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第百五十七話:届け、俺の魔法剣

「っ、すみません、でした……!」


帰ってきて早々、アインは俺に向かって土下座してきた。

……泣かなくなっているのは成長だけれど、まだまだ若いってのに気負い過ぎだ。

いやまぁ、俺もまだまだガキなんだけどアインは小学生なんだ。

小学生がそんなに責任だとかなんだとかを背負って謝るのはまだ早いとは思う。


「気にするなよ、アイン。相手はアルトリア、むしろお前は前回よりもよくやったよ」


「ブレイブさん……でも、僕……!」


「うむ、その通りだ。気にすることはないだろう。俺が、今からお前の代わりを果たしてきてやるのだからな」


「イチカさん……僕、こん――もぐっ」


イチカが落ち込むアインに手を差し伸べ、立たせたと思うとサンドイッチをアインの口に押し込んだ。

困惑するアインを尻目にイチカは客席の出口の方へと向かい始め、振り返るとフッと笑った。


「長い言葉は結構だ。飯でも食って気軽に見ていろ、すぐに帰ってきてやる」


「素直だか素直じゃないのかわかんないッスねぇ、そこがいいとこッスけど」


「えぇ、イチカくんらしいと言えばイチカくんらしいですね」


ユージンとハルはイチカとの交流が深いようで、イチカのことをよく知っているようだ。

……俺も、イチカとちゃんと関わってイチカのことを知っておかないとなぁ。


「全く、そう一敗刻んだくらいで落ち込まないでよ。やり辛くなるでしょ」


「う……さっ、最初が肝心って言うじゃないか!」


「そうだけどさ、アンタは重く考えすぎなんだよ。『後はよろしく』くらい図々しくしてよ」


ユリカはユリカなりにアインを慰め、ハルの持っている袋からクッキーを一枚貰って食べ始める。

ランコはその様子を見て少し笑っていて、二人の仲を取り持つ側としての安堵を感じているようだ。

で……肝心のイチカの対戦相手はモードレッド、さっきのアルトリアと太刀筋は似ているようで違う。

アルトリアは凄まじい観察眼と技術で相手を知り、持てる全てを持って相手を倒しに行く。

だが、モードレッドは荒々しく剣を振り回し、圧力をかけるように両手剣で相手を叩き潰す――

と、いうのが今までの試合を見ていて根付いたこの二人への印象だ。


「よう、お前がN・ウィークの代替で出て来た奴か。ここまで全勝な事は褒めてやるよ」


「ほう、それは良い心がけだな。今から自分を倒す相手を褒め始めるのは、自身の力を弁えているということだろう?」


「テメェ……!このオレを馬鹿にしてんのか?そんなに言うなら、全力でブッ殺してやるよ!」


イチカとモードレッドは試合が始まる前からそう言い合い、イチカは魔法剣二刀流の構えを取る。

モードレッドは腰から厚い両手剣を引き抜いて、片手だけでそれを持って切っ先をイチカに向ける。

手数でならイチカの方に分があるだろうが、一撃の重さや威力はモードレッドが圧倒的に勝るだろう。

イチカに出来ることは、モードレッドの重い攻撃を躱した上でその剣でどれだけダメージを与えられるかだ。


『それでは、試合……開始ィーッ!』


試合開始のゴングが鳴ると、モードレッドは剣を両手で握ってから赤い稲妻を迸らせる。

イチカは魔法剣をクロスさせて、刀身にオーラを纏わせる。


「最初ッからフルパワーだ……!クラレントォッ!」


「魔力放出!ッ!ぐ……ハァッ!」


モードレッドは思い切り剣を振り上げてから、叩きつけるように振り下ろした。

アルトリアのカリバーンとよく似たスキルのようで、赤い雷が迸りながらイチカへと真っ直ぐ向かう。

イチカはそれを魔力放出で強化した剣で受け止め、押し込まれながらも打ち払った。


「オラァッ!」


「チッ!力だけはあるな……!」


追撃をかけるべくして飛び込んで剣を振り下ろしてくるのを躱し、イチカは左手の剣を弓に変化させる。

距離を取ってから剣を矢の代わりにした射撃をするんだろうが、果たしてモードレッドにそれが通じるのか。

モードレッドは今こそ軽装だが、奴の鎧は変形機構がついているようで状況に応じて姿形が変わる……のを見た。

その上、モードレッドは感覚が鋭いようで、死角からの攻撃にも対応しているのを俺もイチカも見ていた。

故にイチカの弓が当たるかはわからない。


「あぁ?弓?どうした、オレと打ち合うのは怖いかよ!」


「フン、そんな両手剣を扱うような女と打ち合って平気でいられるものかよ」


イチカはそう言ってから弓に剣を番え、グググググ……と強く引き絞る。

モードレッドは放たれてからでも対応出来る、と言わんばかりに剣を地に突き立てて笑う。

だが、イチカはモードレッドの反応を見て、弦を弾き絞った姿勢のまま動かない。


「どういうつもりなのでしょう……?」


「心理戦を仕掛けてるんですかね、でもモードレッドさんってバ……いや、単純だからそんな考えないと思うんです」


ユリカが今さり気無くモードレッドをバカって言おうとしたが、それはいいとして。

モードレッドの表情からはどうやって放たれる剣に対応してやろうか、という余裕の笑みが見て取れる。

だが、イチカは弦を引き絞った状態から地蔵のように動く様子がない。


「……オイ、とっとと撃てよ」


いつまでも矢を撃たないイチカに対して痺れを切らしたか、モードレッドは催促を始める。

だが、イチカは依然として動く様子もないままであり、その様子がモードレッドを苛立たせる。


「なぁ!早く撃てよ!ビビってんのかぁ!?オイ!」


「……」


イチカはモードレッドをずっと視線から外さずして睨みつけている。

勿論、弦を弾き絞った状態で動きを止めているからモードレッドが本格的にイラついて来たみたいだ。

さっきまで余裕たっぷりだった顔が、何もしていないのに苛立ちに包まれている。


「テメェ!さっきからオレをおちょくってんのか!?早く撃てよ!ほら!オレが受けてやるって言ってんだろ!」


「……」


「あああああ!わかった!三秒数えてやる!ゼロになるまでに撃て!じゃなきゃクラレントをお見舞いしてやるよ!」


完全に怒ったモードレッドは地団駄を踏み、イチカに向けてモギャーッと怒鳴り散らす。

そこから右手をイチカに向け、三本だけ指を立ててから折り始めた。


「さーん!にーい!いーち!……ゼロだ!よしわかった、ブッ殺す!跡形もなく消し飛ばしてやるよ!」


モードレッドが三秒数え終わっても、イチカは眉一つ動かさない。

完全にキレたモードレッドは剣から特大の赤い稲妻を迸らせ、さっきよりもスキルの威力を高めているようだった。

その稲妻の大きさはアルトリアのカリバーンを越え、アーサーのエクスカリバーにも届かんという程だった。


「行くぜ!テメェのその身にその愚かさを刻んで反省しやがれ!クラレントォッ!」


「ソレを、待っていた!」


モードレッドは赤い稲妻を纏った剣を振り下ろした。

例え魔法剣二刀流で魔力放出をしたイチカでも防ぎきれないであろう威力。

だが、イチカは不敵に笑ってからそう言うと引き絞った弦から剣を放ち――


「【ディザスター・サッパー】」


「……は?」


イチカの放った剣は目と巨大な牙だけを持った黒い顔へと姿を変えた。

そして、その黒い顔は口を開けてモードレッドの放ったクラレントを食った。


「さぁ、吐け」


『ゴォエエエエエエ!』


「ッ、テメ――」


モードレッドが何か言いかけたが、その声はもう聞こえなかった。

だって、どれだけ大きな声で喋ってもかき消されそうなほどの爆音と光が闘技場に響いたのだから。

黒い顔は自身すらもリソースにして爆発し、客席のプレイヤーたちの目や耳を劈いた。

まぁ、VRだから特に支障はないのだが、それでも数十秒は目が開かなかったし何も聞こえなかった。


「凄い恐ろしい技ですね……いえ、クラレントの出力ありきですが」


「しかしおったまげたッスよ、イチカさんの狙いってコレだったんッスね」


「モードレッドさんの勝気かつバ……単純な所に助けられましたね」


ハル、ユージン、ユリカは驚いて目を丸くしているが、ランコは爆音のショックで倒れている。

アインはそんなランコを前にあたふたとしているが一時的なショックなので大丈夫だろう。


「……クソッ、鎧がなけりゃ即死だった……!テメェ、よくもオレのクラレントをふざけた真似に使いやがったな!」


「ふむ、かなりMPとSPを込めて爆発させたが、どうやら貴様を倒すには物足りなかったようだな」


煙が晴れ、悪態をついて苛立ちを露にするモードレッドを前に、イチカは飲み終えたポーションの瓶を投げ捨てる。

モードレッドの鎧にはかなり傷がついており、HPも結構削られたようだった。

一方でイチカはまだまだ平気、と言った様子で魔法剣を抜いてモードレッドと対峙する。


「さて、次はどの程度の威力で爆発させてやろうかな」


「舐めんじゃねえ、スキルを使わなくてもテメェくらいブッ倒してやらぁ!」


モードレッドは女の子とは思えないほどドスを利かせた声でそう言い放ち、イチカを睨みつける。

先ほどとは形成が逆転したかのように、イチカはフッと笑ってモードレッドを見て余裕を見せる。


「良かろう、来い」


「ハァッ!」


魔法剣二刀流で構えるイチカに向かってモードレッドは一気に近づく。

一歩の踏み込みこそ大きいが、それは技術もへったくれもないものだ。


「ッラァ!」


「ふっ!」


接近して振り下ろされる剣をイチカは難なく躱し、剣を振り下ろした姿勢のモードレッドへ一太刀入れる。

鎧の上から剣を振るっただけに過ぎないので、ダメージこそ少ないがモードレッドをグラつかせることは出来た。


「チマチマと……!うっぜえな!」


「ッ!やはり速いな……」


モードレッドが力任せに剣を薙ぎ、イチカはすんでのところで回避する。

しかし、距離が離れたことでイチカはスキルを使っての反撃も視野に入る、しかし弓矢程の距離ではない。

となると、カマイタチなどの駆け抜けるタイプのスキルを使うのだろう。


「カマイタチ!」


「フォース・スラッシュ!」


俺の予想通り、加速して疾風のように駆け抜け、剣を振り抜いたイチカ。

だが、モードレッドはそれを見切りカウンターを合わせてイチカの魔法剣をへし折っていた。

加えて直撃も避けていたようで、イチカはただただ剣を折られただけになってしまった。


「チッ……!やはり武器の練度が違うか」


「オラオラ、どうしたどうしたァッ!」


モードレッドは武器の折れたイチカを見て好機と判断したか、剣を使わずに蹴りを放つ。

イチカはそれを躱してバック転で距離を取ろうとするが、モードレッドは腰から暗器を取り出していた。


「くたばりやがれ!」


「チッ!面倒なものを……!」


モードレッドが投擲したのは数本のナイフ、イチカはそれを折れた剣でどうにか弾くものの、一本肩に刺さってしまった。

ダメージを与えたことでモードレッドは更に調子が出て来たのか、更にイチカへと接近する。


「ドリャァッ!」


「【フォース・ウィンド】!」


「うぐっ!クソッ、邪魔だな……!」


剣を振り上げたモードレッドを風の魔法で吹き飛ばし、イチカは更に距離を取って剣を作り直す。

その上でイチカは多数のポーションを取り出して、グビグビガバガバと飲み始める。

モードレッドは何やら面白い物でも見れると思ったのか、ちょっと楽しそうな笑みを浮かべる。


過剰充填オーバーチャージ……からの、【リソース・ロード】!」


「リソース・ロード……そういうことか」


イチカは過剰に溜めたMPとSPの全てを使って巨大なエネルギーを剣に纏わせる。

時を同じくしてモードレッドは赤い稲妻を迸らせ、全てのバフスキルを使ったのか纏うオーラが変わっていた。

最大の一撃を持って決めなければ、イチカに勝ち目はないのだろう。


「こっちも準備万端だ。さぁ、来いよ、イチカ」


「うむ、俺も準備は完全に整った。行くぞ、モードレッド」


イチカはバフスキルを使った後に二本の剣を打ち鳴らして一本に変え、それを両手で握って大上段に構える。

奇しくもモードレッドも同じ構えを取り、両者ともに剣に纏わせたものを振り下ろした!


「最大最高出力!クラレントォォォッ!」


「コレで終わらせよう……【マギア・カリバー】ッ!」


アーサーのエクスカリバーと似て非なるものだが、その輝きは同質だろう。

イチカの振り下ろした剣はモードレッドの稲妻とぶつかり合い、数瞬の競り合いの後に――


「届け……っ、届け!俺の魔法剣ッ!」


「は、ははっ――テメェ、すげえな。認めてやるよ……!」


モードレッドはイチカの剣にその身を焼かれる瞬間、笑った。

イチカもモードレッドを斬った時、笑った。

外から見ているだけの俺ではわからなかったが、二人の間には剣を通して何か伝わったのだろう。

故に、俺はこの勝利を称えたいと思う。

二番目の勝利をものにした、イチカという一人の男のプレイヤーを。

プレイヤーネーム:イチカ

レベル:80

種族:人間


ステータス

STR:0(+30) AGI:100(+120) DEX:10(+50) VIT:30(+70) INT:120(+180) MND:33(+170)


使用武器:魔水晶之バングル×2

使用防具:魔銀の額当て・改、魔銀の鎧・改、大悪鬼の衣・改、魔銀の腰当・改、魔銀の靴・改、魔銀の籠手・改、魔金のロザリオ・改


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