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第百五十三話:ブレイブ・ワンの勇姿

「くぅぅぅ~っ、ぶいっ!」


 勝利のブイサインを掲げながら、化け物染みた狩人を討ち取った剣士は帰って来た。

 俺、ブレイブ・ワンは彼女の頭を撫でて『よくやってくれた、ありがとう』と褒めてからランコの方に押し付ける。

 ランコは泣きながらユリカを抱きしめているし、ユージンも五体投地で感謝の念を表している。


「アイン」


「うぅ……悔しいけど、本当に悔しいけど、ありがとうございました!」


 まだまだコイツも小学生、仕方のないガキだな……と自分もガキでありながら大人めいたことを思った。

 イチカとハルはユリカに向けて親指を立て、ユリカはランコを抱きしめながらもそれに笑顔とブイサインで返す。

 で……そんな風に勝利を祝ってこそいるがまだ首の皮を一枚繋げただけに過ぎないのだ。

 本題は、ここからだ。


「ったく、まだ勝ちが決まったわけじゃあないんだぜ? 万一俺が負けたらどうすんだよ」


「ここぞという時に決めるのが漢、なのだろう? なら、心配がいるとは思えんが」


「そうッスよ、ブレイブさんがキッチリ勝ってくるのなんて周知の事実なんッスからね」


「うんうん、ブレイブさんが負ける可能性あるのなんて真の魔王と王の騎士団くらいですもんね」


 男子からの過度な期待がずっしりと俺の肩に乗ってくる、コイツ等……人に対する容赦とか、手心ってものを知らんのか。

 ……でも、俺だって相手がヘラクレスだろうが誰だろうが、負けてやるつもりなんて毛頭ない。

 絶対に勝つ。誰でも徹底的にブッ潰して、俺は決勝戦へと行って……優勝を持ち帰ってやる。


「兄さん、負けたら承知しないからね」


「先輩。皆さんの繋いだバトン、落っことさないでくださいね」


「ブレイブさん、お願いしますね」


 ユリカから差し出された手をガッチリと握り、俺はフッと笑みを返す。

 こうして今いるギルドメンバーたちから応援されちゃあ、腑抜けてはいられないよな。

 これなら相手が誰だろうと勝つのが漢ってもんだよな。


「おうよ、お前ら任せとけ……! いよぉぉぉっし! 漢ブレイブ・ワン! まかり通るぜ!」


 俺は左手の人差し指をピンと張って、声高らかに宣言した。

 皆の期待を背負うのならば、この言葉は絶対に忘れられないのだから。

 覚悟しとけよ、ヘラクレス。本気の俺は滅茶苦茶強いってのをその身に叩き込んでやるからな。


「行って来るぜ、お前ら!」


「応!」


 皆の期待を背負い、応援の言葉を胸に抱いて走り出す。

 客席から控室を抜けて闘技場まで走り出し、とんぼ返りしながら俺は剣を抜いて着地する。

 対するヘラクレスはのっしのっしと歩きながらやってきて、右手に握る巨剣を俺の剣と比較するように見せつける。

 アーサーの持ってるエクスカリバーは両手持ち出来るものだが、アレはまだギリギリ片手直剣の範疇だ。

 だが、奴の持っている剣……確かマルミアドワーズとか言ったか、ソレはKnighTの剣よりも大きくて長く……更に分厚い。

 リーチはこっちが負けてるし、KnighTにも打ち勝った奴相手にパワーでも勝てる気はしない。


「お互い自分の強さをぶつけ合って、いい試合にしようぜ。ヘラクレス」


「フン……オマエハドノミチコロス。シアイモナニモカンケイナイ」


「はは、そうか。だったらやってみてくれよ。俺もお前を全力で叩き潰すからよ」


 イアソーンは船の件に関しては許してくれているようだから、すっかり勘違いしていた。

 ヘラクレスは俺のことを絶対に許すつもりはないようだし、本気で殺しに来る。

 だったら尚更負けるわけにはいかない、俺もここで集う勇者のために勝つ。

 遠く離れていたとしても見ていてくれ、先輩……俺の勇姿を!


『それでは、試合開始ィーッ!』


「せえあああッ!」


「フンッ!」


 俺は試合が始まると同時に踏み込んで袈裟斬りを放つが、ヘラクレスに難なく受けられてしまう。

 ここで一瞬でも競り合いなんてやろうとすれば、すぐに流されるか吹き飛ばされるだろう。

 なら、ここは俺がヘラクレスに勝っている点である素早さを使って立ち回る!


「っと!」


 袈裟斬りを受けるための薙ぎをそのまま攻撃に利用して来るのをバックステップで避ける。

 そのまま踏み込んで剣を振り下ろしてくるのを右足を軸にして躱し、追撃の薙ぎを転がって避ける。


「おいおい、剣は随分と大振りみたいだな!」


「ガァッ!」


 ヘラクレスは獣のように吠え、剣にライトエフェクトを纏わせてから構えを取る。

 俺は盾を構え、あたかもそれを受けるように見せる。


「神剣・マルミアドワーズ!」


「超加速!」


 振り下ろされるヘラクレスの剣、アーサーのエクスカリバーにも似たソレを横に跳んで躱す。

 そして、剣を振り下ろした姿勢のままでいるヘラクレスは隙だらけ!


「オーガ・スラッシュ!」


「ァッ!」


 ……意外に硬い、と思ったら隙を見せたフリして、斬られる瞬間に後ろに跳んでダメージを軽減していたのか。

 剣が先端でしかカスっていないし、キッチリと斬り裂いた時の感覚が全然ない。

 HPも全然減っていないし、むしろ余計にやる気になったか目つきが更に強まっている。

 厄介な相手だけど……それくらいの方が、燃えるってもんだぜ。


「ハァァ……」


 ヘラクレスは息をついたと思うと、スキルでも使ったか一瞬で装備を切り替えた。

 さっきまでほぼ全裸に等しかった格好が大きく変わっていた。

 頭には狼の被り物、額の上に狼の顔が乗る形で出来ている帽子だな。

 上半身にはボルクスとカステロが着ていたような白い布みたいな……よくわかんない奴。

 下半身はさっきまで履いていた革の腰巻だが、サンダルを履いている。

 腰にはこん棒、手首と足首には枷……鎖でもついていたら、まるで罪人だな。


「それが本気の姿ってわけか? いいぜ、来いよ。ヘラクレス!」


「ガルァァァ!」


 ヘラクレスは身を少し屈めると、轟音と共に踏み込んで飛び込んできた! っ、速い!

 KnighT以上の素早さ、コイツ……さっきの姿で戦い通してたことを考えると、KnighTを倒すのに本気なんて出してねえ!

 手加減していてもKnighTに勝てるとか、どんなバケモンだよコイツ!


「ルァ!」


「ッ! アーサー並みかよ……!」


 速さまでアーサー並みになられちゃ、攻撃の軌道が単純でも避け辛い。

 だが、単純なのが救いか、慣れることさえ出来れば攻撃も何とか避けられるようにはなるだろう。

 そのためには、避けやすいようにするために一度距離を取る!


「ったく、厄介極まりねえぜ。どんな装備だよソレ」


「グルル……!」


 ヘラクレスは獣のように唸ると、身を屈める。

 俺は警戒して盾を構えながらも足に力を入れて動けるようにしておく。


「【ケルベロス・ファング】!」


「ッ! マジか……!」


 ヘラクレスが頭に被っている狼の被り物が自我を得たように動き出すと、三つに分裂した。

 全く同じ形をした狼の生首は牙を剥き出しにしながら俺に噛みつきに来た!


「来い! ゴブリンキング! 狼を蹴散らせ!」


 俺は盾と剣で狼を打ち払いながら小鬼召喚の詠唱を済ませ、ゴブリンキングを一体だけ呼ぶ。

 ゴブリンキングは現れて早々に狼の牙と剣をぶつけ合い、足止めを始めた。

 良し、これならヘラクレスとの戦いに集中出来る!


「そう言う数増やすスキル、俺には通じないと――どわたっ! っぶね……!」


「ヌゥゥ……!」


 ヘラクレスの剣は地面に叩きつけられていて、俺はほぼ無意識の内に間一髪で攻撃を避けていたことに気付いた。

 油断もならねえ一撃だ……けれど、コイツは隙なんて作らずにすぐに横薙ぎを放ってくる!


「っ! この野郎ォッ!」


 俺は横薙ぎをジャンプで躱しつつ、空中で体勢を変えて顔面に蹴りを食らわせる。

 だが、ヘラクレスは俺の蹴りなど意にも介さないのか口元に笑みを浮かべながら剣を振り上げた!


「神剣・マルミアドワーズ!」


「フィフス・カウンター!」


 だが、所詮大振りの剣! 確かに速度は上がったが、軌道は単純で大雑把!

 オリオンやアステリオスもそうだったが、コイツ等はパワーが強い分動きが読みやすい。

 フェイントも何もないほどに、真っすぐすぎるほどに!


「おいおいヘラクレス、ちょっと単純にもほどがあるんじゃあねえのか?雑な剣だぜ」


「グゥゥゥ……! ガァッ! ハァッ!」


 俺のフィフス・カウンターを食らっておきながらもヘラクレスのHPは僅かに残っている。

 クリティカルを叩きだしてもこの耐久力は賞賛に値するが、何度でも攻撃を当てるまでだ!

 と、俺は乱暴な剣捌きを見せるヘラクレスの攻撃を足捌きだけで躱し、隙を探す。

 さっきは大振りなスキルを構えていたからこそ出来たカウンターだが、普通の剣戟に合わせるのは難しい。

 カウンターにも一瞬のタメがいるってことをコイツはわかっているし、もう近距離で大振りのスキルは来ないはず!


「ガルルルァァァ!」


「チッ! 重っ……!がっ!」


 なんてことを考えていたら、逆袈裟斬りを剣と盾で受け止めてしまったせいで俺は空中に投げ出された。

 パワーだけならアーサー以上、スキルもアーサーのソレに限りなく近い。

 だが、速さだけなら俺でも見切れる分アーサーや先輩よりかは遅い……それが勝負のカギになるはずだ。

 逆に言うと、アーサーや先輩以上のパワーともなれば洒落にならない攻撃力ってワケなんだが。


「全く、嫌になるような強さだぜ……! けど、その方が燃えるってもんだ」


 俺は着地を決めて下がり、ヘラクレスの出方を伺う。

 さっきのスキルをまたぶっ放すなら、今こうして大股三歩分ほど離れた距離は好都合だろう。

 カウンターはどう足掻いても届かないし、フェニックス・ドライブじゃアレには対抗出来ない。


「……チッ」


 ヘラクレスは舌打ちしたと思うと、剣を両手で大上段に構えてライトエフェクトを輝かせる。

 よし、さっきのスキルと同じ構えと同じ色のエフェクト……! なら、打つタイミングを狙う!

 大上段に構えてるってことはさっきと同じ振り下ろし、なら左に跳ぶ!


「神剣・マルミアドワーズ!」


「鬼化!」


 超加速はクールタイム中なので、鬼化を使って俺はヘラクレスの攻撃を躱して二歩で間合いに入る。

 剣を振り下ろした直後のヘラクレスでは対応に一瞬は遅れるハズだ!


「オーガ・スラッシュ!」


「ガァッ!」


 ヘラクレスは右手で俺の攻撃を受けようとしたが、甘すぎる。

 鬼化で攻撃力を上げているし、いくら何でも片手だけで受けられるほどヤワじゃあねえ!


「ッラァ!」


「グゥゥ!?」


 ヘラクレスの右腕は両断されて地面にボトリと落ちて砕け散り――

 俺はすかさずその隙を狙い、更に一歩踏み込む!


「【フィフス・スラッシュ】!」


「ガッ……! ハァァァ……!」


 袈裟斬り一閃、ヘラクレスの右肩から左脇腹に剣が駆け抜ける。

 ヘラクレスのHPはそこで全損し、ヘラクレスも膝をついて天を見上げた。


「フッ、またつまらぬものを斬ってしまった」


 俺はそう決め台詞を言ってから剣を腰に納め、歓声の上がる客席に手を挙げて応える――が。


「兄さぁぁぁんっ! 後ろぉぉぉっ!」


「まだ試合終わってませんよーっ!」


「先輩しっかりしてぇぇぇっ!」


 ランコ、ユリカ、ハルの悲鳴にも似た声が聞こえて、俺は恐る恐る後ろを振り向く。

 そこには、目を真っ赤に光らせて腕も再生したヘラクレスが鬼のような形相で立っていた。鬼は俺なのに。


「コロス」


「お慈悲を」


「コロス!」


「ひぎゃっふ!」


 俺は凄いアホみたいな悲鳴を上げながらも、ヘラクレスの薙ぎ払いを地面に飛び込んで回避した。

 あっぶねぇぇぇ! ギッリギリセーフ! 三人の声がなかったら間違いなくやられてた!


「ったく、お前……メガロスと同じようなスキルでも持ってんのか」


 かつてレイドボス戦で討伐したメガロス、アイツはHPを全損しても復活したことがあった。

 ヘラクレスがもしもそう言うスキルを持っているのなら、それがどれだけの物か図る必要がある。

 奴のHPは半分にも満ちていないが、自然回復でゆっくりと治していくのだろう。

 となれば、俺が出来ることは何回でもブッ倒して、復活できる上限回数を超えるしかねえか。


「全く、一回や二回じゃ死なない奴ってのは面倒だな……!」


 俺は笑みを浮かべながらそう呟き、ヘラクレスに向けてもう一度剣を抜く。

 第二ラウンドの始まりって奴だ。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:80

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:100(+210) AGI:100(+170) DEX:0(+60) VIT:51(+460) INT:0 MND:50(+250)


使用武器:大悪鬼の剣、大悪鬼の小盾

使用防具:大悪鬼のハチガネ、大悪鬼の衣、大悪鬼の鎧、大悪鬼の籠手、大悪鬼の腰当、大悪鬼の靴、大悪鬼の骨指輪

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