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第百八十二話:魔女VS騎士

「さて……この後で皆がどれだけ頑張ってくれるかで勝負の命運は分かれると言ったところか」


 王の騎士団ギルドホーム最深部、玉座の間にて僕、アーサーはそう呟く。

 誰もいないところだからこそ、こういう重要なことがさらりと言えるものだ。

 このギルド戦争が始まって結構時間が経ってきているけれど、状況は理解しづらい。

 本陣である王の騎士団ギルドホームにはまだ誰も辿り着いていない。

 だが、連合軍からも撃破されたプレイヤーは次々と出ているし、時間次第で情勢は大きく傾くだろう。

 兵の質でも量でも負けているんだし、普通にこうして戦っていては勝ち目はない。

 だが今から策を練ったところで打開する方法なんてものはどこにもない。


「ま、策以外ならあるんだけどね」


 僕はそう言ってから歩き出し、玉座の間からゆっくりと歩いて王城を出る。

 モルガンが自ら出陣して強敵を討った、ならば僕もそれに倣おうじゃあないか。

 自らの手で敵を倒し、僕自身の威光と言うものを知ろ示す。


「王の騎士団。アーサー……出るぞ」


 王の騎士団の納屋にいた僕の愛馬である白馬の【スター=リオン】にまたがる。

 とても足が速い彼がいるから、僕はこうして今までギルド戦争を駆け抜けることが出来た。

 ならば、此度もそうしなければ僕は僕らしく戦い抜いて終われない。


「はぁぁぁっ!」


 愛馬の手綱を握り、僕はリオンに最高速度を出させて走り出す。

 目指すは敵本陣……それまでに道を阻む者は一刀で斬り伏せてくれよう。

 進軍路は当然中央、東西はランスロットとガウェインに任せたのだ。

 ならば、彼等と同じ道を通って行く理由などどこにもない。


「さて、誰が僕と戦ってくれることか!」




――――


 ギィィィ、と重い両開きの扉を開け放つ。

 暗い色を基調とした部屋の装飾で作られたその部屋は正に魔女に相応しかった。

 どれだけ豪華なシャンデリアやカーペットを使おうと、暗い色は暗いものだ。

 王の騎士団の玉座の間とは真逆の印象を受ける場所にその女はいた。

 王たる威厳を示す玉座に腰かけながら笑みを浮かべる、白髪の女プレイヤー。


「初めまして、だな。モルガン」


「あぁ。誰かと思えば……アーサーの妹、アルトリアではないですか」


「残念だが貴殿の目的たる我が兄は本陣にいるのでな。

代替程度の私では足りぬかもしれぬが……我が剣、存分に味わってもらおう」


「いいでしょう。その高慢の鼻をへし折って差し上げます」


 私、アルトリアは魔女騎士団ギルドホームの玉座の間にて腰の剣を抜き放った。

 聖剣エクスカリバーの劣化品、偽剣カリバーン……偽物な上に見た目も違う、そんな剣でしかない。

 だが、奴の持つ黒い魔剣は私の兄であるアーサーの持つエクスカリバーとそっくりだ。

 もしも、あの黒い魔剣が私の想像通りの性能をしていたら私はモルガンには勝てない。


「かかって来なさい、アルトリア。此度はあなたに味わってもらいましょう。

長い時をかけて積み重ねて来た努力が、僅かなる時で磨かれたものに打ち砕かれ、悔し涙と共に地に伏す絶望感を!」


「いいだろう、私も証明してやる。長き時を積み重ねて来た修練は、決してその者を裏切らないと言うことを!」


 モルガンは黒い魔剣を構え、背中の槍を抜かないままに私と対峙する。

 リーチの差を作らず、ほぼ同じ間合いで斬り合うつもりとは思いもしなかった。

 が、それはそれで私にとって都合が良い。


「王の騎士団四天王筆頭、アルトリア! いざ参る!」


「魔女騎士団ギルドマスター、モルガン、参る」


 私は名乗りを上げてから剣をグッと握りしめ――溢れんばかりの力を足に込めて一歩踏み込む。

 ダァン、と地ならしが起きてもおかしくないほどの衝撃と共に地面を蹴っ飛ばす。


「ハァァァッ!」


「フッ!」


 ガァン、と一つの金属音が響く。

 私の剣とモルガンの剣が鍔迫り合いとなった瞬間の音。

 今はギギギ、カタカタ……と、剣が押され合う音が小さく鳴り続けている。


「ほぅ……中々やりますね、アルトリア」


「当然だ……私はアーサーの妹なのだ。少なくとも、兄と好敵手以外の者に負けるつもりはない!」


 競り合いから離れ、私とモルガンは高速で剣をぶつかり合わせる。

 今まで私がプレイヤーと戦ってきた経験を元に剣の軌道を読んでいるが、彼女はどのタイプとも違う。

 KnighTのように一撃を重視しながらも速く打ち込む剣戟とは似て非なるものだ。

 誰の流派を見たわけでもない、独自の剣戟だということがわかる。

 それに加え、私の攻撃を確実に見切って捌いてくるこの腕前、確実に私よりも技術は上だ。

 ならば、それを補うべくスキルを発動すべし! この場合は距離を取る!


「バースト・エア!」


「フッ、なるほど。貴方もそのスキルは使えるのですね」


 モルガンは私の放った竜巻に対して背中の槍を抜き、竜巻と真逆の方向に槍を回転させた。

 すると、丁度同じ速度と同じ勢いで起こった竜巻は相殺され合う。


「あなたほどの実力者ともなれば、こちらもこれを抜かねば無作法と言うものか」


「ほう、そう言って貰えるなら光栄だな」


 集う勇者のランコを瞬く間に撃破し、ユリカを倒したこの女の実力。

 本気でかかられれば、私とて三分持つかはわからない。

 だがやって見せる、ブレイブ・ワンやN・ウィークが辿り着くまで持ちこたえて見せる。

 恐らく、ブレイブ・ワンは城の中にいる魔女騎士団プレイヤーと交戦しているはずだ。

 そうでなければ、ここに辿り着くのが遅れると言うことはあり得ない。


「さぁ、打ち込んで来なさい、アルトリア。私はこの手で、お前の尽くを凌駕して見せましょう」


「上等……! 受けるがいい! ソード・セイントショット!」


 聖剣術の基本スキル! これを受けた瞬間に踏み込み、一瞬の隙を突く!


「月下墜龍」


 モルガンは槍を短く持つと、放たれた私の聖剣の光を突き刺して右手に持つ剣で三撃薙いで消滅させた。

 ここだ! ここが隙となるハズだ!


「ハァァッ!」


「人は隙に食いつきたがるもの。そうは思いませんか? アルトリア!」


「なっ、っとっ! くっ!」


 モルガンは驚くことに剣を振り抜いた姿勢から体を捻り、私の斬り下ろしを弾き返した。

 続く槍による薙ぎ払いは一歩下がって上半身を倒したおかげでどうにか回避できた。

 だが、正直攻撃を当てるビジョンが私の中にはもう浮かんでこなかった。

 遠距離技は相殺され、槍による広い間合いと恐ろしいまでの反応速度……!


「強いな……貴様は」


「まだまだ。あなたは私の強さの一端しか見ていない。故に、見せて差し上げましょう。私の攻撃を」


「ッ!」


 そうだ、まだこの女は私の放った攻撃を止めてから反撃に出たに過ぎない! その反撃でさえギリギリ躱せた速さと間合い! ならば防御に徹しなければモルガンの攻撃は捌けない!


「では手始めに! 【無明十字斬突】!」


 モルガンは槍の石突を握ったと思うと、私から見て右から薙ぎ払って来た。

 私はそれをジャンプして避けるが、続いて踏み込んでくるモルガンの刺突を受けてしまった。

 頭、胸、腹を狙った剣による三連撃の刺突。

 致命傷になる頭や胸は避けたが、刺突そのものは受けてダメージになっている。


「まだまだ……! イディオクロノス!」


「ソード・セイントブラスト! っ、くぅっ……!」


 剣と槍を同じリーチにするように握ってから交差してから放つ斬撃。

 私は聖剣術のスキルでどうにか相殺するが、衝撃だけは殺しきれずにノックバックしてしまった。


「離れましたね? ならば! 風槍炎剣!」


「バースト・エア!」


 剣で竜巻を起こし、竜巻の中心から剣によって起こされた炎が私に向かってくる。

 バースト・エアで竜巻を相殺し、炎は転がって避けることに成功したが、まだまだモルガンの攻撃は続く。

 スキルではない通常攻撃でさえ全身を使わなければ避けられないほどの速さと間合いの広さが彼女にはある。


「くぅっ……! シャイニング・ブラスター!」


「【イクリプス】!」


 カリバーンの刀身を輝かせて、ビームのようにそのエネルギーを放出させる。

 しかし、モルガンはそれを見越したかのように目から私のカリバーンと対の色を成すような紫色の光を放った。

 そのエネルギーは互いの間で衝突して爆発のエフェクトを起こし、視界を悪化させる。


「フフフ、あなたにスキルを試すのは楽しい! 実に! 実に! これほどまでに胸が躍ったことがあったか! あなたが私の行い一つ一つに顔を歪める様が見れる! 仮想世界なれども、実に楽しい!」


「うぐっ、っ!」


 煙の中でもモルガンは私の位置を探り当て、私の鎧を斬り裂く。

 鎧のおかげでダメージは抑えられていても、HPバーは減っていく。


「さぁ、今度はどれだけ耐えられる? どれだけ受けられる? どれだけ凌げる? 見せてみなさい!」


「ッ――! このっ!」


 私は出来るだけ距離を取って、最大級の一撃を放てるようにと剣にライトエフェクトを纏わせる。

 多分私はブレイブ・ワンらがここにたどり着くまでに撃破されているだろう。

 だが、それでも私が何か役に立たねばモルガンは無傷のままで、疲労した彼等と戦うことになる。

 ならばせめて、奴を疲れさせるくらいの事を成し遂げなければ私は役立たずのままだ! 拠点を守っているプレイヤーたちが、攻めに出ている者たちが、今も必死に戦っている! ならば! 王の騎士団四天王の筆頭である私がそれに応えなければ何をすると言うのだ!


「受けてみよ! 選定之剣の輝きを! 貴様が偽剣と嗤うこの剣の光の奔流を!」


「いいでしょう。あなたのその剣、砕いて見せましょう」


 モルガンは槍を床に突き刺すと、私がカリバーンを大上段に構えたように剣を大上段に構える。

 奇しくも同じ構え……なれば、モルガンの持っている剣も恐らく私と似たスキルを持っている! あとは、単純な力が物を言う勝負か!


「闇を貫け! そして希望の架け橋となれ! ホープ・オブ・カリバーンッ!」


「光を呑め、そして絶望を知ろ示せ、ドラゴ・カリバー!」


 私たちは同時に剣を振り下ろし、光と闇のエネルギーを互いの中心でぶつけさせる。


「うううっ、うううおおおおおあああああ――ッ!」


「無駄だ。貴方の光は、私には届かない――!」


「っ、ぐ……! ぐあぁぁっ!」


 恐らく、彼女の剣も私の剣もある一本の剣から派生しただけの物なのだろう。

 だが、私は派生してそのままの剣だった、エクスカリバーを複製しようとして出来ただけの産物だった。

 それに対してモルガンの持つ魔剣は、その贋作を本物に限りなく近づけて生まれた、贋作から別の道へと昇華した剣。

 故に私の剣が敵う道理はなく、私は放った技を押し戻されて玉座の間の扉へと叩きつけられた。


「っ、ぐ……うっ……!」


 多少なりともスキルのおかげで奴の技の威力を抑え込むことが出来たのは不幸中の幸いだった。

 だが、モルガンの放ったドラゴ・カリバーの威力は凄まじく、私は甲冑を砕かれて無様に転がった。


「無様ですね。それが積み重ねた努力とやらの結果ですか」


「っ……! まだ、だ!」


 そうだ、積み重ねてきた努力は決して私を裏切ることなんてない。

 このSBOというVRでも、私がこの世界に来る前の現実世界でも。

 努力を重ねて来て、本番でそれを発揮することが出来れば物事は上手くいく。

 だから、私はどこでだって成功する様をあの人に見せたい。

 かつて憧れ、今はもう折れてしまったあの人をもう一度立たせるために!


「私は! 諦めんっ!」


 私は立ち上がり、剣を握ってモルガンの方へと歩みを進める。


「そうですか。ならば、その剣諸共あなたの心を折って差し上げましょう。

一部の優れた人間のみが頂点に立ち、それ以外は有象無象の塵芥、凡人はいつまでも地を這うだけ。

どれだけ足掻こうと、下の世界で呻くだけの者には頂を目指すことは出来ないのだと、その身に刻むことで!」


「来い……!」


 モルガンは剣を両手で握り、タン、と踏み込んできた。


「昇降、飛竜ッ!」


「っ! ぐっ!」


 剣の切っ先を床を削るスレスレにしてから放つ斬り上げを受け止める。

 私のアバターは数センチ浮かされるほどの衝撃を受けた。

 だが、奴の攻撃に隙が生じて――いなかった。

 隙を晒したように見せてから、飛びついてくる相手を斬る、それが奴の戦法だ。

 なら、この技も本当は隙なんて晒していない、剣を振り抜いた姿勢でも隙が無い。


「上――! っ!」


 剣を両手で握って踏み込んできたのは、槍を上に投げていたから。

 上から槍が降って来ると言う、死角からの攻撃で私を串刺しにするつもりだったからだろう。

 だが私はそれに気づき、剣で受け止めることが出来たのでノーダメージだ。


「ッ、オオォッ!」


「温い」


 私は、降って来た槍を手に取って構えるモルガンに向けて剣を振り下ろす!

 しかしモルガンは剣で滑らせるように私の攻撃を受け流し、私の腹を蹴っ飛ばしてきた。


「ッ、この距離は――!」


「昇降飛竜」


 また来た! しかし今度は種が割れている! 私を目掛けて槍を投げてからの踏み込み! ならば一歩下がって、降って来る槍を躱す準備を整えた上で、斬り上げを受ける!


「う、ぐっ……!」


「浮いたな」


 降って来る槍は避けられたが、斬り上げでアバターを浮かされたことは変わらない。

 マズい、また何か新しいスキルが来ると言うのか!


「【月穿】」


「あぐ、うあっ!」


 モルガンは床に刺さった槍を引き抜き様に回転させ、月を描いた。

 そして、一歩踏み込んでから右手に持つ剣で刺突を放った。

 私はその攻撃を剣の腹で受けてしまった。


「っ、そんな……!」


「ほうら、折れた。脆い剣だ、まるで誰かのようにな」


 選定之剣……カリバーンは、刀身の半ばからポッキリと折られてしまった。


「思い知ったか? アルトリア。これが私とあなたに出来た差だ」


「っ……!」


 何も、返す言葉が出てくることはなかった。

 私が積み重ねて来て、トップギルドの四天王と言う座について来た努力は。

 急に現れただけのこのモルガンと言う女に、へし折られてしまったのだから。


「さぁ、首を垂れなさい。その首は一撃で落としてあげましょう」


「……あぁ」


 私は膝をつき、モルガンの言う通りに頭を下げようと――したときだった。


「オォォォッラァァァッ!」


「ぐあぁっ!」


 突如、ギルドホームの壁を派手に打ち壊しながら現れたプレイヤーがいた。

 そのプレイヤーは、私がさっきまで待ち望んでいた男だった。


「ダイナミックにおっじゃましまーす。どーも、集う勇者のブレイブ・ワンだぜ!」


「テメェ……! ギルマスの部屋までブチ抜きやがって!」


 王の騎士団を裏切り、魔女騎士団に下ったモードレッドを吹き飛ばして、現れた。

 このモルガンを倒せるかもしれない、希望の勇者が。

プレイヤーネーム:アルトリア

レベル:80

種族:人族


ステータス

STR:100(+150) AGI:100(+130) DEX:0(+90) VIT:30(+120) INT:33(+110) MND:30(+120)


使用武器:真・カリバーンⅢ

使用防具:真・竜の兜 真・騎士王の鎧 真・暴風の衣・上 真・暴風の衣・下 真・騎士王の籠手 真・渡の靴 真・名誉の首飾り

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