第百八十九話:招待、パーティー。
集う勇者に新メンバーが六人加入し、数日たった日の事。
俺たちは新メンバーとの連携を取れるように編隊を考え、丁度その調整が終わった所だった。
「うーし、これからはこうしてパーティ組むことにするか」
「予想はしてましたけど、私がリーダーやるんですね……考えることが増えちゃって困りますよ、私」
「まぁ、お前以外リーダー向いてる奴が見当たらないからな、許せ」
基本的に周囲を見れる人間じゃないとリーダーにはなれないし、これでも限界まで悩んだ選択なのだ。
実際ハルは優秀なのでリーダーにはとても向いているし、指揮能力に関しては俺よりも高い。
彼女に負担をかけることになるかもしれないが、そこは追々と他のメンバーが指示なしでも連携できるように成長するよう期待するしかない。
そんなこんなで、俺はギルドメンバーにパーティ編成の一覧をメッセージで一斉送信する。
「ブレイブ、来客だ」
「ん」
そうした直後に、Nさんがやや駆け足で俺の近くに寄って来た。走る姿も可愛いな。
和服と草履で走っているからか、揺れる羽織の袖に目が行く。
「誰が来たんです? 面接に文句つけたい野郎どもですか」
「いや、そんな輩は誰一人として来ていない」
面接の結果に納得が行かない、なんて言って直談判しに来る野郎は来ると予想していた。
今回に関しては面接だけで決めたし、加えて他のギルドを斡旋したりもしてない。
俺が気に食わなかったら大体他のギルドでも同じことになりそうだと思ったからな。
「で、結局誰なんです?」
「会えばわかる」
そう言ってNさんが襖を開くと、そこには茶菓子を頬張っているアルトリアがいた。ハムスターかよ。
いつものバトルドレス姿ではなくちゃんとした礼服だ、やや濃いめの青いドレスで走ったりするのには向いてなさそうだ。
「どうしたんだ、急に」
「あぁ、先日の一件の礼を申し上げたいと思った次第だ」
俺が来たと分かった瞬間、アルトリアは食べかけの菓子を皿に置き、立ち上がった。
「礼、か」
「ブレイブ・ワン。並びに集う勇者……そなたらによる協力を得たことで、王の騎士団及び我が一家は安寧を得た」
「んな大袈裟な……別に俺がいなくたって、お前らは自分でどうにか出来ただろ」
モルガン、アルトリア、アーサーの事情ってのは詳しく知らない。
俺はこの三人がまた家族としての絆を結んだ瞬間を見ただけに過ぎないし、礼を言われる程じゃない。
三人揃ってゲームを楽しめるなら、それでいいじゃないかってだけだ。
「いいや、此度の戦争のようなことがなければ、私たちはずっとすれ違ったままだったかもしれない。
涙こそ流れども、お互いに心情を吐露して抱き合う……そのように、円満な解決が出来たのはお前のおかげなのだ」
「……そっか。なら良かったよ、これからも家族で仲良く遊べよ」
俺はそうやって話を切り上げようとする――が、アルトリアに腕を掴まれた。
「ん、まだなんかあんのか」
「故に、私たちは互いのギルドの幹部を交えた上で話し合った」
「お、おう……そ、それで?」
「王の騎士団と魔女騎士団は同盟を結んだため、傘下の集う勇者に報告をしに来たと言うのもある」
報告に来た、って割には俺の腕をガッチリと掴んでいるが他になんかあんのか。
と思ったらアルトリアはストレージから一枚の紙を取り出して、俺の手に握らせてきた。
いったいなんなんだ。
「……招待状?」
「あぁ。やはりこういうことをするのであれば、大々的なパーティーを行うであろう?」
「なるほどな。で、コレと」
招待状について見てみると、どうやらコイツがパーティー会場の鍵になってるみたいだ。
これにプレイヤーを登録することで出入りが可能になる、と書いてる。
登録できる人数は7人までで、幹部勢くらいを連れて行くのが限度ってトコみたいだ。
「我が兄も姉も、集う勇者が来ることを待ち望んでいる。どうか、ここはタダ飯を食らうつもりで来てはくれないか」
「わかってるよ、こっちだって王の騎士団のおかげで助かりまくってんだ。行くよ」
俺は今度こそアルトリアに背を向けて応接間を出て、招待状片手に自室へと戻る。
……そういや、このギルドホームの用意されてる部屋って少ないんだよな。
ムラマサたちも来てくれたから、ちゃんとアイツらがくつろげるような部屋とかも増設したいところだな。
「……やることは山積みなのかもな」
よくよく考えれば、ギルドが出来た頃のメンバーの分の部屋しかないんだよな。
他にも部屋はあったが、そこは応接間にしたりなんだりとで個人の部屋が少ない。
だから、ユリカやイチカでも自分の部屋を持ってないし、他のメンバーも共同スペースにしかいない。
「あー……色々考えても上手い打開策がまとまらねえな」
俺は畳に寝っ転がりながらそんなことを呟くが、返答してくれる奴は誰もいない。
そりゃまぁ、俺の部屋に俺が一人でいるんだから、当然のことだよな。
「……招待状のプレイヤー登録でもしとくか」
俺はアルトリアから貰った招待状を懐から取り出し、プレイヤー登録の欄をタッチしてみる。
まず俺とNさんは当然登録するとして……後は誰にしようかな。
予定が空いているのならばハル、ユリカ、ランコ辺りも検討したい所だが……本人たちに聞いてみるのが良いだろう。
「じゃ、一斉送信でいっか」
Nさん以外のギルドメンバーに『王の騎士団がパーティーを開くみたいなんだけど、参加したい奴いる?』とだけメッセージを送る。
Nさんはもう決まってるし、本人も話題が上がった瞬間行く気マンマンだったのが伺えたし、いいだろ。
「んー……しかし暇つぶしが浮かばんな……よし、寝よ」
返答が来るのも多少は時間がかかるだろうし、しばらく寝てれば全員分の返答が確認できるだろう。
ってことで、お休み世界、そしてお休み俺。
――――
「ん……くぁーっ……うぁっ、よく寝――うおおおおお!?」
目を覚まし、体を起こして視界に入ったのはギルドメンバー全員が正座して待っていた様子だった。
俺は驚きのあまり体を後ろに一回転させた。
「な、何やってんだお前ら!?」
「フフ、こうすればブレイブが起きた時に全員いるとわかりやすいと思ったのでな、並んだ」
「並んだ、じゃねーっすよNさん! 寝起きにこんなのビビりますよ!」
Nさん、ハル、ランコ、ユージン、アイン、ユリカを先頭に、それぞれ後ろに列が出来ている。
その全員が正座をしていて、俺が起きたと言うのに皆正座姿のまんまだった。
「っつか、なんで皆わざわざ俺が起きるのを待ってたんだ?」
「先輩、一斉送信の件を忘れたとは言わせませんよ」
「あぁ、アレか、そっか……」
皆、パーティーに参加したいがためにこうして部屋に集まったってワケか。
ギルドメンバーとの個別チャットの欄を確認すると、皆揃って参加する、参加したい、と言ったメッセージが返信されていた。
「でも、Nさんに聞いた限りじゃ参加できる人数が限られてるって聞いたからさ、誰を選んでくれるかなって」
「ホントはコレで決めても良かったんですけどね、皆乗り気でしたし」
ランコが髪を弄りながら言うと、ユリカは握った右手を左右に振る。
うん、ガチでやり合って決めるってのは確かにどうかと思う、パーティーに参加するだけのプレイヤーを。
「それで、結局のところどうやって決めるのだ? ブレイブ」
「んー……まずNさんは確定として」
俺は正座してるNさんの手を取って隣の方に引き寄せて座らせる。
手を握った途端にNさんの顔が少し赤くなった気がするけど気のせいだろう、俺なら手を握るくらいじゃ赤くならんし。
「じゃあお前ら、礼服とか持ってる奴はまずそれに着替えてくれ」
「れ、礼服……侍にはそんなもの必要とか考えたこともありませんでした」
「うむっ、持っていないね」
「礼服ってこの服じゃダメ……だよ、ね」
ムラマサ、ギンガ、ラシェルの三人はそう言って諦めた。
で、ツカサは普段着のジャケットを礼服だと言わんばかりに無言でアピールするが、普段着を礼服とするのはダメだろう。
モミジはストレージの中を必死に探した後、頭を抱えて凹み始め、ココアも『あちゃー』って顔をし始めた。
新規メンバー組はこれにて全滅……として、他はどうなのか。
「礼服は流石に持ってなかったわ、スッカラカンだし」
「チャイナ服じゃ無理があるよねー……あたしにとっちゃこれが正装みたいなもんだけど、さ」
シェリアと鈴音の二人も礼服はなかったみたいで、残念そうに顔を見合わせていた。
「前のドレス売らなきゃよかったな、あーもったいなっ」
「僕も、タキシード売らなきゃよかった……あぁ、勿体ない……」
スターとムーンは後悔先に立たず、と言った様子でため息を吐いていた。
まぁ、自分にそういうものが必要なことと縁がない、って思えば見た目だけの装備とかは売っちまうよな。
「俺は一応一着買って来たぞ、見ろ」
イチカは買ったばかりの物とは思えないほど綺麗に礼服を着こなしていた。
白いシャツに黒いジャケット、黒いズボン……タイはつけてないみたいだけど、そこは個人の自由なのか。
「カッコいいッスね! これなら女の子もトゥンクってなるッスよ! トゥンクって!」
イチカはユージンは礼服を持っていなかったからか、普段着のままイチカを褒めちぎる。
褒められて悪い気はしないようで、イチカもやや照れくさそうに鼻をこする。
「ま、私たちは当然持ってますよー、ほらほら」
「女子会の時に着ていたもんね、ふふっ」
ユリカとランコは女子会とやらでも着ていたらしいドレスを身に着けていた。
濃いめの黒を基調とした黒いドレスを纏い、金髪と映えるアバターを披露するユリカ。
その一方で、青い髪と合うような白いドレスを纏い、ユリカと対になったカラーのランコ。
「私だってこないだ買いましたよ、ちょっと恥ずかしいですけど……女子会の時、普段着で参加したせいでちょっと浮きましたし」
そう言うとハルはピンク色のドレスを取り出して纏った。
普段は髪がピンクなだけに、ピンク色の服を着なかったハルにしては珍しい色だ。
まぁSBOのアバターは髪色が茶だし、合わない色ではないな。
「よし、じゃあイチカとランコとユリカとハルも参加でいいな……あ、Nさんも礼服持ってますよね」
「当然だ。お前のジャケットに合わせるように手に入れたおいたのだぞ」
Nさんはやや濃い緑色を基調としたドレスを身に纏い、腕を組んで見せる。
俺は4人をそんなNさんの隣やら後ろやらに座らせ、これで参加メンバーは俺含めて6人決まった。
「で……他はいないみたいだな」
残念なことにアインも礼服の類は持っていなかったみたいで、凄い悔しそうな顔をしている。
こういうものはフツーの服屋やら防具屋じゃ中々売ってないし、今すぐ揃えるのは難しい。
プレイヤーから買い取るか、モンスターを倒した素材とかで作って貰う他はない。
となると、運よくでも買って来れたイチカは奇跡だな。
「うーん……まだ1人参加出来るけど、無理に連れてく必要はないかもだし、参加メンバーはこんなもんでいいか?」
「団長殿に恥をかかせるわけにはいかないからね。良いのではないかな?」
「そうだな、集う勇者の看板に泥を塗るような真似等出来んからな」
ギンガの一声にムラマサも賛成し、他のメンバーも口々に賛同して頷き始める。
他のメンバーたちには申し訳ないけれど、今回はこの6人でパーティーに参加することにしたのだった。
魔女騎士団、王の騎士団同盟設立記念パーティー……楽しみでもあるが、ちょっと後ろめたいな。
「ブレイブさん!」
「ん、どうしたユージン」
何か意を決したような顔をしながら、俺たちの前に腕を組んで立った。
「俺たちの分まで、存っ分に楽しんできてくださいッス!」
集う勇者の皆を背負ったかのようなその一言と共に、ユージンは俺の肩を叩いた。
俺にとってはそれが、まるで気にすることはないって言われたみたいで――
ほんのちょっぴり、涙が出そうになるくらい嬉しかった。
【ブレイブの着ている礼服】
フィールドボスからドロップしたボロボロのジャケットにズボンなどをキョーコに頼んで仕立て直して貰ったことで出来上がったもの。デートの時に着ていたものとは違う、大悪鬼シリーズをイメージするような群青色。
【N・ウィークの着ているドレス】
刀スキルに関するクエストを攻略していた際に、倒した敵から偶然ドロップしたドレスをキョーコに仕立て直して貰ったもの。元は黒に近いほどに暗い色だったが、仕立て直す過程で色が少し明るめになった。
【ユリカの着ているドレス】
王の騎士団時代にアルトリアから『礼服の一着も持っていないと恥をかく』と教えられたことで、プレイヤーから購入したもの。予算は度外視しているため結構な高級品でパラメータもそれなりに高い。
【ランコの着ているドレス】
ユリカがドレスを持っているということを知り、裁縫スキルの高いプレイヤーにオーダーメイドで依頼して作らせたもの。綺麗かつ動きやすくしてほしい、という無茶な注文を両立させた一級品。
【ハルの着ているドレス】
女子会で皆が礼服などを持っていると知り、二度と恥をかきたくないと思ってドレスなどをドロップする可能性もあるモンスターを片っ端から倒して手に入れたもの。もちろん手に入れた時はモンスターの身に着けていたもののために装備出来なかったが、キョーコに仕立て直して貰うことで着れるようになった。
【イチカの着ている礼服】
バザーみたいな感覚で売られていたものをそれぞれ購入したもの。他の男性プレイヤーとの奪い合いになったが、決闘でどちらが買うかを決めて手に入れた。