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第百六十話:私が、勝てば

「んっ、んっ、んっ、ずーっ……!っは、ぷはーっ!」


蜂蜜のような甘さを出し、レモンと似た酸味を含んだドリンクをストローで飲み干したハルさんは椅子に座り込んだ。

ディララさんとの激闘を繰り広げ、ソレを制した彼女は全身の力を抜いて椅子の背もたれに寄りかかる。

次の戦いを控えた私、ランコはその様子を見て心臓をバクバクさせて緊張していた。


「私が、勝てば……集う勇者の、勝ちですよね」


「そうだな。お前がここで一勝を上げれば俺たちの勝利は確定する現状三勝一敗なのでな」


既にわかりきっていることだけれど、私が出した言葉をイチカさんが肯定する。

ユージンさんとハルさんもコクコクと頷き、アインくんも私に期待の眼差しを向ける。

けれど、ユリカと兄さんは違った。


「ランコ、いつも通りに気楽にやればいいよ。万が一にも負けたって私たちがいるんだから」


「そうそう。頼れる親友や兄貴たちに任せてくれたっていいんだぜ」


私が負けたってかまわない、絶対に相手を打倒して見せるのだと固い決意を感じる。

だったら、私がその言葉に応えるのなら一つしかないだろう。


「なぁに言ってんの二人とも。本当に強いなら……徹底的に叩き潰さないと。

本当に強い集う勇者だっていうのなら、こっからは全勝だよ!」


私はユリカと兄さんの前でそう宣言してニカッと笑い、客席から控室を抜け――

闘技場への廊下をたったったと走って、入り口から飛び込むように私は入場する。


「ブレイブ・ワンの妹。ランコ!まかり通る、ぜ!」


私は指でピストルの形を作り、バーンと撃ったようなポーズを取りながら観客へのアピールを済ませる。

キャーキャーワーワー客席は盛り上がり、私の対戦相手であるプレイヤー、ガウェインもニッと笑った。

重そうな甲冑に身を包み、頭には兜ではなくハチガネをつけている。


「ミス・ランコ。貴方とは一度手合わせすることを望んでいました。それがここで叶うとは運命的ですね」


「へぇ、そりゃどうも……兄さんやNさんじゃなくて、私を狙うなんて随分変わってますね」


「ははは、私は貴方のことが一番気になっていたのですよ。一つの武器を極めずにいる、貴方をね」


ガウェインさん……いや、ガウェインは腰から分厚い刃の両手剣を取り出して構えた。

あの剣を前に真正面から打ち合うのは危険だ、と私の中の信号がチカチカと知らせてくるけれど……私は敢えて腰から剣を抜く。

確かに私は何か一つの武器を極めることもせず、中途半端なステータスとスキル構成をしている。

けれど私は私、必ず何か一つを極めなくてはいけないなんて言われてもないんだし、どんな風に育とうが勝手だ。


「言ってくれますね、色んな武器が使うってのはそっちのギルドマスターも同じでしょ?」


「我が王はあくまで様々な武器を試した上で、今は剣の使い手。貴方のように常に揺れ動く者とは違う!今の言葉は取り消して頂こう」


「ま、そっか……なら、私は結局中途半端女郎ってワケか」


私は抜いた剣を右手だけで持って構え、空いた左手は臨機応変に対応出来るようにしておく。

アイテムでも槍でも魔法でも放てるようにしつつ、試合開始の合図を待つ。


「太陽の騎士、ガウェイン!この白日の下に我が剣技をお披露目しよう!」


「集う勇者――えーと、五番手!戦士ランコ!いざ、まかり通る!」


格好の良い名乗り上げが浮かばなかったからちょっとダサくなった。

でも、私とガウェインは真剣に睨み合って、一瞬も気を抜かずに試合開始の合図を待つ。


『それでは、試合、開始ィ―ッ!』


「ハァァッ!」


「ぬんっ!」


私は試合開始の瞬間に踏み込んで、ガウェインに向けて袈裟斬りを放つ。

ガウェインはソレを縦斬りで受けて私を下がらせた。


「くらえ!」


「ッ!」


下がった私を前にガウェインは強く大きな一歩を踏み込み、真っ直ぐな突きを放ってきた。

私はサイドステップで左に躱し、真横から剣を振り上げて斬りかかる。


「甘い!」


「ッ、くそ……!」


剣の鍔に裏拳を当てられ、私はまたも攻撃を弾かれた。

元々甘く見てかかるつもりはなかったけれど……強い、反応速度やパワーが異常だ。

アルゴーノートのアステリオスも凄まじいパワーだったけど、彼のパワーも洒落にならない。

何せ、ただ振り回しているだけの攻撃と比べて彼には技術があるのだから。


「ぬぅんっ!」


「せっ……いぃゃっ!」


またも踏み込んで斬りかかって来るガウェインの剣を受け流す。

受け流してから突きを放つけれど、膝を屈めて避けられた上に間合いの内側に入られた!

槍でも剣でも対応できない距離!


「受け取れ!」


「がっ!ハ……!」


鉛のように重い拳が私のお腹に突き刺さり、私はゴム毬のように弾き飛ばされた。

けれど、そんな私に容赦なくガウェインは距離を詰めてからスキルを発動させに来た!


「ソード・セイントショット!」


「っ、あ……!流星槍!」


私は咄嗟に背中から槍を抜き、飛来する光の斬撃を相殺する。

すぐに剣を腰の鞘に納め、槍を構えるけれどもうガウェインは次のスキルを放つ準備を完了している。


「ソード・セイントブラスト!」


「フィフス・ジャベリン!」


今度は爆発する光の斬撃を相殺した……けれど、槍を投擲した以上二連続で来られたらマズい!


「受けるがいい……!」


「ヤバっ!」


私は地面に刺さる槍を足で拾ってから、距離を取る。

けれど、槍を拾ったところでも十分に距離が離れていたんだから、多分距離は関係ないタイプのスキルだ。

私が対応するには、ちょっと面倒なことになるであろう攻撃が――!


「【イミテーション・エクスカリバー】!」


「あああああああああああ!」


爆発しそうな怒りの感情を思いっきり放出し、叫んだ。

アーサーさんと戦うのなんて自分とは無縁のことだと思っていたから、叫んだ。

だって、エクスカリバーなんてスキルを対処することなんて考えてなかったんだから!


「ふざけんなよこのゴリラ!」


私は槍と剣をクロスして、その両方にライトエフェクトを纏わせる。

今の私が使えるスキルの中で最大級の威力、本当なら攻撃のために使いたかったけど贅沢は言ってられない。

けれど、これは私を中途半端と言った彼に見せるにはピッタリのスキルだ!


「【イディオクロノス】!」


迫りくる光の剣に対し、私はクロスしていた槍と剣を同時に振るう。

完全に同時攻撃をした剣と槍はガウェインの放った光の剣を打ち砕き、光の粒子を辺りに撒き散らす。

エクスカリバーの名前を冠してはいるけれど、威力自体は本家のエクスカリバーに大きく劣るだろう。

だって、兄さんのゴブリンズ・ペネトレートよりも弱かったんだから。


「相殺だと……!?完全ではないとは言えど、我が王の剣を模倣したスキルだぞ!?」


「私を中途半端なんて侮ったのが、貴方のミスだよ!」


結構動揺しているみたいだし、このまま一気に攻めても良さそうだ!

それに、中途半端なんてわかり切ってることを今更他人に言われるのはなんだかムカつくし!

自称するのは良くても、他称されるのだけはなんだかムカつくんだよね!


「決める!」


「っ!来るがいい……!」


ガウェインは迎え撃つ気満々で剣を構えるけれど、もう遅い!

私はとっくにスキルの詠唱なんて済ませてる!


「【ランページ・スターダスト】!」


「ッ!ぐぅっ……!」


左手の槍、右手の剣に星を纏わせながら乱れ突きを放つ。

左右から合計十連撃の突き、槍と剣を同時に使うこのスキルなら、私を彼に見せられる!

違う武器をそれぞれに使う、それを無意味だ中途半端だと言う奴に!


「これで!」


「舐めるな!」


「っ、あ……!」


私は更に一歩踏み込んで、トドメを刺そうと右の剣を横に薙いだ。

けれど、ガウェインは私のスキルを受けてグラついた姿勢から、剣を止めた。

それで済めばまだ良かったのに、ガウェインは私のみぞおちに蹴りを入れて来た。

防具をつけていない場所だから、殴られたり蹴られるとやっぱりダメージが大きい……!


「ソード・セイントショット!」


「っ、流星剣!」


追撃で放たれる光の剣戟を相殺し、一歩下がって槍と剣をクロスする。

ガウェインがあのスキルを放っても私を追いかけずに剣片手で握って構えている。

それ即ち、さっきのような広範囲スキル攻撃……!なら、それを相殺するスキルを使うまで!


「受けるがいい……!ガラティーンッ!」


「イディオ――ッ!」


ガウェインが掲げた剣を思い切り振り下ろすと、ガウェインを中心に日の輪が出来た。

そのスキルを受け切るのに、私はイディオクロノスではダメだと思った。

けれど、今の私にこれを受け切るスキルは……いや、ある。あるけれど、詠唱するための時間が足りない!


「クロノス!」


今からスキルを変えるには詠唱時間が足りない、だから私はそのままイディオクロノスを放つ。

やはりと言うかなんと言うか、私の予想通りイディオクロノスではガラティーンを止められなかった。

致命傷こそ避けたけれど、相殺しきれない太陽の光が私を焼き焦がした。


「今こそ好機……!押し通る!」


「ッ、流星槍!」


「加速!」


ガウェインは私が投擲した流星槍を斜めに跳ぶだけで躱し、一気に間合いの内側に入って来る。

私は咄嗟に剣を横にして防御の構えを取るけれど、甘かった。


「ハァッ!」


「ぐ、重ッ……!」


ガウェインの剣は重いなんてわかり切っているのに、受けてしまった。

回避すればよかったのに、剣で受けたせいで余計なダメージを受けた!


「このまま、打ち砕いてくれる……!」


「っ!さ、せる……か!」


私は剣を滑らせるようにしてどうにかガウェインの攻撃を受け流す。

大分ダメージはくらったけど……まだ戦えるし、ガウェインだってHPはもう半分を切っている。

確かにガウェインは強い、私が一対一で戦ったプレイヤーの中ならトップクラスのプレイヤーだ。

けれども、私だって日々兄さんやユリカやNさんと戦って研鑽を積んできたんだ!


「天空歩!」


「何ッ」


私は天空歩でガウェインを飛び越え、地面に降りて槍を拾って構え直す。


「もうお互い余裕がないから、これで……決めるよ!」


「いいでしょう、戦士ランコ。私もフルパワーで剣を振らせていただきましょう」


まだ、ガウェインは本気を出しきっていない……けれど、私だってまだやれる。

私の本当の本当の本気……全力!一撃で、根こそぎ削り取る技を出す!


「この剣は太陽の化身、あらゆるものを焼き尽くす聖剣なり。受けろ!ガラティーン!」


「行くぞ……!雷鳴よ轟け、そして迸れ!【ライトニング・ロア】!」


日の輪を展開し、超広範囲に薙ぎ払われる火炎の斬撃を前に私は槍と剣をクロスさせる。

けれど、その構えはイディオクロノスとは違う、また別のスキルだ。

私にとって、思い出にもなりうる雷の槍のスキルを派生させた、槍と剣の同時使用スキル。

そして、イディオクロノス以上の威力を誇る大技だ!


「いっけえええ!」


「グッ……!まぁぁぁけるかぁぁぁッ!」


ガウェインの日輪から放たれる火炎と、私の雷を纏った剣と槍は競り合う。

そして、体感数時間であり実際の時間は数瞬程度のせめぎ合いが続いた所で。


「ぐあぁっ!」


「ぐふ……!」


お互いにダメージを受けて、ノックバックによって下がらされる。

けれど、まだ!まだ私は負けてない!


「【ジェット・ジャベリン】!」


私は槍を投擲すると同時に剣を走って突き出し、ジェット・ストライクの威力を槍に乗せた。

加速しながら真っ直ぐに飛翔する槍は、ガウェインの顔面――

の数センチ横の壁に突き刺さり、一瞬ながらも隙を作り出すためのキーとなった。

一気に距離を詰めて、スキルの詠唱を済ませながら私は剣を振り上げる!


「これで、決める……!流星剣!」


「戦士ランコ、確かにあなたは強かった。

だが、この槍を手放した時点で、貴方の負けです」


「?っ、あ、え……!?」


私はついほんの数瞬前まで、振り上げた剣を下ろさんとしていた。

だのに、ガウェインは私が反応するよりも早く私の右腕を斬り落としていた。


「壁に刺さる槍があれば、私に一撃お見舞い出来ましたね。残念だ」


「っ、く……あっ!」


私はすぐに後ろに跳ぼうとした……のだけれど、ガウェインの剣は私のアバターを斬り裂いていた。

斬られてなくなっている右腕の肩から左わき腹にかけて、大きく大きく斬り裂かれていたのだ。


「くそっ……ごめん、ユリカ、兄さん……!」


HPを全損し、アバターが砕け散って意識が拡散するその瞬間。

私はユリカと兄さんへの心配を胸に抱いていた。

プレイヤーネーム:ランコ

レベル:80

種族:人間


ステータス

STR:53(+125) AGI:50(+110) DEX:50(+60) VIT:50(+200) INT:50 MND:50(+200)


使用武器:アダマンスピア・改、アダマンタイター・改

使用防具:大悪鬼の冠・改、魔獣のジャケット、アダマンチェーンメイル・改、、双星のスカート、休魂手袋、天空歩、魔のロザリオ

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