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第百九十七話:第五回イベント・開幕

 正午、十二時。

 開催決定から一週間の時を跨ぎ、真昼間に第五回イベントが予定通り始まった。


「じゃあ、まずはどこから狙うか、だな」


「そうは言いつつも、既に答えは出ているのではないのか。ブレイブ」


「そりゃもちろん、ただ皆の意見も聞いた上で俺の意見を押し通したいだけです」


「なんですかそれ……まぁ、でも私も特に案とかないですし、先輩の考え通りに動きますよ」


 ギルドメンバー全員を集め、集う勇者領土の領主館での会議。

 まぁ会議とは名ばかりのもので、殆どは俺が決定した方針を皆に伝えるだけだ。


「最初に狙うギルドの話ですよね。なら、どこのギルドからも近い王の騎士団はどうですか?」


「人数差がありすぎる、いくら大将首を取れば勝ちと言っても、俺たちの全滅が早い」


 アインの意見をバサッと切る。まず、王として設定されているプレイヤーがわからない。

 そう、王として設定されるプレイヤーってのは七王のギルドマスターってことじゃない。

 参加ギルドの中にいるプレイヤーから一人選ぶことが出来る、ってことだ。

 だから、七王そのものを倒せば勝ちになるってワケでもないのがネックなところだな。


「んだったら、真の魔王はどうッスか? ほら、決着つけるいい機会じゃないッスか!」


「それもいいんだけどな、真っ先に倒しに行くと横槍入れられそうだから却下だな」


 そう、モルガンとかイアソーン辺りは平気で横槍入れてきそうだし、真の魔王は後回しだ。

 確かに真の魔王は厄介だけれども、正直言って後回しにしても真っ先にやっても脅威度は変わらない。

 後回しにして面倒なのは、もっと別にいる。


「人数的にも、落しやすさ的にも朧之剣がいいんじゃない? 正直タイマンならキツいけど、集団戦なら勝ち目はこっちにあるでしょ」


「まぁ、現実的な意見だけどな……落としやすいなら落としやすいで後回しの方が良いと思うぜ」


「むぅ……じゃあいいか」


 ランコの建設的な意見、確かに最初は俺も真っ先に朧之剣を攻めることを考えた。

 でも、朧之剣で厄介なプレイヤーはKnighT、PrincesS、GianT、HawK辺りだ。

 一番強いKnighTだって、王の騎士団のアルトリアと五分五分ってトコだ。

 なら、放っておいたっていずれは消えるだろう。


「だから、俺は考えた。真っ先に落として、後の憂いを絶ちたいギルドをな」


「まぁもう答えはわかっているがな……」


 俺が他の案を却下した理由を考えて、Nさんは見当がついているらしい。

 だが、こういうのは俺自身が言うことに意味があるので、きっちりと発表する。


「一番最初に狙うのはメイプルツリーだ。アイツらはピーキーなキャラ性能が多い。

特に、カエデは防御面においてSBO最硬って言っても過言じゃねえ、消耗した終盤で守りに徹されるとマズい。

だから、こっちの調子が万全な序盤から徹底的に叩き潰しに行く、それが集う勇者の作戦だ」


「そうッスね、それにリンさんは俺と同じくらい速えッス。こういう場所での速さは強みッスからね……早いうちに倒しに行くのがベストッスね」


「うん。サクラさんのスキルキャンセラーとかも、乱戦の中で食らったらヤバいもんね……第三回イベントの時はタイマンだったからなんとかなったけど」


「最近加入したヒナタさんやアスナさんの実力は未知数ですが、強者であることには間違いないでしょうし、先輩の意見に賛成です」


 異論を唱えるギルドメンバーは一人たりともいないので、集う勇者の最初の方針はメイプルツリーを狙う、ということに決まった。

 因みにメイプルツリーを倒した後はどこを狙うか、というのは状況次第だが、アルゴーノートを狙う予定を立てている。


「よし、それじゃあ攻めを狙う隊と守りを担う隊はこれでいいか」


「そうね、割ける人員はこれで最大限でしょうし、あたしは問題ないと思うわ」


「うーん、ランコと同じ隊じゃないのがちょっと不満だけど……まぁいっか」


「ま、この人数で充分だよね。団長の読み通りなら、だけど」


「フフ、ついに我の出番が来たか……強敵との戦いには疼いていたのだ……さぁ、大切に決めるとしよう!」


 メイプルツリー領土への侵攻を行うのは俺、シェリア、ユリカ、鈴音、モミジの5人だ。

 どうせなら半分の9人にしても良かったのだが、集う勇者は他ギルドからしたら真っ先に狙うギルドだと思われていてもおかしくはない。

 現に俺たちの領土だけNPCの兵士たちを領土の守りに就かせることが出来るし、簡単な指示を出せばその通りにも動いてくれる。

 NPC故に連携こそ拙いけれども、俺の小鬼召喚で呼んだゴブリンたち並みに便利だから他からすれば厄介だろう。

 王の騎士団や魔女騎士団は戦力を割いてこっちに回してくる可能性もあるし、守りは厚くしておくに限る。

 で、メイプルツリーに対しての侵攻人数が少ないのはそれだけじゃなく、他のギルドもメイプルツリーを狙う可能性があると踏んでのことだ。


「一応聞くけどさ、あたしたち以外メイプルツリーを狙ってるギルドがいなかったらどうするの?」


「まぁ、その時はその時だな……撤退しつつ、一番狙われてるギルドに向けて侵攻って感じだな。

複数の陣営が入り乱れてる時、片方を徹底して叩くことで盤面がスッキリするんだ」


「……RWOでのテクニック。忘れてないんですね、ブレイブさん」


「そりゃもちろん、お前と嫌と言う程やってきたことだしな」


 シェリアの疑問に答えると、ユリカが若干黒歴史を思い出した時のような恥ずかしさを含めた笑いを浮かべる。

 かつて遊んでいたゲームみたいなことをかつての相棒と一緒にやれるなんて、俺でも思いもしなかったことだぜ。


「んじゃ、方針はこれで決まったんッスね! なら俺たちは持ち場につくッスよ」


「ユリカ、頑張ってね!」


「すぐに落ちたりしてお義兄さんに迷惑かけるなよ」


「うん、頑張るよ。少なくともお前よりかは長生きしてやるからさ」


 ユージンが小走りでそれぞれが布陣する場所に走って行き、アインはちょっと悔し気にこの場を去って行った。

 俺たちはメイプルツリーの領土へと近い方角の門に揃い、領土のための門を開く。


「さて行くぜお前ら、戦闘と決め台詞の用意は出来てるか?」


「はい。いつものアレ、ですよね」


「うんうん、あたしは一緒にやるの初めてだわ」


「アレがあってこその団長だよね」


「フッ、此度は主に合わせるとしようか」


 俺は右手に持った剣を天高々と掲げ、叫んだ。


「漢ブレイブ・ワン、まかり通るぜ!」


「応!」


 残り四人がそれに応え、各々持った武器を天高々と掲げた。




「お前ら、あまり離れるなよ! 分断された上で囲まれたら、簡単には助けに入れねえからな!」


 俺たちはメイプルツリー領土へと続く森の道を走りながら、周囲を警戒する。

 すぐに接敵するってこたないだろうが……何があったっておかしくない以上、遠距離武器の通りが悪い森が安心できる。

 森の中で弓矢を通すってのは難しいからな。


「ブレイブさんがそうは言っても……もしそうなったらブレイブさんは全力で助けに入ってくれますよね」


「……まぁ、死ぬ寸前まで頑張って助けには入るよ」


 俺の隣を飛行しながらユリカは言うけれど、実際その通りだ。

 末端の戦闘員だろうがNさんだろうが、誰だって等しく助けられるように俺は努力する。

 この戦いじゃ、俺が一人大暴れしたところでどうなるってわけでもないからな。


「ふむ……あれがメイプルツリー領土の入り口か、ツタにまみれているとは」


「もう見えてんのか」


 モミジは視力を上げるスキルでも使っているのか、先頭を走っている俺よりも早くメイプルツリー領土の入り口を目視したらしい。

 外敵からの侵入を阻止する処置みたいだが……ツタや木々ごときで俺らは止められねえってことを見せてやるぜ!


「シェリア、モミジ。あの門がスキルの射程に入ったらそこで止まって、炎系のスキルを使ってくれ。下手に近づきすぎても危ないし、遠距離系でツタを焼き払うぞ!」


「りょーかい、だったら……あたしはこっからでも狙えるよ!」


「我の弾丸は射程が短い……故、もう少し近づけさせてもらおう」

 

 シェリアは立ち止まって弓に矢を番え、モミジは拳銃型の魔銃を抜いて俺と並走する。

 鈴音はシェリアの隣で止まり、ユリカは地に足をつけて止まった。

 いくら森とは言えど、遠距離攻撃専門のメンバーは接近戦が出来る奴に守って貰わないとな。


「よし、行くぜ……!」


 俺は腰から剣を抜き、刀身を軽く撫でて炎を灯す。

 モミジは走りながら赤い弾丸をセットし、シェリアは矢に炎を纏わせ、強く引き絞る。


「フェニックス・ドライブ!」


「【マギア・シュート】!」


「ファイア・アロー!」


 不死鳥を象った炎が一つ、炎を纏った弾丸が六つ、燃えた矢が一本飛んでいき、メイプルツリー領土を守る門に直撃した。

 それぞれの炎属性の攻撃は門を覆っていたツタや木々を焼き払い、焼け焦げた門を露出させた。


「よし、一気に雪崩れ込むぞ!」


「応!」


 俺の一声に皆が応え、全速力で走りだす。

 俺たちが通ってきた森からメイプルツリー領土の門まで、少しばかり平野が続いている。

 遠距離武器が通りやすい平野ともなれば、ここを通る瞬間を狙われる可能性が高い。

 だからこそ、足が遅くはないメンバーを連れて来たってワケだ。


「だああああああ……行くぜ! ゴブリンズ・ペネトレートッ!」


「パラディン・ストライク!」


「せいやぁぁぁっ!」


 走りながらスキルを発動させた俺、ユリカ、鈴音の攻撃が門へと突き刺さり──

 バガァン、と大きな音を立てながら門を破壊した。


「予定通りだ……一気に行くぜ、お前ら!」


「はい!」


「応とも!」


 俺たち五人は一気にメイプルツリー領土内へと入り込み、領土内で進軍を開始した。

 作戦の第一段階ってところだし、大きな音を立てすぎかもしれないが……どの道チマチマやってちゃ勝てねえ。

 手っ取り早く大将首を取ってトンズラこいちまおう。

 メイプルツリーの王は恐らくカエデ……硬いアイツなら、簡単に殺されたりしなさそうだしな。


「他のギルドの動きはありましたか?」


「まだ確認できていない、意外と慎重だ」


「透明化してる可能性もあるから、気を付けてよね」


「あー……それならイチカ連れてきた方が良かったかもねー、あたしの【風読み】じゃイチカの魔力感知より精度弱いし」


 遠距離主体で、索敵スキルも持っていたモミジとシェリアに索敵は任せていたが……どうやら誰も見つけていないみたいだ。

 となれば、攻め込んでくる方角が違うか……何らかの手段で俺たちの目を欺いているってワケか。


「いくらブレイブさんが強いからって言っても、視覚から大技とか打ち込まれたらシャレになりませんからね……警戒はしときましょう」


「だねー、あたしらじゃトッププレイヤーたちには太刀打ち出来ないだろうし」


 ユリカと鈴音の言葉はごもっともだが、今回のイベント的に俺は最後まで生き残っていられるか怪しいんだよなー。

 ……まぁ、簡単に死んでやるつもりはないんだけどな。


「さて、と……まずはどこから──」


 行こうか、なんて言おうとした途端。

 近くで轟音が響き、黒い煙が上がっているのが目視出来た。

 木々の多いメイプルツリーでこの爆発に炎……メイプルツリーのプレイヤーの物じゃなさそうだ。

 自分たちの領土の強みである森を燃やすってのは考えにくいからな。


「炎……ガウェインさん辺りかな」


「方角的にも、王の騎士団がメイプルツリーの領土に攻め込むのにぴったりな距離っぽいしね」


 ユリカとシェリアがそう分析していたところで、モミジが銃を抜いたので俺は腰から剣を抜いて構える。

 10人くらいの足音が四方八方から聞こえてきやがる。


「主よ、どうやら既に来ているらしいぞ」


「……だな。強そうなのもいるし、ユリカ。お前は先に行ってくれ」


「え、私だけ?」


 ユリカはきょとんとした顔で自分を指さしているが、RWOの頃から考えるとまぁ変わったもんだな。

 あの頃は『お前は控えめにな』って言われてたのに、積極的に敵の指揮官とかを討とうとしてたし。

 けれども、今はその時みたいなハングリーさがいる時だ。


「あぁ、他に攻め込んできているギルドがあるなら、そっちと共闘してカエデを討ってこい。それに……魔女騎士団との戦争の汚名返上はしたいところだろ?」


「流石……私のことよくわかってますね。それじゃ、とっとと倒して来て、そっちの負担は和らげますよ!」


「行ってらっしゃーい」


 ユリカは空高く飛んで行き、現在10人余りの人数で形成されている包囲網を突破した。

 さてと……4人で10人ちょいを相手にするわけだし、1人で3人くらい倒せばいいか。


「ブレイブ・ワン。その首、もらい受けるわ」


「悪いが簡単にやられるわけにはいかないんでね、さっさと退場してもらおうか」


 包囲を指揮していたのは前にも見たことのある顔、ヒナタってプレイヤーだ。

 水色の鮮やかな刀身をした片手直剣を右手に握りしめ、白いコートに身を包み、胸当てや鎖帷子なども装備していた。

 メイプルツリーのピーキーさとは似合わない恰好だが……問題は見ただけでわかる強さ。

 剣士として一流の域だろう。


「さぁてと、さっさと終わらせますか」


 俺は剣の刀身の腹を撫で、目の前の剣士──ヒナタと相対した。

【キャラクター紹介・モミジ】


 スキルの魔法よりも威力は劣るが連射力の高い武器、魔銃を使う厨二気味の女プレイヤー。

 憧れてる銃使いはダディって渾名がついてる一流なあの人。

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