表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/270

第百七十二話:小鬼災害

 いきなり目の前にモンスターが現れた! 緑色の肌をして、醜く歪んだ顔には牙のような歯、手には剣が握られていて、何度も見てきたフォルムだ!

 それに、一目見ただけでこの家にいた奴だってのもすぐにわかった。


「ゴブリンか!」


「下がれ、ブレイブ!」


 彼女が叫ぶと同時に、一瞬にして距離を詰めてくる。

 そして、そのまま持っていた剣を振り下ろしてきた。


「チッ!」


 俺は大きくジャンプして後ろに下がり、間合いを取る。

 すると、ゴブリンはそのまま追撃をすることなく、その場で構えていた。

 俺が知っているゴブリンって言うのは、基本的に敵を見つけては馬鹿正直に襲いかかって来るような奴だ。

 わざわざその場で立ち止まって武器を構えたままってのはおかしい、つまり何かある。


「うお」


 俺はその姿に疑問を感じていた最中だってのに、次の瞬間さらに驚くことになる。


「……」


『ギィイイッ』


 なんと、その背後からは更に二体現れたのだ。

 それも全く同じ姿をしており、三体がこちらを睨みつけている。


「こりゃぁ、どういうことだ……?」


 俺は腰の剣を抜きながらも、明らかにおかしいと思った。

 何故ならさっきまでこの家の中には誰もいないのは確認済みであり、俺は部屋を探索する際に小鬼召喚で索敵をしたが全く敵の存在は感知できなかったのだ。

 それに俺たちは外から入ってきたし、玄関の方から誰かが来る様子もなかった。

 なら、どうしてこいつは突然出てきたんだ?


「これは、厄介なことになったな……」


 隣にいるNさんも、この状況に困惑しているようだ。

 だけど、それは俺も同じだ。


「どういうことですかこれ!」


「知らん。だが、敵である事に変わりはない」


 Nさんは静かに答えると、先ほどと同じように詠唱を始める。

 しかし、今回はさっきよりも早かった。


「【闇精霊の加護】」


 Nさんのスキルによって、俺の身体が仄かに光る。

 それと同時に、頭の中に声が聞こえた。

 ……どうやら、この能力はMP消費はするもののちゃんとしたバフ効果らしい。


「ありがとうございます」


 お礼を言うが、彼女からの返事はなかった……さっきのが答えって訳じゃなさそうだな。

 俺は少しだけ肩をすくめると、改めて前を見る。


「来るぞ!」


 Nさんの声と共に、同時に動き出す。

 一体目が俺に向かって走り出し、もう一体は後ろへ回り込むように走ってくる。


「チッ、何から何までわかんねえことだらけだなオイ!」


 俺は真っすぐ俺に向かって斬りかかって来るゴブリンの攻撃を盾で受け止め、俺の剣を思い切り叩きつけて弾き飛ばした。


「うるぁっ!」


 そして後ろから斬りかかって来るゴブリンの方にも剣を横薙ぎに振るい、そのまま切り伏せようとした。


『ギャッ!』


「あ?」


 すると、そのゴブリンは武器を捨てると両手を上げた。

 まるで降参するようなポーズで、俺は思わず呆気に取られてしまった。

 ……なんだコイツ。


「……気を付けろ、ブレイブ! そいつは囮だ!!」


 彼女の叫びで我に返らなければ、手遅れだったかもしれない。

 俺は咄嵯に身を屈め、そのまま転がるようにしてその場から離れる。

 すると、俺がいた場所には別のゴブリンが現れており、手に持った短刀で突き刺そうと腕を伸ばしきっていた姿があった。


「あっぶねぇな、オイ!」


 Nさんのおかげでギリギリで回避できたものの、完全に油断していた。

 今まで戦ってきた敵とはあまりにも違いすぎる行動に面食らった。

 そして、このアルゴリズムの組まれ方は普通じゃあない。

 となれば……!


「Nさん! コイツは俺の小鬼召喚と同じタイプのゴブリンです! どこかに術者がいて、ソイツが俺たちを襲わせてます!」


「やはりか……」


 彼女は俺の言葉に納得したのか、大きくため息をつく。


「だが、そんなものどこにいるというんだ」


「んなこた知らねーですよ! だから気を付けろって話です!」


「わかっている……ッ!?」


『グガァアアッ!!』


 また一匹、新たに現れる。

 今度はさっきとは違い弓を持っており、矢を引き絞って俺目掛けて放ってきた。


「クソッ!」


 俺は慌てて剣を振り、飛んでくる矢を叩き落とす。

 しかし、一本落としただけで残りの二本は俺に向かって迫ってきていた。


「んのっ!」


 盾で二本の矢を止めて落とし、さっき俺のいた所に立っていたゴブリンが斬りかかって来たのを蹴っ飛ばして凌ぐ。

 ……頭を蹴ったはずなのに倒しきれていない、やっぱり普通のゴブリンじゃない。

 小鬼召喚みたいなスキルで呼び出された、ってのは確定でいいだろう。


「くそ、どこだ!!」


 俺は辺りを見渡すが、やっぱりそれらしいものは見当たらない。

 だが確実に何かがいるはず、でなければこんな真似が出来るわけがない。


「なら、まずはその邪魔な小細工をやめさせるか……」


 そう呟いてから、俺はもう一度剣を構え直す。

 ……俺に出来ることは、このゴブリンを止めた上で術者を探し出すことだ。

 だったら!


「Nさん! 術者を探し出してください!」


「ッ、ブレイブはどうする!」


「俺は、このゴブリンを止めます!」


 俺は剣を床に思いきり突き刺してから、スキルを詠唱し、叫ぶ。


「【小鬼災害ゴブリンハザード】!」


 すると、俺の周りから大量のゴブリンが次々に召喚される。

 それらは俺のゴブリンである、と言うことを示すように俺の大悪鬼シリーズの装備を模したような武具を身に纏っている。

 その数は今この家に現れているゴブリンの十倍以上の数だ。

 何せ、今マックスだった俺のSPを全て使い切って召喚したのだから当然だろう。


「さぁていくらでもかかって来いよ小鬼共! 俺の小鬼が相手してやるぜ!」


「助かった、ブレイブ!」


 Nさんはそう言うと素早く玄関まで駆け抜けてから外に出て、術者を探しに走り出した。

 さて、その間にゴブリン以外が召喚されるかも見ておかないとな。


『グギャッ!』


『ギィヤアァッ』


『ブモォオオッッッッ!!!!!』


 Nさんが出て行った後すぐに家の中に次々とゴブリンが現れるが、俺の小鬼達は武器を構え、隊列を組み始めた。


「さぁて、暴れろ小鬼!!」


 現れたゴブリンは、全部で三十匹ほど。

 まぁ、俺のゴブリンの総数に比べれば半分程度。

 ステータスがどうあれ、数の優位ってのはデカいぜ。


『ギャギャギャッ!』


『ギャギャギャギャギャッ!』


『ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!!』


「うわうるせっ」


 流石は小鬼だな、耳元で喚かれたら堪らない。

 だけど、これだけ数がいれば十分だろ。


「さーて、いっちょやりますか!行くぞお前等!!」


『キャイィーン!』


 俺の指示に応じてから一斉に動き出していく。

 先頭に立ってるのはホブゴブリンの内の一体、槍を持った個体だ。

 その後ろに続いているのは同じ系統の槍を装備した部隊であり、一番後方では長剣を持っている部隊が控えている。


 そして、全ての部隊に共通しているのが……


「やっぱレベルが高いんだろうけど、統率が取れてるのがすげぇな」


 コイツらのレベルは軽く60を超えており、俺の召喚できる中で最高クラスのゴブリン達と行っても過言ではない。

 正直、ここまでのことが出来るとは思っていなかったので、素直に感心している。

 だが、主である以上俺も指揮官らしく行きますかね!


「全隊! 突撃ィィィッ!」


『ウオオォォンッ!!!』


 雄叫びを上げてから、一気にゴブリン達が飛び出して行く。

 そして、俺のゴブリンたちは数の優位と装備の優位を活かして、敵のゴブリンを囲んで一方的に攻撃を始める。


「いよし、いいぜいいぜ! このまま一気に潰せ! 一匹たりとも逃がすんじゃねぇぞ!」


 俺はそう指示を出しながら、俺のゴブリンたちの囲みから抜けて来た奴を斬り伏せる。

 その一撃で敵のゴブリンは倒れ、ポリゴン片と変わって消えていく。

 だが、まだ終わらない。俺はそのまま剣を振り続け、どんどん斬り倒していった。

 そして、しばらくして家の中に現れたゴブリンは全て狩り尽くされたようだ。


「おっしゃあ!! 全員よくやった!!」


 俺が歓喜の声を上げると同時に、小鬼たちが飛び跳ねて喜んでいる。

 中にはハイタッチをしているものもいるし……なんだか、こういう所を見ると微笑ましいな。

 ちょっと前まではこんな風に感情のあるような動きはしなかったが、何かまたアップデートとかでの変更があったのだろうか。


「っと、そんな場合じゃなかったな。Nさんの方は大丈夫かな?」


 俺は急いで外に出ると、彼女は既に術者を見つけていたようで、何かと対峙していた。

 だが、その姿は異様だった。

 所属ギルドのエンブレムがあるし、HPバーも1段しかないからプレイヤーだと言うことはわかる。

 だが、その姿は亡霊のように恐ろしさを強調したような姿だ。

 加えて右手に持っている杖は真っ黒で、先端には青い月輪のようなものがついている。

 シンプルな作りだが、その凄味がビリビリと肌で伝わって来た。


「ブレイブか、ゴブリンはもう倒し終わったのか?」


「え、えぇ。俺の小鬼でドカンと」


「ならば手を貸せ。今まで戦ったことのない相手故、少々てこずっていてな」


 ……亡霊のようなアバターをしたそのプレイヤー、奴のHPバーの隣に表示されるエンブレムはジェシカの物と同じ蒼月夜空のギルドエンブレムだ。

 となると。


「あの杖が、蒼月夜空だ」


「みたいですね。クソッ、話し合いのつもりがまさか殺し合いになるとは」


「まぁ、そういうこともあるさ。だが、私たちなら負けん!」


 そう言うと、Nさんは手に持っていた刀を構え直す。

 彼女の装備している刀はあの神天刀、第三回イベントから今に至るまでずっと頼りになる一振りの刀だ。

 何せ、アーサーのエクスカリバーにも並ぶ一点モノの武器だからな。


「さぁ、行くぞ!!」


 Nさんは気合を入れてから地面を蹴って飛び出す。

 それに答えるように、蒼月夜空のプレイヤー……亡霊野郎(仮称)も同じく地を蹴り、ぶつかり合う。


「ハァッ!」


「……!」


 鍔迫り合いが始まり、お互い一歩も引かない状況が続く。

 杖だから魔法使い系のビルドかと思っていたが、意外にも物理攻撃も出来るのか。

 伝説級の武器ともなれば、それほどの強さがあってもおかしくはないか!


「……」


「っ、ぐっ!?」


 だが、次の瞬間には押し切られたのはNさんだ。

 力比べでは敵わなかったようで、そのまま弾かれるようにして吹き飛ばされた。

 NさんのSTRでも押し負けるなんて誰が思うかよ!


「っ、化け物め……」


「……フフフフフ」


 亡霊野郎は笑うだけで、何もしゃべる様子はない。

 ……俺は一つの可能性を考慮して、もう一度蒼月夜空のギルドホーム内に飛び込んだ。


「ハァッ!」


「……!」


 外ではNさんが亡霊野郎と高速で斬り結んでいて、激しい金属音のエフェクトを鳴らす。

 やっぱり、魔法使いビルドであろう杖使いがNさんと互角に斬り結べると言うことはおかしい!


「っ、てことは!」


 俺は最初に家の中で発見したあるもの目掛けて走り出し、扉をブチ抜く。


「おおおおお前かあああぁぁぁッ!」


「!?」


 大悪鬼の剣を、最初に見つけた惨たらしい死体に向けて叩きつけた。

 すると、斬撃のエフェクトが死体に入った。


「っ、馬鹿な……! 何故分かった!?」


「やっぱりお前が本当の蒼月夜空の使い手か」


 さっきまで死体だと思っていた少女……の姿をしていた男は、立ち上がって胸の傷を抑えながら俺を睨む。

 ……蒼月夜空の効果、それは複数あるだろうから決して全てを明かしたとは言えないが、一つだけわかったものがある。

 それは、恐らくだが自分の所有しているオブジェクトの形状変化を自在にするのだろう。

 割れているはずのガラスやブチ抜かれた玄関のドア等が消えていないのも、元々そう言う形であるように設定したからだ。

 そして、たった今俺がぶっ壊した部屋の扉はポリゴン片となって消えている。

 この使い手である男は、自分を殺された少女として偽装するようにした上で、囮のゴブリンや外の亡霊野郎を呼び出して戦わせたんだろう。

 そして、亡霊野郎が持っていた杖は形状変化させた槍か何かの武器と見て間違いない、杖であんな物理攻撃力が出てたまるか。

 と、普段使わないような頭を超高速で回転させて、俺は推理をベラッと披露してみる。


「……ご名答だ、ブレイブ・ワン。よく気付いたものだよ」


「ま、伊達にゲームやりこんでるわけじゃねえからな」


 SBO以外のゲームだって、バトル要素があれば楽しめる俺ならこういう洞察力も身につくのだ。

 そして、今この杖を持っている野郎は恐らくギルドマスターじゃあないんだろう。

 ここまでくる道すがらにジェシカから聞いたが、ギルドマスターは『この杖は誰かと争うのに使いたくない、モンスターと戦うためだけに使いたい』と言っていたらしい。

 だったら、いくら外部から無理矢理入って来た俺たちにも使わない可能性は十二分にある。


「お前、名前なんてーの?」


「……」


 男は答えずに俺に向かって杖を構える。どうやら、答える気は無いようだ。


「まぁいいさ。どのみち倒すことになるしな」


「……そうか。なら、やってみるが良い」


 そう言って男は再び構えて、俺は大悪鬼の剣を振りかざす。


「さて、どう料理してやろうか」


「……」


 この男の持つ蒼月夜空をきっちりと取って、ちゃんと元の持ち主に返そう。

 そして、Nさんと一緒にまた猫喫茶へ行って、ケーキを食べてお茶を飲もう。

 だからコイツには絶対に負けないし、負けてやるつもりもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ