第百七十五話:開戦
「そろそろか」
開戦まで残り数分、俺は立ち上がって先頭で相手側の様子を見ながら呟く。
魔女騎士団のギルドメンバーたちも既に布陣しており、双眼鏡を使ってどうにかそれを確認できた。
ゾームー、リン、GianT、ランコ、アイン、ニナの六人は各々武器を抜いて構える。
だが、すぐに斬りこまないようにと俺は皆を手で制してから、小鬼召喚を詠唱しておく。
持つ武器なども自在になったから小鬼たちにも役割を持たせることは出来る。
『こちらアーサー。間もなく戦が始まる。遠距離武器持ちは発射準備をしてくれ。盾持ちはガードを』
「よし、構え」
弓を持つゾームーは弦に矢を番えて引き絞り、魔法を使えるニナは魔法の詠唱を始める。
一方でランコは槍を構えて大風車の準備をしていて、アインとリンとGianTはやることがないからか暇そうだ。
……開戦の合図を知らせるタイマーはゆっくりと時間を経過させ、ゾームーたちの矢を引き絞る手に力を込めさせる。
『さぁ、始まりの時だ! 一斉射撃開始! 同時に一斉防御展開!』
タイマーがゼロとなり、開戦の合図である鐘の音がりんごーん、りんごーんと鳴り響いた。
直ぐに下されたアーサーの全体指揮と同時に、ゾームーとニナは詠唱して保持していたスキルと魔法を放った。
「エクスプロード・アローッ!」
「嵐星斬!」
爆裂する矢と巨大な嵐と星々が俺たちの拠点から放たれ、俺は二人がスキルを放った瞬間に小鬼召喚を発動させた。
最近では小鬼召喚で召喚できるのが、ただ俺の剣と似た武器を持つ奴らだけじゃないことを知った。
ので、俺は大盾を持って全身を鎧に包んだゴブリンキングを2体召喚し、俺の両隣において盾を構えさせた。
そしてすぐに詠唱を始める。
「流星盾!」
『ギャオオ!』
『ブジョルゴワァ!』
「大風車!」
何言ってんだかわかんねえ声をあげながらも、ゴブリンキングたちはフィフス・シールドを展開する。
連合軍が放った射撃に応えるかのように、魔女騎士団側からも魔法や弓、魔銃などの攻撃が次々に飛んでくる。
細かく狙いすましたものでないからかそもそも当たらないものなども多いが、俺たちの盾に命中する物もあった。
ランコの大風車は盾系スキルをすり抜ける矢などを弾き落とし、俺たちの防御の一助となってくれた。
「……これが、戦争のテンプレか」
「まぁな、馬鹿な突撃して来る奴にはコレで終わるから最初は大体こうなんや」
王の騎士団が度々やっていたギルド戦争に参加していたゾームーはそう言ってから弓から斧に持ち替える。
どうやら、この一斉射撃と一斉防御は最初しかやらないのがセオリーらしい。
ニナも刀を両手持ちして白兵戦に備えているようだし……俺も防御はゴブリンキングに任せるとするか。
「よし。じゃあ俺が出す指示は一つだ。深追いはせずに生き残ることだけ考えろ。
流石にお前らレベルなら格上と当たることはないだろうけど、強敵が来る可能性もある。
だから、無理に取りに行くよりも出来るだけ拠点を防衛して相手に『無理だ』と思わせるんだ」
「兄さんにしては消極的な指示だね、『死んでも殺せ』とか言うと思ってた」
「俺一人で無茶してどうにかなるならそうするけど、どうにもならないなら生存が第一なんだよ」
RWOとかでの領土戦では、俺が単騎で突撃することとかは多かったけど、それは格下相手の時だ。
格上や同格が相手の時は突撃は控えて、よく防衛に当たって出来るだけ現状を維持しようとしていたな。
隙を見せないためには、まずは耐え忍ぶことが始まりだって同じ隊の奴が言ってたっけ。
「お、どうやら先行部隊が来るみたいだぜ」
「騎乗持ちか」
馬に乗ったプレイヤーたちが武器を携えてパッパカパッパカと俺たちの拠点へと攻め込んでくるのが目視できる。
十分な距離だし、馬で強引に突破されないためにも迎撃は必要そうだな。
「よし、中距離でスキルを使える奴は迎撃頼む」
「了解!」
「わかった、何とか当てるよ」
「OK、なら俺ももう一発撃つぜ」
「なら私たちは避けて突っ込んでくるプレイヤーを待ち構えときますね」
ランコ、ニナ、ゾームーは再度スキルの詠唱をして武器にライトエフェクトを輝かせる。
ゾームーはもう一度弓を取り出して矢を番え、ランコは剣と槍を同時に構え、ニナは刀身に光を灯して風を纏わせる。
勿論、俺もそれに合わせて剣を抜いて、剣の腹を撫でてから刀身に炎を灯して構えを取る。
「今だ!撃て!」
「【トラッキング・アロー】!」
「ライトニング・ロア!」
「バースト・エア!」
「フェニックス・ドライブ・マルチ!」
ゾームーの敵を狙いすまして追尾する矢、ランコの雷属性の大技、ニナの竜巻、俺の七羽の不死鳥が敵目掛けて放たれる。
前を走っていた数人には直撃したが、少し後ろにいたプレイヤーたちは馬を乗り捨てて盾にすることで攻撃を回避した。
この野郎、VRじゃなかったら立派な動物虐待……って、戦争にそう言うもんはなかったか。
「ライトニング・ロアが直撃したのに殺しきれなかったか……」
「俺のフェニックス・ドライブが直撃してもピンピンしてる奴がいるんだ、まぁ手練れってことだろ」
直撃して落馬したプレイヤー、馬から降りてほぼ無傷で来たプレイヤーたち。
数は10人、ゴブリンキングたちを含めても俺たちは数で劣るし、守勢だからあちこちに気を回さねばならない。
「かかれーっ! ……っあ、何ィ!?」
「かかった!」
「よし」
リンが第三回イベントでも使った地雷原は拠点の前に張り巡らされており、突っ込んできた奴らを次々に襲う。
と言っても、それは落馬してHPが減っていたプレイヤーたちだけで、やっぱり後ろの奴らは掻い潜って避けてくる。
……地雷のおかげで5人は機動力を削いでダメージも与えられたが、後ろの5人は無傷でこっちまで来た。
「うおおお!」
「任せろ!」
刀剣類を持ってきた奴らはGianTが攻撃を止め、打撃武器を持つ奴はアインが対処し始める。
その内にニナはもう一度スキルを詠唱し、地面を通る遠隔斬撃で残りHPが少ないプレイヤーたちを全損させる。
あとは残った5人を俺、ゾームー、ランコ、リンで倒しに向かうだけだ。
「水流乱舞!」
「バーサーク・スマァッシュッ!」
「ぐわっ、ごふっ、おぅわぁっ!」
リンとアインの連続攻撃がハンマーを装備していた重装備の男を打ち倒す。
「ハッハァッ! 俺様に刀剣は効かねえんだよ!」
「チッ、なんて馬鹿力――うぐっ!」
「ぅン”ッ!」
GianTの両手を合わせたハンマーのような振り下ろしが短剣持ちのプレイヤーを飛び退かせる。
その隙にゾームーが放った矢がソイツの目を撃ち抜き、怯んだところにランコの槍が軽装だったそのプレイヤーの頭を貫いた。
「クソッ、う、動けねえ……!」
「ゴブリンズ・ペネトレート」
俺の方はゴブリンキング2体が盾で1人のプレイヤーを挟み込み、動けなくしたところをクリティカル攻撃で倒す。
そうやっていれば、もう俺たちの拠点に攻め込んできたプレイヤーたちはもう2人まで減った。
「マズいな、逃げるか?」
「そうだな。ここはそうするか……!」
残された2人はGianTとゾームーとリンとアインの攻撃を紙一重で避けながらそう呟いて、各々に逃げようとする。
だが、拠点の出口となり得る場所はゴブリンキングたちの展開したフィフス・シールドによってもう閉じさせている。
「悪いが、生きて帰すほど俺たちは甘くねえぜ」
「畜生、やっぱりここはハズレ拠点か……!」
「だが情報は手に入れた……!」
ランコと俺の攻撃に倒れながらも2人のプレイヤーはそう言って、アバターをポリゴン片へと変えた。
……後続のプレイヤーが来る様子はないので、俺は戦争用のメニューを開いて残りプレイヤーの数を確認する。
敵の残り人数はわからないが、王の騎士団連合軍の数は10人程減っていた。
まぁ、俺たちのは攻めやすい位置にあるから強豪を集わせたってだけでたまたま全員生き残ったわけだからな。
それに、今のは精々魔女騎士団の3軍レベルと見ても良いだろうし、気は抜いていられないか。
「よし。お前ら、取り敢えず今のを維持出来るように防衛に徹して――」
『もしもし団長!? ちょっとヘルプ頼めないかな!』
「おわ」
何事かと思ったら、シェリアからのボイスチャットが飛んできていた。
ヘルプ……もしや、拠点が陥落寸前のピンチとかだろうか。そうだとしたら考えている暇はない。
シェリアがいる拠点は俺たちの拠点とも位置が近いはずだし、急げるのは俺たちだけだ。
「ランコ、ここの拠点まで全速力で行けるか」
「え、どしたの?」
「シェリアからのヘルプが入った。お前の天空歩なら目立つが一番早くつくはずだ。頼む」
「っ、あー……うん、わかった」
ランコはそう言うと、槍を背負い剣を腰に納めてから跳躍して空中を走って行った。
俺も空中機動は出来るが、代償ナシで出来るアイツは俺よりも凄い。
加えて、空中で地上と同じ動きが出来ると思うとランコのスペックを恐ろしく感じる。
――――
シェリアさんからのヘルプを受けて、兄さんが下した命令通りに私は空を走る。
確か、シェリアさんがいるとこには……集う勇者ならスターちゃん、ムーンくん、シェリアさん、鈴音さんがいたはずだ。
残り三人は朧之剣メンバーだったから覚えていないけれど、少なくとも有象無象に負けるほど弱くはない。
だったら、誰かしら強敵が出て来て大ピンチになっているのだと仮定して――
「もしもしユリカ、今暇?」
『ん、ランコ? 暇だよ。めっちゃ暇、っと! うん、暇』
「絶対暇じゃないよね、今私めっちゃ邪魔してたよね。ごめん、切るね」
ユリカの力も借りたかったけど、凄い邪魔なチャットになってしまったみたいだ。
だから、私だけでどうにか出来るようにしないと……そう思いながら私は槍を手に持ちながら走る速度を上げる。
『や、別に邪魔じゃないって。ホントに平気。ほら、私の所KnighTさんいるし』
「そっか……なら、シェリアさんのとこの救援に行くの、手伝って貰っていいかな」
『OK、そこなら超加速でひとっ飛びだから、一旦切るね』
「わかった、気を付けてね」
私はそう言うと通話状態を終わらせ、シェリアさんの拠点が近くなってきたので高度をゆっくりと落とす。
いつまでも空走ってると狙い撃ちされるかもだし、敵にも空飛べるのがいないとは限らないしね。
と、高度を落としつつも状況がどうなってるかの観察は忘れてはならないので、私は拠点の様子を見る。
「ハッハッハァ! そんなもんかァ!」
「うぐっ、くっそぉっ……!」
……ブーメランパンツ一丁で、の筋肉モリモリマッチョな男がムーンくんの盾を殴りつけていた。
スターちゃんやシェリアさんがムーンくんに守られながらも攻撃を加えているけど、そのマッチョ男には大したダメージにはなっていなかった。
攻撃、防御、速度のどれにも秀でているみたいだけれど、どうしてほぼ素っ裸なんだろう……
「双竜打ち!」
「ふん! ぬん! ハハァ! 無駄無駄! 俺様は女王様から賜った力で攻守共に隙はねえ! この鉄壁の筋肉男、【マッスル】の肉体美に酔いしれろ! ハハハァ!」
「うわぁ……貰った力でそんな自慢出来るんだぁ」
「羨ましい脳みそしてるわね、インド人もびっくりだわ」
ノリノリでポージングを取ってマッスルと名乗った男は歯を見せて笑うけど、シェリアさんたちには呆れられている。
……これ、私が援護に来た必要あるのかなぁ。4人ともHPはまだまだ大丈夫そうだし、ムーンくんも盾役をこなせてるし。
ユリカまで呼ぶ必要なかったんじゃないかなぁ、なんて思っていると。
「フン、だったら俺の必殺技を受けてみろ! 筋肉マックスパワーを見せてやる!」
「っ、さっきシールドを砕いた時の……!」
「行くぞ!【ブレイズ・キック】ゥッ!」
「【ナイト・シールド】!」
マッスルは筋肉を膨張させ、真っ直ぐに右足を蹴り出した。
ムーンくんは一歩思い切り踏み込み、伸びてくるつま先に盾を合わせた。
両者のスキルが激突し、衝撃と凄まじい音が鳴り響いて――
「ウッルァァァ!」
「どわぁぁっ!」
マッスルの蹴りがムーンくんを押し切り、ムーンくんはゴム毬のようにスッ転がる。
「ハッハァ! 貰ったァ!」
「ぐえ――ぼぎゃぁっ!」
吹っ飛んだムーンくんにボディブロー、更にハイキック。
筋肉ダルマのくせに無駄に速いし、今の攻撃だけでムーンくんのHPは半分以下に落ちた。
誰も止めないのかと思ったけれど、シェリアさんの射撃はマッスルに通じてないし、鈴音さんの攻撃は空ぶるだけだった。
スターちゃんは回復効果のある鞭でムーンくんを叩いてどうにか死なせないようにしているけれど、マッスルは余裕を見せている。
追撃すれば確実にムーンくんを倒せるはずなのに、わざわざ鈴音さんの方に向き直って攻撃を対処している。
「……こりゃ、見てる場合じゃないよね!」
私はこのマッスルという男に対する認識を改めて、天空歩を解除して重力に任せた自由落下をする。
どういう奴かは知らないけれど……このマッスルと言う男は、私が倒す!
プレイヤーネーム:ランコ
レベル:80
種族:人間
ステータス
STR:53(+125) AGI:50(+110) DEX:50(+60) VIT:50(+200) INT:50 MND:50(+200)
使用武器:アダマンスピア・改、アダマンタイター・改
使用防具:大悪鬼の冠・改、魔獣のジャケット、アダマンチェーンメイル・改、、双星のスカート、休魂手袋、天空歩、魔のロザリオ