふざけたスキルを使う奴が多い。

 頭がそういう奴だから、ギルドメンバーがそれに影響されてるってのが大きいが……。

 ヒナタにシャドウにレイ……コイツらは、メイプルツリーのような奇妙奇天烈な奴らじゃなく、お手本通りのプレイを見せるアタッカーって感じだ。

 さっき潜影を使った女はメイプルツリー側っぽい感じだけどな。


「何一人で納得したような顔してるの?」


「別になんだっていいだろ? どの道、これから真っ二つになるお前らにはそんなに関係ないだろ」


「あら、そう。まだ私たちに勝てるなんて思っているのかしら」


「ヒナタ、馬鹿に現実を見せるためにもアレ使えよ」


「そうだよ、シャドウの言う通りだ。思いあがってるやつには存分に痛い目を見て貰おう」


 まだ何か手があるのか……と様子見していると、ヒナタが懐から青い宝石を取り出した。

 それを天高々と掲げ──地面に思い切り叩きつけた。


「来なさい。太古の母なる暴君よ! 【アクア・レックス】!」


「コイツは……!」


 ヒナタが叩き割った宝石から出てきたのは、巨大な水で形成されたティラノサウルス……っぽいモンスターだった。

 ティラノサウルスなんて骨でしか見たことがないから本物っぽいとかはわからないが、とにかくティラノサウルスと形容するのが相応しい姿だった。


「これが私たちの切り札よ。さぁ、自慢の不死鳥も無様に潰される絶望を味わいなさい」


「……マジかよ」


「おいおい、絶望して語彙力失ってやがんぜ、コイツ!」


「ま、集う勇者のギルドマスターと言えど所詮一人のプレイヤー。

着実に成長してきた私たちメイプルツリーの連携の前には無力ってことだね」


「じゃ、私も影に潜ってる必要ないね。じっくりと斬ろうか」


 勝ち誇ったヒナタ、シャドウのヘラヘラとした笑い、レイの自信たっぷりの笑み、慢心して影から出てきた女。

 目の前には口の中に渦を生成して、今からでも俺を水で飲み込んで圧殺せんと構える水の恐竜。

 俺はそれらを見た上で。


「ヘッ、なんだよ……その程度で切り札? 随分おもしれえ冗談じゃねえか」


「はぁ? 何を言って──」


 俺は三つある命のストックを、一つ使った。

 その使った命のを恨みの炎へと変え、刀身に灯す。


「本当の切り札ってのは! こういう奴のことを言うんだよ!」


「な──」


「ヒナタッ!」


「ヒメ!」


 大きく一歩踏み込み、右手に全力で力を込めて、恨熱斬を薙ぎ払う。

 恨みの黒い炎はヒナタたちを守ろうとしたシャドウとレイ、そして水の恐竜を一瞬で消し飛ばした。

 水が一気に蒸発したことで水蒸気が辺りに散布されるが、それも有り余る熱によって消える。


「どうした、お前。俺を無様に負かすんだろ?」


「な……っ、そんな……ありえない……!」


 切り札一つ破られたくらいで、ヒナタは動揺しきっている。

 さっきレイにヒメ、とか言われてた女も開いた番傘を盾のように構えて後ずさり始めている。

 足りないな。コイツらじゃ、アーサーと戦った時に感じたあの楽しさやスリルは、味わえやしない。


「もっと、もっと……! 俺を楽しませろォォォッ!」


「あっ、ぐっ……!」


 超加速の効果がまだ残っている俺の攻撃が、ヒナタを端から刻んでいく。

 ヒナタが防御をしようと剣を動かしていても、今はバフも勢いもある俺の方が速い。


「くそっ……! ヒナタ、逃げよう! このままじゃすり潰されて終わっちゃうよ!」


「ダメよ……ここで逃げたら、コイツをフリーにしちゃう……! それに、私はこんなところで終われない! ブレイブ・ワンを倒すのは、私の手じゃないと嫌なの!」


 ヒメってやつは引き際を心得ているのか、それとも単に俺にビビっているだけなのか。

 丁度超加速の効果が切れた俺がヒナタの攻撃を予測してスキルを詠唱している間に、ヒナタを説得していた。

 だが、ヒナタは俄然やる気で俺に対して剣を構えている。


「【クリスタルブレイク】!」


「フィフス・カウンター!」


 剣に宝石のような氷を纏わせた一撃が放たれるが、俺はそれを躱してヒナタへ一閃。

 剣を握る腕と腹を切り裂かれ、大きくHPを削られたヒナタはその場に倒れる。


「くっ……! こっちですら、あなたに敵わないなんて……! いつか、いつかこの借りはどこかで必ず返す! 首を洗って待ってなさい……! いつの日か、あなたの心の臓を私の剣で貫いてやるんだから!」


「こっちだかあっちだかどっちだか知らねえがな、そのいつかなんてのは来ねえよ。お前じゃ俺には勝てねえ、背負ってるものが違うからな」


 そう言って、そのままヒナタの首を刎ねHPを全損させる。

 ……残るのは、番傘を構えたまま距離を取り始めているヒメってやつだけだ。

 俺たちを取り囲んでいた他のプレイヤーたちは、ゴブリンたちの尽力によって無事に殲滅された。


「さてと、終わらせるか」


 直に、ユリカたちの方も決着がつくだろう。




「ハァァァッ!」


『ぐっ!』


 だいぶ、彼女の攻撃方法や体の動かし方ってのが読めてきた。

 私──ユリカは、異形の怪物と化したカエデとの戦いに適応し、何をどう対処して戦えば良いかを完全に見極め切っていた。

 彼女のスキル……サクリファイス・ティラニィとやらは文字通り何かを犠牲にした上であの化け物へと進化するスキルだった。

 それが何なのかまでは完璧にはわからなくとも、今のカエデは攻撃力と素早さが大きく上がっている代わりに、防御力が著しく低下している。

 まぁ、元々盾以外を攻撃すれば微弱ながらもダメージを与えることは出来ていた……加えて、このスキルで変身する瞬間、カエデの装備は砕け散っていた。


「慣れないことなんて、するもんじゃないよね。カ・エ・デ」


『あうっ……!』


 私は瞬く間に三連撃を叩き込み、カエデの肩甲骨に生えていた翼を片方斬り飛ばす。

 飛ばれて逃げられたりしたら嫌だし、逃げる選択肢を出来るだけ奪う。


「カエデ! 今助けに……っ!」


「私を前に、随分と余裕ですね。速さだけで逃げ切れると思わないことです」


「くっそっ……! アスナ! 二人受け持てる!?」


「そうしたいところだけど……! ごめん、流石に無理っ……!」


 KnighTさん、ガウェインさんはキチンとリンたちを抑え込んでいる。

 助かる助かる、これでカエデだけに集中できる。

 と思った矢先に!


「せえあっ!」


「ッ!? マジ……か……!」


 リンがどこからか取り出したワイヤーを射出し、私の手を縛り上げていた。

 マジかよこの人……!


「カエデっ! チャンス! 今この瞬間だけが!」


『ガアアアアア!』


「ちょ、ちょっと待っ──ぶげぇっ!」


 私はカエデのパンチをモロに受けて吹っ飛ばされてしまった。

 しかも、ワイヤーに縛られた状態なせいですぐに引っ張られてカエデの前に投げられそうになってる!


「これで!」


『終わり!』


「と、思いますよね?」


「なっ……!」


 ここぞ、というタイミングでKnighTさんがワイヤーを断ち切っていた。

 おかげで何とか助かったので、何とか空を飛んで距離を取り、回復アイテムを使って何とか立て直す。

 カエデの攻撃力はアホみたいに高くなかったおかげで死なずに済んだけれど、めちゃくちゃ怖かった。


「さて、と。貸し一つです、交代といきましょうか。ユリカ」


「誰が? あなたは露払いでもやっててください、よ!」


 この人、チョロチョロ動くリンを捉えるのが面倒になっただけでしょ。

 と、半ギレしながら私は剣を構え直し──。


「魔力、放出!」


 思いっきり地面にブッ刺して、氷の木々を生み出す。

 そして、動きを止めていたカエデもリンもまとめて氷で固める。

 アスナだけは止められなかったけれど……リンを止められただけで十分だ!


「二人とも、私の動きに合わせてください! 合わせなきゃまとめてぶった斬りますからね!」


「随分偉そうな口ぶりですが……いいでしょう、乗ります!」


「では、行きましょうか」


 私は剣をクロスさせて構え、ガウェインさんは強く一歩踏み込み、KnighTさんは全身に炎を纏わせる。

 カエデはその巨体で藻掻いていたのと、KnighTさんが発する熱の影響で氷から脱出することに成功した。

 なら、ここで仕留める。


「カエデ! 逃げてええええっ!」


『っ、解除!』


 リンの叫び声の通り、カエデは変身を解除してインナーだけの状態のアバターへ戻る。

 フリーになっていたアスナはスキルの妨害を行わず、カエデを抱えて走り出す。


「それを、待ってた!」


「──ッ、んんんぐあああああああああッ!」


 リンは固められている下半身丸ごと千切らんと言わんばかりに叫んで力んだ。

 けれどもう遅い。この人に合わせることを知っているゴリラと騎士が並んでいることが、運の尽きだ。


「神速!」


 数秒しか持たない上に消耗が激しいしクールタイムもアホみたいに長いスキルだけれど、これは超加速以上の速さで飛べる。

 だから、私は瞬く間にカエデを抱えたアスナに追いついた。


「【突風の刃】!」


「ッ……ぐ、きゃぁっ!」


「わ、わ、わぁぁぁっ!」


 私は二本の剣を全力で薙ぎ、フィフス級の風魔法に匹敵するほどの風力を生み出す。

 軽装だったアスナは風力に耐え切れず、カエデを離して吹っ飛んで行った。

 カエデはそのまま空中に投げ出されて、アスナの手を離れた状態で突風に晒され、KnighTさんたちの方へと飛んで行く。


「チェックメイトだよ」


「炎天・聖十字剣戟!」


「イミテーション・エクスカリバー!」


 吹っ飛んだカエデを待ち受ける、二人の攻撃。

 それはカエデのアバターを見事にぶった斬り、HPを見事に全損させた。

 これにて、メイプルツリー……無事に攻略だ。


「バイバイ、リン」


 信じられない、と言った目で驚愕した彼女を見下ろし、私は飛び立つ。

 集う勇者本陣に、帰らないとね。

プレイヤーネーム:KnighT

レベル:80

種族:人間


ステータス

STR:148(+250) AGI:100(+120) DEX:0(+50) VIT:25(+125) INT:0(+30) MND:20(+130)


使用武器:真・獄炎剣・ヴランヴェルシュ

使用防具:爆炎の兜・改、真・大聖炎の鎧、獄炎衣・改、リアクター・ブーツ・改、真・大聖炎の籠手、爆炎スカート・改、祝福のロザリオ+3

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