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第百九十九話:とんでもないもの

「どこだ、どこにいるんだ、カエデ……!」


 ブレイブさんがあの剣士の相手を引き受けてから、私──ユリカは、一人で空を飛んでいた。

 目的はメイプルツリーの総大将であるカエデを見つけ出し、討つこと。

 ……だけど、マップがないことに加えて木々があちこちにあるから、空を飛んでいても道がわかりづらい。

 地上を歩いて探すんだったら、確実に迷ってたな……。


「っ、ここまでか」


 飛び続けていたら、メイプルツリー領土の端まで来てしまった。

 流石に端の方に隠れているってことはないと思うし、おそらく領主館とかに隠れてるのかな。

 だとすると、手っ取り早いのはそこを見つけることだけれど……この領土で探すのは難しい。

 イベントが始まってから、領土防衛目的のために領主館は外観と内装を変化させることが出来るようになっている。

 集う勇者も領主館を制圧されたら終わりだからと、トラップハウスのように形や内装を変化させているのだ。

 それを考えると、メイプルツリーも領土に合わせてカモフラージュを施していたらかなりヤバい。


「あぁっ、もう……!」


 私は飛びながら木々を避けて、他のプレイヤーに見つからないようにとカエデを探す。

 けれど見つからないのは見つからないし、このままただ飛び回っていては埒が明かない。


「少し面倒なことになるけど……仕方ない!」


 私はあるアイテムを取り出し、飛行高度を上げてからソレを放り投げる。

 そしてすぐに地面に向けて急停止できるギリギリの速度で突っ込んで、着地する。

 着地してから一呼吸後、私は空を見上げる。


『ここだよ byユリカ』


 バァァァン、とけたたましい音と共にそんなメッセージが空へと表示された。

 第一都市の端の端の目立たないNPCが開いてる隠れショップにあったら、使用用途が全然なさそうなアイテム。

 爆発させたところに任意のメッセージを数分間表示させることが出来る、という仕様のアイテムだ。

 飛翔を持ってる私か、天空歩を使えるランコでもない限りこのイベントで使うのは難しいだろう。


「さて、と。どれくらい来るかな」


 四方八方からどれほどのプレイヤーが来るかはわからない。

 けれど、上手くいけばカエデのいる位置を吐かせられるかもしれない。


「随分と派手なことをするのですね、ユリカ」


「そっちが来ちゃったか」


 奇襲するつもりがないのか、わざわざ私の向いている方向に合わせてやって来たのはKnighTさんだ。

 彼女は剣を抜く様子もなく私のことを観察していた。


「安心してください。少なくとも、今現在集う勇者を倒すつもりはありません」


「それはどうも、ありがとうございます。今ここでやりあっても、誰も得しませんからね」


「えぇ。お互い同じ考えで、こちらに来たようですしね」


 同じ考え。それはつまり、朧之剣も集う勇者と同様にメイプルツリーを厄介視している。

 となると、今ここで私が無茶をしてでもKnighTさんと戦うのは得策ではない。

 ……とは考えたりしつつも、彼女も私も虎視眈々と首を取る機会を狙っている。


「……どうやら、ここは呉越同舟といくところでしょうか」


「ガウェインさん」


 KnighTさんのように、私の打ち上げた奴を見てここにやってきたってことか。

 それに、今の発言から察するに、王の騎士団も私たちと同じことを考えていたと見ていいか。


「ふむ。朧之剣のKnighTにユリカ嬢……ここで斬っても良いところですが、我が王の命により共闘を申し込ませていただきましょう」


「その自信過剰な台詞にはムカつきますけど、まぁ私情挟んでられないですし、受けますよ」


「そうですね。生殺与奪を握るのは私の方ですが、共闘の申し込みとあらば受けましょう」


 こうしてKnighTさんとガウェインさんと私で、一時的な協力関係が出来上がった。

 と言っても、隙を見せればすぐに剣がどこに刺さるかわからない関係だ。


「で、肝心の相手の位置は目星ついてるんですか? 一人でいるってことは、メンバーを分散してでも探してるんですよね」


「問題ありません。むしろ、私が今ここで一人でいた方が都合が良いので……ね」


「……ふむ、そういうことですか」


 KnighTさんが剣を抜いて、ガウェインさんも何かを察したように剣を抜き始めた。

 私は嫌な予感がしたので、空を飛んで二人から距離を取り始める。


「太陽よ、我が剣に力を!」


「紅蓮の炎に包まれなさい……!」


 ガウェインさんは剣を天高々と掲げ、KnighTさんは剣を脇構えにする。

 二人は刀身に炎を纏わせ、途端に背中合わせになる。


「ガァラァァァ……ティィィンッ!」


「【プロミネンス・ストライク】!」


 太陽光から生まれた炎と、深紅の炎を纏った三日月型の斬撃が二方向に放たれる。

 それらの攻撃で嫌と言う程生えていたメイプルツリー領土の木々や草々が焼き払われていく。

 燃やしきれなかった木々にもスキルの余波で出ていた炎が移っていき、どんどん燃え広がり始める。


「うわぁ……超放火魔」


「ふむ。やはり私たちにはこれが丁度良いですね」


「なるほど、アルトリア殿と認め合う腕と言うだけはあるか……良いプレイですね」


 脳筋って何考えてるかわかんないなぁ、と思いながら私は着地する。

 まぁ、無駄な木が減ってくれるのは嬉しいけどね、飛翔が使いやすくなるし。


「……お、早速効果出てる」


 邪魔な木が減って見渡しやすくなった視界で、私は木々を飛び移りながら走っているリンを見つけた。

 ついでに、カエデを背負って運んでいるのもわかった。


「んじゃ、早速いただきますか!」


 私は滞空した状態から一気に飛び出し、燃え移る木から逃げるリン目掛けて剣を突き出す。


「せいやぁぁぁっ!」


「ッ! っぶな……!」


「今の避けるんだ……流石、ユージンさん並みのスピード持ってるだけあるか」


 後ろからの攻撃なことに加えて武器も使えないはずなのに、リンは木から飛び降りて私の攻撃を避けていた。

 けれどそれがどうした、下にはガウェインさんとKnighTさんが構えている。

 一対一でも倒す自信のある相手を、三人がかりで仕留めるのは容易だ……と思っていたら。


「せあああっ!」


「おわっと!」


 高速で木を跳び移りながら、もう一人のプレイヤーが私に向かって突撃してきた。

 幸いにもギリギリで避けられたから、そのプレイヤーの突き出してきた攻撃は私の頬をかすめただけで終わった。

 けれど、まともに当たっていたら顔が吹っ飛んでいただろう、恐ろしや。

 ……で、今そのプレイヤーもカエデもリンも地面に降りているから、私も飛翔を解除して自由落下し、ガウェインさんたちの隣に立つ。


「っと、いきなり厄介なことになっちゃったなー。カエデ、どうする?」


「もちろんここで迎え撃つよ、逃げてばかりじゃいられないし!」


「そうですね。優勝を目指すからには、ここで逃げていては話にならないもの!」


 カエデの隣に立ち、白を基調とした軽装備の細剣使い……確か、魔女騎士団と王の騎士団のパーティーで見た顔。

 そう、確か……アスナだ、アスナ、ありふれた名前だけどいい響きだよね。


「丁度三対三か……ここは、一人一殺と行きますか」


「いいでしょう。ただし誰が誰を討つかは決めませんが」


「そうですね。大将さえ撃破すれば良いのですから、ね」


 ……とか言いつつも、自分がカエデを斬りたいって雰囲気で二人とも剣を構え始めた。

 まぁ、私だってカエデを自分の手で斬りたいって思ってたところだしね──と、剣を構える。


「じゃ、やろっか!」


「応!」


 私が真っ先に踏み込むと、ガウェインさんとKnighTさんも走り始める。

 三人揃ってカエデを狙いに行くけれど、当然妨害の手は伸びる。


「せああっ!」


「っと!」


 リンとアスナがワンテンポズラして攻撃を繰り出してくる──ので、私は飛翔込みで跳躍してそれらを躱してガウェインさんたちに擦り付ける。

 そうすることで、常に警戒しなければならなかった二人をまとめて取り巻きにぶつけることが出来た。

 ので、私は安心してカエデとの一騎打ちに持っていける!


「ハァッ!」


「っと! 結構重い……!」


 小手調べに一撃、しかしそれはカエデの盾に防がれて弾かれた。

 かなり硬い、けれど向こうも私の攻撃を重いと思ってくれてはいるみたいだ、HPはミリ単位すら減ってないけど。


「やっぱり、戦うならこれくらい硬い方がいいですね!」


「言ってくれるね……!」


 カエデの防御力はSBOトップクラス……! 守ることにかけては全プレイヤー中トップと言っても過言ではないだろう。

 純粋な硬さで言えばハルさん以上、けれどその分機動力も攻撃力も彼女には完璧にない。

 だから、そこを突けば勝機はある!


「ふっ!」


「わわっ、速い……!」


 盾を攻撃しても砕ける保証はないし、こっちの剣が先に折れる可能性だってある。

 だから盾をすり抜けて攻撃しようと思ったけれど、意外にもカエデの反応速度はかなりのものだ。

 こっちの攻撃に的確なガードを合わせて来るから、スピードで撹乱しても大したダメージにはならないかも。


「だったら、こっちか!」


「アレかー……ッ!」


 私は防御貫通スキルの詠唱をして、空を蹴って剣を突き出す。

 剣の切っ先はカエデの盾に命中するけれど、カエデのHPバーは削れていない。


「げ、マジか……」


「私だって、それくらい対策はしてるよ!」


 まぁ、ハルさんも防御力貫通攻撃に対する対策だってしてたし、驚くことじゃないだろう。

 けれども、こうすると打つ手がだいぶ減ってくるだけに困る。


「ま、でもこっちならどうかな」


 私は依然として盾を構えるカエデに向けて再突撃。


「どんな攻撃でも効かないよ!」


「それはどうかな」


「っ、え!?」


 敢えてカエデに守らせることで成立する戦術。

 今の斬撃で剣から氷の木々を生み出して、カエデの盾と地面をくっつかせる。

 ついでに、カエデの腕も盾と一緒に凍らせて縛り付けておく。

 これで数瞬でも隙が出来る! これが狙い目だ!


「ソウルブレイク!」


「うげっ……!」


 SPを刈り取る一撃がカエデの肩口に入った。

 流石に体で受ければ普通の攻撃でも多少はダメージになるらしく、ほんのちょっとカエデのHPが削れた。

 ……と言っても、ブレイブさん相手でも結構削れるはずの攻撃なのに、コレでほんのちょっと程度だ。


「嫌になる硬さだなぁ、まったく……! せいやぁっ!」


「っ、早く、取らないとっ……!」


 カエデは盾を地面からか、それとも腕を盾から離そうとしてるのか手をグイグイと地面から引っ張っている。

 けれどもちょっとやそっとの力じゃこの氷の木々は砕けやしない、あのオリオンさんですらかなり力を込めてようやく砕けるくらいのものだったんだからね。

 だからその隙だらけの姿目掛けて、攻撃を一撃当てて離脱、というのを繰り返している。


「カエデ!」


「行かせません!」


 カエデがダメージを受けているのを見てリンが戻ってこようとするけれど、KnighTさんがソレを止める。

 本当は自分がカエデを倒したいって思っているんだろうけれど、合理的な判断を下してくれて何よりだ。


「さて、あとどれくらい削れるかな!」


「っ……! 仕方ない……! 【サクリファイス・ティラニィ】!」


「っ、これは……!?」


 カエデが嫌そうにそう叫ぶと、突如としてカエデの鎧と盾が砕け散り、まとわりついていた氷の木々も吹き飛んだ。

 その直後、カエデのアバターが異形の姿へと変化を始めた。

 小柄で可愛らしかった姿が全長3mほどのサイズへと変化した。

 腕はオーガを彷彿とさせるゴツさに鋭い爪を携え、腰からは太く硬そうな尻尾が生え、足は恐竜のように強靭になり、胴はそれらに合わせ太くも引き締まって、顔は般若のように歪み、肩にはコウモリのような翼が。

 これを化け物と呼ばずして何になるのか、そう問いたいほどエネミーらしく変化したカエデは、吠えた。


『グオオオオオ!』


「えー……マジかぁ」


『使いたくなかったのに! もう許さないから!』


「っ、やっば!」


 カエデは怒ったように口から火炎球を発射してきた。

 私は慌てて飛んで避けるけれど、今の一撃だけで巨木が吹き飛んだ。

 ガウェインさんとKnighTさんの全力のスキルで倒せるようなものが、ただの一撃て……! どんな攻撃力してんの、コレ!


「マズいですね……!」


「これは、互いへの警戒心を高めている場合ではなさそうだ」


 二人も冷や汗を浮かべながら、カエデとの距離を取り始めている。

 けれど、リンとアスナがこの勢いを失ってはならんと言わんばかりに、二人への攻撃を始める。

 マズいなー……スピードアタッカーに攻めの姿勢を取らせると、かーなーり面倒なんだけど。


『逃がさない!』


「そんなのも出るの──ッ! あっっっぶな!」


 カエデが口からビームなんて撃ってきて、私は慌てて回避行動をとる。

 空中でも油断できないような軌道だった上に、今のでコートの裾がガッツリと焼けてしまった。

 装備が破壊されたわけじゃないから時間経過で治るだろうけど、もう少し被弾だったし、ヤバい。


「こりゃ、とんでもないものを呼び出しちゃったなぁ……」


 私はてへ、と笑いつつ冷や汗を流す。

 ……鈴音さんたち、大丈夫だといいなぁ。

プレイヤーネーム:カエデ

レベル:80

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:0(+20) AGI:0(+20) DEX:0(+20) VIT:146(+600) INT:0(+20) MND:147(+600)


使用武器:ブーストダガー・改 真・ミュータント・シールド

使用防具:般若の髪飾り・改 残虐のスーツ・改 デビルアーマー・改 ホッパー・ブーツ・改 悪鬼ノガントレット・改 スコーピオン・テイル・改 聖者の指輪+2

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