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第二十話:言うのが遅れて、ごめんなさい

「……しっかし、驚くくらいに収穫がないな」


「そうッスね」


「まぁ仕方がないだろう。

レベル40まで上がるのは、一種の壁と言えるだろうからな。

私とて、楽にレベル上げをしてきたわけでもない」


「しれっとレベル50まで上げてるN先輩が言っても説得力無いですよ、この人数でもあなた一人で全員分の働きが出来るでしょうし」


「ふむ……しかし、こう規模の大きいパーティは初めてだな。

私は四人よりも多い人数でパーティを組んだことがない故、新鮮だ」


先輩の発言にハルが呆れながら言うと、人数って言葉に耳が引っかかったか、ヤマダが顎に手を当てて呟いた。


「僕だっていつも二人とか三人くらいだったし、今ここにいる皆もそうなんじゃないんですか?」


「何事も最初は新鮮な体験ですし、これを大事にしたいですよね」


アインとランコも大人数での経験はなかったみたいなので、結構はしゃぎ気味だ。

現在、俺たちはイベントに向けてレベリングをしよう、ということでイベントまで残り六日、皆で集まっているのだ。

因みに昨日までは個別でレベル上げをしてたせいか、あんまり効率が良くなかったな。

あの屋敷はレベル35まではガッポガッポと稼げるが、35を過ぎるとカス同然の経験値しか手に入らなくなる。

ので、色々と場所を移して狩りをしているんだけど――

如何せん人数が多いからか、モンスターは簡単に倒せるが経験値も分散していく。

俺、ユージン、先輩、ハル、ヤマダ、アイン、ランコ……バランス的には少し物理攻撃に尖りがちだが、まぁ防御力にだって不足はないし、足の速さも十分だ。


「しかしまぁ、他の皆もレベル30は越えてんだな。

ユージンとヤマダはどうしてそんなに一気に上げられたんだ?」


「あー、ちょっと強い人とフリーでパーティ組んだんッス。

そしたらちょちょいのちょい、っと。ってトコッスね」


「あぁ、ユージンと共にパーティを組んだらこうなった、ただそれだけだ」


うーん、まぁ雑な説明だが、細かいとこ詮索しなくたっていいよな。

ただのフレンドなだけだし……ギルドとかそう言うのを作ったわけじゃあないからな。

と……考えつつも俺たちはダンジョンの前に来ていた。

攻略サイトによると推奨レベル35、先輩からしたら屁でもないだろうが俺たちからしたら丁度いいくらいだ。

現にユージンとヤマダのレベルはまだ35よりも下だし、先輩がいて丁度良い位なんだろう、ホント。


「さて、このダンジョンは比較的最深部までの道が短い。

だが中に現れる敵は決して弱くはないので、注意してかかれ」


「このサイズで最深部までの道が短いんッスか……スゲーっすね」


「左に同じくそう思った」


先輩が俺たちの目の前にあるダンジョンを指差しながら言うが、俺もユージンと似たような感想を抱いた。

だって……なんか、こう……要塞みたいなサイズなんだが。


「あくまで比較的、ですよ。そこまで長いってわけじゃないってだけですから」


「うむ、そうなれば普通のダンジョンと変わらぬ心構えで行くべしだな」


俺とユージンがうへぇ、と声を漏らしてる中、アインとランコは目をキラキラさせていた。

……こいつら、こういう要塞とかにロマン感じるタイプなんだろうか。

いやまぁ、確かに戦のために作られた建物って感じで俺も嫌いじゃあないよ?

ただ、ただまぁ……こう、なんて言うかデカいと戦いが長期化する。

戦いが長期化すると、ついつい気分が乗っちゃって恥ずかしい台詞とかも出ちゃうんだよ。俺は。


「ギャアア!」


「チッ、いきなりモンスターかよ!」


ダンジョンに入ろうとしていた所で、ゴブリンの亜種みたいなのが襲い掛かって来た。

……モンスターネームは……ゴブリン・亜種。シンプル過ぎだろ。


「ふっ!」


俺はゴブリン・亜種の攻撃を盾で受け止めてから弾き、アインの方へ押し付ける。


「せいっ!」


アインは薪割のように斧をゴブリン・亜種へ叩きつけ、そのまま膝蹴りをぶちかました。

するとゴブリン・亜種のHPバーはあっさりと全損して、ポリゴン片となった。


「随分急に襲ってきたな。それも、一匹だけとは珍しい。

……アイン、何故震えている?何かあるのなら申してみろ」


「あれ?アインくん、鎧とかちょっとヒビ入ってるけど……」


「あ……その……言うのが遅れて、ごめんなさい」


なんだか嫌な予感がしてきた。

さっきまでアインが握っていた斧がどこかへと消えている。

そう考えると、もっと嫌な予感がしてきた。


「もしかして、アインくん……装備の耐久値、切れたんスか?」


「……はい、ユージンさんの言う通りです」


俺は無言で一発アインに拳骨を食らわせた。

ダンジョン突入前に何つーことをやってんだコイツは。


「はぁ……出来ればもっと早くに言って欲しかったのだがな。

まぁいい、このまま無理にダンジョンに突入しても残りの装備が砕け散るのみだ。

……腕のいい鍛冶師スミスを紹介してやる。

狩りで溜めた金を使えば、今の装備を修復どころか強化することも可能だ」


先輩はそう言って、ダンジョンの方へと背を向けてから歩き出した。

アインはこれ以上攻撃を受けると鎧まで壊れる、と言って装備を全解除していた。

……予備の装備を持っていないとなると、ちょっと可哀想だな。


「アイン、歩きだと多少時間がかかるから、コレ使っとけ」


俺はアイテムストレージの肥やしと化していたゴブリンキング戦で使った鋼の鎧や、ハルから貰った服などをアインに送っておいた。

アインはそれを見ると、顔をパァァッ、と輝かせてから装備していた。

斧は狂人が持っていた、ショボい性能の斧だから使ったら直ぐに砕けるだろうがな。


「ありがとうございます、ブレイブさん!」


「別に構わねえよ。ハルから貰った装備でも、今俺がつけてる装備に比べたら弱い奴だしな。

飽くまでその場しのぎ程度には着ておけってだけだ」


「先輩、やっさしーですね。これはモテますよ~??ほら、丁度近くにいる女の子とかに」


「んだよハル、俺は誰にだって慈悲深い優しきナイスガイだろ」


そう言うとなんだか冷ややかな目で見られた。

主にランコから……なんでだよ。


「まぁでも、装備を見て貰えるなら俺も見て貰いたいッスね。

ほら、鍛冶師の人はなんでも、【武具合成】ってスキルがあるそうじゃないッスか!」


「私はあまり装備などには頓着していないが……魔法の詠唱に関するものなどがあれば、見て貰うのも一興か」


「ま、俺もついさっき手に入ったレアドロップを試すいい機会になるしな」


ユージンがやや無理矢理話を戻して来た。

そう、さっき先輩たちと軽ーくエリアボスを倒して来たのである。

その時にじゃんけんしたら、俺にドロップしたレアアイテムが来たと言うわけだ。

ただでさえこの人数だからかなりのヌルゲーになると思っていたが、レベル50の先輩のせいで楽になりすぎた。

ってか先輩はどうやってこんな短期間でレベルを8個も上げたんだろうか。


「一つ気になったんですけど、N・ウィークさんってどうやってそんなにレベル上げたんですか?」


「フフフ……企業秘密と行きたいが、CPの有効活用法とだけ言っておこう」


アインが思い出したかのように先輩に尋ねると、先輩は不敵に笑うだけだ。

と思ったら何やら意味深なこと言ってくれたが……CPって何に使うんだ?

一日経つと全部Gに還元されてるから使い道がわからなかったんだよな……アレ。


「CP……あー、アレですか、アレをわざわざ手に入れたんですか、N先輩」


「アレってなんだよ、ハル」


「教えてもいいですけど……アレを取るためのCPの量はとんでもないですからね?

その上、これは攻略サイトにもまだ書かれてないので、プレイヤー間による秘かな情報なんですよ」


何だその情報は。

攻略サイトにでも書き込もうものならすぐさま消されたりでもするのか?


「んー、鍛冶師がいるなら……専用の武器でも作って貰おうかなぁ……うーむむむ」


ランコは持っている槍を見つめながらそう呟いている。

こっちの話はまるで興味がないように言っているが……お前は蜻蛉切で十分だろ。


「ランコに新たな武器が必要か?

蜻蛉切は性能は申し分ないであろう」


「そうは言っても、私はスキルを重視してますからねー……これ以外の武器もあった方がいいのかなって」


あぁ、蜻蛉切にはスキルの威力が上がるような補正がかかってないのか。

じゃあランコの望む武器と言うのは、スキルの威力が高い槍なのか。

……ホンットにスキル特化してんなぁ、ランコ。

器用貧乏な振り方を直せば普通に戦えるようになるだろうに。


「俺はこの短剣で十分ッスから、防具の方をどうにかしたいッスね。

もうちょいAGIを上げないと……最前線の回避盾の人に追いつけねえッス」


「因みにユージン、お前AGIいくつ?」


「装備込みで今は200目前くらいッスね。装備抜きなら100突破してるッスけど」


超加速習得済みかよ。

確かに今日の狩りでとんでもない速度で動き回ってはいたが……そんな速度によく体が追い付くな、俺はだと気を抜けば簡単にコケそうだ。


「つーか、ヤマダは武器とか防具とか全然変えてないッスけどー……そんな装備で大丈夫か?ッス」


「大丈夫だ、問題ない……と、さり気無くネタに走るな」


「はっは、これやって見たかったんスよ」


「まぁ、本当に私の装備に問題がないことは事実だがな。

私は己の能力値に合った最善の装備選びをしている。

故に、無駄は生まずにいると言うわけだ」


……援護魔法一辺倒な所さえ直せば、ソロでも戦えるだろうけどな、お前。

ヤマダは案の定と言うかなんというか、援護魔法しか習得していない。

そのせいで攻撃には参加できないし、回復魔法も使えないみたいだし……支援魔法のおかげでこっちは割と苦労せずに済むが、せめて回復があればなぁとは思う。

人様のステータスにケチつけっぱなしなのも問題だが、やっぱり欲しいもんは欲しい。


「先輩は防具も武器も常に問題なさそうですね、スゲっすわ」


「フフ、だろう?私は武器以外の耐久値を落とすことは滅多にないからな。

武器も定期的にメンテナンスを頼んでいる。

故に装備を壊すようなことなどはない。ほら、もっと褒めても良いのだぞ」


先輩は自慢げに和装を見せて来たり、刀をチャキンと抜いたりしまったりを繰り返している。

うーん、数日前まで彼女が出していた歴戦の武士のような感覚、アレは俺の気のせいだったようだ。


「N先輩はそうでも、私はそう行きませんからねー」


「攻撃を受ける役なら仕方ねーだろ」


ハルはカチャカチャと鎧を鳴らしながらそう言う。

しかしまぁ、ハルの顔を見ると鎧が若干アンバランスに見える。

フルプレートアーマーだし、デカいし。

盾とか背中に背負う程のサイズだしなぁ、コレ。


「バウッ!」


「あ、アクティブモンスターですねコレ」


「任せろ!」


今までアクティブモンスター……俺たちに襲い掛かってくる奴を避けて歩いたが――

やはり遭遇してしまうことはあるので、そう言う時は俺の出番だ。

ランコを標的として襲い掛かって来たモンスターの前に俺が立ちはだかる。


「サード・カウンタァッ!」


「ギャンッ!」


ブルーハウンド……と言う体毛が青い狼が襲ってきたので俺のスキルで仕留めた。

エクストラシリーズのせいで俺が強すぎたってのもあるだろう。

何せ、成長する力とやらのせいで、レベルが上がれば上がるほど能力値があがるからな。

今の俺のレベルは36……SBOの現状のレベル上限は50、まだポイントは14も上がる。

つまりステータスに振れるポイントと合わせればとんでもない数になるってワケだ。


「やー、いつ見てもお見事ですね、先輩のカウンター。惚れ惚れしちゃいます」


「そうか?結構簡単だろ、コレ。

タイミングよく避けてから剣振るだけだし、回避盾のユージンとかならすぐ覚えられるだろ」


「んー、俺はそういうタイミング合わせるの苦手なんスよ。

AGI特化でとにかく攻撃避けてから、隙を見つけて突くだけッスから」


「そっか、じゃあ先輩は?」


「私はカウンター系スキルを習得したことはないからわからないな。

そもそも、私は先手必勝の一撃必殺を好んでいる。

後手に回るのは好みではない」


リアルでの先輩もそういやそうだっけな。

剣道で手を合わせた時も、必ず彼女は先制してくる。

だから俺は後手に回るが……先輩の剣は音を置き去りにしてるからなぁ。

速すぎて、先輩の攻撃が来るとわかっても反応出来ねえ。

まぁ、このVRMMOでなら現実の身体能力は特に反映されないし、多分大丈夫……だよ、な?

せめて、剣道よりも先にこっちの方で先輩に勝ちたいし。


「お、もうついちまったッスね」


「雑談をしていると、時間が過ぎるのが早いようだ。

体感的な問題にすぎぬが……やはり人の気持ちと言うのは、戦いに様々な影響を及ぼすな」


と、あれこれ考えたり喋ったりしているうちに街についた。

ヤマダが何か厨二チックなことを言っているがスルー。


「では、その鍛冶師の元へ案内しよう」


そう言って先輩はメニュー画面を開いて、何か操作したかと思うと歩き出した。

俺たちはゾロゾロとそこをついていくだけだ。


「……あぁ、そうそう。彼女は……とても気の難しいプレイヤーでな。

ふざけたことを言うと、最悪出禁もあり得る」


「気の難しい……もしかして現実でも職人なんですか?だとしたら、あんまり会話したくないなぁ……私そういう人苦手ですし」


「んー、そういうロールプレイしてるんじゃあないんスか?

俺は気にしないっスけど、あんまり好まれる人じゃなさそうッスねー……ロールプレイって人の好みわかれるじゃないッスか」


「どっちでも嫌ですよ、そんなプレイヤー」


出会う前からの評価がボロクソだな。

顔も名も知らぬ鍛冶師が今、ここにいる俺の妹と友達と後輩にボロクソ言われてるぞ。

気難しいと言ったって、ゲームである以上そこまで酷くはないだろう。

精々、態度が怖いとかそんな感じだろう。

先輩もちょっと俺たちに考えさせるためとは言えど、針小棒大じゃなかろうか。


「ここだ」


「どれ……【スミス・キョーコの武具店】……ふーん、キョーコっつーのか。

強い武器とか防具とか作ってくれる……のかな」


先輩が立ち止まった場所、それは煙突やら水車やらがついた赤い屋根の家だ。

プレイヤーが買った家にしては随分デカいな。

……このゲームでも一応、家を買うという概念はあるが、大概それはギルドが多い。

鍛冶師や料理人などの生産職も家を持つことはあっても、それは小さいものだからな。


「……【一見さんはお断り】とも書かれていますね」


「フレンドの数に余程自信でもあったんスかねぇ」


「VRMMOでそれってどうなんだよ……コミュ力どうなってんだ」


ランコが読み上げた看板に俺はツッコむ。

まぁ、マナーの悪いプレイヤー対策にはありかもしれないが……基本的に武器作りで金を稼いでいるのならこれはどうなんだろうか。

素材を得る手段は委託なんだろうが、こんな商売方法で金とか稼げるのか?


「ではついて来い。

私の紹介でないと、一見扱いされて追い出されるぞ」


「なんともまぁ、徹底したプレイヤーですね」


先輩がドアを開けながらそう言うと――

カウンターの方で誰か突っ伏してた。


「……アレが、キョーコって鍛冶師なんですか?」


「あぁ、そうだ。

まさかあの木のカウンターで寝るとは……」


俺が指差したプレイヤー……赤色の髪をポニーテールにしている女性。

彼女はカウンターに突っ伏しており、何やら寝言を呟いている。


「むー……ごみ……しねぇ……ばぁか……くずぅ」


「寝言が明らかに暴言なんすけど大丈夫なんですかね先輩」


「……多分大丈夫だ、一応信じろ」


ダメじゃねえか、不安になって来たぞ。色々と。


「ほらキョーコ、起きてくれ。私の紹介で武具を見て貰いたいんだ。起きてくれ」


先輩が鍛冶師キョーコの頬をペチペチペチペチ……と叩くと、キョーコは目を開けた。


「ん、んー……あぁっ、よく寝たぁ……ん、誰?」


「私の紹介で武具を見て貰う、と言ったプレイヤーたちだ」


「あ、そ、そうなの。

ん"んっ、よくぞ参られた、N・ウィークの友らよ」


キョーコは寝ぼけ眼の状態から先輩と話し始めた。

そして先輩から俺たちの素性を明かされると目をぐしぐしとこすり、声を整えてから急に口調を変えて来た。

……なんで急にロールプレイし始めたんだこの人。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:36

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:60(+56) AGI:70(+46) DEX:0(+15) VIT:34(+66) INT:0 MND:34(+46)


使用武器:小鬼王の剣、小鬼王の小盾

使用防具:龍のハチガネ、小鬼王の鎖帷子、小鬼王の鎧、小鬼王のグリーヴ、革の手袋、魔力ズボン(黒)、回避の指輪+2


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