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第百六十六話:呪いの装備

「……いったい、何があったんですか?」


「話せばちょっとばかりのボリュームのあるものになりまして」


私――スター・ドロップは、集う勇者ギルドホームの縁側で正座しながら軽く頭を下げる。

相手は集う勇者の幹部と言えるほどの強力なプレイヤー、ハルさんとイチカさんだ。

私の隣にはコンビを組んでいる仲間のムーン・リバーもいて、同じく二人に頭を下げている。


「茶でも飲んで話すとするか」


「こりゃどーも」


「ありがとうございます、さっき叫んじゃったから喉が凄く渇いてて……うっ、あちち」


イチカさんがお茶を入れた湯飲みをお盆において出してくれたので、私たちはありがたく受け取る。

お婆ちゃんが飲んでいるようなやや苦みのある緑茶を一口程堪能したところで、私は何が起きたかを話すことにした。

そう、普段私たちが着ている冒険者らしい見た目の装備はどこへ行き、何故ドス黒いオーラを撒き散らす装備を着ているかを。




「第四回イベント、凄かったですね」


「だなー……私たちが追い付くのは無理がありそうだわ、キツいキツい」


「リアル的な事情もあって、ログイン時間減りっぱなしですもんね」


「と言っても、最近は仕事も落ち着いて来たし……ここはどーんと楽しめるクエストでも受けようか」


私とムーンは中学生でありながらも、リアルで一緒に仕事をしている仲というのもあり、同じ部屋にいることが多い。

ので、必然的にゲーム内でも一緒になることは多い。


「クエストかぁ……手頃なのあるかなぁ」


「手頃じゃなくてもいーでしょ。お、ほら見て、あそこのお爺さんなんかアイコン浮かんでる」


「あのアイコンは……えーと、おつかい系クエか。じゃあ受けても大丈夫そうですね」


最近のアップデートでアイコンごとにクエストの種類がわかるようになったんだっけ――

とかなんとか思い出しつつ、私とムーンはクエストアイコンの浮かぶお爺さんに話しかけた。

よぼよぼしていて、ボロボロであちこち汚れているローブを羽織っていることが印象的だ。


「おじーさん、困りごと?」


『おぉ、丁度良かった。旅のお方か』


「そうそう、冒険者のスター・ドロップと」


「同じくムーン・リバーです」


『旅のお方々、どうかワシの頼みを聞いてください』


「どんな頼みなんですか?」


『ワシはこの箱をあそこまで届けねばならぬのじゃが、足腰が悪くてのう……この箱を運んできてくだされば、良い物をお渡し出来るのじゃが、引き受け手はくださらぬか?』


お爺さんと会話を進めながら、私はその箱を運ぶだけのクエストを受注した。

クエスト内容は本当にシンプルを極めたような物で、正直チュートリアルレベルだった。

何せ、ただ受け取った箱を近くの家に運んでおいて行くだけで、クエスト完了になったんだから。


「んー、なんだか初心者に戻された気分」


「ははは……でも、なんだか高レベルになってからこういうクエスト受けるのも悪くないですね」


今の私たちのレベルは60くらいだし、正直討伐系のクエストとかが良かったかもなー……。

なんて思いつつ、お爺さんにもう一度話しかけて報酬を貰って私たちは帰ろうとした。


「お爺さん」


『おぉ、旅のお方々。箱は運んでいただけましたかな』


「ばっちりです!」


『おぉ、ありがたい……それでは、こちらをどうぞ』


お爺さんは私たちに報酬を添付したところで、どこかへと歩いて消えてしまった。

一日に一回しか受けれないクエストなのかなー、とか思いながら報酬を確認する。


「……なんだこりゃ」


「こんなショボいクエストで装備一式……妙だなぁ、名前も出てないし」


私もムーンも受け取った物は装備品の一式みたいだけれど、名前がなかった。

装備のカテゴリと言うことはわかるけれど、アイテム名がどれも【???】となっている。

バグ……とは思えないし、もしかすると装備することで何かわかるのかもしれない。


「ねぇムーン、いっそ装備して見る?」


「えぇ、でも危険かもしれないじゃないですか」


「大丈夫だって、流石に変なもんじゃないでしょ。二人で一斉に装備しよ。変なものだったらリアルでお詫びするしさ、膝枕くらいならしてやるって」


「はぁ……わかりましたよ、じゃあ一斉に装備しますよ」


ムーンは私の言葉に応えてくれて、メニューからその装備を一式装備するようにいじくる。

で、私も同じように操作してから装備一式を変えることについてのポップアップメッセージを確認する。


「いっせーのせ、で装備するよ」


「はい」


「それじゃあ、いっせーのー」


「せいっ!」


と、私たちは同時に装備を全て変更するボタンを押して、お爺さんから貰った謎の装備を身に纏った。

デロデロデロデロデロデロデロデロ デンデロン!

しかし、どこからともなくそんな禍々しいミュージックエフェクトが流れて来た。

そして私の目の前には禍々しいフォントで書かれたメッセージがポンと出た。


『お気の毒ですが スター・ドロップ は呪われてしまいました』


「……ムーン、アンタも呪われた?」


「オフコース……」


と、そこで私は初めて装備品の名前が確認できるようになっていたことに気付き、名前をまじまじと見る。

如何にもな呪われている装備って感じの名前まみれで、末恐ろしいものだらけだ。


「ムーン、アンタの方の装備って名前ある?」


「えーと……【闇の剣】【呪炎の盾】【暗黒の兜】【束縛の鎧】【罪人の籠手】【不幸の靴】【悪魔の指輪】……です」


「私のは【堕天使の鞭】【堕天使の杖】【堕天使の輪】【堕天使の服】【堕天使の翼】【堕天使の足枷】【堕天使の首輪】だってさ……」


ムーンのは大分バリエーションあるくせに、私だけ堕天使に絞り切った名前かよ!

と、心の中で悪態をつきながら私はギルドホームに戻って誰かに相談することを決めたのだった。

それで重い足取りの中、どうにかこうにかムーンと一緒にギルドホームに戻り、ハルさんに会った――




「で、今に至ります」


「そうだったんですか……酷い罠ですね」


「ゲーマーなら誰しも陥りかねんものだな」


ハルさんとイチカさんはうんうんと頷いてくれているけれど、ちょっと間抜けなんだよな、私たちのコレ。

装備した時のMEなんて、禍々しさと同時にレトロさを感じて『やーいバーカ』って煽られてるようにも感じたし。


「うーん……しかし、ソレって脱ぐこと出来ないんですか?」


「まぁ、お約束と言うかなんと言うか、装備解除のボタンが暗転してて押せないんですよ」


ハルさんの疑問に目の前でメニューを操作しながら答え、はぁっとため息をつく。

前着ていた装備は見た目的に気に入っていたこともあって、着れなくなるのはちょっと悲しい。

何よりも、こんな呪われまくった装備でこれからどうプレイしろって言うんだか。


「……ここでため息をついていても解決には至らないだろう。

故に、街で情報収集をしつつその装備の効果を実戦で知るのが良さそうだな」


「そうですね……呪われたからには、解呪するのが第一ですよね!」


ムーンはイチカさんの言葉でやる気を出したようで、相棒がやる気なら私も負けてはいられない。

不自由まみれの装備だけれど、基礎能力は高いんだし使いようによってはまた楽しめるだろう。

それに、呪われた装備のイベントと言えば解呪して強い装備にするなんてのが物語の定番だ。

だったら、ソレを楽しみにあちこちに足を運んでみますか。


「んじゃ、思い立ったが吉日って奴で早速行こうか」


「そうですね!元々ポーションとかの数に不自由はないですしね」


「うむ、俺たちも暇を持て余していた所だ。付き合おう」


「ですね。こんな時先輩方なら必ず首突っ込んでたでしょうし」


心強い味方も増えた所で、私たちはパーティを組んで早速街に繰り出した。

……けれど、呪われた装備のせいで移動速度が下がっていたりして、足並み合わせが大変だなぁ。

なんて思いながら、やっとの思いで街についてからすぐに私たちはNPCたちへの聞き込みを始めることになった。

当然、クエストが進行しているわけじゃないから手がかりは皆無に等しい。

ので、当然片っ端から聞き込みを行うことになり、有力そうな情報を掴めたのは三時間後のことだ。


「はぁ……情報集めだけでも手間になるとか、性格悪いなぁ」


「この装備、普通に動くだけでも大変なのに……」


私とムーンは重くなった体をフィールドの草原に投げ出しながらため息を吐く。

ムーンが掴んでくれた唯一の手掛かり、『呪われた騎士と天使の眠る神殿』。

そこへ向かうために私たちは重い足取りのままにフィールドを移動し、ひぃひぃと言いながら休憩中なのだ。

神殿は目と鼻の先だけど、疲れたまま行っても変なミスしそうだしね。


「すーっ……ふーっ。よし、僕はもうそろそろ大丈夫ですね」


「ん、じゃあ私も」


よっこいせ、とおじさん染みた掛け声と共に私たちは立ち上がり、見張りをしてくれていたハルさんたちに声をかける。

そしてそのまま、目の前の神殿へと歩を進めていく。


「こうして目の前にすると、不気味な雰囲気ですね」


「漫画映えしそうな情景ですけどねー」


立派な素材になりそうだな、と思って私はスクリーンショットを撮っておく。

本来の目的は呪いの装備の解呪だけど、一応これはこれで、ね。


「うーん、アストラル系のモンスターが出てきたらちゃんと戦えるかなぁ。

この剣、闇属性だからあんまりダメージにならなさそうですし」


「その時は俺がやってやる、安心して進め」


雰囲気を楽しむ女子に対し、戦闘の警戒をする男性陣。

このホラーらしいものを楽しむ感覚を共有出来ないのはちょっと残念だ。

まぁ、いいんだけどね、ムーンとはそれなりに付き合いがあってどういう性格かとか知ってるし。


「魔力感知にかかるエネミーはいない、だが隠密している可能性もあるから気を付けておけ」


「了解」


真剣な顔で先頭を歩くイチカさんの声に私たちは頷き、右手の杖と左手の鞭を構える。

一応、ここに来るまでに装備の詳細は見て来たから戦えなくはないはずだ。

呪いの効果で嫌な状態にはなってるけど、その分ステータスだけはそれなりにあるし。


「……索敵に引っかかった、来るぞ。数は3、俺とハルで2体受け持つ。残り1体はお前らが処理しろ」


「了解!ムーン、壁!」


「はいっ!」


イチカさんの索敵に引っかかったモンスターはドタドタドタ、と足音を立ててこちらへと向かってくる。

その名前は『堕ちた亡者』……朽ち果てたようなボロボロの服を身に纏っている人たちだ。

ゾンビのように肉や骨が見えてるわけじゃないけれど、生気を失ったような青白い顔だ。


『ガア!』


「せいっ……!よし、やっぱりこっちの盾は強い……けど――!イチカさん!ハルさん!避けて!」


「お気になさらず!」


「既に位置はソレ用に取ってある」


ムーンの呪われた盾は亡者の組み付きを受け止めると同時に、ドス黒い炎を放出した。

この盾の呪いの効果は、近接攻撃を受け止めたら味方すら巻き込む炎を一斉に放出するようだ。

だけど、二人はそれを移動中に知らされていたので各々自力で対処している。

ハルさんはシールドを張って余波を防ぎ、イチカさんは炎の当たらない位置に立ちながら亡者の相手をしている。

これでムーンの呪いの炎は亡者だけを焼き、亡者にダメージを与えた。


「スターさん!今だ!」


「了解……!【双竜打ち】!」


『グゥッ、ガォッ!』


私は左手に握る鞭を左右に薙ぎ払い、亡者の顔面に鞭の先端を二発当てる。

私の鞭の呪われた効果は『相手に必ず不利な属性で攻撃してしまう』……だけど、亡者に不利属性はないらしい。

だから呪いは発動せず、ただただ普通の鞭として亡者にダメージを与えられた。

呪いさえなければ、私たちの装備は前の装備よりも遥かに強い。


「やれる……!ッ!」


私はもう一度鞭を振るい、亡者の首に鞭を巻きつけてから横に薙いで亡者を壁にぶつける。

ゴンッ、といい音がして亡者のHPは更に減り、大きな隙を作った。


「ムーン!」


「わかってます……!いくぞ!【ダークネス・フィニッシュ】!」


ムーンは呪われてから会得した闇属性のスキルを発動させた。

彼の握っている闇の剣の刀身は元々黒いけど、それが更に黒さを増したライトエフェクトが出てくる。

ムーンは全身鎧に盾持ちなんてスタイルに似合わぬ素早さで高速移動しながら亡者を斬りつけ、一気にHPの半分を削り取る。


「スターさんお願いします!」


「はいよっと!フォース・ファイア・キャノン!」


『ウゥゥゥオオオォォォッ!』


杖をクルクルと回してから踏み込み、予め詠唱しておいた炎の砲撃をゼロ距離で浴びせる。

勿論、火が伝導してこないように私は鞭を亡者の首から外しておいているのでこちらが燃えることはない。

亡者は火に苦しみながらもがき、その辺をのたうち回ってどんどんHPを減らす。


「ムーン、トドメよろしくっ」


「はい!せいやぁっ!」


ムーンが剣をそのまま振り下ろすと、亡者の顔面にムーンの一撃が当たる。

亡者はその一撃でHPを全損して、ゆっくりと淡い光に包まれて消滅した。

……呪いの装備でも、ちゃんと戦えるみたいだ。

【コソコソとしたお話】


スター・ドロップとムーン・リバーの二人は中学生ながらも月刊雑誌にて漫画を連載している漫画家とアシスタントです。

二人のプレイヤーネームはペンネームから転じて作られています。

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