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第百九十四話:観光、七王領土。

「……あれからほんのわずかな時しか経っていないのに、随分頑張ったじゃないか。ブレイブくん」


「えぇ。30枚以上見せられたのが嘘のようですね……この短期間で何があったというのです?」


 最悪なプレゼンをしてから、その翌日。

 俺は頭を下げ、七王全員での集会をもう一度開いて貰い、集う勇者領土のプレゼンを行った。

 ただプレゼンのためだけに見て回ったことじゃなく、俺自身の気持ちを込めて作った資料。

 実際に楽しんだからこそ知れる情報、それらを込めて出来上がったもの。

 これは皆に好評だったみたいで、今現在アーサーとモルガンが拍手をしながらコメントをくれた。

 

「ありがとな、二人とも……でも、ただ紹介しに来たってわけじゃないぜ」


「ん?まだ何かあるのかい?」


 こうして領土をお互いに紹介し合ったからこそ、俺は閃いたことがあった。

 皆魅力的な紹介だったし、それぞれの領土の違いってのもよくわかった。

 だからこそ、だ。


「お互いに領土を覗く企画なんだけどさ。それを今からこの七人でやる、ってのはどうだ? お互いの戦力を知るって目的だけじゃなくてさ、ただ単に、観光ってことで!」


「……ふむ、敵情視察も正々堂々としていた方が悪い気はしませんね」


「それいいですね! 私、そういう風にパーッと楽しみたかったです!」


 顎に手を当てて感心するKnighT、目を輝かせて身を乗り出してくるカエデ。

 アーサーとモルガンも『なるほど』と頷いているし、カオスとイアソーンもまんざらでもなさそうだ。

 ……なので、これはもう決まったも同然だろう。


「異論はないみたいだし、どの領土から巡るか話し合ってみようか」


「うむ、ならまずは我が領土から見るがいい! あいうえお順ならば真っ先に来るし、何よりもインパクトがあるからな!」


「アルゴーノートの領土は確か海があるんですよねっ、もしかして漁業とかやってるんですか?」


「あぁ。アルゴーノートのプレイヤーたちで日々海産物系アイテムを取って、市場に売りさばいているのだ。

それに取れたての海産物は絶品だ、【ブレイドトロ】や【クイーンオクト】を捌いて刺身で食べた時は感動で体が震えたとも。

ギリシャの英雄に憧れ、その真似をし神秘を探るサークルの部長たる俺もやはり日本人。日本の文化たる刺身はこの脳に良く伝わってくる!」


 イアソーンが自慢げにそう話すと背もたれに体重を預け、やや早口でまくしたてて天を仰いだ。

 よっぽど美味い刺身だったみたいだな……まぁ、俺は生魚が苦手だからその感動を共有できることはなさそうだけど。


「ハッ。所詮海だろ? そんなのインパクトに欠けるぜ。俺の領土に来いよ、魔界仕様で禍々しさマシマシだぞ。

いかにもな魔界の料理って感じで、見た目はとんでもないものが多いけれど、味は絶品だぜ」


「真の魔王の領土……確かに物珍しきものが多かったですね。地獄のスープとやらは私も気になります、魔女ですから」


 イアソーンを一蹴し、プレゼンでも語っていた『禍々しさ』を披露したがるカオス。

 モルガンもカオスの領土が気になっていたみたいで、興味津々な態度でカオスの方を支持し始めた。

 すると、イアソーンとカオスはまたしてもにらみ合い──


「ふんっ、料理とは見た目も売りにしてこそなのだ。毒々しい見た目の料理など、口に運ぶことが出来んわ」


「ハッ。そっちだって生魚の死体を陳列しただけのものだろ? それで見た目を語るかよ」


「なんだと!? 日本人のくせに日本文化を馬鹿にするか! この性別詐称野郎!」


「あぁ? お前こそゲーマーのくせにロマン詰まった魔界料理馬鹿にしやがって! 今日こそ消し炭にしてやろうか!」


 言い合いに発展して、今度はお互いの胸倉をつかみ合い始めた。

 アーサーと俺は『また始まったよ』と顔を見合わせ、ため息をつくしかなかった。

 カエデとモルガンはどことなく申し訳なさそうに見てる、歳の差故に何を言えばいいかわからないって感じだ。


「……そうやって我先にとアピールをしなくても良いでしょう。ここは間を取って、私たちの領土を一番最初にしましょう。

最初だからこそ、食べ物などにはとらわれずして、朧之剣に相応しい清く正しく美しい領土全体を楽しむのが良いかと」


「どさくさに紛れてトップバッターを奪おうとするな! やはり最初はアルゴーノートからの方が良いに決まっているだろう!」


「そうだぞ、コスいぞKnighT、くっ殺とかやってそうなくせに……っつか、真の魔王が最初の方がいいだろ。盛り上がり的な意味でも」


「くっ殺? そんなことしませんから! 私が窮地に追い込まれるような相手など両手で数えれば足りるくらいしかいませんからね!」


 KnighTが手を挙げたかと思えば、イアソーンとカオスが一緒になってKnighTを睨み始めるし、言い争いも加速してるし。

 モルガンとカエデは困った顔を見合わせ、ため息を吐き始めてるし、アーサーもやれやれって表情だ。

 ……俺、こんな喧嘩を誘発させに来たわけでも何でもないんだけどなぁ。


「うむ、確かに皆の意見もわかるさ。自分の領土をアピールしたいっていうのはね。

でも、ここは発案者であるブレイブくん……即ち、集う勇者の領土から見て行くのが筋ってものじゃあないのかい? 集う勇者の領土を見たら、そこから一番近い所を順々に回っていく、という形で」


「……しょうがないですね、ではそうしましょう」


「まぁ、ここで平行線な言い争いを続けた所で無駄であるからな……ここは大人しく折れてやるとするか」


「だな……それに、集う勇者の領土は俺も実際に行ってみたいし」


 このまま喧嘩が激化して殺し合いになってしまうんだろうか──と思っていたら、アーサーの一言で三人は落ち着いた。

 トップバッターを手に入れてしまったのは光栄だけど、俺が最初でいいんだろうか。

 俺個人としては、王の騎士団の領土から見て回ってもいいと思うんだけどな。


「俺が最初でいいのか、アーサー」


「構わないよ。直近のイベントで優勝したのは集う勇者だし、次の都市解放戦が来れば君に指揮官を任せたいくらいだからね」


「ハハハ、絶対やめろよ」


 俺は笑いながらもマジのトーンでアーサーに釘を刺し、七王全員を連れて集う勇者の領土へと足を運ぶ。

 まぁ……そこからは特に言うこともなく、皆普通に新しいマップへ来たMMOプレイヤーって反応だった。

 あちこちキョロキョロ見回したり、気になるNPCに話しかけたり、あれはなんだこれはなんだと俺に聞いて来たり。

 その度に説明をしていたから、俺はただのガイドさんって感じになっちまったな。

 ちなみに、旧ギルドホームを領土に移築したことを話したらアーサー以外に『お前もか』って目で見られた。


「さて、と。そんじゃあ次はどこに行く? 領土が近いのは朧之剣とメイプルツリーだけど」


「朧之剣から希望します。見なさい、朧之剣の領土の方がその次になるアルゴーノートの領土との距離が近いです。

メイプルツリー領土から最短で行けるのは真の魔王。彼の領土とは距離が少し離れている以上、最後に回した方が良いかと」


「確かに姉さんの言う通り、朧之剣から見て行った方が短い間隔で領土から領土へ移れそうだね」


「二番手が私ですか。それは嬉しいですね」


 モルガンの言葉に全員が賛同したこともあって、朧之剣の領土へと向かうことになった。

 フィールドを歩くことになったが、まぁ、このメンツならフィールドボスだろうと瞬殺して横切れるから問題ない。

 そして朧之剣の領土に到着すると、すぐに俺の視界に巨大な十字架が飛び込んできた。


「うむ、プレゼンのイメージ通りの領土というところか……いいね」


「……圧巻ですね、KnighTが領主だというのにピッタリです」


「えぇ、これが朧之剣の形を最も表しているのだと、私自身も一目見て感じました。運営のセンスも中々のものです」


 アーサーとモルガンが感心した様子を見せ、KnighTはちょっぴり自慢げな顔だ。

 カエデはさっきから「はぇー……」って声しか出してない、都会に来た田舎者かよ。


「中々綺麗な街並みだな、真の魔王と真反対だ」


「フン、宗教に縋った者どもの街など、我がアルゴーノートに比べれば大したこともないわ……点数をつけるとしたら、86点というところだ」


 あちこち見まわして楽しそうにするカオスと、態度に反して高評価なイアソーン。

 そんな二人を見つつも、朧之剣の領土にある宗教とやらが気になってくる俺。

 KnighTに聞いてみるか。


「KnighT、朧之剣の領土で信仰されてるっていう宗教について教えてくれないか?」


「お安い御用ですよ。と言っても、そこまで難しい話ではないのですがね。

この世界における神は【猫】の姿を借りて顕現しており、どの猫が神であるかは人間など矮小な生物には見分けがつかない……ということで、ひたすらにあらゆる猫を崇め、大事にするという教えを広めているのです」


「へ、へー……」


 凄まじく混沌とした設定の宗教だな……と思った。

 でも、猫をもふもふしたりしてるって宗教なら、平和そうだ。


「猫が神の使い、として描かれている作品は少なくはないからね。

そういう解釈もあるのだと思えば、大して気にはならないと思うよ」


 アーサーは道を歩いていた猫の顎を撫でながら言う。

 カオスやモルガンはそれに頷くが、イアソーンは微妙な表情だ。


「だが、猫というのは愛玩動物であろう? それを何故そこまで崇拝するのだ?」


「まぁ、確かにそうだな……ペットショップでも見かけるし、ゲームの中でも可愛がられる存在だし」


 俺もイアソーンの疑問に頷く、ペットとして飼われてる猫を拝んでる奴なんて見たことねぇよ。


「例え猫様が神の化身であるかどうか、神の使いであるか、どういう風に解釈するかもその者の自由です。

ぶっちゃければ、ただの愛玩動物と感じていようとそこはさしたる問題ではないのです、大切なのは猫様を可愛がって大事にするかどうかですから。

それに……私はリアルで住居に猫様に住んでいただいているので、神であろうとどうであろうと崇拝するのは変わりません」


「ふむ……なるほど、そういうもの、なのか……」


 納得したのかしないのか、よくわからない返事をするイアソーン。

 そんな会話をしながら歩いていると、目の前に巨大な壁が立ちふさがっていた。

 その壁には大きな扉があり、その上には『朧之門』と書かれた看板がある。


「朧之門? んだこりゃ」


 門番がいるわけでもないが、とんでもなくデカい門なだけに開けられそうにない。

 壊すだけなら出来るかもしれないが、そんな真似をしたらKnighTがキレながら斬りかかってくる未来しか見えない。


「ここは朧之剣領土中心こと、領主館がある朧之門の入口です。

この先には領主館があるので、ご案内します」


「おぉ、領主館か。楽しみだな」


 集う勇者領土の領主館は特に売りなところは何もなかったからな。

 せいぜい、誰が持ち込んだかもわからないワインのコレクションがあることだ。


「こちらです。どうぞ」


「お邪魔しまーっすっと」


 俺たちはKnighTの先導に従って、朧之剣の領主館へと足を踏み入れた。

 集う勇者の領主館と似ているけれど、違うところがあるとすれば宗教色に染まってる感じがあるな。

 集う勇者の領主館はいかにもただの館って感じだったけれど……朧之剣の領主館は十字架があったり、猫の肖像画があったりと、猫を崇めるための場所って感じだ。

 本当なら、ここに大聖堂が建つ予定だったって聞いても信じられる。


「ここ、地下に猫様の銅像を祭るための祭壇などもあるんですよ」


「なにそれすごい」


 しれっ、とKnighTが言った一言に、俺はこんな言葉しか出てこなかった。

 さっきまで感心しつつも余裕のあったアーサーたちも無言……特異性が強すぎるんだな、この領土。


「では、私はここで失礼します。皆、こちらの部屋で少しくつろいでてください」


「おう、サンキュ」


 しばらく歩いたところで、客室と思しき部屋に案内された俺たちは各々ソファやら椅子やらに座った。

 KnighTはやや駆け足でどこかへと行ってしまったので、待つだけの俺たちは暇だ。

 というか、地下のことを聞かされてすぐに客室に案内されたので、この領主館のことを全然見れてない気がする。


「……こっそり探検とか行こうかな」


「お、少年心をくすぐられるね、それ」


「ガキじゃあるまい。威厳というものはないのか、貴様らには」


「ゲームで遊んでる時くらい童心に帰ったっていいだろ。取り繕ってると疲れるぜ、イアソーン」


 俺がボソリと漏らしたその言葉にアーサーが賛同し、カオスも乗り気みたいだ。

 イアソーンだけは嫌そうだけど、それなら自動で出てきたお茶を眺めつつ一緒に来た茶菓子に手を伸ばしてるカエデやモルガンと仲良くしてろよ、と思った。


「さてと、レッツゴーだぜ」


「ハハハ、待ちたまえよブレイブくんっ」


「俺も俺もー」


「あぁオイ、まったく貴様らという奴は……!」


 と、そんなこんなで俺、アーサー、カオス、イアソーンは部屋を飛び出してあちこち探索し始める。

 四人ともバラバラに探索を始めたが、面白いものがあればすぐに飛びつくことになるだろう。

 だって、面白いものは、皆で見た方が良いからな。


「……さーてと、何があるかな」


 俺は廊下をズンズンと進み、片っ端から扉を開けてみたりするけれど、中には誰もいない。

 けれど、流石領主のための屋敷と言うべきか、とにかく広いし豪華な造りになっている。

 こういう屋敷、ってタイプはあんまり見たことなかったし、なんだかテンションが上がってきたぜ!


「ん? これは……」


 廊下を道なりに沿って歩いていると、少し豪華なつくりの扉を発見した。

 両開きの扉だし、他の扉と材質も違うし……KnighTの部屋だろうか。


「こりゃちょーっと気になるなぁ」


 いくら乙女の部屋とも言えども、漢の好奇心ってものは猫だろうが神だろうが殺す。

 ので、俺はそーっと扉に手をかけて、ゆーっくりと、やさーしく扉を押す。

 すると、ギィイ……と音を立てながら、ゆっくりと扉は開き……中の衝撃的な光景を映し出した。

 俺は中を見て、絶句せざるを得なかった。


「はぁぁぁ……猫様、しゅきぃ……すー、はー、すー、はー……なんでもうこんな可愛いんですかぁ? ズルいですよ、猫様、猫様ぁぁぁ」


 いつも凛としていて、表情を顔に出すことがあってもだらしない顔はしなかったKnighTが。

 女のプレイヤーからも憧れられるほど、しっかりしていて、騎士らしい振る舞いをしていたKnighTが。

 猫の腹に顔をうずめ、鼻息を荒げて何故か腰を小刻みに動かしていた。

 猫のせいで顔は見えない……けれど、耳まで赤くなってるし、だらしない表情だってのがわかる声色だった。


「……人って、色々あるんだなぁ」


 なんかもう、俺の中の何かが崩れ去った気がする。

 でもまあ、仕方がないよな……誰だって、そういう一面の一つや二つはあるよな。

 勝手に俺が驚いただけで、KnighTからしたら別になんでもないことで。

 だから、俺が今こうして困惑しているのは、あんまり良くないことなんだな、と思って。


「ブレイブ・ワンはクールに去るぜ……」


 小さく、KnighTに聞こえないくらいの声で呟いて、踵を返そうとしたら。


「ふぅ……堪能しました。さてと、皆さんを待たせていますし──ぇ」


「ぁっ」


 うずめていた顔を出し、だらしなくしていた顔をキリリとさせたKnighTとガッツリ目があった。

 そこから、語りたくもないほど壮絶な光景が繰り広げられたことなど、言うまでもなかった。


「忘れなさい、ブレイブ・ワン! なんとしてでも忘れなさい! わーすーれーなーさーいいいいいいっ! 」

【猫教】

 朧之剣に与えられた領土の固有設定である【宗教】で、神様の名前と姿などを決める際に、KnighTが猫を選んだ結果生まれたSBO内の宗教。

 朧之剣の領土に住むNPCたちは猫を愛し、猫を崇めている。

 街中で猫に暴力などを振るおうとすると、過激派の教徒がすっ飛んできて一方的に攻撃を加えて来る。

 因みにCaTは「神様のコスプレをしてるやつ」という扱いを受けるため、モテたりしない。

 KnighTとPrincesSはリアルに猫を飼っているので、ほぼ二人の得のための宗教。 

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