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第百七十四話:開戦準備

「よく集まってくれたね、諸君。此度は今までの中で最も重要な議題だ、おふざけは出来ないと思ってくれ」


 アーサーからメッセージが届いてから、一日経って。

 王の騎士団ギルドホームの会議室に、王の騎士団と傘下ギルドの面々が揃っていた。

 上座にはアーサーが座り、その一歩後ろにランスロットとアルトリアが立っている。

 アーサーから最も近い位置には集う勇者の俺、後ろにはNさんとハルが立っている。

 俺と対面に座っているのはメイプルツリーのカエデ、後ろにはリンと……見たことない女が立っていた。

 で、更にその下座には我々冒険団のギルドマスターに新しく就任したマイク・トントンが座っており、後ろにはスティーブン・ウツとゾームーが立っている。

 我々冒険団の対面にはディララたん親衛隊のアルドが座り、後ろには夜一と狼の姿をした忍者風の亜人が立っており、今回は全員青いウィッグをつけていない。

 そして、王の騎士団と対面になるように座っているのは朧之剣のPrincesS、後ろにはKnighTとGianTが立っている。

 何故朧之剣までいるかは不明だが、傘下ギルドを幹部含めて強制的に招集した以上、並々ならぬことを伝えたいんだろうな。


「重要な議題……ね。と言っても、こっちはこっちで色々やることがあるから出来れば手短だとありがたいんだがな」


「なんやブレイブ、ワイらより出世したからって調子乗っとんのか」


「乗ってねーよ豚、今回ばかりはマジにリアルに大ピンチなんだよ」


 蒼月夜空、あの杖を奪い合って一つのギルドが真っ二つになってしまった。

 Nさんはそれを助けたいと思ったがために首を突っ込み、俺も集う勇者としてそれを見逃したくなかった。

 結果、蒼月夜空をギルドマスターから盗んだ野郎はどっかのギルドの女の所に吸収されたようで。

 だからその対策及び手を貸してくれる奴を探したかったってのに、何でこんな会議が開かれたんだ。

 無視したらアーサーは蒼月夜空の件に関して手貸してくれなさそうだから出たけどさ。


「まぁまぁブレイブさん、今回は朧之剣の方々が来てるんですよ? よっぽどの一大事ですって、コレ」


「……まぁ、確かにそうなのはわかるけどよ」


 王の騎士団のアルトリアと朧之剣のKnighTは互いに高め合うようなライバルだ。

 どっちかのギルドが上か下かなどを決める形になるようなことはしたくないはず。

 つまり、この会議に朧之剣が参加しているのはある種のゲスト的な招き方……か。


「じゃあ、話させて貰おう。議題は『魔女騎士団について』、だ」


「魔女騎士団? そのギルド――」


 俺はそう言いかけてから、危うく会議を止めかねないと思ったので自分の口に手を当てる。

 Nさんの方を恐る恐る見てみると、口元に人差し指を当てて『今は黙っていよう』と目で伝えてくる。

 ので、俺はそれに頷いて黙ることにした。


「まず、魔女騎士団と言うのは存在自体は第二回イベント頃にはもうあったんだが……イベントなどには全く参加していないんだ」


「えぇ~? イベントって参加したらレアアイテムとか貰えたりするから、皆出来るだけ出ようと頑張ってるのになぁ」


 カエデは信じられないことを聞いたかのように驚き、難しい顔をし始める。

 まぁ、実際運営が銘打ってる『第〇回イベント』みたいなのは勿論、それ以外にも開催されるイベントはある。

 最近は季節ごとのイベントとか、期間限定クエストの実施とか、色々。

 そう言うものに参加すればレアな素材や武器、多額のCPと引き換えられるチケット等が貰えたりする。

 だから、SBOプレイヤーである以上は参加できるイベントには基本的に参加するものだろう。

 なのに一切参加していない魔女騎士団と言う存在は、この時点で少し異質だと言うのが伺える。


「加えて、KnighT。君の話が確かならば戦争に動かせる人数は」


「300人程。加えてレベルの最低ラインが60でした」


 ギルド戦争では、敵ギルドにいるプレイヤーのリストを閲覧することが可能だ。

 それでどれだけの人数がいて、どんな戦術を取って来るかとかの予想に繋がるわけで。

 その際にプレイヤーを表示させる順番が名前順、レベル順とかあるわけで。


「300人が戦争に参加して、加えてレベルは最低でも60……王の騎士団の足切りラインより高いやんけ」


「僕ら親衛隊と同レベルがゴロゴロいるってわけか……」


 トントンは親指を顎に当てながらブヒィ、と唸りアルドは頭を抱えて机に突っ伏した。

 王の騎士団のギルドメンバーは総勢150人程で、その中でも最低レベルは50だ。

 それよりも高いレベルのプレイヤーが倍以上……洒落にならないくらい強いギルドってのがわかる。


「だがまぁ、それだけならちょっと強い曹魏の国程度なんだよ」


「それだけなら……じゃあ、これ以外にも何かあるってのか?」


「その通りだよブレイブくん。具体的に言うとウチのモードレッドを引き抜いている。

更に彼女と同レベルの幹部が複数人いて、装備もウチより良い物を持ってるみたいなんだよ。

幹部より下の位にいるようなプレイヤー一人一人の練度も高い、まぁ要するに王の騎士団の上位互換みたいなギルドさ」


 聞いているだけでげんなりしてくるような情報まみれだった。

 第四回イベントでイチカと互角の勝負をしていたモードレッドと同レベル。

 それが更に3人もいて、更には幹部より下の奴らは揃いも揃って王の騎士団の上位互換みたいな奴ら。

 そんな奴らがいるとなれば、王の騎士団がSBOのトップギルドでいられなくなるじゃねえかよ。


「で、その魔女騎士団がどうするっつーんや」


「王の騎士団に戦争を仕掛けて来たよ、傘下諸共徹底的に潰すって追伸付きでね。

加えて、朧之剣を前座扱いでボコボコにしてきたから、彼女たちがその雪辱を果たすためにここに来たってワケさ」


「うえぇぇぇ、理不尽なくらい強いんだ……」


 トントンの質問に答えたアーサーの言葉を聞いて、カエデは首をガクッと落としながら嘆いた。

 と言っても、俺としてはその魔女騎士団の奴と戦う理由があるのでかえって好都合なんだよな。

 王の騎士団だけじゃなくて、必然的にここの傘下連中の戦力を借りることも叶うわけだし。

 つーか、そんだけ強いんだったらむしろ集う勇者だけで挑むなんて考えをしなくて良かったかもしれない。


「となると、ワイらはその魔女騎士団ってーのと戦うのに協力すればええんか」


「そうなるね。苦労をかけるが是非そうして貰いたい」


 我々冒険団のギルドメンバーは……最近変動したらしいから実際はわからないが、記憶している範囲では10人くらいはいたはずだ。

 メイプルツリーは俺らが弾いた奴らを何人か入れたことで30人弱まで来たらしく、結構増えているとのことで。

 ディララたん親衛隊は……全然関わってないのであまり知らないが、大体50人くらいいるらしく、数だけなら凄いなと思う。

 俺たち集う勇者は12人……と言っても、数で劣っていても質に関してはこの傘下の中でトップだと自負している。

 で、最後に朧之剣は50人ピッタリくらいらしいから、全部で合計すると――


「数だけなら、互角……か?」


「まぁ、確かに合計すると同じくらいなんだろうけど、質に差がありすぎる。

朧之剣の戦力における最低ラインは40、集う勇者は水準が高いけど数が少ない、ディララの親衛隊は40。

メイプルツリーはレベルにバラつきこそあるけれど平均的なレベルは60未満、我々冒険団は全員ピッタリ同じだけど70台」


 今の集う勇者は確かに現状のレベルマックスであるレベル80が多いが、シェリアと鈴音とスターとムーンはレベル70台だ。

 確かに俺たちはエースプレイヤー級の活躍をすることが出来るだろうが、数が少なすぎて手が足りない。

 そこは課題だが……無暗に数を増やしても指揮が大変になるし、こればっかりは仕方ないと皆で割り切って欲しい。


「でも、あんまり悲観的になっていられませんよね。大事なのはこの戦力でどうするかですよ」


 カエデの隣に立つリンの一言で、アーサーは『それもそうだね』と言ってからアルトリアに紙を渡す。

 アルトリアはそれを見てから、黒板にシャッシャシャッシャと図を描き始めた。

 二つの城が向かい合う形になっていて、その間に小さい建物と兵士を散りばめたようになっている。


「今回のギルド戦争はただただ殺し合うだけじゃなくて、拠点の奪い合いなどもある。

制限時間がない代わりに戦術性は高い。だから、大事なのは戦力だけじゃあないってことを留意して貰いたい」


「私、頭使うの苦手ぇぇぇ……」


 カエデは机に突っ伏するが、すぐにリンの隣にいた女がカエデの襟を引っ張って起こした。

 トントンは『本格的な戦争らしくてええやんけ』と言うが、俺としては出来れば頭使う方向は避けたいんだけどな。


「まず、最初は中立地帯の拠点があって、そこをプレイヤーが占拠する。

すると、人数制限はあるけどその陣営のプレイヤーたちのHP、MP、SPを自動回復してくれる。

だからまぁ、安全地帯として休憩しつつ有利に敵プレイヤーを迎え撃つことが出来るんだ」


「それはいいですね、ジャンジャン確保してやりましょう」


「うむ、となれば攻めの手を多くすべきか」


 ハルとNさんはその拠点の魅力にワクワクしているが、そう単純な物じゃないと思うけどなぁ。


「次に、拠点の数は戦争する双方のギルドホームを一直線に道で結んだ距離、その間に等間隔で生成されるんだ」


 有限なのはわかっていたが、多ければ多い程良いってわけでもなさそうだなぁ。

 こっちの戦力もあっちの戦力も凄まじく多いわけだし、拠点に入れる人数次第では入れない奴が出そうだ。


「拠点の人数制限はどれくらいなんや? それに応じて編隊する必要があるやろ」


「あぁ、7人だよ。1パーティ分だ」


 となると……大体300割る7で……えーと、大体43パーティ……か。

 レイドパーティが……6個分。拠点を43個制圧って無理がなかろうか。


「拠点どんだけ制圧せなアカンねん……」


「ギルドホームが人数制限なしの拠点みたいなものだから、回復は全て拠点に任せる必要はないよ」


「そりゃよかったわ」


 トントンは帽子を深く被り直し、カエデたちはホッと胸を撫でおろしていた。

 AGIが0のカエデじゃあ、拠点を制圧しに行くのは向かないもんなぁ……。

 と、まぁ……こんな風にギルド戦争のルールを説明され、俺たちは対魔女騎士団の準備を進めることとなった。

 それぞれのギルド同士でどんな人員がいるかを紹介して、基本的な隊を組んでいくことにした。

 43個くらいのパーティが出来るので、誰がリーダーかを振り分けるのが非常に大変だった。

 が、まぁそこは300人もいれば向いてそうな人員も意外と出て来るには出てくるもんだったな。


「さてと……あとは連携とかの確認だな」


「そうだね、このギルド戦争では撃破されれば復活の待機時間がとてつもなく長い。

だから、出来るだけ死なないようにしてくれたまえよ、諸君」


 人数の規模によってその時間は変わるらしいが、まぁ要は死ななきゃいいんだ。

 俺は不撓不屈があるおかげで耐久力に関してはトップクラスだろうし、まず死なないだろう。


「さて、開戦まではあと一時間ほどか……早いうちに隊列を組んでおこう」


「おう」


 俺たちはそれぞれパーティを組んだプレイヤーたちと共にどこの拠点を目指すかと割り振られている。

 ので、その拠点になるべく近い場所にスタンバイしてから戦が始まるのを待つことにしている。


「しっかし、ちょっと見ない間に出世しすぎやろ集う勇者」


「そりゃどーも」


「ホントですよ、私たちとどこでこんな差ついたんですか?」


「知るかよ、ただ仲間に恵まれたってことくらいだろ」


「ハッハァ、ヒーローってのは仲間ありきだもんなぁ」


 俺の隊にはゾームー、リン、GianT、ランコ、ニナ、アインがいる。

 見知った顔だし妹も後輩もいるので助かるには助かるが、このパーティの防御は俺とGianTが担当だ。

 となると、いつも通り斬りこみに行くってのは出来なさそうだな……と思ったまま、俺は開戦まで過ごすこととなった。

 ……小鬼召喚を使えばいいのに、と気付くのは結構後のことになる。




 ――王の騎士団連合軍が布陣し、開戦を待ちわびていた頃。

 魔女騎士団ギルドホームでは、玉座に座る一人のプレイヤーを前に跪く者たちがいた。


「よくぞ、私の下に来る決断をしてくれましたね。モードレッド」


「あぁ、アンタの所にいた方がオレも楽しめそうだからな」


 魔女騎士団ギルドマスターであるモルガンに、王の騎士団からの裏切者であるモードレッド。

 彼女らは打倒をアーサーを掲げ、かつての騎士団戦争の頃から準備を始めていたのである。


「覚悟しなさい。偽りの頂きに君臨せし偽の王よ。私が真の王とは何か見せてあげましょう。フフ、フフフハハハハハ」


 歪んだ笑みを浮かべる魔女の手には、漆黒の魔剣と魔槍が握られていた。

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