第百八十八話:この人と同じ世界に生まれて
「おう、皆仲良くやれてるか?」
「おぉッス、スッゲー話のわかる奴で俺はこの人気に入ったッスよ!」
「あぁ。俺とここまで馬が合う男がいるとは思いませんでした」
早速、ユージンとムラマサは俺とNさんが面接をしている最中に仲良くなったらしい。
何でも彼等は好きなものが結構共通しているらしく、同じ趣味ってこともあってすぐに仲が良くなったようだ。
「ンー、実に素晴らしい。魔法と近接戦闘の組み合わせをここまで語れる者がいるとは」
「俺も驚いたな。俺と同じ思考に辿り着き、同じことを実行する者がいるとは思わなかったぞ」
「素手で戦う良さがわかるなんてマジいい男じゃーん、あたし感激したわ」
ギンガとイチカと鈴音は戦闘スタイルが似ていると言うことからか、かなり仲良くなっていた。
いつの間にか木の樽で作られたジョッキで乾杯して、中身を一息に飲み干して満面の笑みだ。
イチカの笑顔を見るのは初めてだな……鈴音もはしゃいでるし、この三人は組ませたら面白そうだ。
「えっへへー、そんなに大事だって褒められると照れるなぁ」
「いやいや、本当に大事だって。ラシェルさんのおかげでボス戦の攻略難易度も大分変わるもん」
集団面接で採用することとなった、集う勇者初の支援が出来るヒーラーこと、ラシェル。
近未来なデザインの白とマゼンタの制服に、ボアがたっぷりとついたマゼンタのマイクロミニスカート、白とマゼンタのブーツはそれらの統一感が溢れていて女の子らしい格好だな。
彼女は照れながら頭をポリポリとかいてユリカと話しており、早速仲良くなっている。
ラシェルはハイレベルかつ支援特化の魔法使いって事もあって集う勇者にとっては重要なプレイヤーだ。
ハルや俺も攻撃を受け止めるためにはヒーラーが必要だし、ユリカの言うことはごもっともだ。
「コイツは俺の舌に合うような味だといいんだがな。俺は料理にはうるさいぞ」
「安心しなってば。あたしはこれでもいろーんなご飯食べて来たし、SBOでの料理の評価には自信ある方だからさ」
ラシェル同様、集団面接で採用することとなった弓使いの男、ツカサ。
黒いジャケットにマゼンタカラーのネクタイ、紺のシャツに黒いズボン……とまぁ、随分オシャレな奴だ。
とても弓使いには見えない格好だが、これはこれでちゃんとれっきとした装備らしい。
彼はシェリアとSBOの美味い飯について話し合っているらしく、少なくとも険悪ではなさそうだ。
むしろシェリアは楽しそうだし、ツカサの口元にも笑みが見えるから仲良くやっていけそうだな。
「フッ、汝もこの銃に宿りし闇の波動を感じるか? 勇者足る者、光と闇には……」
「あー、うんうん。私マジで呪われたりしたし、感じます感じまーす」
「おぉ……魔銃使いの人って初めて見た……カッコいいですね!」
集団面接で採用することとなった魔銃使いの少女、モミジ。
彼女は眼帯をつけて鍔の広い帽子を被り、赤黒いマントなんて纏っちゃって格好つけている。
MPを利用して攻撃する武器、魔銃の使い手であり、マントさえなければ西洋のガンマンらしい格好だ。
ファンタジーな要素が崩れないかと心配になる部分はあるが、意外にもSBOとマッチしている。
加えて、その格好つけぶりがムーンには格好よく感じるようだし、スターも絵の題材にしている。
この3人は上手くやっていけそうだな。
「へー、ランランもココアと同じ槍使いだけど剣も使うんだ~。マジリスペクト! 器用じゃん!」
「これでも万能手目指してますし、そう言って貰えると嬉しいです」
「ランコさんは凄いんですよ、剣と槍を同時に使うから間合いが二つもあるんです! だから槍の間合いの内に入れても、剣でとりゃーって斬るんですよ!」
「でもさでもさ、アイアイってそのランランと同じくらい強いんでしょ? アイアイもチョー凄いじゃん!」
最後に採用することになった斧槍使いのギャル風少女、ココア。
彼女はランコ、アインと互いの戦闘スタイルについて話し合っていて、笑顔が絶えていない。
昔からギャルは聞き上手だとは言うが、ランコの魅力について語るアインにちゃんと相槌を打っている。
お姉さんらしいと言うかなんと言うか……いい奴だな、ココア。
「皆さん、上手くやって行けそうで良かったですね」
「……あぁ、そうだな。面接をしっかりとやって良かったぜ」
ハルはホッとしたように胸を撫でおろし、四十人ほどのプレイヤーを相手にした俺とNさんはお互いに背中を預けて座っていた。
凄い疲れたし、これ以上ログインしているとなんかもう動けなくなりそうだし、今日はもう落ちることにしよう。
「おうハル、後は色々と頼んでもいいか?」
「はい。お疲れさまでした、先輩」
「ならば私も落ちさせて貰おう、私のやることは明日に回す」
そう言って、俺とNさんは二人揃ってメニューを開いてログアウトボタンを押した。
後はハルがそれなりに皆をまとめて、どうにかこうにかやってくれるだろう。
明日になったら一人一人と交流していって、誰がどれだけできるかを改めて図ろう。
その上でパーティ編成を決めて……あぁ、団長ってのはやることが次々に浮かんでくるもんだな。
「剣道部も上手く回してかねえとな」
リアルに戻っての第一声はそれとなり、俺はリアルのことを考え始めていた。
課題の類は終わらせたし、後は腹が減ったから飯を食うか――
なんて思っていると、キーンコーンと家のチャイムが鳴り始めた。
「……なんか頼んだっけ」
ネットショッピングなんてした覚えはないが、鞘華のものかもしれない。
仕方ない、ここはお兄ちゃんとしてちゃんと受け取ってやるとしますかね。
「はーい、剣城ですー……って、え、千冬さん?」
「うむ、ちゃんと起きていたか。良かった」
千冬さんが大きな大きな鍋を両手に玄関前に立っていた。
真っ白な割烹着を着ていて、まるで二昔ほど前の主婦みたいだ。
ってか、ログアウトしてからまだそんな経ってねえはずなんだけどな、どんな速度で来てんだこの人。
「夕餉、まだなのだろう」
「あぁ、そうっすね。まだ食べてないです、ハイ」
春休みを利用してでのこの面接だったわけだから、簡素な昼飯を食べてから何も腹に入れていない。
おかげで俺の食べ盛りな腹は「ぐう」と音を鳴らしていて、空腹感で頭が支配されている。
「そうなるだろうと思っていて、私がお前のために食事を作っておいたんだ。食べるか?」
「わぁ、食べます食べます」
「では台所を借りるぞ、コイツを温め直すのでな」
千冬さんはそう言ってから玄関からスタスタと歩いて行き、リビングを通ってキッチンへと入った。
キッチンは昼の後片付けなどがもう済んでいたので、整理整頓されてもう何もない。
「よっと」
鍋をコンロにおいて火にかけて、中火で鍋の中身を温め始めた。
……中身は何だろうか、と質問する前に千冬さんの口が開いた。
「やはり栄養があった物が良いと思うのでな。豚汁を作って来たぞ」
「お、多いっすね……」
鍋のサイズがデカいし、中には具材も汁もたっぷりと詰まっている。
これを軽々と持ってこれたのは千冬さんの筋力ありきだというのは、彼女を知る俺からはよーくわかる。
彼女の筋肉は見た目から想像できないほどに強くって、前に腕相撲をやったらこっちの肩の関節が外されかけたこともある。
だからまぁ、両手でも手を回しきれないほどの大鍋にたっぷりと具材が詰まっていようと持てるんだろうな。
「お前は良く食べるし、いくらあっても問題ないだろう?」
「まぁそうですけど、俺ぁ盾塚みたいに食えるわけじゃないっすからね」
「フフ。安心しろ、お前が食べきれるだけの分量にはしてある」
いや、だからそんなに食えないっての……と言っても、数日かければ食えるか。
毎食豚汁にはなるだろうけど……鞘華もいるし、いざとなったら百合香や盾塚や優真も家に呼ぼう。
千冬さんの料理は絶品だし、きっと皆喜ぶだろうな。
「うむ、温まったな。早速食べるぞ」
「おいっす」
俺は豚汁を入れるための器を三つ用意し、ご飯茶碗に朝に炊いておいた米を盛る。
豚汁と米だけでも十二分にお腹がいっぱいになるであろう量なので、安心できるな。
「さて、では頂こう」
「はい、いただきます」
「うむ、召し上がれ」
手を合わせてから箸を取り、まずは豚肉から口に運ぶ。
脂身の少ないスライスされた肉だが、しっかり噛めるし、固いってわけでもない絶妙なラインだ。
しっかりと煮込まれてるからか噛めば噛む程旨味が出て来るし、凄く美味いな。
「美味いっす」
「そうか、それは良かった」
千冬さんは嬉しそうに笑みを浮かべながら自分の分の豚汁を口に運んでいく。
その所作一つ一つに美しさがあって、思わず見惚れてしまう。
本当に綺麗だなこの人。流石俺の彼女と言う他ないな、うん。
「む? どうした? 私に何かおかしなところでもあったのか?」
「いや、なんでもないっす」
千冬さんに見蕩れていたなんて恥ずかしくて言えないので誤魔化しつつ、俺は次にジャガイモを食べる。
これもホクホクしているが煮崩れはしていないし、味付けも丁度いい塩梅で実に良い。
次はニンジンとゴボウ、大根を一気に食べて、ニンジンと大根の甘みを味わいつつゴボウの歯ごたえを楽しむ。
最後にはプルプルとしたこんにゃくとややしゃっきりした長ネギを口に運ぶ。
ズズズ……と汁を口に運び、少し硬めに炊かれた米と一緒に味わう。
と、そんなこんなで俺たちは途中でお代わりしつつも腹いっぱいになるまで豚汁を食った。
が、鍋の中にはまだまだあるので、やっぱり後日皆を呼ぼうか、と考えた。
「……上手く出来ていたか? お前好みの味だと良かったのだが」
「はい。満点の出来でしたよ、スッゲー美味かったです」
食べ終わった器や箸を洗って、俺と千冬さんは特にやることもないのにリビングに鎮座していた。
正直やることがないのなら千冬さんも帰れば良いのに、と思うが千冬さんは動かない。
……俺の部屋にでも上げようかな。
「俺、部屋戻りますけど。来ます?」
「……あぁ、では言葉に甘えさせて貰おう」
千冬さんはそう言って割烹着を脱いでから、その下に着ていたオシャレな普段着と共に俺の後ろを歩き出す。
白シャツと黒いスカートなんてシンプルな格好だが、千冬さんは美人なので何着ても似合うな。
なんて思いながら俺は部屋のドアを開け、千冬さんを椅子に座らせてから俺はベッドに腰かける。
「なんか、します?」
「……そうだな。しようか」
「何をです?」
「こっ、こういうことをだ」
千冬さんは顔を赤らめつつも、何か決意めいた眼差しをして俺の肩を掴んだ。
何だろう、まさかキスだろうか。卒業式のあの日にしてくれたキスをまたしてくれるのだろうか――。
なんて思っていたら千冬さんは俺の肩を強く掴んで、抗えないような力で俺をそのまま押し倒した。
丁度枕に頭がボフッと埋もれたので痛い思いはしていない。
「……何の真似ですか、千冬さん」
「お前。さっき私に『抱かせてくれ』と言っていただろう」
「それはハグのつもりだったんすけど」
「どっちでも良いだろう、私もお前も互いを愛し合っているし、恋人なんだ」
……それはそうだとしても、いくらなんでもこうして押し倒されるって準備が早すぎじゃなかろうか。
というか、さっきからうるさい程に心臓がバクバクとなっていて俺の思考回路は壊れそうだ。
ギリギリ平静を保てているが、これ以上何か少しでもおかしくなったら何も考えられなくなりそうだ。
拳をグッと握ってこうして思考こそ保てているけれど、心臓がうるさい、思考がまとまらない。
「勇一、私は……太刀川千冬は、お前のことが好きだ、好きで好きで好きで……愛おしくてたまらない」
「俺も千冬さんのことが大好きですよ。どんなものよりもね」
「なら。構わないだろう? お前も私も、一人前になったっておかしくない時だろう」
そう言って千冬さんは俺のジャージの上着のチャックを下ろし、シャツの裾をまくり上げて来る。
彼女も彼女でスカートのホックを外して、チャックを下ろして脱ぎ始めている。
「勇一。頼む、私からの頼みなんだ」
「……順序、間違えてないですかね」
「帳尻さえ合えば良いんだ。だから、頼む」
「……だとしても、俺は──」
「勇一。どうか、頼む」
「……仕方ねえな、千冬さんは」
どの道、俺だって元々夢見ていたことなんだし、遠慮する必要なんてどこにあろうものか。
千冬さんのことが大好きだって言うんだったら、これくらい遠慮する必要なんてないだろう。
あぁそうだ、見栄なんて張って順序がどうとか言ってる場合じゃあないな。
目の前の超絶可愛いくて大好きな人が求めてるって言うのに、それに応えられないんじゃ漢じゃないな。
「大好きですよ、千冬さん」
「私もだ、勇一」
俺たちは思わぬ展開から、そのまま混ざり合うように……一つになった。
鞘華は空気を読んでくれたのか、それとも本当に気付かなかったのか、俺たちの部屋の前で音は立てなかった。
何もアクションを起こすことはなかったし、鞘華は本当にしっかりしているなと思った。
そして千冬さんはどんな時でも可愛くて、どんな時でも本当に凄い人だった。
だから……まぁ、この人の処女を貰って、この人で童貞を捨てられて本当に良かった。
「……こういう時、タバコでも吸った方が格好つくんですかね」
「止せ。私はそう言うものは好きではないし、お前はまだ吸えぬだろう」
「ハハッ、そりゃそうだ……まだまだガキだもんなぁ、俺」
俺と千冬さんは一糸まとわぬ姿で、まだ寒さの残る春の夜に布団を被りながらそんなことを話した。
その後に俺は後ろから彼女を抱きしめて、お互いの暖かさを共有し合った。
「……もっかいやります?」
「全く……あまりの激しさで私とて動けぬのに、お前は元気だな」
「千冬さん相手なら何百回でも持たせますから」
だから、この人は俺の元から離れないで、どこにも行かないで欲しい。
ずっと俺の千冬さんでいて欲しい、俺が世界一好きな千冬さんだから。
だから、だから……ずっと、この人と一緒にいたい。
「……少々痛いぞ、勇一」
「すみません。ずっと千冬さんと一緒にいたいって思っちゃって」
「フフ、安心しろ。私はお前の元など離れてやらぬよ。それこそ……一生な」
あぁ、やっぱりこの人と同じ世界に生まれて、出会えて、剣を共に持って、付き合うことが出来て良かった。
本当に本当に良かったなぁ。
剣城勇一
・非童貞
・彼女持ち
・全国大会常連の剣道部部長
・セブンスブレイブ・オンライン トップギルド【集う勇者】ギルドマスター
・可愛い妹がいる
大分なろう主人公っぽくなってきた男でした