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第十八話:クイーンウィッチ

『我が眷属をも討つか……おのれ……おのれおのれおのれおのれぇぇぇっ!』


怒り狂ったかのように叫んだクイーンウィッチは、杖を一振るいした。

今度は何かと思っていると――


「マズい……!ハル!ブレイブ!今すぐ盾のスキルを展開しろ!防御姿勢に入れ!

私でもあの動作は覚えている、最悪の場合全滅するぞ!」


「は?いや先輩、今俺SPが全然なくって……むぐっ!」


「いいから早くしろ!」


先輩は俺の口にSPポーションを強引に突っ込んできた!

おかげでSPは回復したがむせた。


「ファスト・シールド!セカンド・シールド!サード・シールド!」


「げっほ……ごっほ……ファスト・シールド!セカンド・シールド!」


俺とハルで合計五枚の盾を隣接して出現させ、盾を構える。

これで防御は万全……つっても、俺の盾は小さいから明らかに守る面積が足りてないような気もするけど。


『人間よ……我が力を前に滅びよ!』


「来るぞ、魔法防御に自信のない者はブレイブを盾にしろ!」


「はい、わかりました!」


「何故に俺限定!?」


先輩の指示でアインは何故か俺の後ろに隠れた。

そして、クイーンウィッチがさっき何か叫んだかと思うと。

クイーンウィッチの周りに、数えきれないほどの様々な色をした魔法陣が展開された。


「……何すか、アレ」


「奴は様々な属性、様々な形を取った魔法攻撃を大量に発射してくることがある。

私でも覚える程に印象が強かった故、防ぐ方法もわかる。

回避も出来るが……大人数では安定しない故、一番の方法はこれだ」


『【エレメント・レイン!】』


何かのスキルか、クイーンウィッチが杖に何かを込めてから杖を突きだした。

すると、火の弾、氷の剣、風の刃、土の槍、雷の矢が魔法陣から一斉に飛び出した。

それは雨あられのように降り注ぎ、俺たちの盾や俺たちに関係ない所まで突き刺さっている。


「うっ、おおおおおおおお!」


「くっ……ディフェンス・コネクト!」


ハルのスキルで俺たちの防御力や魔法防御力が合算されたが……それでも展開したシールドはすぐにバリン、と言う音を立てて割られ俺たちの盾に攻撃は直撃する。

クソッ……ゴブリンシリーズが得意とするのはあくまで物理攻撃。

魔法防御は専門外だし、明らかに俺のステータスが魔法に対して何も考えてないかと言うのがわかる。


「私も手伝います!【風車】!」


「すまねえ、助かる!」


ランコは俺たちだけでは耐えきれないと踏んだか、槍をバトンのように高速回転させた。

すると竜巻のような衝撃が起こり、クイーンウィッチが放った魔法攻撃を次々に弾いた。

よし……これなら何とか耐えきれる!


「はぁっ……はぁっ……」


「何とか……耐えれたか……」


降り注いできた魔法が止んだころには、俺たちのHPバーは三割を切っていた。

ランコのHPの減りは浅いが……このまま魔法攻撃を受ければ全員お陀仏だ。


「魔法攻撃が止んだ今、反撃を……!」


「あぁ、任せろ!」


先輩は刀を光らせ、輪のようなものを刀で描いていた。

……あぁ、さっき俺たちが魔法を耐えている間に流星刀の詠唱をしていたのか。

なら、俺たちはHPとSPを回復しておこう。


「流星刀!」


先輩はクイーンウィッチから離れた距離なのにもかかわらず、刀を突きだした。

すると、刀からキラキラとした星が流れ、クイーンウィッチに向けて放たれた。

……遠距離にも対応してるのか、このスキル。


「よし……大体セオリーと言うか、テンプレ通りなら!」


魔法攻撃が強い奴は、大体物理攻撃には滅法弱いと言う法則がある。

これで防御力まで高かったら、かなりの難易度ってことになるが――


「チッ、失敗したか……!すまんブレイブ。盾になってくれ」


「えっ」


先輩は流星刀がクイーンウィッチに直撃したところでそう言うと、俺を前に突き出した。

すると、先輩の放ったはずの流星刀がこっちに跳ね返って来た!?


「げっ!ちょっ――」


先輩の攻撃力そのままで跳ね返って来た流星刀を盾を出して受け止めるが、ディフェンス・コネクトの効果があっても威力が高すぎる!


「ぐはぁっ!」


斬撃耐性やHP割合防御力アップの効果を持つゴブリンシリーズを装備している俺でも耐えきれなかった。

盾ごと吹き飛ばされ、派手に吹っ飛んで行った俺は無様にも地面に這いつくばった。

しかもHP残量がもうあと僅か……完璧に殺しに来てるじゃねーかよ、このスキル。


「な、なにが……?」


「物理攻撃反射の魔法、【フィジカル・リフレクション】だ。

私の流星刀が入る前に奴も詠唱していたようだな……抜け目ない奴め」


「していたようだな、じゃねーよ!何で俺に受けさせんすか!」


俺は先輩に文句を言いつつもHPポーションを飲み干し、HPを回復させる。

っつーか、クイーンウィッチがまたなんか魔法を詠唱してるんだが!


「おいランコ、アイン!詠唱を止めてくれ!」


「はい!セカンド・ジャベリン!」


「アックス・スロー!」


ランコの放った槍とアインが投擲した斧は、クイーンウィッチの胴体に吸い込まれるように直撃した。

……HPバーは今のでもう一本の内の六割も削れたが、コイツのHPバーの本数は四本。

倒しきるには少し……いや、かなり難しいんじゃなかろうか、コレ。


「斬撃波!」


『【アース・ウォール】』


俺もスキルを放ってみるが、土の壁がせり出してきていとも簡単に止められてしまった。


「不味いな、あの壁を出されると向こうはまた魔法を乱打してくるぞ。

最初の時のような程の規模ではないが、シャレにならんほどの威力になる」


「先輩、なら流星刀であの壁をぶっ壊してください。

さっきみたいに、俺たちが魔法を弾くんで。

アインは壁が壊れてクイーンウィッチの魔法が止まった時に、全力のスキルをぶち込んでくれ!」


「いいだろう、ブレイブ。私は策が浮かんでこなかったから助かる」


「私は本来守るのが役目なので、先輩に従います!」


「それで勝てるなら、私もやるだけですね……!」


「わかりました、ブレイブさん!」


俺とハルは盾を五枚展開――と思ったところで、メニュー画面に通知が来たので開いてみると、サード・シールドが習得状態になってる。

てことで、俺はサード・シールドも他の盾と一緒に展開してみた。

うわ、SP消耗がサード・スラッシュと同じくらいなのはわかっていたが……SPがまた尽きた。

ハルはそれでも余裕を持っていることから、俺よりもSPが多いんだろうが……羨ましいな。


「先輩、サード・シールド習得おめでとうございます」


「今言われても嬉しくねえよ」


「そろそろ攻撃が来るぞ!」


『【ファイア・ストーム】!』


炎の竜巻のようなものが俺たちに向けて放たれた。

さっき同様に、展開した盾と俺たちが構えた盾で拮抗して見せるが直ぐに盾は割られ、俺たちの盾で攻撃を耐えることになった。

……ディフェンス・コネクト込みでもキツいなコレ。


「風車!」


ランコが槍を高速回転させてファイア・ストームの炎を散らしてはいる。

だが、やはり炎かつ竜巻である以上散らしたりしてもあまり効果はない。

クソッ……まさかさっきよりも受けるダメージが多くなるとは。


「ぐっ……もっとやべえ状況になるとは……」


「ブレイブとハルは下がれ!」


先輩がそう言うと、先輩は流星刀を放ってアース・ウォールを壊した。

だがそれだけでなく、消えたかのようなまでに速い動きでクイーンウィッチに接近した。

俺たちはその間にポーションを飲んで、HPを回復させておく。

……いくら何でも、ここまで使うとHPポーションの減りが多くなってくる。

このままいくと、ポーションが尽きてしまわないか心配だ。

何せ、想定していたよりも使う量が多かったからな。


「【ディスペル・ブレイド】!」


先輩が刀に紫色のオーラを付与してからクイーンウィッチを斬りつけると――

クイーンウィッチの魔法詠唱が停止し、更には何かが砕け散るような音がした。


「やはり防御魔法や反射魔法をかけていたか……さぁ今だ、やれ!」


「はい!シャイニング・アックス……双鉞!」


「先輩、私たちも!」


「おう!」


「じゃあ、遠慮なしに!」


アインの放った光の斧がクイーンウィッチへと直撃すると――

ランコは槍の穂先に雷をチャージして構える。

俺とハルもすぐさまスキルに必要な分だけSPを回復させるとスキルを詠唱する。


「インパクト・スラスト!」


「ライトニング・スピアァァァッ!」


「フ――【落雷ノ一太刀】!」


ハルが剣から突き出した衝撃波、ランコが放った雷の槍、先輩が至近距離でクイーンウィッチへ放った居合。

そして俺はそれらが直撃した頃にクイーンウィッチへと近づく。


「サード・スラッシュッ!」


全力のサード・スラッシュがクイーンウィッチの頭部へと直撃し、クリティカルダメージを与えた。

……さっきの物理攻撃耐性を考えると、これで倒せてもおかしくはないハズ。


『ぐ……ウ"ゥ"ゥ"ゥ"……』


ゾンビのようなうめき声をあげ、クイーンウィッチはフラフラとよろめくと――

玉座のある段差から転げ落ち、ぐったりとしてその場に倒れた。


『おのれ……人間め……同族を……私を討つか……何の罪もなく、ただ……魔法の力を持つと言うだけで……!』


「……」


『魔物の力を身に宿し、その力を振るい……敵対するものをも殺す……私たちを魔女と罵り、殺して来た人間どもが……一番の魔物よ……!』


クイーンウィッチは、倒れた姿勢から少しずつ起き上がるように、膝立ちになってわざわざ俺を指差した。

俺はパーティリーダーでも何でもないし、レベルが一番高いってわけでもない。

……もしかすると、エクストラシリーズを装備している者がここにいると何か変わるのか?


『フ……フフフフフ……まぁ、いい。

我が魂は不滅……何度でも、復活し……貴様らを……滅ぼすのみよ……!』


「……やって見せろ。2000年以上続いた人間の歴史は、簡単にはひっくり返させねえよ」


俺は、最後のクイーンウィッチの台詞に何か感情を移入していたのか……そう返していた。

すると、クイーンウィッチの体はボロボロに朽ち果てた紙が風に吹かれて消えるようにバラバラバラバラ……と、消えて行き、どこかへと行ってしまった。


「……うむ、やはり報酬は美味いな。苦労したが倒した甲斐があったな……フフ」


ボスを討伐した報酬として、俺たちのストレージには大量のGとCPが入って来た。

経験値は……悲しくも俺がレベルアップするには僅かに足りないと言ったところだった。


「ドロップアイテムは……うむ、レア装備の【魔女の王笏】か。

だが魔法使いは私たちのパーティにはいないから……後で交渉材料か何かにしておくか」


ドロップアイテムが表示されて、先輩はそっちの方を喜んでいるが――

恐らく、他の皆には表示されていないウィンドウ、何故か俺だけに表示されていると思われる物。

【エクストラボーナス】。


『エクストラシリーズを装備したプレイヤーのみに送られる報酬』


と書かれたパネルから出て来た装備……恐らく俺専用のアイテムだ。

何せ、使用条件:エクストラシリーズ装備と書かれているしな。

で、何々……アイテム名は【神格ノ腕輪】。

消耗アイテムじゃあないみたいだが……今度試してみるとするか。


「他にドロップしたアイテムは……まぁ大したことないですね。

魔法耐性の上がるローブと言っても、性能はちょっと微妙です」


「魔法の詠唱時間短縮、消費MP削減の王冠……うーん、僕もいらないなぁ」


「あ、スキルのクールタイムが短くなる指輪……私これが欲しいです」


先輩を含む四人は、クイーンウィッチがドロップしたアイテムの分配であれこれと話し合っているが――

俺はこの、神格の腕輪の詳細情報を見たりすることで頭がいっぱいだった。


「おいブレイブ、お前はアイテムの分配をしないのか?」


「あ、あぁ、俺はいいですよ。皆でわけてくださいよ、今回は先輩とアインたちに助けられたんですし。

それに、俺は特に困ってる装備とかないですし」


「そうか、じゃあ私とランコとアインとハルでじゃんけんして分け合うことにするか。

……私のじゃんけん戦闘力は53万だ、恐れ慄け!」


先輩たちはそのままじゃんけんを始め、アイテムの分配をしていた。

で、結果は先輩に王笏、ハルにローブ、ランコに指輪、アインに王冠だ。

まぁランコ以外は全員売ることとかを視野に入れてるみたいだし、いいか。

俺はこの神格ノ腕輪を手に入れただけで、十分すぎるしな。


「じゃあランコ、貰ったポーションは」


「あぁいいですよ。別に安いですし……この指輪が手に入ったからチャラってことで!」


「じゃ、アインは……」


「僕もいいです。楽しかったですし、それで大丈夫です!」


ランコとアインはそう言ったが……まぁいいか。


「アイン、じゃあフレンド登録しようぜ。ランコも、ハルや先輩としねえか?」


「いいですね、今回のパーティは楽しかったし……僕もまた皆で戦いたいですね!」


「アインくんがそう言うなら、私も一緒にやろうかな」


先輩とハルにちらりと視線をやると、二人とも無言でフレンド登録を済ませていた。

俺もアインとフレンド登録を澄まして、無事に五人ともお互いのフレンドリストの仲間入りだ。


「それじゃあ、皆街に戻ろうぜ!帰るまでが冒険だからな!」


「応!」


皆が声を揃え、返事をする。

その後俺たち五人は、ボスを倒してから現れた魔法陣に飛び乗り、町へと戻った。

スケルトンや狂人たちからドロップしたアイテムの鑑定や売却を行ってからログアウトして、それぞれの現実リアルへと帰っていった。






「ん……あぁっ、楽しかった……」


ここまで楽しいと感じられたVRMMOは、人生初めてだ。

前のゲームだと、よく血眼になってアイテムの取り合いをしていたが……今日はとても晴れやかな気持ちでゲームをすることが出来た。


「って、そういや今何時だ?」


と思って時計を見てみると、時計は六時を回っていた。


「やっべ、急がねえと鞘華にまたあれこれ言われる……アイツ一回言うとスゲー言うんだよなぁ」


俺は急いでリビングへと向かうと、キッチンで鞘華が鼻歌を歌いながら料理をしていた。

……いつも六時には完成しているはずなんだが、珍しいな。


「おぉ、鞘華。今日は随分と珍しいな。

それに機嫌がいいみたいだけど、何かあったのか?」


「ふふーん、兄さんにはあんまりわかんないだろうけど、さっきやってたVRゲームが楽しかったんだよ。

セブンスブレイブ・オンラインってゲームでさ、ちょっと強めのボス戦やってたの」


……鞘華の口から出た言葉は、俺を驚かせるには十分だった。


「鞘華……お前SBOやってたのか?」


「え?そーだけど、もしかして兄さんも?」


「あぁ、そのもしかして、だよ。

俺もちょっと前にセブンスブレイブ・オンラインを始めたんだよ」


「えぇぇぇ?ホント?てっきり、前やってた方のVRにまたハマったのかと思ってた」


鞘華は料理を作る手を止めて、俺と一緒に驚いていた。

まさか、気づかない間に兄妹揃って同じゲームをやっていたとは。


「じゃあ、もしかしたら既にゲーム内で出会ってたりして?」


「いやいやいやいや、まさか。

まぁでも、一応プレイヤーネームとか言ってみようぜ。

そのまさかがありうるかもだしよ!」


「そうだね。じゃあせーの、で言おう!兄さん!」


俺と鞘華はせーの、と言ってから、お互いのプレイヤーネームを言い合った。


「ブレイブ・ワン」


「ランコ」


……そのまさかがあってしまった。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:35

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:60(+55) AGI:70(+45) DEX:0(+15) VIT:33(+65) INT:0 MND:33(+45)


使用武器:小鬼王の剣、小鬼王の小盾

使用防具:龍のハチガネ、小鬼王の鎖帷子、小鬼王の鎧、小鬼王のグリーヴ、革の手袋、魔力ズボン(黒)、回避の指輪+2

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