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第百七十七話:勇者の少女

「はぁ……良かったぁ」


「新しく俺様の筋肉の糧になりきた奴か! いいだろう! どっかで見た顔だが、まぁ関係はない! 俺様の前には等しく無力なチキンどもだ! 磨り潰してやるぜ!」


 筋肉ダルマ野郎――マッスルはそう言って、見る人が見たら華麗だと思えるポージングを取った。

 私、ランコは相棒のユリカと一緒にそれをげんなりとした目で見た。

 ぶっちゃけ、私からするとダサいし……もういいや、とっとと倒して兄さんに連絡とってからこれからどうするかを決めよう。

 なんて思っていたら。


「こっちも名乗らないと無作法だね、ランコ」


「え、ちょマジで言ってんのユリカ」


 ユリカがマッスルの名乗りに応えるように、背中から二本の剣を抜いた。

 そしてそれをクロスさせ、右手側を肩に持ってきて、左手側を前に出した。


「天下御免の集う勇者!」


「え、て、天下?」


「ほら、ランコも!」


「え、えーと……二人が揃えば敵なし!」


「勇者の少女が一人、黒の剣士ユリカ!」


「えー、えーと……同じく一人、万能の青・ランコ!」


 まるで子供向けの変身ヒロインのようなポーズを取りながら、私たちは名乗り終えた。

 ……めっちゃ恥ずかしいし、今すぐ自分にライトニング・ロアを打ち込みたくなった。

 鈴音さんの『何してんのこの二人』って目線が痛い、今すぐ走って逃げだしたい。


「ほぅ、勇者の少女か……! かかってこい! そして俺の筋肉に惚れさせてやろう!」


「上等! 私たちの剣技でサイコロステーキにしてあげるよ!」


「え、えぇ……」


 このノリについて行けばいいのかわからない……けど、私もやってた時があったな。

 ユリカが来てからやらなくなったっけ、とか思い返しながら私は槍を構える。

 ……次から、ちゃんと名乗り上げを練習しておこう。


「ハッハァ! 俺様は女が相手でも手加減しねえぜ! くらいやがれっ、【サンダー・キック】!」


「フッ!」


 跳び上がって降下する勢いをつけての蹴りを放ってくるマッスル。

 その攻撃を私たち二人は左右に散って躱し、マッスルを挟み込む体勢を取る。


「フン、同時攻撃かぁ!」


「だと思う?」


 マッスルは足の筋肉を膨張させて、スキルの詠唱を始めて構えている。

 私とユリカは二人で同じスキルを揃えて詠唱する。


「くらいやがれ! 三日月蹴り!」


 マッスルは弧を描くような蹴りを片足を軸にして放つ――けれど、それは鼻先三寸で私たちに届かない。

 驚いた顔をしているけれど、蹴りの瞬間にどこを狙っているか読んで体を下げるだけなんだから問題はない。


「いくよ、ランコ!」


「うん!」


 ユリカの言葉に頷きながら私は詠唱を終えたスキルを発動させるため、槍をクルンと回す。


「【ピアース・ストライク】!」


「ディフェンス・ブレイク!」


「うごぉぁっ!」


 さっきの戦いを見ていて、コイツは自分の防御力に自信を持っているようだった。

 だけど、防御貫通スキルならそれも関係ないし、この筋肉ダルマのHPを削るのは容易いことだ。


「っ、はぁっ、ンのっ!」


「っと」


 けれど、流石にたった二撃で倒される程脆くはないようで、すぐに持ち直したマッスルは私に殴りかかる。

 私はそれを槍でいなしてから、ユリカに目配せしてから空いた手で目元にピースサイン。

 すぐにユリカは目を瞑ったので。


「フラッシュ・スピア!」


「なにっ!? ぐっ、目が……!」


 シェリアさんたちを巻き込んじゃったのは申し訳ないけれど、コレで十分。

 マッスルは目を抑えてちょっとフラついたので、私はその間に地面に手をつける。


「バインド・チェーン!」


「ちっ、やっと目が……んがっ! なんだこの鎖は! 俺様でも切れんだと……!?」


「私の攻撃力依存の硬度だからね!」


 私はそう言いながら腰から剣を抜いて、兄さんに倣って剣の腹を軽く撫でる。

 ユリカは既に両手の剣のスキルの詠唱を終えたようで、私と攻撃のタイミングを合わせてくれるらしい。


「じゃ、行くよ。ユリカ!」


「うん! いつでも!」


 私は刀身に雷を纏わせてから、剣を両手でグッと握って構える。

 ユリカは剣をクロスさせて聖なる光と氷を、剣を中心にしながらこの場に展開する。


「【氷天・聖十字剣戟】!」


「【ライトニング・フィニッシュ】!」


 ユリカの氷属性と光属性を秘めた十字の剣戟と、私の雷を纏った刺突がマッスルのアバターを斬り裂き、貫いた。

 マッスルは声をあげる間もなくHPの大半を削り取られ、フラフラとしながら数歩後ずさったと思うと、その場に倒れ込んだ。

 もう残り僅かのHP、加えて連続でスキルを受けたのが影響してかスタン状態になっているし、もう私たちが手を下すまでもない。

 スターちゃんが魔法を軽く撃ち込んでやれば倒せるような体力だろう。


「う、ぐ……な、何故だ……! 女王陛下から賜った力なのに……! 貴様ら如きに、後れを取るはずがないのに……!」


「それは、お前が力を使いこなせていないからだろう? 間抜けめ」


「ッ! 誰!?」


 さっきまで集う勇者のメンバーとマッスル以外はいなかったはずの拠点。

 なのに、いつの間にか私たちの後ろに知らないプレイヤーが立っていた。

 腰には一振りの刀、本人のアバターは猫耳にエプロンドレス、ミニシルクハットつきのカチュームを装備している。

 戦いには向いていなさそうなアバターだけど、感じる気配は強者のソレだ。


「お、お前は……!」


「お前? 四騎士である俺に向かって、お前? 力を貸して貰ったおかげか、図体だけじゃなくて態度までデカくなったか? マッスル。図に乗るのも大概にしろよ?」


 一人称が俺、と言っていても男だか女だかわからないそのプレイヤーは、マッスルの頭に足を乗せた。

 少しでも力を込めてしまえばHPを削り取って死なせてしまうだろうに。


「す、すみません……! ちょ、調子に乗りすぎていました……!」


「まぁいい。お前はモルガン様に椅子代わりには気に入られてるんだ。挽回の機会をやるから早く立て。でなきゃ死ね」


「はっ、はひぃっ!」


 マッスルは先ほどまでの態度が嘘のように縮こまりながらも立ち上がり、私たちに向かってファイティングポーズを取る。

 一方でマッスルの上司……四騎士と名乗っていたそのプレイヤーは腰の刀に手をかけながら言った。


「あぁ、自己紹介まだでしたっけ、お二人さん。私は【時雨】。魔女騎士団の四天王筆頭、黒刀の時雨」


 時雨、そう名乗ったプレイヤーは刀身が真っ黒な刀を抜き放って見せた。

 ……実力からして、王の騎士団の幹部とも渡り合える実力だろう。


「マッスル、コレ使え。お前でも少しはマシになる魔法の瓶だ」


「は、はい! ありがとうございます! 謹んでお使いいたします! んぐっ、んぐっ……ハァァァッ!」


 時雨から渡された瓶の中身を飲み干し、マッスルは更に筋肉を膨張させて強いオーラを放った。

 HPもどんどん回復してるし、ちょっとマズいかな……。

 でも、私はここの拠点の防衛の救援を兄さんから任されたんだし、ユリカの前で無様な負け方は出来ない!


「ユリカ、どっちがどっちやる?」


「ん、じゃあ私があの剣士を倒すよ、剣の勝負なら負けない自信あるし」


「そ。じゃあ私はマッスルを潰すよ」


 そう言って、私たちは互いの相手に向き直ってから両手に武器を持って構える。

 今のマッスルはドーピング状態……出来るだけ、素早く倒さないといけないかな。


「スーッ……ウルァァァッ!」


「ッ!」


 マッスルは軽く息を吸ってから私に殴りかかって来た。

 その速度はさっきよりも上がっていて、体感的にはベルセルク状態のアインくん並みだ。

 けど、ユージンさんや兄さんたちに比べたら、まだまだ遅い方だ。


「オラオラオラオラオッルァッ!」


「パワーは凄いけど、速度はまだ足りないみたいだね!」


「うるせぇ! このガキが!」


「年齢関係ないでしょっ……っての。これだから脳筋は」


 繰り出される拳や蹴りを回避しながら私はマッスルをなじり、天空歩で空に逃げる。

 さて、空にいる時はどうして来るかな……遠距離攻撃がないなら、距離取りつつ中距離技で倒せる。

 空中と地上って距離の開いた場所でも自分の間合いに持ち込めるんだったら、私もそれに応えよう。


「オォイ! 何空中に逃げてんだ! 降りて来い! んなズル使うなクソガキ!」


「……え、マジ?」


 思い切りジャンプして来るとか、壁キックで攻撃を届かせようとするとか思ってたのに。

 まさかまさか、ただ悪態をついて怒鳴り散らすなんて思いもしなかった。

 確かに空中にいるのはズルいかもだけど、決してチートみたいな不正ってわけじゃないし。

 と言うか、この人自分が優位に立っていないとキレやすいってタイプなのかなぁ。

 なんだか最初の余裕でポージングしてた姿が嘘みたいだ。


「降りて来いって言ってんだろうが! 早くしろ!」


「うっさいなぁ」


 ダンダンと足を踏み鳴らして癇癪を起している姿はまるで子供だ。

 アバターと声の低さに反して、実は私たちとそんなに歳が変わらないような人なんだろうか。


「うるさいぞマッスル、第一ジャンプすれば届くだろ」


「は、はいっ、そ、そうかもしれませんね!」


「……露骨だなぁ」


 時雨って人にアドバイスを受けたと思うと、マッスルはぺこぺこと頭を下げだす。

 ユリカは何してるのかな、と思ったら剣をクロスさせてスキルの詠唱をしている。

 時雨の方は腰に刀を納め、居合の構えを取っているから……大技同士のぶつかり合いなんだろう。

 よし、だったら私も私で大技を使って決めに行こう!


「覚悟しとけよクソガキ……! 俺様のオリンピック級ジャンプ力を見せてやる!」


「いや結構、どうせなら地上で大技勝負にしようよ」


「あぁ? ……まぁ、構わねえぜ」


 助走をつけるためにクラウチングスタートの準備までしていたマッスルは面食らったけど、すぐに構えを取る。

 この男の得意なスキルは恐らく蹴り……だったら、私も蹴りのリーチよりも外から攻撃出来るスキルを使おう。

 槍をクルッと回してから構え、マッスルの予備動作を見てから私はスキルの詠唱を完了させる。


「くらいやがれ……!」


「来い……!」


 マッスルは右足を岩のように変化させたと思うと、左足を軸にして私へのハイキックを放った!


「【ロックレッグ・キック】!」


「【風槍炎剣】!」


 私は槍で竜巻を作り出し、その中心から炎を纏った剣を突き出す。

 風による防御、同時に炎による一点集中の攻撃を放つこのスキルなら、相手の大技を潰すのに持ってこいだ!


「んぬぅぅぅ……! おおおあああァァァッ!」


「絶対にぃぃぃっ……! 負けるっ、もんっ、かぁ――ッ!」


「な、この威力は……! お、押され……ぐあああっ!」


 マッスルのスキルは跳ね返され、彼は空中で三回転ほどしながら拠点の壁に叩きつけられた。

 薬でブーストしたのは速度だけみたいで、ステータス・エディットをした私の敵じゃあなかった。

 加えて、マッスルのHPも削れて来ているし、次の一撃で必ず決められるハズ。


「今度こそ終わらせるよ……! 【フィフス・アクセラレーション・ジャベリン】ッ!」


 私はフィフス・ジャベリンを発動させ、投擲された槍の石突にジェット・ストライクを当てた。

 そうすることでジェット・ジャベリン以上の速度で槍は飛び、どんなものでも貫ける威力を出すのだ。


「ぐっ……! が、あ、あぁぁぁ……!」


「良し」


 私の槍はマッスルの頭を貫き、マッスルのHPを今度こそ全損させた。

 一応、こっそり加力を使っておいたから威力は更に上がってるし十分だったけど、倒せて良かった。


「へぇ、ドーピングしたマッスルをこうもあっさりと倒すかぁ。スキルの使い方が上手だね。

でも、そんなに飛ばして大丈夫なのかな? 今のプレイ、お世辞にも効率的とは言えないかな」


「そっちこそ、余裕ぶってて平気なの?」


「いや、全然?」


 時雨はHPの七割ほどを残していて、ユリカもユリカで残りは八割ほど。

 地上戦での激しい剣戟による勝負が繰り広げられていて、決着は早くにつけるのは難しそうだ。

 ……だったら、加勢する他はないだろう。

 シェリアさんたちは時雨たちに続いて入って来た魔女騎士団のプレイヤーと交戦し始めているし。


「卑怯って言われてもいいか」


 だってこれ戦争だし、と心の中で付け加えてから私は時雨に向かって斬りかかる。

 ユリカはは一対一を楽しみたかっただろうけど、それは仕方ないよね。


「ふっ!」


「うおっ、ぐ……!」


 私は剣を抜いて時雨に斬りかかった。

 やっぱり、勝つためにはそういうことに拘ってはいられないだろう。


「ランコ……!」


「ごめんユリカ、確実に勝たなきゃだからさ」


「まぁ、そうだよね……うん、ありがとう!」


 ユリカは私に続いて時雨に斬りかかり、時雨は一気に表情が歪み始めた。


「うわぁ……マッスルの奴、帰ったらケツシバきの刑にしてやろ。マジふざけんなって状況だよ……」


 私とユリカの三本の剣のまとまった攻撃、時雨はそれを刀を横にして受け太刀している。

 このまま押し切ってもいいけど、それはそれで反撃を受けそうだから――


「っと!」


「うげ」


 時雨のお腹を蹴っ飛ばして、私は剣の腹を撫でてから構え直す。

 サクッと倒して、戦線をどんどん追い上げてしまおう。


「さぁ、勇者の少女が二人……まかり通るよ!」

プレイヤーネーム:ユリカ

レベル:80

種族:人間


ステータス

STR:100(+250) AGI:138(+150) DEX:0(+10) VIT:30(+120) INT:0(+) MND:25(+150)


使用武器:金剛狼呪剣、ソウルブレイカー

使用防具:大悪鬼の冠・改、大悪鬼の外套、アダマンアーマー・改、アダマンソール・改、休魂手袋、双星のスカート、休刃の鞘×2

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