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第百四十五話:絶対に負けられない理由

 集う勇者VS朧之剣の五番目は、ランコがギリギリの勝利を納める形で試合は終わった。

 追い付かれた状況から再度突き放し、朧之剣にプレッシャーをかけながらも始まった六番目。

 ユリカとGianTの試合は一方的な物となっていた。


「ハァッ!」


「効かん! 俺に剣の攻撃など通るものかよ! ハァーッハッハァ!」


 ユリカの剣戟は尽く弾かれ、唯一攻撃が通る手段でもまともなダメージを与えられない。

 負けイベントのような状況で、ユリカはどうにかこうにか攻撃を避けつつ善戦していたが――

 制限時間の半分を過ぎたところで。


「……仕方、ないのかな」


 ユリカは小さな声で、諦めたかのように呟いた。


「ヌゥァッ!」


「ぐはっ……!」


 ドゴォ、と拳が腹にのめり込む音と共にユリカのアバターはHPを全損し、砕け散る。

 集う勇者VS朧之剣も最終盤に差し掛かり、現在3-3となって一進一退の状態だ。

 俺は立ち上がって試合に備え、アップを始める。


「ごめんなさい、やっぱ勝てませんでした」


「仕方ないよ、刀剣攻撃無効とか普通勝ち目ないから」


「そうですよ、むしろよく頑張りました」


「うんうん、無様な負け方した俺からしたらカッコ良かった方ッスよ」


 落ち込むユリカを慰めるハルとユージン……イチカとアインは我関せずって感じだ。

 まぁ、張り合ってるアインに慰められたってユリカも嬉しくないだろうし、丁度いいんだろう。

 イチカはイチカで、誰が勝とうと負けようと褒めも慰めもしないし……な。


「まぁ気にすんなユリカ、ランコが勝ったおかげでまだ負けたわけじゃねえ。

むしろ、絶対に負けられない理由が出来たおかげで燃えて来たぜ」


 アインは一度敗れたDoGにギリギリながらも勝利を果たした。

 イチカはCaTに圧倒的な力の差を見せつけ、完勝した。

 ランコはPrincesSとの激闘を繰り広げ、絶体絶命の状況からでも諦めずに勝利をもぎ取った。

 なら俺も三人を見習おう。相手は既に戦っているだけに知り尽くしている。だからこそ、徹底的に全力で勝つ。


「頑張ってくださいね、お義兄さん!」


「ギルドマスターとしての、その力を示してこい」


「絶対勝ってくださいッスよ、俺たちが目指すのは優勝ッスから!」


「先輩。私は先輩が勝つと信じてます」


「私たちの繋げたバトン、無駄にしないでよね。兄さん」


「無力だった私の分まで、戦ってきてください!」


 皆はそれぞれ一言言うと共に、俺の背中をパシッと叩いて来た。

 いつもの俺なら『なんだよ』なんて言いながら鬱陶しいと感じていただろう。

 でも、今はこの六人分の想いを背負えると感じて、とても嬉しいと思う。


「いよぉぉぉし、漢ブレイブ・ワン! いざまかり通るぜ!」


「行ってらっしゃーい!」


「どう、ぞっ!」


 ランコとハルが二度目になる背中への殴打をしてくれたが、思ったよりも衝撃が来た。

 全く、加減を知らない妹と後輩を持つと兄にして先輩って奴ぁ苦労するもんだな。


「ま、でも可愛げがあるからいいもんだよな」


 控室を抜けながら俺はそう呟き、KnighTと対峙する闘技場へと入場した。

 出て来たKnighTはフッと笑い、腰の剣を抜き放った。


「まさか、一回戦であなたを倒せるとは思いもよりませんでした」


「そうか……俺も同じ気持ちだよ」


 KnighTとは二度戦って二度勝利しているが、それは俺の実力での勝利とは言い難い。

 小鬼召喚による初見殺しや、意表を突いた素手での殴打……どれも正々堂々とした勝ちではない。

 KnighTは二度目の勝利を正当な物と認めてくれてこそいる。

 けれども、俺自身が『剣でKnighTを倒す』というのは一度だって達成できていない。


「覚悟しなさい。今度こそ、私はあなたに勝ってみせます!」


「二度あることは三度ある、だ。こっちも成長してる分、全力で叩き潰してやるよ」


 KnighTは抜いた剣を両手で握って中段に構え、俺は盾を前にして剣を構える。


『それでは七番目……試合、開始ィーッ!』


「超加速!」


「ッ! 朧!」


 俺は最初から全力を出し、高速移動しながらKnighTへと迫る。

 だがKnighTは緩やかな動きで俺の方に剣の切っ先を向けている。


「ゴブリンズ・ペネトレート!」


「【黒炎剣】!」


「チッ!」


 KnighTは剣に黒い炎を纏わせ、俺の突きに合わせて剣を薙いだ。

 最速で放ったゴブリンズ・ペネトレートが止められ、そのまま弾き返されてしまう。

 相も変わらずとんでもない馬鹿力だ。


「変わらねえな、その馬鹿力」


「それはどうも……ですが、そのすばしっこさには磨きがかかったようですね」


「抜かせ、お前も速くなってるだろ!」


 俺はまたも全速力で踏み込み、剣にライトエフェクトを纏わせる。

 炎の強さは、KnighTの専売特許じゃねえって教えてやる!


「カースフレイム・フェニックス・スラスト!」


「炎天斬!」


 炎を纏った剣の攻撃は相殺で終わり、互いに大きく下がって離れた。

 ……正面からじゃ分が悪いだろうが、それでも俺は真正面からKnighTを倒したい。

 第一KnighT相手に搦め手を使ってやっとの勝利じゃ、アーサーには届かない。

 今度こそアイツをブッ倒すって言うのなら、KnighTを正面から倒すくらいじゃねえと。


「……あなた、私を見ていませんね」


「あ?」


「遠くを見据えているようで、実際は目の前のことに集中してすらいない。前のユリカと少し似ていますよ、その傲慢さ」


「そうかよ!」


 俺がKnighT相手に集中をしていない、随分とふざけたことを言うな。

 確かに俺は最終目標をアーサーとして見据えているが、俺自身がKnighTを倒したいと言う気持ちは本当だ。

 だから、そう馬鹿にされて黙っていられるかよ。


「俺が本当に傲慢な野郎かどうか……テメェの目で確かめてみやがれッ!」


「速い――!」


「オーガ・スラッシュ!」


「がはっ!」


 俺は超加速を維持しながらも超加力を使い、地面を蹴る瞬間足に力を込めた。

 STRも踏み込みの瞬間には作用させることが出来るので、瞬間的な速度上昇はこうしてできる。

 そして俺の放った一撃はKnighTを袈裟斬りにし、KnighTが着ていた鎧を斬り裂いた――

 が、まだKnighTのHPバーは半分残っているし自然回復でドンドン戻っていくだろう。


「すぐにぶった斬って、俺は俺の目標を果たしてやるよ!」


「なら……! 私の剣技を、その目に焼き付けなさい!」


 俺は飛び上がり、重力に従って落下する加速分も含めながらオーガ・スラッシュを放つ。

 超加力も加えた俺の最高打点、狙うはKnighTの頭。

 奴なら対応して剣で受けるくらいはするだろうが、それでも強引に押し込んで叩き斬る!

 現に今のKnighTは剣を鞘に納めていて、とてもじゃあないが俺には反応出来ない。

 このコンマ0.何秒の瞬間の思考と行動で勝負は決まる、ならKnighTはどう動く。


「超加力……そして――【朧之剣】」


「は……?」


 俺が剣を振り下ろす瞬間に、KnighTは自らのギルド名を呟く。

 と、KnighTの緩やかだった動きは急加速し、彼女の剣は俺の剣とぶつかり合った。

 まるでカウンターのような技、後の先を行く剣戟だ。


「ハァァァアアアアアッ!」


「う、おおおおお!?」


 KnighTの居合にも似た横薙ぎは俺を一撃で、空に押し戻すように吹っ飛ばした。

 着地こそ出来たが、KnighTはゆっくりとした動きで俺に迫って来る。


「やはり、あなたは私たちを見ていない! その傲慢さが、今の攻撃から見えました」


「ッ! 馬鹿にしてんのか……!」


 俺は全身に力を込めて走り出し、KnighTへと打ちかかる。


「ハァッ!」


「ふん!」


 ガァン! という金属音と共に俺の剣は弾かれ、KnighTは剣を横に薙いで俺を転がす。

 すぐに起き上がろうとする俺の眼前には、KnighTの剣の切っ先があった。


「私を見なさい」


「あぁ、見てるよ……! いつだって、俺に食らいついてくる強い剣士の、朧之剣のKnighTを!」


「なら、文字通り全力で来なさい! ブレイブ・ワン!」


「全力……俺、全力……!」


 俺の全力、それはただ真正面から剣をぶつけるだけの芸じゃあない。

 純粋な力だけではなく、遠距離攻撃や小鬼召喚による搦め手……それら全て。

 コイツが本当にそれを使ってでの勝負を望むって言うのなら。


「あぁ……やってやるよ! だったら、卑怯でもなんでも! 俺の全てをお前にぶつけてやる! そして、お前に勝つ!」


「えぇ、やってみせなさい。貴方が魔性の力を使うのならば私はその尽くを凌駕し、貴方を叩き潰します」


 俺は立ち上がり、数歩ほど下がってKnighTと睨み合う。

 KnighTは腰に剣を納め、俺は剣を地面に刺した状態で右手を前に出す。


「小鬼召喚!」


「来ましたか!」


 装備そのものも進化したことで、小鬼召喚の精度も大きく上がっていることが分かった。

 詠唱時間短縮、クールタイム短縮、消費SP軽減、召喚される小鬼のステータスの向上。

 そして、おかげで一度に五体以上のゴブリンキングを召喚することが出来た。


「これが俺の全てだ、KnighT!」


「いいでしょう、かかって来なさい!」


 俺は減ったSPを回復させつつ、KnighTが使うであろう広範囲スキルに巻き込まれないように下がる。

 ゴブリンキングたちは前と違って武器だけじゃなく防具も充実したものとなっているがそれでも不安なところはある。

 俺の持っている一部のスキルを使えても、KnighTほどの達人が相手ともなればこれだけの数でも厳しい。

 故に俺は離れた場所でスキルの詠唱をしつつ、KnighTの出方を伺う。


『ガアアア!』


「受けなさい! ヘルフレイム・バースト!」


 真っ直ぐ向かってくるゴブリンキングたちに向けて、KnighTの得意技である炎属性のスキルが放たれる。

 凄まじい威力を有してはいるが、防具まで完備の奴らには一撃で致命傷を与えることは叶わない。


「硬いですね……! ですが、相手にとって不足なし! 新たな私を見せるには丁度良い相手です!」


 KnighTは五体のゴブリンキングたちの攻撃を全て見切り、流れるような動きで回避しながらも反撃している。

 まるで曲芸だが、見ているとそれはお遊びの芸などとは全く違うのがよくわかる動きだ。

 しかも、避けるだけじゃあなくゴブリンキングの連携の隙を突いて少しずつでもダメージを与えている。

 ゴブリンキングたちに自然回復はないため、削られたHPは回復することはない。


「爆炎刺突撃!」


『ギャアアア!』


 KnighTがようやくゴブリンキングの一体目を倒し、そのまま勢いに乗ったように二体、三体と倒し始める。


「ッ!」


「来ましたか!」


 これ以上ゴブリンたちと戦わせても、KnighTが勝つのは目に見えている。

 故に、俺はスキルの詠唱を完了させた状態で保持しながらKnighTへと接近する。


「ゴブリンズ……! ペネトレートォッ!」


「それはもう知ってます!」


「ッ──マジかっ!」


 KnighTは俺の攻撃の軌道を100%読んでいたかのように、首を捻るだけで刺突を躱し、返す刀で横薙ぎ一閃。

 俺は腹からズバァッと斬られ、飛び込むように倒れた。

 ……あまりにも、強すぎる攻撃だ。下手をしたら死んでいるところだった。


「トドメです!」


『ガアッ!』


「……! やはり妨害してきますか!」


 もうKnighTによって半分未満にまで減らされてしまったゴブリンキングたちだが、まだ終わっていない。

 KnighTはゴブリンキングたちを相手にしながらも俺を視線から外さずにいる。

 俺はどうにかゴブリンキングたちに隠れながらHPを回復し、スキルを放つ準備をしておく。


「また同じ手を繰り返すつもりですか……! 陳腐で、稚拙な物ですね!」


 KnighTはゴブリンキングたちを全て倒したところで一歩踏み込んで俺に向かってくる。

 だが、俺だってただただ無策かつ同じ手を繰り返すほどの間抜けっぷりを見せに来たわけじゃない。

 俺は剣を肩に担いでからスキルを放つ――


「オーガ・スラッシュ!」


「……! 朧之剣!」


「【フィフス・カウンター】!」


「ッ――え?」


 俺はオーガ・スラッシュを放つように見せかけ、KnighTが行く後の先を上回った。

 KnighTの緩急をつけた攻撃を躱した俺はシステムアシストによって運ばれる剣技に自分の体重を乗せる。


「ハァァァッ!」


「あぐっ……!」


 KnighTがカウンター目的で放ってくる横薙ぎに対する、更なるカウンターの横薙ぎを全力で食らわせる。

 この一撃をモロに受けたKnighT吹き飛んだが、それでも諦めずに耐えきってHPを僅かに残し、鋭い目を向けて俺を睨む。


「まだ、まだぁぁぁッ!」


「ッ! 来い!」


 KnighTは炎の衣を纏った状態で突撃し、過去一番重く速い一撃を放ってきた。


「ハァァァッ!」


「っ……! ぐ! なんつーパワーだ……!」


 攻撃を盾で受けるたのにKnighTの馬鹿力に強く押し込まれ、足で踏ん張りをかけていたのに勢いを殺しきれずに壁に押し込まれる。


「私は……! 貴方を目標に、ここまで来た! もうあなたに負けたまま、終わりたくないのです!」


「ッ! それでも、俺だって先へ進みたい、お前に勝ったままでいたい! だから!」


「そうでしょう! 故に!」


 俺たちは先に続く言葉を一つとしながら、競り合いを避けて今度は高速の剣戟をぶつけ合う。

 あと一撃でも当てれば俺は勝てる、しかしKnighTはその一撃も当てさせない気迫がある。


「ハァッ!」


「ッ!」


 KnighTの一撃が、俺の防御も間に合わない速度で俺を斬った。

 その一撃が俺の判断力を鈍らせた。


「セイヤァッ!」


「ぐわっ!」


 続く二撃が、俺のアバターを斬り裂いて残りHPを僅かな域まで落とした。

 一発貰ったことで判断を誤って、防御も回避も間に合わなかった……!


「これで……同じですね」


「あぁ、どっちもあと一撃だ」


 壁際まで行ったはずなのに、斬り合いやら吹っ飛ばされたりでいつの間にか真ん中まで来ていた。

 入場してきた時と、位置関係は全く同じ状態だ。


「行きますよ、ブレイブ・ワン」


「あぁ。俺も行くぜ、KnighT」


 見合って、俺たちは剣を握る。


「炎天・聖十字剣戟」


「オーガ・スラッシュ」


 スキル名をただポツリと零すと、俺たちは今までにない程の速度で飛び込んだ。

 KnighTの炎を纏った剣が俺に突き刺さると、俺の剣がKnighTの頭へと叩きつけられた。


「私の方が先なのに……! ブレイブ・ワン、まさかそれは――」


「悪いが言わんでくれ、秘密兵器だったんでな」


 KnighTの剣の方が俺の剣よりも速く突き刺さった。

 しかし俺のHPが残った状態で、KnighTのHPは全損した。

 即ち――


『七番目! 集う勇者の勝利! よって本戦一回戦第一試合! 集う勇者のッ勝利ィーッ!』


 俺が七番目の戦いを制し、集う勇者へと勝利を運び込んだのだった。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:80

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:100(+210) AGI:100(+170) DEX:0(+60) VIT:51(+460) INT:0 MND:50(+250)


使用武器:大悪鬼の剣、大悪鬼の小盾

使用防具:大悪鬼のハチガネ、大悪鬼の衣、大悪鬼の鎧、大悪鬼の籠手、大悪鬼の腰当、大悪鬼の靴、大悪鬼の骨指輪

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