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第百九十六話:領土巡り・ラスト

「さてと……主役は最後に、ってところかな」


「まぁ、ある意味SBOの主役はお前だろうし、なわけねーよって突っ込めねえな」


 俺たちはアーサーの領土こと王の騎士団の領土に向かうため、アーサーを先頭にフィールドを歩いていた。

 最後に紹介される七王の領土が王の騎士団のもの、って言うのに別に不満があるやつはいない。

 アーサーはSBOプレイヤーの中で一番の実績を持っているし、一番強いプレイヤーと言っても過言ではない。

 俺だって今アーサーとやりあって勝てるか、って聞かれたらちょっと回答に悩むくらいだからな。


「まぁ、主役とか最後とか言ってもね、カエデくんの領土の後じゃつまらないかな」


 アーサーがため息交じりに肩をすぼめてそう言ったところで、彼の足が止まった。


「おぉ、ロープレでよく見るような城下町だ」


「ドイツに似ていますね、前に読んだ歴史書に描いてあった街並みとそっくりです」


 カオスとKnighTが感嘆の声を上げる中、俺は一人、目の前に広がる光景に見惚れていた。

 高い城壁に囲まれた町の中央には立派な城があり、その周りをぐるりと囲むようにレンガ造りの家々が立ち並んでいる。

 まるで本やテレビで見た中世ヨーロッパのような町並みで、本当にゲームの中なのか疑ってしまうほどリアルだった。


「これが、王の騎士団の新しい拠点なのか……スゲーな」


「あぁ、旧ギルドホームがかすんで見えるほどさ」


 王の騎士団ギルドホーム……あそこは本当に凄い大きな大きな城だったし、下手な領土のものより立派だと思っていた。

 でも、それは間違いだった。

 俺含め、アーサー以外の王六人は自分たちの領土にギルドホームを移築させていた。

 それはただ懐かしんでいるというのもあるんだろうけれど、何よりも目立つからというのが最大の理由だと思う。

 しかし、この王の騎士団だけは違う。

 元々あった城自体が王の騎士団ギルドホーム以上のサイズで、あの城が未完成だったのかと思えるほどのものだ。


「ぐぬぬ……やはり実績が豪華な男ならば、領土も豪華になるものか……」


 イアソーンが悔し気に漏らす、その言葉に『違うよ』という言葉を返せる者はいなかった。

 皆の領土を例えるのであれば俺やKnighTは上流階級の貴族が持つ領土、イアソーンは漁村を大きくしただけのような領土、カオスは魔界のような領土、カエデは自然を活かした美しい森林地帯の領土、モルガンは複数あるような田舎町を一つに統括したような領土と言ったところ。

 だが、アーサーの領土は正しく王国に呼ぶのだと相応しい領土だ。

 マップをよーく見てみると、若干俺たちの領土よりも広い。


「くっ……次のイベントで朧之剣が成果を残せば、私たちにも何か来るでしょうか……」


 KnighTが爪を噛みながらそう言うが、集う勇者だって実績は大分ある方なんだけどなー。

 第二回イベントではNさんが3位を取って、第三回イベントでも3位、トライアスロンイベントではユリカが1位、俺が4位を 取ったし、第四回イベントじゃ優勝までしたのだ。

 直近のバレンタイン関連のイベントじゃあ大きく後れを取ったが、実績ならこっちにもある。

 それなのに、王の騎士団が遠く見える。


「まぁまぁ、そう焦らなくてもいいんじゃないかな。この領土だけがSBO全てを物語るわけじゃないだろう?

そもそも、まず僕ら自体が七王っていう特別な役に就かせてもらえたんだ。

その時点で王同士の優劣を語ることでもない、と思うのだけれどもね」


 アーサーがそう言うけれども、やっぱりゲームプレイヤーである以上、優劣はつけたくなる。

 それに、ここにいる奴らは皆アーサーに敗北したことのある者ばかりだ。

 唯一リベンジを果たせた俺だって、まだ完全な勝利とは言えない。


「さ、ここで立ち止まって話すのも難だし、ちゃんと僕の領土を案内しようじゃないか」


 そこからは、文字通りRPGに出てきそうな王国の城下町……のような、アーサーの領土を満喫した。

 NPCからクエストが受けられるとかそんなことはなかったが、とにかく売ってるものが俺の領土とは段違いだった。

 行商人とかはいないが、売っている武具やアイテムの練度が凄いものばかりだ。

 値段は高いんだけれども。


「ここが僕のお気に入りの場所だよ」


 そう言ったアーサーに連れて来られた場所は、領土中心にある城……の、中庭にある小さな庭園だった。

 石畳の道に沿うように色とりどりの花々が咲き誇っており、とても綺麗な場所だった。


「わぁ! こんなところにお花畑があるなんて!」


「様々な種類の花が咲き誇っていますが、どれも美しく手入れされているようですね」


 カエデとモルガンが感嘆の声を上げて花を愛でているところで、俺は一つの花に目が留まった。


「ん、どうしたんだい?」


「……この花」


 それは青い薔薇だった。とっくの昔にリアルでも作れるようになっているとは聞いた。

 けれど、何故か俺はこの薔薇に吸い付くように目が離れなかった。


「あぁ、その花は青薔薇だけれど、どうかしたのかい」


「いや……スゲー綺麗だな、って」


「そうかい? 僕としては、薔薇はとても深い赤色である方が生命を感じて美しく見えるし、青い薔薇は僕としてはそこまで美しいとは思えないけれど。どうしても人工的なイメージが頭にあってね」


「……そっか」


 それぞれの価値観と言えども、俺はこの青い薔薇の美しさを胸に刻んでおこうと思った。

 VRのゲームで、所詮はポリゴンの集合体に過ぎないのかもしれないけれど。

 それでもこのゲームは、SBOはもう俺の人生の一部、とどのつまり……この薔薇も俺の人生の一部だ。


「さて……これで、七王の領土全ての紹介が終わった、と見てよいかな」


「そうだな。これでお互いがお互いのことをそれなりに知れたな」


 アーサーの一声に、カオスが頷く。


「……それで、知った上でこれからどうなる」


「別に何をするわけでもなく、ただ知ることで、七王同士の仲が深まる。それだけだと思いますよ」


イアソーンの問いかけに、KnighTが答える。


「でも、これからは私も追いかけられる側なんだなぁって身に沁みちゃいましたよ」


「良いではありませんか。それは誰かにその存在を認められている証ですから」


 カエデの言葉に対して、モルガンが微笑む。


「そうだな……俺たちは七王。このSBOで一番スゲー奴から七番目にスゲー奴まで数えられた王たちなんだ。

だから、この先も一緒に進んでいこうぜ」


 俺がそう言えば、他の皆が笑顔を浮かべてくれる。

 俺たちはこうして、お互いを知ろうと努力して、理解を深め合って行くべきなのだ。

 だって、ゲームは皆で楽しむものなんだから。


「さて、それじゃあ皆これにて──ん?」


 アーサーがこれにて解散、と言う前に何かピコン、と通知音が鳴った。

 それはアーサーだけじゃなく、俺……どころか、七王全員に来ているようだった。


『セブンスブレイブ・オンライン第五回イベント・【七王最強決定戦】開催決定!』


「えっ……!」


 概要を確認してみる。

 参加条件を満たしているのは七王と、七王のギルドに所属しているプレイヤーのみ。

 内容はギルド戦争に近く、他の王の領土にあるフラッグを奪うか、大将として設定されたプレイヤーを撃破する。

 制限時間はなく、優勝するギルドが決まるまでのエンドレス勝負。

 加えて、イベント中に撃破されたプレイヤーが復活することはできない。


「……これはまた、別の意味で大きなイベントですね」


「そうみたいだな……つか、俺らは人数的に不利じゃねえか」


 KnighTの呟きに同意すると同時に、俺は集う勇者の人数の少なさを嘆いた。

 集う勇者は俺含めて総勢18人程度のギルド……だが、この中では集う勇者に次いで少ないメイプルツリーや朧之剣ですら50人以上のプレイヤーが揃っている。

 それに対して王の騎士団は150人以上、真の魔王やアルゴーノートは知らないが、魔女騎士団は今も300人オーバーの人数らしい。


「開催は一週間後か……随分と急なイベントだね」


「まぁ、俺たちは今日始めるって言われても準備できてるくらいだけどな」


 カオスは強がって見せているが、一週間でこのイベントの準備ってのは相当急ピッチでやらないと進まないだろう。

 こういうイベントの形式上、金もかかるだろうし、ギルドホームの移築に金をかけた俺たちは結構苦しくなってくるな。


「こりゃあ、すぐ話を持ち帰って皆と話し合わねえとな」


 俺は急いで集う勇者領土へと戻る準備を始める。

 考えは皆同じようで、カオスにモルガンにイアソーンにカエデにKnighTも各々の領土に戻る準備を始めている。


「次会う時は第五回イベントだな、お前ら」


「あぁ、そうだね。僕たちはそこで待っているよ」


 アーサーと挨拶を交わし、俺は王の騎士団領土を後にしたのだった。


「って、ことだ」


「ふむ、なるほど……今度は今までのようにはいかないか」


 集う勇者、領主館に備え付けられた会議室。

 そこに集う勇者の全メンバーを集め、第五回イベントのことを伝えた。

 Nさんが真っ先に口を開き、顎に手を当てて悩ましい顔をした。


「ここまで、少数でやろうって考えてたツケが回ってきたな」


「いえ、ですが少数でやってきたからこその集う勇者でもあります。そう悔やまないでください、先輩」


 嬉しいことを言ってくれるけど、集う勇者は人員の不足が目立っているところはある。

 バレンタインとホワイトデーのイベントではそれが目立ったせいで、俺たちはひでえ結果を残した。

 七王の中じゃ、集う勇者の人数の少なさは異端そのものだ。

 だって、他のギルドはレイドパーティを一つ組めるほどの人数を用意して、ダンジョン攻略や狩りにもその成果を出している。

 だが集う勇者は最大でも18人、なんなら普段は10人も集まらない時だってある。


「うーん……でも、今から人を何人か増やすことは出来るんじゃない?」


「それは厳しいよ。イベントのためだけに人を増やすってなっても、今強くてフリーな人ってあんまりいないし」


「そうだな、仮にいたとしてもわざわざ人数の少ない集う勇者を選ぶメリットもない」


 ランコの至極シンプルな提案は、ユリカとイチカによってバッサリと切られてしまった。

 そうだよなぁ、フリーでやってて強い奴なんて都合の良い話があるかって話だし、今からプレイヤーを育成するにしても間に合わない。

 第一、仮にそれが出来てもそいつ自身の技量が育たなかったらただの徒労に終わるし……あぁっ、八方ふさがりだ。


「んー……別に、この人数でやってもいいんじゃないッスか?」


「えぇっ? ユージンさん、本気ですか?」


 頭の後ろで手を組みながら、ユージンだけはいつも通りに振舞っていた。

 イベントの会議ともなればランコもユリカも俺も緊張が走っているのに、今回のユージンは落ち着いている。


「俺、やっぱりあんまり人がいない集う勇者だからこそ良いと思うんッスよ。

それに、相手の数が多くたって、少数でそれを覆すってのは昔ッからの王道ッス、だから……集う勇者には、ピッタリだと思うんッス」


「大軍を相手に少数で勝つ? 馬鹿を言うな、ユージン。兵糧攻めが出来る現実ならともかく、このSBOでそれが出来るものか。

 やはりここは僅かな戦力補強にしかならずとも、プレイヤーを新たに加入させるべきだ」


「そうかな、あたしはユージンの意見に賛成だな」


 イチカが理路整然と言ったところに、鈴音が頬杖を突きながら言った。


「何故だ、お前は勝ちが欲しくないのか」


「だってさ、集う勇者そのものの目的ってさ、イベントとかで必ず勝つこと、だっけ? 集う勇者はトップを目指すのが一番の目標だっけ?」


「……違うよな、私とムーンが入った理由はそんなガチガチなギルドだったからじゃないよなぁ」


「そうです、僕たちが集う勇者に入りたいって思ったのは、ゲームを楽しんでる皆さんを見たからです!」


 鈴音、スター、ムーン。イチカの問いかけに答えた三人の言葉は、この場にいる誰もに新しいメンバーを見つけることを諦めさせるのに十分だった。

 だって、俺たちはイベントでトップギルドと並び立つことだけを目標に戦ってきたんじゃない。


「そうだ……この場にいる俺たちは、SBOを純粋に楽しむだけにこのギルドを結成したんだ」


「ですね。仮にビリケツだったとしても、楽しめたらそれで上々です!」


「うむ。ならば方針は決まったか、ブレイブ」


「あぁ。よし、皆……俺の言葉に、従ってくれるか?」


 俺は立ち上がって、第五回イベントにあたって集う勇者が何をするかを決めたことを話す。

 ただ楽しむだけ、今の俺たちでやれるところまでやる、絶対的な優勝を目指す必要なんてない。

 けれど、少ない人数では勝てない。そんな道理なんて、俺たちがこの手でぶっ壊してやる。


「漢ブレイブ・ワン! そして集う勇者の面々で、まかり通るぜ!」


「応!」


 皆の声が、一つになった。

【アーサーの領土が特別な理由】


スタッフA「王の騎士団は贔屓して他のプレイヤー焚きつけるか」

スタッフB「いいね、イベントのオッズがいっつも王の騎士団で埋まるから、他のプレイヤーにも育って貰わなないとな」


中々酷い話でもある。

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