第百八十一話:反撃開始
「来たぞぉおおお!!」
「構えろ! 迎え撃てぇぇぇっ!!」
迎撃に出た騎士のプレイヤーや、魔女騎士団ギルドホームへと続く道を封鎖していた魔法使いのプレイヤーたちが一斉に攻撃を開始。
だが俺たち連合パーティは一歩も怯まず、各々で飛んでくる攻撃に対処しながら突き進む。
雨あられのように降り注ぐ矢は共に進軍するゴブリンキングたちが盾で防ぐ。
飛んでくる魔法はスキルを使って叩き落とし、時にディララの魔法によって打ち砕く。
「とにかく前へ進め! 俺たちの仕事は攻めに出ることだ! だから絶対に下がらねえで、真っ直ぐ進み続けて、少しでも敵の戦力を削げ! 最悪全員やられても、あとはアーサーたちがなんとかしてくれる!」
「随分と脳筋な作戦ではないですか……ブレイブ・ワン、あなたもしかしてこういうことを考えるのは苦手ではないのですか?」
「…………」
KnighTからのツッコミに関してはノーコメントでいよう。
つーかKnighTも大概脳筋な女騎士様なんだから人の事言えねえだろ! と、俺は迎撃に向かってくる剣士を剣で斬り伏せながら心の中で叫び、拠点へと一気に攻め込む。
拠点での回復が出来るのは七人だけ、当然拠点を守るプレイヤーだって一つの拠点につき七人だ。
今一人斬ったから、残り六人。
「さぁて、まずはここから制圧してやるとしますかね!」
俺は剣の腹をシャリィン、と撫でてから皆に目配せする。
Nさん、KnighT、アルトリア、ヤマダ、イチカ、ディララの六人で取れる陣形。
ヤマダとディララに後方支援は任せて、イチカは二人の護衛、後は4人で近接戦闘を仕掛けるだけだ。
この拠点にいる魔女騎士団のプレイヤーたちは皆剣やら槍やら近接武器の使い手だし、丁度いい。
「行くぞ! KnighT! アルトリア! そしてNさん!」
「応!」
雄たけびを上げつつ突撃してくる俺たちに対して、魔女騎士団の拠点防衛隊は慌てて防御態勢に入るがもう遅い。
既に俺たちは目の前だ。
俺は一番近くにいた男プレイヤーの顔面を思いっきりぶん殴ってぶっ飛ばし、その勢いのまま次の男の顎を蹴り上げて宙に浮かせる。
そこにすかさず飛び込んできた別の男が振り下ろしてきた剣を受け止め、逆に弾き飛ばす。
その隙を狙ってきた他の奴らの攻撃をしゃがみこんで回避し、そのまま足払いをかけて転ばせる。
そこから更に踏み込んで一人の鳩尾を殴りつけ、もう一人の股間を蹴って悶絶させる。
最後にリーダー格の男を回し蹴りで吹っ飛ばした後、即座に振り返って背後に迫っていた敵を切り払う。
「おいおいおい、まさかお前ら三軍か? ガッカリさせてくれるなよ。
俺はランスロットたちと互角レベルの相手が出てきてくれると踏んでたんだがな!」
「ぐはぁっ!」
弓を構えていたプレイヤーの頭に剣を叩きつけてから俺はそう言って、リーダー格の男を蹴り転がす。
こうやって挑発しておいて、俺たちの所に来てくれれば御の字だが……上手くはいかなさそうだな。
プレイヤーの数でも質でも勝ってる魔女騎士団なら、わざわざ俺たちに戦力を集中させる必要はない。
先に王の騎士団ギルドホームを攻め落とすために、攻めの手に出る……と俺は踏んでいる。
「なるべく急いだほうがいいですね、Nさん。防衛側はただでさえ危険なんですから」
「うむ、私も同じことを考えていた所だ」
Nさんも相手していたプレイヤーを一刀両断したところで刀を鞘に納め、ふぅと息を吐く。
KnighTとアルトリアも丁度敵を倒し終えた所だそうなので、俺たちは拠点を後にして進軍する。
「お、おい待て! 行かせるな!」
そんな声と共に後ろで何か音がしたと思った瞬間、俺の背中に強い衝撃を受けて思わず前のめりになる。
どうやら矢か魔法かで攻撃されたらしい。
「くそ……!」
「っ、ブレイブ!平気か!」
「問題ありませんよ……ただ、先頭の俺に当てたって無駄に良いエイムにちょいとカチンと来ただけですよ」
俺は後ろから攻撃してきたプレイヤーを睨みつける。
すると、そのプレイヤーは一瞬怯んだように体を震わせたがすぐに立て直してまた弓矢を構える。
……まぁ、今の一撃でコイツは大したことのない奴だとわかっているし問題はないか。
「悪いけどよ、お前らみたいな三軍相手には時間かけられねえんだよ。
最低でもレベル70以上になって出直してこい」
レベルだけが全てじゃあないが、レベルが上がれば必然的に相応しい装備をする。
なので、60程度のプレイヤーじゃあ今の俺たちを相手取るのは無理だと悟って貰いたい。
「も、モルガン様の元には行かせん!」
「そうだ……俺はモルガン様に救って貰ったんだ! だから、今度は俺が……!」
弓を弾き絞りながら決意を固めるプレイヤーに、槍を持ったプレイヤーが並んだ。
ソロじゃ割を食うようなこのSBOじゃあ大規模ギルドのプレイヤーに手を差し伸べて貰えるのは嬉しいだろう。
だが、それで何もかもが嬉しい思い出として終わるように、強敵に勝てるなんて思い上がりはない。
俺だってアーサーのおかげで無駄に戦争を吹っ掛けられないでいるのは嬉しい。
それでもその思い出の通りに集う勇者が何だって上手くいくわけじゃないし、大変なことだってあった。
「だから、俺が示してやるよ」
俺はヤマダにかけて貰ったバフに重複させる形で超加速と超加力を発動させる。
そして、瞬く間に踏み込んでから槍使いと弓使いのプレイヤーの首を刎ねる。
「大切な人を守るための心意気や良し、しかし力が足りなきゃただの妄言だ。強くなれよ」
「……ブレイブ」
KnighTは今の俺の言葉に思う所でもあったんだろうが、異論を受け付けるつもりはない。
俺だってNさん、及び千冬さんを守れるように強くなりたいと思って日々努力している。
だが、彼女の方が俺よりも強いのだから所詮俺の願望など夢幻のものでしかない。
故に俺は彼女より少しでも強くならなければ、ただ妄言を吐くだけで漢ですらいられない。
「行くぞ」
「……あぁ」
俺は敵本陣へと進む足を速め、魔女騎士団の喉元に刃を突きつけるべく進軍する。
拠点が敵のギルドホームへと近づけば近づくほど、そこを守るプレイヤーも強くなるのは定石だ。
だから、最奥の拠点に進めば間違いなく強者との戦いが待っている! と、俺は魔女騎士団ギルドホームからかなり近い拠点を目指した……が、そこには妨害の手も入った。
「邪魔はさせないわよ!」
「そう簡単には通さないぜ!」
高価そうな鎧を身に着けた魔女騎士団プレイヤーたちが俺たちの前に立ちふさがる。
しかも、その数は十人以上……流石の俺たちでも突破するのは骨が折れそうだ。
装備が魔女騎士団のエンブレム付きの物に統一されているが、さっきの雑魚どもとは違いそうだ。
ただの制服っぽいのじゃあないし、間違いなく王の騎士団の一軍と同レベルと見ていい。
尤も、ランコとユリカが倒した四天王って奴ら程じゃあないんだろうが。
「ブレイブ、ディララとイチカと私にここを任せてくれ」
「Nさん、相手は手練れっぽいんですよ? いいんですか」
「構わん。それに、私個人としては一度言ってみたかったんだ。『ここは私に任せて、先に行け!』とな」
Nさんはそう言って俺の前に立ってから刀を抜き、狼に乗ったディララとそれを守るイチカも彼女に並ぶ。
俺はKnighTとアルトリアと顔を見合わせ、ヤマダの背中を軽く押した。
「いきなり何をする、ブレイブ」
「Nさんのサポート頼んだ。俺とKnighTとアルトリアで城落としてくるから」
「ヤマダ、私からも頼む」
「うぅむ……王の妹君からの頼みでは仕方がない。N・ウィーク、私も貴殿の一助となろう」
「助かる」
ヤマダは渋々……と言った感じじゃなさそうだが、Nさんの隣に並んだ。
俺はその間に隊列を組んでいるプレイヤーたちを横目に、KnighTとアルトリアと一緒に走り出す。
目標はモルガン、出来れば七人キッチリ揃って行きたいがコイツ等には時間を食うこと間違いなし。
加えて幹部でもなんでもないんだったら、ここで余計な消耗をしてる場合じゃない。
まだモルガンの幹部が何人かいるんだったら、それと戦うためにも俺たちは出来るだけ前に進む!
「ブレイブ・ワン。良かったのですか? N・ウィークは貴方の大切な方なのでしょう」
「まぁ……普段なら是が非でもしたくなかったけど、事情が事情だからな。
幹部が相手でもないってんなら、わざわざ全員で突っ込んで消耗するのは避けてえよ」
「だがあの四人でも、数の差的に十中八九死ぬぞ? どうするのだ」
Nさん、イチカ、ディララ、ヤマダの四人という戦力をここで切るのは確かに惜しい。
だが、かといって七人消耗している状態で足並みを揃えていたらまとめてやられる可能性もある。
だからこうして戦力を分割しているが……俺の判断があっているかどうかは怪しい。
俺が判断を間違えたおかげでランコとユリカが倒されたんだし、今度は間違えたくはない。
「ま、Nさんを信じる他ねえよ。それに、イチカやディララたちの強さだってお前が知ってんだろ、アルトリア」
「うむ……まぁ、確かに知っているな。ならば私は信じよう」
「アルトリアが信じると言うのであればブレイブ・ワン。私もあなたの言葉を信じましょう」
アルトリアからもKnighTからも信頼のお言葉を頂いた所で俺は足を更に速める。
魔女騎士団ギルドホームである王城から最も近い拠点、そこには恐らくホントに幹部がいる!
「さぁて、誰がいるかなぁぁぁっ!」
「私だ」
「一人かよ」
意気揚々と拠点に飛び込んだら、そこにいるのはたった一人の男だった。
優雅なティータイム、なんて言わんばかりに紅茶を飲みながら椅子の上で足を組んでいる。
かき上げた髪に燕尾服、加えて持つ武器は杖、ザ・執事って格好の野郎だ。
「ごきげんよう連合軍諸君、私の名前は【セバスチャン】。魔女騎士団四天王のセバスチャンだ。
普段は奥様――魔女モルガン様の執事をさせていただいているイギリスかぶれの日本人だ」
「ほう、あなたも大切な人に仕えるべくして己を磨いたプレイヤーですか」
「あなたも、と言うことは君もそう言うプレイヤーなのだね、ミス・KnighT」
セバスチャンはKnighTの言葉に反応したと思うと、杖をヒュンヒュンと振ってから構えを取る。
杖を主体とした徒手空拳のスタイル……確か、イギリスに伝わるバリツとか言う戦闘スタイルか。
「では、私と手合わせ願いましょう。セバスチャン!」
「いいだろう、ミス・KnighT。ホームズ流神拳を通信教育で覚えた私の腕前を見るがいい」
KnighTは即座に腰から剣を抜き放ち、一気に間合いを詰める。
対するセバスチャンは杖を構えたまま微動だにせず、ただKnighTを見据えたまま動かない。
そのままKnighTが振り下ろした一撃は……何の手応えもなくすり抜けた。
「!? ッ、透過!?」
「無駄だよ、ミス・KnighT。私のスキルで作り出した幻影に攻撃しても意味などない」
その言葉と共に背後に現れた本物のセバスチャンの攻撃に、KnighTは咄嵯に身を捻りつつバックステップを踏むことで回避。
しかしそれでも完全に避ける事は出来ず、頬が浅く切り裂かれてしまった。
「ほぅ……」
「今のを躱すか。初見ではモードレッド様でもダメージを受けたのだがね。これは楽しくなりそうだ」
「舐められたものですね……ですがその余裕がいつまで持つか、我が剣にて推し量って差し上げましょう!」
再び距離を詰めたKnighTが斬りかかるが……やはり結果は同じ。
まるで煙のように実体のない相手を斬っているかのように、何も抵抗なく通り抜けてしまう。
しかし、KnighTの連続攻撃にはセバスチャンも反撃する隙がないようだ。
どれだけ攻撃を透過させられたとしても、その状態で攻撃することが出来ないようだし。
「ブレイブ・ワン、アルトリア。あなたたち二人はここを後にして城に攻め込んでください」
「いいのかよ、俺ら三人でやった方が確実じゃねえのか」
「この男は私が倒します、最悪出来なくともモルガンの援護が出来ない程度には邪魔します。
それに、二人が無傷の状態で城に攻め込んだ方が確実にモルガンの手の内を明かすことくらいは出来るはずです」
「……そうか、KnighT。私以外には負けるなよ?」
「当然」
KnighTとアルトリアはそうして言葉を交わすと、KnighTは剣を構えてアルトリアは背を向けて拠点から出る。
俺はアルトリアに続き、KnighTに期待の眼差しを送ってからアルトリアと共に走り出す。
戦争中でもポーションなどの類は使えるが……数は無限ってわけじゃあない。
だから、長期戦になってポーションをどれくらい使うかはわからないし、城攻めをするならアイテムの方も万全であるべきか。
……なら、KnighTの判断が間違っていると言うことはないのだとすぐに理解した。
故、俺はもう振り返らずに進む。
「いくぞ、アルトリア! お前のタイミングに合わせてやる! 好きなスキルで門をぶっ壊しに行ってくれ!」
「うむ、感謝する……! では行くぞ! ハァァァッ!」
アルトリアはカリバーンを抜き放ち、大上段に構えて刀身を光り輝かせる。
俺は大悪鬼の剣を肩口にまで持って行って水平に構え、剣を握る手に力を込める。
「闇を穿て、聖剣よ! 輝け! そして迸れ! ホープ・オブ・カリバーンッ!」
「ブチ抜くぜェェッ! ゴブリンズ・ペネトレートォォォッ!」
アルトリアの光り輝く一撃に合わせ、俺の全力の刺突が城の門を貫いた。
ガガァンッ、と凄まじい衝撃音が鳴り響いた所で、俺は穴の開いた城門を蹴っ飛ばす。
門番はいないみたいだが、城の中を警備するプレイヤーの一人や二人はいてもおかしくない。
ので、俺とアルトリアは周囲に警戒しながら門の内側へと歩を進める。
「……誰もいない、か? おい、どう思う」
「わからん、ただ一つ言えることは……罠があるかもしれないという事だ」
「だよなぁ……」
ここまで来ておいてなんだが……やっぱり何かあるんじゃないだろうか。
だって、いくらなんでも都合が良すぎる。
俺の頭はモルガンと言う女は狡猾だ、という印象を抱いている。
だから、城の中にも罠やらなんやら張り巡らせて俺たちをもてなす準備くらいしているだろう。
となると……固まって行動してたら、洒落にならないことになりそうだ。
「よし、ここは二手に分かれるべきだと思う」
「ふむ、確かにそれが一番安全策だろう。私と貴殿ならばそう簡単に遅れを取る事もなかろうが、固まるのは危険だな」
「だろ?どっちかだけでもモルガンのとこに辿り着けば、状況は把握できるはずだ」
「なるほど……わかった、それで行こう。私は右側から攻める」
「おう、じゃあ左側は任せた」
という事で、それぞれ逆方向に向かって歩き出したのだが、驚くことに城内にプレイヤーは発見できなかった。
ただ普通に城内に入り、階段を上ったり下りたりを繰り返しているだけで、罠も敵も何もいなかった。
おかしい、本当に何も仕掛けがないのか……? そんな疑問を抱きながらしばらく歩いていると、目の前に大きな扉が現れた。
「……この奥か」
俺はその大きな両開きのドアに手をかけ、ゆっくりと押し開けていく。
すると、そこにはどこかへ続くであろう扉に背を預けて腕組をしている女騎士が一人。
部屋全体は広く、まるで剣で斬り合ってくださいと言わんばかりに殺風景だ。
「よう、モードレッド」
「あぁ? んだよ、イチカってのが来るかと思ったらお前かよ」
「悪いか?」
かつて王の騎士団に所属していたプレイヤーだったにも関わらず、戦争直前に手勢を連れて魔女騎士団へ下った女プレイヤー、モードレッド。
コイツを狡猾な女だとか性悪だとか言ってやるつもりはないが、悪くないと言うつもりもない。
勝ち馬に乗りたがってるのかなんだか知らねえが、俺はコイツを全力で倒す。
コイツの目に映っているのは自分よりも強いと感じているアーサーやアルトリアたちなんだろう。
実際、前々から集う勇者に対してはちょっと見下してるような態度が見えたし。
だったら、その見下してた奴らに完膚なきまでにボコボコにされるってのを味わわせてやる!
「ハッ! まあいいさ、オレはここにのこのこやって来た奴をブッ殺すだけだからよぉ!」
そう言うと同時に、モードレッドが腰に下げていた剣を引き抜き、こちらに向けてくる。
俺もそれに応じ、大悪鬼の剣を構えるが……妙な違和感を覚えた。
それはモードレッドも同じようで、少し眉をひそめているのが見える。
……いかんいかん、相手は敵だぞ。
余計なことを考える必要はない。
「いくぜ、モードレッド!」
「来いよ、鬼野郎!」
俺は剣を振り上げ、真っ直ぐに踏み込んでモードレッドと剣をガキィンとぶつけ合った。
プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン
レベル:80
種族:人間
ステータス
STR:100(+210) AGI:100(+170) DEX:0(+60) VIT:51(+460) INT:0 MND:50(+250)
使用武器:大悪鬼の剣、大悪鬼の小盾
使用防具:大悪鬼のハチガネ、大悪鬼の衣、大悪鬼の鎧、大悪鬼の籠手、大悪鬼の腰当、大悪鬼の靴、大悪鬼の骨指輪