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第百六十三話:お前が斬るんだ

「うおおおおおあああああッ!」


「オォォォラァァァアアア!」


肺の中の酸素を使い切らんと言わんばかりに咆哮をあげ、一歩踏み込んで斬りかかる。

お互いにステータスブーストをかけまくった剣が、凄まじい音を立ててぶつかり合う。


「今の僕とまともに斬り結べるとはね……!成長したじゃないか、ブレイブくん!」


「まぁな……!お前らトップ相手に追い付くために、俺も必死なんだよ!」


かすり傷だけでもHPがどんどん削られる程の攻防で、俺たちは笑みを浮かべる。

この仮想世界で、俺たちは本気で剣をぶつけ合える相手を見つけられた。

RWOで見つけられなかった、こんな風に戦っていて心の中から『楽しい』って気持ちが湧いてくる相手が!


「だが……!僕ももう遊んでいられないんだ。君を倒すために、ただ勝つだけの奥の手を出そう……例え、それがどれだけ醜い物でもね!」


「なんだと……?」


アーサーはそう言うと、腰から一つの仮面……いや、パピヨンマスクと言うんだったか――を取り出して、顔に装着する。

パピヨンマスクは意志を持ったかのように形を変え、蝶のような虫の形に変わってアーサーの顔にその足を刺し込み、寄生するように深くくっついた。

すると、輝かしかったアーサーの鎧は黒く染まり、光り輝く聖剣は漆黒の剣へと姿を変えた。


『ここからは、聖なる騎士ではなく暗黒の剣士として君を討とう』


「そうかよ……!なら、俺も大悪鬼として、意地汚くテメェをブッ飛ばしてやる!」


アーサーはノイズが掛かったような声でそう呟くと、腰を深く落とす。

俺はそれに対抗するために盾を前に構え、カウンターを準備しておく。


『行くぞ、大悪鬼』


「あぁ来いよ、全力で叩き潰――」


俺が言い終わる前に、アーサーは地面を割るほどの勢いで踏み込んできた。

しかもロケットのように凄まじい勢いで突撃しただけではなく、超高速の剣戟が俺を襲った。

俺はカウンターを考えるのはやめ、その場で徹底的に守りを固めた。

防御力を上げるスキルを使用しているが、今のアーサーの攻撃速度と攻撃力は異常だった。


『ほぉぉぉおおおおおッ!』


「ッ、が……!く、くそっ……!」


反撃する暇もない超速の連撃に加えて、少しでも気を緩めて攻撃をまともに受けようものなら死にかねない重さ。

耐久値が無限ではない装備なら、とっくにぶっ壊れてそのままアバターを斬り刻まれていただろう。

大悪鬼の装備だからこそ壊れずに耐え続け、俺を守り続けていてくれるが……それも時機に持たなくなるだろう。

だって、今も俺は押され続けてHPが僅かでも減り続けているのだから。


『君は確かに強い……!だが、ゼロ距離で攻撃を続けていれば、いつかは死ぬ!』


「口で言うのは簡単だしごもっともだけど……!ホントにっ、実行……する馬鹿が、いるかよ……!」


喋りながらも飛来する黒いエクスカリバーの攻撃を躱し、俺は距離を取る。

このラッシュを受け続けていれば、何れ俺の方がそのまま畳みかけられる……!


『逃がさない』


「っ、速ッ……!」


しかし、アーサーは俺が三歩跳んで離れたのに一歩で肉薄し、先ほどの超速の連撃を俺に浴びせてくる。

ハルのような大盾ならいざ知らず、いくら小盾の中で大きいと言っても全身を守れるほど大きくない俺の盾じゃ限度がある!

でも、そんなことを嘆いた所で防御面積が増えてくれるわけでも俺のHPの減少が止まるわけじゃない。


『おいおいブレイブくん、もう終わりかい?随分と、情けないなァッ!』


「ぐおっ……!おぉぉぁああっ!」


剣に風を纏わせた一撃が下からやってきて、打ち上げられるように俺は吹っ飛ぶ。

当然、空中じゃ足場もないから俺は踏ん張れないし隙だらけになる。

それ即ち、アーサーが追撃をするのに丁度いい状況が整ったってことになる!


『貰った!』


「ファスト・シールド!」


『何ッ』


俺はシールドを足場にして飛ぶ方向を変え、追撃に来るアーサーの攻撃を躱す。

そのままどうにかして着地し、またも向かって剣を振るであろうアーサーのためにスキルを唱える。

チャンスがやって来るかはわからないが……ただ攻撃を受け続け、いたずらにHPを減らすよりかはマシなはずだ。

今の俺のHPは自然回復で減少を押さえつつあるとは言えど、5割を切りそうなほどに落ちている。

このまま攻撃を受け続けるってんなら、こっちにだって策の一つや二つくらいは用意できる!


『オォォォォッ!』


「ッ!が、ぁぁぁ……!あああっ!」


俺は最早目で見ても剣が分裂しているようにしか見えないほどの剣戟を受ける。

一撃一撃がとても重く、KnighTと斬り結んでもそのまま押し返せそうな強さだ。

理不尽なまでに強い、それがアーサーだってのは俺にもわかってる……だが、それでも無敵じゃあない。


『どうした?一度死んでも復活するスキルはもう打ち止めかい?

ダメージを恐れると言うことは、もうあの炎の斬撃も使えないと言うことかな!』


「ッ!勝手に、言ってろ……!」


確かに、不撓不屈で生き返ることが出来るのはあと一度限り……!

アーサーの攻撃を受けるために使っていては勿体ない、勝てないとわかっているからこそだ。

だから、奥の手である恨熱斬のために取っておくべくダメージを避けている。

だが……!大悪鬼の恨み自体は違う、このスキルは不撓不屈とセットでもあるがこれも独立できるスキルなんだ。

自分の命を一つ犠牲にすれば確かに恨熱斬が使える……!だが、不撓不屈がなくても使いこなす方法はある。

それこそ、今こうして攻撃を受け続けることだ!


『おいおい、守りが甘くなってきたんじゃあないかッ!?ブレイブくん!』


「ぶはっ……!ぐっ、そ、そうかもなぁ……!こんなの、無傷で防げるかよ……!」


コイツは俺がただ攻撃を受け続けているだけだと勘違いしているんだろうが、それは大きな大きな命取りだ。

アーサーの振るった剣、それを盾で受けなかった場合の威力。ソレは俺の盾で受ける度にエネルギーとして俺自身に蓄積されているんだ。

代償としてHPが少しずつ減っていくが……!その代わり、溜まった恨みはどんな障害物があろうと、何が何でも、絶対にブチ抜ける!

大悪鬼の恨みの本質は、この受けた攻撃のエネルギーを蓄積して、思い切り返してやることだ。

でも……!


『シィャァッ!』


「がぁっ……!ふぅっ、ふぅっ……はぁっ……!」


アーサーの攻撃をまともに受け続けて、大悪鬼の恨みの自傷効果も加速して、俺のHPはもう1割を切りかけている。

HPだけはどんどん減ってきているっていうのに、溜めた物をぶっ放す隙は無い……!


『終わりにしよう、ブレイブくん』


「ッ……!クソッ……!」


アーサーは剣を大上段に構え、今までのロンゴミニアドやエクスカリバー以上のオーラを纏う。

オーガ・スラッシュやゴブリンズ・ペネトレートでは受けきれないほどの威力が来るだろう。

溜めた恨みを接近して放ったとしても、相殺どころか押し切られるのがオチだ。


「畜生……万事、休すってことかよ」


俺は握っていた剣の切っ先を下ろし、ゆっくりとゼロに近づいて減りゆくHPを見ながら目を閉じようとする。

十分頑張った、イベントはまだ続きもある、次に勝てばいい、今回はあいつに勝ちを譲ればいい。

俺はまだ負けないのだから、今回は一時的な敗北だが、次こそは――


「頑ッ張れぇぇぇえええええっ!兄さあああぁぁぁん!」


「先輩!諦めないで!私は、私はずっと信じていているんですから!不屈のブレイブ・ワンを!」


「ブレイブさんっ!逃げるなァァァアアアアアッ!」


「お義兄さんっ!ガッツだ!ガッツで食らいついてください!」


「お前ならやれるだろう!俺たちの戦いを無駄にするな!」


「負けるんじゃあねえッスーッ!」


甘っちょろい、現実逃避なんかしようとする馬鹿な俺を吹き飛ばすような、皆の声が聞こえた。

ランコ、ハル、ユリカ、アイン、イチカ、ユージン……!

俺を信じて、この試合のために勝ちを繋げて優勝の可能性まで導いてくれた六人。

そして……!

――ほら、ブレイブ。もう少しだ、手を伸ばせ。剣を握れ……お前が斬るんだ、アイツを。


「先輩……!」


ここにはいないはずの先輩の声を聞いて、俺は剣の柄を握りつぶさんばかりの力で強く握る。

まずは減りつつあるHPを疑似的に回復する……!ポーションじゃダメだ、状況を変えることにはならない。

なら、不撓不屈を発動させる!大悪鬼の恨みによる自殺詠唱で俺のHPを0にし、恨みをチャージしつつ俺のHPはある程度の安全圏まで回復する。

攻撃を受け続けてたまった恨みと、俺のなけなしのHPを削った分のエネルギーは剣に充填されている。

そうしたら、後は溜まり切ったSPを限界まで使い切るつもりで、習得しているバフスキルを全て使用する。


『受けるがいい……!』


「うううおおおおおぉぉぉァァァァァッ!」


溜めた恨みと一緒に発動させた恨熱斬を、振りぬかずに剣にチャージしたまま止める。

そのまま肩口まで水平に持ち上げて、ドス黒く燃え上がる炎を更に燃え上がらせる。


「【エクスカリバー・フォールーン】ッ!」


「ゴブリンズ・ペネトレート!」


武器から何かを放出させる系統のスキルを発動させた状態で維持し、そのまま別のスキルと複合するように発動させる。

普段の俺ならエンチャント・スラスト以外では十回に一回くらいにしか成功しないくらいの超難易度のテクニック。

だが、今の俺には絶対に出来ると言う自信から、恨熱斬とゴブリンズ・ペネトレートを複合発動させられた。


「いぃぃぃっ!けぇぇぇええええええええっ!」


『なっ……!?なんだと……!?』


大悪鬼の剣は真っすぐに進み、アーサーの放ったスキルを真っ向から打ち破り、勢いを落とさぬまま進んだ。

ソレはそのまま攻撃を抑えようとするアーサーの剣を払いのけ、アーサーのパピヨンマスクへと直撃する。

アーサーを堕天させたマスクに罰を与えるように、黒い炎はアーサーを焼き焦がしてマスクを砕いた。

それと同時に、俺は何かに突き動かされるように剣を振り下ろし、アーサーの胴体を斬り裂いていた。


「っ、あ……ははっ……見事だ、ブレイブくん。君の勝利だ」


マスクを砕かれ、輝きを取り戻したアーサーはそう言い残すと、アバターをポリゴン片へと変えて砕け散らせた。

ガラスが割れるような音と共に、アーサーのアバターはもうどこを見ても見つかることはなかった。


「っ、は、あ……え……勝っ、た?」


本気のアーサーに。前よりも強くなっていたアーサーに、俺は勝ったのか。

実は幻覚か何かを見せられているのではないか、と思って俺は頬をつねった。

だが、頬をつねった程度でこの世界では痛みを発生させることは出来ない。


「俺が、アーサーに……勝った……のか……?え?」


現実味がなさすぎる。SBO最強の男を、俺がこの手で倒せたと言うのか。

確かに恨熱斬も溜めた恨みも全部放ったことで、俺のHPの減少は止まっている。

今まで使ったスキルに応じてSPも減り切ってほぼゼロに近い。

でも、それだけでアーサーを倒したことの証明になんて――


『七番目!集う勇者の勝利!そして――第四回イベント優勝者は、集う勇者!』


「優、勝……?俺たちが、優勝、した……!?」


ゆっくりと、ゆっくりと俺の脳が現実を認識し始めた。

司会の奴らの声で、俺が信じられなかったことが確証なのだと知らされた。

集う勇者が王の騎士団を下し、第四回イベントで優勝を飾った。


「は、ぁぁぁ……あああ……!」


俺はなんと言っていいかもわからず、観客の声援を受けながらも僅かに声を漏らすだけだった。

だが、そんな俺を見かねたかのように飛び込んでくるプレイヤーが六人もいたのだった。


「せんぱあああいっ!」


「兄さんっ!」


「ブレイブさん!」


「お義兄さん!」


「団長!」


「ブレイブさぁんっ!」


ハルたちが闘技場へと飛び込んできて、急に俺を囲んでから俺を押し倒し、抱え始めた。

何をする気だ、と俺が言おうとするところをハルの号令がかき消した。


「行きますよ、皆さん!」


「応!」


「ちょ、お前ら――」


「そーれっ!」


「うおおおっ!?」


俺は六人に抱えられた状態から空に放り投げ、落ちた所をキャッチされてまた放り投げられる。

……あぁ、そうか……勝ったことを祝うために、今ここで皆が胴上げしてくれているんだ。


「っ、やった……!やったっ……!」


俺は空中でそう呟き、三度皆に投げられたところでクルクルと空中で回転を決める。


「やったぞおおおおおおおおおっ!」


魂から、全力で叫んで俺は全身で喜びを表した。

客席の歓声が更に強くなり、それは凡そ十分ほど闘技場を包み続けたのだった。




『えー、それでは皆さんお待たせいたしました!第四回イベントの締めくくり、三位決定戦を開始いたします!』


決勝戦を終え、俺たちが客席に戻ったところで前回にはなかった三位決定戦が始まった。

正確に言うと前回はアルゴーノートが棄権したためになくなっただけだが、今回は棄権しなかったらしい。

アルゴーノートと真の魔王による三位決定戦がこのイベントのラストバトルとなり、表彰台に立つものを決めるのだろう。

俺はカオスの健闘を祈る一方で、天を見上げて少しばかり感傷に耽っていた。

……あの時聞こえた声、アレは俺が無意識のうちに頭ン中から引っ張り出していたのか、それとも本当に聞こえたのか。

第四回イベントに参加しない、と言った切りリアルでも顔を合わせていない、先輩の声。

何処かでここを見ているのか、それともただの幻聴だったのか……それを考えているだけで、時間は過ぎ去ってしまう。

もっと、早くものを考えられるようになればいいのに。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:80

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:100(+210) AGI:100(+170) DEX:0(+60) VIT:51(+460) INT:0 MND:50(+250)


使用武器:大悪鬼の剣、大悪鬼の小盾

使用防具:大悪鬼のハチガネ、大悪鬼の衣、大悪鬼の鎧、大悪鬼の籠手、大悪鬼の腰当、大悪鬼の靴、大悪鬼の骨指輪

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