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第百四十一話:三下相手には俺で丁度いい

 第四回イベント本戦第一試合、集う勇者VS朧之剣の一番目。

 それは激戦の末に集う勇者のアイン……即ち俺たちが一勝をもぎ取った。

 のは、いいんだが。


「あぁ、お帰り。ギリギリの勝利で派手に喜ぶなんて、よっぽど嬉しかったんだね」


「へぇぇぇ……そう言うなら、アンタはさぞ勝利数も多いんだろうなぁぁぁ」


 バキリ、バキリと拳を鳴らしながらアインはユリカを睨みつけている。

 アインの怒りのボルテージはもうマックスどころか吹っ切ってどっか壊れたみたいだ。

 温和そうな優しい目をしていたアバターは、もう既に般若のように歪んでいる。


「何? 私とやる気?」


「ユリカ、そう煽らないで。アインくんも勝ったんだしさ、ほら……」


「ランコさんは黙っててください、これは僕らの喧嘩です」


「そうだよランコ、弱い者には愛する人は守れないんだから」


 バチバチバチバチバチ……と両者の間で火花が散るが、お前ら仲間だろ。

 頼むからこんなところで不和なんて起こさないでくれ、俺の胃が千切れ飛ぶから。

 先輩には一番見られたくないところなんだし、何事も起こらないまま着地してくれ……!


「で、アレ相手に防具とか全パージしてたけど、これからどうするの? 裸一貫でこの先の敵相手に戦うつもり? 後先考えなさすぎでしょ」


「前のイベントの決勝戦じゃ剣持ってなくて一瞬で負けたくせに」


「喧嘩売ってんの?」


「さっきからずっと売ってんだよ。ランコさんと同い年なくせに、知能は僕未満か? 流石、ゲームに逃避した馬鹿は頭足らずだなぁ」


 カーン、とゴングが鳴ったように掴み合いになった。

 目にも止まらぬ速さで互いに胸倉をつかみ、ギリギリと歯を鳴らしながら睨み合う。

 おかしい、二人は普段こんな喧嘩ッ早くないはずだ、つーかそのポジ大体俺だろ。

 なんでこの二人はこんなにもいがみ合ってるんだ? ランコか? ランコの取り合いでこんなにもいがみ合えるものなのか……?

 というか、この場合はどっちを叱ればいいんだ……? 誰か助けて。


「もういいわ、イベント終わったら勝負しなさいよ。ずったずたにぶった斬って泣かせてやるからさ」


「いいよ。かかって来いよ、そのツインテ引っこ抜いて焚火でもしてやるからさ」


 額に青筋立てながら目の辺りをピクピク動かしている二人、俺は固まって動けない。

 ハルは我関せず、って表情でなんかのチップスをパリパリと食べている。

 イチカを頼ろうと思ったが、彼は次の試合が出番なためかもうアップを始めている。


「あわわわ、こりゃマズい奴ッスよね……」


 ユージンはそんなこと言いつつも隅っこに避難しているし、役に立たん! 畜生、こうなったら俺が一喝して、取り敢えずどっちも止めるか──と思っていたら。


「こんのっ……馬鹿ぁぁぁっ!」


 ごちん、ごちんと二発ほど拳骨が振るわれた。

 一つはユリカに、もう一つはアインに。


「!? ラ、ランコ……」


「あ……その……」


「私、内ゲバ起こす人のこと大ッ嫌い。なんで仲間同士なのに喧嘩するの? なんで相手を煽って怒らせようとするの? なんで人が言って欲しくないような言葉を平気で言うの? ねぇ、今が大事な時だって二人ともわかってないの!? 答えてよ!!!」


「ごっ、ご……! ごめんなさぁぁぁい!」


 マイデビルシスター、ランコのお説教によって両者は声を揃えながら土下座を決めた。

 しかもそれだけには飽き足らず、床を割りかねない勢いで頭を打ち鳴らし始めた。

 いや、極端にもほどがある……けれど、一番効果的なお説教だったらしい。


「ごめん、アイン。年上なのに大人げなかったよ……ごめん」


「ぼ、僕の方こそ頭に血が上っちゃって、ごめんなさい……」


「うんうん。これでよし、仲良しが一番だよ。ふ・た・り・と・も」


 立ち上がらせた二人に握手を強制させながら、ランコは強い笑みで二人を従えた。

 うん……やっぱり悪魔的なまでに恐ろしい妹だよ、ランコ。


「ハァ……人の試合前に騒ぐな」


「その点もごめんなさい」


 迷惑そうにため息をついたイチカを前に、ユリカたちは平謝りだ。

 ハルはチュー、とジュースを飲みながらその光景を見ていて、なんか微笑ましそうに見てる。

 いや、全然微笑ましい光景とかでも何でもないんだけどね? 結構一触即発だったよ?


「頑張ってきてくださいね、イチカくん」


「あぁ、必ず勝利を届けてやろう」


「応援してるッスよ、集う勇者の男組の矜持ってのを見せるッスよ」


「うむ」


 ハルとユージンの応援を聞いて、イチカはニッと笑いながら控室を通り抜けて入場していった。

 同じタイミングでCaTも入場してきて、両者は対称的な色の装備を身に纏って対面した。

 イチカは黒い上着やアダマンタイト製のチェストプレート、CaTはそれと同ランクの鎧と白いコートだ。


「君が二番目とはね、少々残念だ……新参者イジメは趣味ではないからね」


「お前如きではランコが出るまでもないからな、三下相手には俺で丁度いい」


 CaTは腰から双剣を引き抜いて構え、イチカは無手なのでまだ構えないでいる。

 戦闘スタイルは互いに知り合っているだろうから、隠し合うのは不要だろう。


『それでは、試合開始ぃーっ!』


 いつの間にかMCたちもイチカやCaTたちの紹介を済ませ、試合開始の宣言をした。


「魔法剣」


 イチカは双剣のCaTに対抗するためか魔法剣を両手に握り、二刀流の構えを取った。

 その一瞬の準備はイチカを後手へと回し、CaTが先手を取るキッカケとなった。


「ふっ!」


「っ!」


 CaTの素早い攻撃をイチカは体を捻って躱し、すぐに背後へと回る。

 そのまま片方の剣で斬りかかるが、CaTは両手の短剣でソレを受け止める。


「そこだ!」


 俺が叫ぶと同時に、イチカはもう片方の剣を突き出す。

 だが次の瞬間、驚くことが起きた。


「何……!?」


「予選では見せないようにとKnighTからのご達しだったのでね」


 イチカの剣を受け止めるのは、CaTの肩甲骨の辺りから生えているもう二本の腕。

 機械的なその義手はCaTの両手に握られている短剣と同じもの。


「さぁ、四刀流と戦う自信はあるかな?」


「生憎だが馬鹿正直に打ち合うつもりはないぞ」


 イチカは冷静に判断し、大きく距離を取ってから右手の剣を弓へと変形させる。

 左手の剣は柄を消して刃だけにしてからグッと細くして矢のようにした――

 のを、五本ほど出していた。


「サンダー・シュート」


「その程度の攻撃で俺を倒せるとでも?」


 CaTは短剣を四本まとめて投擲して四本の矢を落とし、最後の一本は首を軽く動かすだけで避けた。

 だが、イチカとて馬鹿正直に矢を撃つだけのことを考えていたわけではない。


「カマイタチ!」


「むっ!」


 CaTの短剣がブーメランのように戻って来るまでのタイムラグ。

 それを利用して、イチカは右手の弓を形状変化させた魔法剣でラッシュを放った。


「ハァッ!」


「チィ……!」


 だがしかし、そう簡単に斬られてくれるほどCaTも間抜けではない。

 ブーツに装着しているアダマンタイト製のソールでイチカの剣を蹴り上げたのだ。

 それでイチカの攻撃は中断され、CaTの四本の手の下には短剣が戻って来た。


「いい策だったが、それまでだね。やはり君は新参者程度ということか」


「黙れ三下め、言っただろう。お前には俺で丁度良いと」


 イチカは再度剣を弓矢に変えながらバックステップ、そのまま矢をまとめて射出。


「初見で通用しなかった手を、また繰り返すとでも言うのかい?」


 CaTはイチカの行動に笑いながらも四本の短剣を投擲し、矢を叩き落とす。

 当然、飛んできた五本目の矢も首を捻って回避する――が。


「ぶがっ!」


 CaTの顔面にはイチカの魔法で作られた石の棒が直撃していた。

 あぁ、タイミングを遅らせての発射に加えて、矢に隠れていてCaTが気付けなかったのか。

 コレなら先輩やアーサーレベルじゃないと気付かずに受けちまいそうだな。


「通用しない手を、二度も使う間抜けがどこにいる」


「くっ、最初の手はまさかわざと……!?」


「さぁな」


 イチカは戻って来た短剣をキャッチし損ねたCaTへ肉薄し、魔法剣を構える。

 CaTの短剣は四本中二本が地面に刺さり、残り二本はどうにかキャッチしていたようだ。


「決めさせて貰うぞ」


「ッ……! 舐めるな、近接戦は俺の得意分野。簡単に崩せると思ったか!」


「もちろんだ」


 ガン、ギィン、ギャリィンと二人の剣が高速でぶつかり金属音を鳴らし合う。


「凄い、CaTとまともに打ち合ってる……」


「普通真似しようと思って出来る芸当じゃねえしな、イチカのアレ」


 かつてランコと互角に戦っていたCaT、それはランコの槍捌きあってだ。

 だが、イチカは近、中、遠、全部に対応するため様々なことに挑戦している。

 だのに近接特化のCaTと打ち合って平然としていられるのは、相当研鑽を積んできたのだろう。


「ヴォルト」


「ぐっ! 対応しきれんか……!」


「どうした、さっきの冷静さは飛んで消えたか」


 イチカの雷属性ラッシュがCaTの体を斬り裂いた。

 完璧な両断には至らないが、イチカの与えたダメージはCaTにとって痛い物だろう。

 何せイチカはまだノーダメージ、CaTは少しでも攻撃を当てたい所だろうに。


「舐めないで貰おうか……四本の腕ならば君なぞ恐れるほどではない!」


 CaTは苛立ちながらも獣人化をして肩甲骨の義手とアバターを一体化させた。

 鋭利な爪が生え揃い、DoGのような剛腕とは違って細いが、無駄のない腕には黄色と黒の毛並み。

 素早さに特化したであろうソレは、イチカを相手にするには十分なものなんだろう。

 正直、アレを相手にするとなると俺でも少し困るな。


「そうか、では俺も手数を二倍にしよう」


「……は?」


 が、CaTを前にして、イチカはまだまだ本気ではなかったようだ。

 剣をクロスさせるとイチカのアバターは一瞬だけブレ、薄い青色のオーラを纏い始めた。


「【流法モード双魔剣ダブルマギアソード】【魔力増強マギアブースト】、【魔力加速マギアアクセル】。これだけあれば足りるか」


「うわぁ、オーバーキル間違いなしじゃないですか」


「CaTさんに同情しますよ、ランコさんと戦った方がまだまともな負け方出来たでしょうに」


 ハルと一緒にポップコーンを食べながらユリカは苦笑い。

 アインもうんうん、イチカさん相手ならそうなるよね。って顔で頷いている。

 ユージンを見てみると『俺が色々仕込みました』って顔してら、やりやがったなこの野郎。


「ッ、こけ脅しが!」


「なら試してみろ」


 次の瞬間、風圧が起こるほどの踏み込みと共に超高速なんて言葉じゃ生温い程の速さの打ち合いが始まった。

 CaTの四本の腕による爪を前に、イチカは二本の剣だけで完璧に対応……どころかイチカの方が攻めている。

 数で上回っているはずのCaTは爪で防御に徹することしか出来ず、ジリジリと押されている。


「ッ……! なんと言う、速度……!」


「遊びは終わりだ、そろそろ持たんのでな」


 そう言うと、イチカの魔法剣の刀身が半ばからバキリと砕け散った。

 それを好機と見てCaTは爪を振り上げるが、イチカはCaTの攻撃を難なく回避。

 更にはCaTの腕を掴んで放り投げ、ゆっくりと魔法剣を地面から出す。


「どうした、もう戦意はそぎ落としきってしまったか?」


「……ッ! まだだ、まだ終わらん! 俺は必ず勝つ!KnighTとの約束なのだ!」


 CaTは身を屈めて力を溜めたと思うと、黄色と黒に包まれていた毛が変わり始めた。

 虎のような毛並みはどんどん力を増したかのように変色を始めた。

 黄色の毛はゆっくりと色を失い、黒の毛は逆に輝きを増して……CaTはアバターを白と黒の毛で包んだ。


「ホワイトタイガー……か」


「はぁぁぁ……すっげーカッコいいッス!」


 軽く俺が呟くと、ユージンは目ェキラッキラでCaTを眺めていた。

 ……こういうキャラだったっけ、コイツ。いや、こういうキャラだったか。


「俺も勝負を急がせて貰うよ……君相手に長期戦はしてられないね」


「そうか、それは都合が良くて何よりだ」


 イチカはCaTが変身している最中に腕の重りのような物を外してから、魔法剣を握り直していた。

 さり気無くリミット・ヘビーを使って素早さにブーストをかけていたのか、なんとも恐ろしい奴だ。


「ハァッ!」


「フンッ!」


 今度はCaTの腕を四本フルに使っての攻撃がイチカに届いている。

 先ほどとは違って、イチカも一方的にCaTを攻撃出来るほどの優位を保てていない。

 CaTにあんなパワーアップが出来るとは思いもしなかった。


「これでも届かないか……! 素晴らしい剣技だ!」


「そうか、だが俺は剣士でも何でもない。だからこうする」


「何ッ……ぐはっ!」


 イチカは一瞬の攻防で魔法剣を形状変化させ、鞭にしてCaTの四本の腕を縛り上げ、そのまま倒した。

 鞭二本で作られた拘束のため、CaTがもがいても腕は絡まったままだ。

 CaTは必死に腕を縛る鞭をほどこうとしているが、イチカはゆっくりとMPを回復しながら魔法を詠唱する。


「さて……お前は随分頑丈な上に大分しぶといと聞いた……故に、念入りにやらせて貰おう」


「いやいやいやいや……普通、激戦を演じた相手をそうやって殺すものかね? こう、一思いに一撃でやるものだと──」


「そんなお約束など、知らんな」


 イチカは両手に巨大な火球を生成しながら、CaTと最後のやり取りを交わした。


「【フィフス・ヘルファイア】! 【インフェルノ・ミサイル】! ニュークリア・キャノン!」


 引くほど超高火力の炎属性の魔法によって、CaTは消し炭になった。

 ……当然、勝者はイチカなのだが。


「やりすぎ……ですよね」


「イチカくんらしいと言えばそうですけども」


「でもなんかカッコいいッスよ」


「まぁ、徹底的に倒すって意味では……ありなのかな、ランコ」


「いやそれはないでしょ……流石に」


 と、ウチのメンバーたちには微妙な評価だった。

プレイヤーネーム:イチカ

レベル:80

種族:人間


ステータス

STR:0(+30) AGI:100(+120) DEX:10(+50) VIT:30(+70) INT:120(+180) MND:33(+170)


使用武器:魔水晶之バングル×2

使用防具:魔銀の額当て・改、魔銀の鎧・改、大悪鬼の衣・改、魔銀の腰当・改、魔銀の靴・改、魔銀の籠手・改、魔金のロザリオ・改

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