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第十九話:俺と鞘華

――剣城家、リビング。

時刻は七時十五分、剣城家長女が作った夕飯を囲みながら両者は互いの目を見て話す。


「……いつからSBO始めたんだ?」


「んー、えーと……四月頃だね、今年の」


「始めたキッカケとかあんのか?」


「四月ってさ、私が引きこもり始めてから大体半年経ったでしょ?

それでさ……人と関わることも怖かったからさ、まずはネットからって思ったの」


……そう、俺の妹の剣城鞘華は引き籠りである。

詳しいことは本人に聞いても『ごめん、言えない』と言われるので知らない。

両親は何故か『あんまり聞かないであげて』と言うので、深く聞いてもいない。

だが外に出る事すら恐れているように見える鞘華は、こうして常に家にいる。

まぁ、戸締りがしっかりしてるかどうか安心できるし、元気そうだから別にいいんだけどな。

鞘華が最終学歴中卒なんてものになっても、見た目の可愛さでいい彼氏が出来るかもしれない。

よく知らない俺が鞘華にアレコレ言える立場ってわけでもないし、鞘華の選択を叱る意味なんてない。

ただまぁ、まさか人と関わることを克服するためにネットを始めたとはな。

学校に通っていた頃……去年の十月頃なんて、インターネットの『イ』の字もない体育会系だったからな、コイツ。


「……それで、そう思ってどうしたんだ?」


「VR機器をお母さんに頼んで買ってもらったの。

人と関わることを、恐れないようになりたいってお願いしてね」


「……学校の勉強とか、それについては何も言われなかったのか?」


「まぁね。多少は言われたけど……一応私だって勉強くらい出来るよ?

今だってネットに落ちてる勉強用サイトとかチラホラ見ながら勉強してるし。

それに、こうして引き籠りから変われるのなら、ってお母さんが言ってくれたしさ」


「そうか。母さんが許したのなら……まぁ、そりゃ誰も怒れないよなぁ」


俺の可愛い妹は、いつも俺に悪戯をするような悪魔の笑みではない笑みを向けて来た。

純粋な可愛さ……それはまるで、天使のような笑み。見た人を恋に落としそうな笑顔。

やめろ鞘華、俺には心に決めた人物がいるわけでもないが、なんか変な気を起こしそうになる。

俺の妹とは思えない程に顔が整ってるし、文武両道でゲームの話題にも明るいとなると俺の上位互換に見える。


「じゃあ、ここからはSBOの話になるけど……名前の由来とかなんかあるのか?」


「特にないよ。ただまぁ、また地面を走っていたいって思いがあったからかな。

走るのラン、って言うのと子供の子で、ランコってつけた」


「そっか、確かお前陸上部だったっけ?」


「そーだよ、陸上部でそれなりに足速かったんだよ」


そう言うと鞘華は味噌汁をズズズ……と飲んだ。

剣道の俺と、陸上の鞘華。足腰が重要なスポーツをやってるからか、やっぱりVRの適性は高いんだろう。

感覚とか反応速度が重要なスポーツだしな、二つとも。


「んで、四月から始めた割には随分とキャラ育ってなかったんだな。

初めて一週間かそこらの俺と大して変わらねえレベルだったじゃねえかよ。

……スキルの練度はお前の方が高かったけどさ」


「まぁ勉強と両立してた……ってのもあるんだけどさ。

私、SBOでどうやって戦えばいいとかわからなくて」


「わからなくて?」


「初期に振るステータス、全部バランスよく振ったんだよ。

120ポイント、バラして20ポイントずつにしてさ。

ゲーム自体、あんまりやらなかったってのが大きいかなー……」


俺は口に含んでた味噌汁を噴き出しそうになっていた。

おかげでむせた。


「……兄さん?」


「いや、すまん。まさかお前がそこまでの超器用貧乏なステ振りするとは思ってなかった。

しかも、それで魔法抜きの槍使いって……ちょっと耐えきれなかった」


「馬鹿にしないでよ、私だって魔法くらい覚えてるよ!バリバリの魔法少女だよ!」


「え?そうだったのか。どんな魔法覚えてんだ?」


「えーと……ほら、ファスト・ファイアとか、そんな感じのを……いくつかと」


「やっぱ器用貧乏じゃねえかよ」


今でもゲームで器用貧乏ビルドな奴がいるとは思わなかった。

道理で攻撃力が俺に比べて低すぎると思ったんだよな。

スキルの威力はとんでもなく高かったけど、通常攻撃が結構弱めだとは思ってたし。


「でもほら、一応、装備の効果は私のステータスに合うようにしてるよ?」


「へぇ、例えばどんなの?」


「スキルの威力上昇補正がかかってるスカートとか……スキルの詠唱短縮が出来るサークレットとか、スキルのクールタイムを短くするブーツとか。

他はまぁ、威力上昇補正系ばっかかなー」


「驚くまでにスキル頼りだなお前……」


SPドレイン系のスキル使ったらコイツ泣きそうなくらい弱いな。

ステータスが素で弱かったらスキルで補う、と言うのは間違ってない。

装備で補うプレイヤーもいるし、そこは千差万別だが……

スキルに頼りすぎると、プレイヤースキルそのものが上がらないこととかがある。

他にも、ゲーム極めた廃人とかだとスキルの挙動だけでカウンター合わせたりするしな。


「でも、結局どういうステータスにしててもさ、私は楽しいよ。

友達が三人も出来て、昨日また二人も増えたんだし」


「あぁ、先輩とハルか。リアルでもお前が知ってるとは思うぞ。

去年までハルはお前と同じ中等部だったんだしよ」


「へぇ、そうだったんだ。

もうそろそろ引きこもり始めて一年経つくらいだし、よくわかんないや」


「そうかい」


俺はそこで丁度飯を食い終わったので、食器を片付け始めた。

鞘華は食べるのが少し遅いようでまだ食べ終わってない。

……もうそろそろ食べ終わりそうなんだけれども。


「で、まぁ……鞘華はVR楽しんでるか?」


「……楽しいよ、毎日が楽しくて元気出てくるよ」


「そっか……じゃあ、その友達は大事にしろよ。

もしリアルで出会う程の仲になったら、そん時はお兄ちゃんにも紹介してくれ。

一度『お前にお兄さんと呼ばれる筋合いはない!』とか言ってみたいからな」


「それお父さんの言う台詞でしょ?」


「いいだろ別に、お兄ちゃんでもいいじゃねえかよ」


「自分のことお兄ちゃんとか言うのやめてよー、なんかこっちが恥ずかしいじゃん」


「ひでえなぁ、オイ……実際お兄ちゃんだろ?」


と、久しぶりにリアルで妹と楽しい会話が出来た思い出、VRで先輩たちと最高に楽しい冒険が出来た思い出。

様々な事を胸にしまいながら、俺は自分の部屋でまた眠るのだった。

明日はどんな冒険が出来るだろうか、どんな敵が待っているだろうか。

それでも、俺はきっと全部楽しんで……共に笑い合えるようなことが出来るだろう。

これにて第一章は終了です。

二十話からは第二章になります。


おまけ ブレイブの装備の効果やスキル一覧等


エクストラシリーズ共通:破壊不可、再生、成長する力

小鬼王の剣:毒撃

小鬼王の小盾:肉壁

龍のハチガネ:再臨

小鬼王の鎖帷子:斬撃耐性20%アップ

小鬼王の鎧:HP割合防御力アップ

小鬼王のグリーヴ:騎乗補正

革の手袋:とくしゅこうかはないようだ

魔力ズボン(黒):SPアップ、MPアップ

回避の指輪+2:回避補正、状態異常無効


【ファスト・スラッシュ】【セカンド・スラッシュ】【サード・スラッシュ】

【斬撃波】

【ファスト・シールド】【セカンド・シールド】【サード・シールド】

【ファスト・カウンター】【セカンド・カウンター】

【エクストーション】

【咆哮】【加力】【加速】

【諸刃ノ剣】


【攻撃力アップⅢ】【防御力アップⅢ】【根性】

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。 何かしらの過去を抱えている剣城君ですが、先輩達とSBOを楽しめている様でひとまず安心しました。 本作は戦闘描写が多く、細かな設定やストーリーも随所で見られる為、こ…
[気になる点] ゲームをしないので、置いてけぼり感を感じてしまいました。 [一言] 剣道部の主人公達がVRゲームでイキイキと動き回る様子を表現されていました。 ほんのりの恋愛要素が良い息抜きになってい…
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