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第十四話:その斧を信じます

「……で、こうやって意気込んだのはいいんですけど、具体的な目標とかそう言うのはなんかないんですか?先輩」


さっきはカッコつけて皆であぁいうことをしてみたが、この屋敷ってそもそも何をしたらいいんだ?

ただただ経験値を集めるだけのスポットなら、こういう屋敷である必要はないだろ。

かと言ってダンジョンと言うわけでもないのなら、何かしら意味があったりするはずなのに。


「……フ、目標ならあるとも。尤も、私ですらソロでは達成が難しいものだからな」


先輩がちょいちょい、と手招きするので俺は先輩の近くに寄る。


「私についてくれば、その目標もわかる。

だから今はここを離れず、死んでもこの屋敷で戦え」


「そりゃまた、随分とキツそうなことで」


先輩ですらソロじゃ難しいと言わしめるとなると、俺たちがいても意味無いんじゃないのか?

彼女の装備は激レアドロップとかそういう類のものが多いようだし……ぶっちゃけエクストラシリーズを持ってる俺でも足手まといだろう、レベル的な話で。


「この屋敷には二階と三階があるが、真に攻略すべきところはその二つではなく、地下を通って行くことの出来るもう一つの部屋だ。

二階まではゾンビ、スケルトン、狂人のみしか出ないし三階には、スライムが出てくるが……結局の所ダミーだ」


先輩はご丁寧な解説をしながら腰に下げている刀で片っ端から部屋の扉を斬りまくっている。

一振るいで二回ほど斬撃を放ち、それで扉が簡単にスパスパと斬れている。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


「ってか、ここのオブジェクト基本脆くないっすか?」


「まぁ、耐久値はショボいマップだからな。

広範囲の炎系スキルでも使ってみろ、入り直すまで焼け野原みたいになるからな。

……近々、運営が修正を施すと良いが」


先輩はそう言って、次々に扉を切り刻み時折出てくるゾンビをクリティカルで瞬殺している。

スケルトンが襲い掛かってきた時は、アインとランコが先制で武器を投げ、先輩が一刀両断。

……俺とハルの存在意義が薄くなって来るなぁ、と考え始めた所で先輩は廊下のド真ん中で立ち止まった。


「あの、先輩?何してんですか?」


「ここまでは『見つけたら即撃破』で来たが、ここのモンスターはフロアにいるプレイヤーの数の割合に応じてポップする。

つまり、こうして待機していればな」


……廊下に繋がるあらゆる部屋からゾンビ、スケルトン、狂人が出て来た。

しかも廊下にもポップしているし、なんか昔遊んだゾンビだらけの町から逃げるゲームを思い出して来たな。


「で、この包囲された状態でどうすれば?」


「お前たちは私の後ろを四人がかりで止めておけ。

私はお前たちの後ろ側を片付けておく!死んでくれるなよ……!」


先輩は腰から刀を抜き放ち、両手で握って中段に構える。

……なんと言うか、達人のようなオーラを感じる。


「では……武運を祈る」


先輩はそう言うと、と力強く踏み込んで密集しているゾンビたちへ特攻した!


「おいおいおいおいおい……この数は無理があるだろ!

ハル!せめて俺だけでも向こうに行くのは……!」


「そしたら私たちが磨り潰されますよ、先輩!」


「幸いにも、廊下の広さの限界で一度に進軍してくるゾンビたちにも限りがあります。

ハルさんがタンクになってください、私とアインくんで攻撃をします!

ブレイブさんは……えと、その……あーっと、うん……!臨機応変にお願いします!」


「俺だけ適当だなオイ!」


「言い争っている場合じゃないです!来ます!」


ゾンビたちは軍隊を作るかのように、綺麗な足並みでこっちに向かってくる。

ただ……うめき声が重なりすぎて一種の怪奇音になってるし、うるせえ!


「あぁもう……嫌になってくる!」


俺は剣と盾を構え、ハルを先にゾンビの群れに行かせてからワンテンポ遅らせて俺がそこに走り込む。


「【ヘイト・フォーカス】!」


「セカンド・スラッシュ!」


ハルの使ったスキルで、ゾンビたちはハルの方へ近づいて攻撃を始めようとする。

そこに走り込んだ俺はセカンド・スラッシュでゾンビの頭を斬りつける。

……部屋から湧いて出て来た、と思われるゾンビは確かに強い。

現に今のでHPが六割ほど削れた奴と、三割程度しか削れてない奴でわかれている。


「くっ、サード・シールド!セカンド・シールド!ファスト・シールド!」


ハルは周囲にシールドを展開してゾンビの攻撃から身を守っているが、やはりゾンビの攻撃力は高く、ゆっくりながらもハルの展開した盾を壊した。

だが。


「セカンド・ジャベリン!」


「アックス・スロー!」


ランコの投擲した槍と、アインが投げた斧がゾンビの頭へと命中。

部屋で沸いたか廊下で湧いたかは、俺の斬撃で既に判別できるようにしてある。

だからランコは廊下で湧いたゾンビを、アインは部屋で湧いたゾンビを倒す。


「せやぁっ!」


俺は残っていた部屋湧きゾンビの頭を斬りつけ、そのまま撃破。

だが、今の攻防でもゾンビはたった三体しか倒せてない。


「まだまだ来ます!」


「なら、僕が大技を使って数を減らします!

ハルさん、ちょっと下がってください!」


「わかりました!その斧を信じます!」


ハルがアインの秘策か何かを聞いて下がり、アインはスキルの詠唱に入った。

……なんかこの黒いアーマーの周りに白と黄色の光輝いたオーラが出てるんだが。

炎系スキルとか雷系スキルじゃないよな。


「ふぅぅぅ……【シャイニング・アックス】!」


よかった、普通に燃えないタイプの斧スキルだ!

しかしその威力は凄まじく、モーセが海を割ったかのようにゾンビを真ん中にいたゾンビたちだけを倒している。

逆モヒカンにした髪の毛みてえに、ゾンビの群れは三分の一になった。

……奥にスケルトンや狂人たちがいて、後詰と言わんばかりに突っ込んできた。


「じゃあ、今度は私の新しいスキルで行くよ!」


ランコの槍の穂先からバチバチとスパークが起こる。


「蜻蛉切に斬れぬものなし……いざそれを実践すべし!

【ライトニング・スピア】ァァァッ!」


前回と違って詠唱時間は短く、雷のエフェクトも控えめなものだが……それでも、くっついているゾンビたちに纏めてダメージを与えるのは効果的だったようだ。

普通の物理攻撃なら胴体に攻撃してもダメージは薄いが、属性攻撃なら効果があるのか。

……毒撃が効かなかったことに関しては忘れよう。


「ってか、ランコ……お前、ノーリスクでそのスキルが使えるのか!」


「えぇ、メガ系は強くてカッコよくても、バテちゃうのでッ!」


ランコは返答ついでに槍を投擲してゾンビを一体仕留めた。

……よし、ここまでゾンビのHPが削れたのなら!


「二人とも、SPの回復、あとスキル詠唱を頼む!」


SPポーションをアインとランコに投げ渡して、俺は加速と加力を使って力強く踏み込む。

倒せこそはしないが、乱戦で注意を引き付けることが出来れば……それでいい!


「でえええりゃあああああッ!」


俺は敵陣真っただ中に突撃する……つまり尤もヘイトを集める形となる。

だが、俺の盾の固有スキルを使えば!


「【肉壁】!」


小鬼王の盾……その固有スキル【肉壁】。

文字通り肉の壁、自分の周りにゴブリンを出す。それだけ。

対人じゃあんまり意味のないスキルだと思うが……モンスターの注意を引き付けるオブジェクトが出せる。

それと同時に、このスキルに入っている有効範囲内にいるモンスターは攻撃力がダウンする。

おまけか何なのか、このゴブリンのオブジェクトが残っている時は俺のダメージは全てゴブリンに転嫁される。

まさに小鬼の王らしいスキルだ。

……因みに、このスキルはSPを全部消費するので、使ってからはSPポーションを飲まなきゃならない。

SP消耗が激しいスキルだらけで困るな、俺。


「よっしゃぁっ!漢ブレイブ・ワン!まかり通るぜぇぇぇッ!」


ゴブリンに引き寄せられて、ゴブリンのオブジェクトを攻撃しているゾンビの頭へと次々に剣を叩きつける。

スケルトンや狂人にはスキルを使って、少しでもHPを減らす。


「ブレイブさん!スキルのチャージ完了しました!」


「よし!じゃあそのまま打ってくれ!俺は大丈夫だからな!」


「えええええぇぇぇ!?」


アインが驚いた顔でいるが、ランコとハルは遠慮なしにスキルを放とうとしている。

丁度、文字通り本当の肉壁があるし……今セカンド・シールドとファスト・シールドを展開した。

それに盾も構えてるし、ゴブリンのオブジェクトたちもまだ半分くらいは残っている。

俺がダメージを受けても、きっと耐えきれる……はずだ。


「私は先輩を信じて見せます!さぁ行きます!狂化!

そして……【インパクト・スラスト】!」


「あぁっ、デスペナルティ受けても……知りませんからね!

くらえっ!ライトニング・スピアァァァっ!」


「シャイニング・アックス……双鉞!」


ド真ん中にランコの放つ雷の槍とハルの放った剣が起こした衝撃波、左右にアインが放った光の斧が俺、ゾンビ、スケルトン、狂人、そしてゴブリンのオブジェクトを巻き込んで――


「ッ……うううおおおああああああああああッ!」


屋敷の廊下の端まで貫かん、と言う勢いで全てを巻き込んだのだった。

……俺はHPバーが残り1の所で耐えきったんだけどな。

こんなこともあろうかと、実はこっそりと出発前にスキルブック、パッシブスキルの【根性】を買っておいてよかった。

HPが一割以上あるのなら、どんな攻撃であろうともHPが1で耐えきれるという内容だ。


「よし、これで一通り殲滅できましたね。あ、これどうぞ!」


「あぁ、ナイススキルだったぜ。サンキュー、皆」


「そりゃぁ、SP消耗の激しい大技ですから。良かったら三人とも飲んでくださいね」


ハルが腰の鞘に剣を収めながら俺にHPポーションを、ランコがアイテムストレージからなんかのポーションを取り出して俺たちに渡してくれた。

アインは無言で斧を背中に背負い、ドロップ品の確認をしていた。


「さて、ドロップ品は何が出たんだ?アイン」


「経験値的には皆で美味しくいただけましたけど、ドロップはやっぱりしょっぱいものばっかりですね。

僕はちょっと金欠なので……もう少しお金が欲しいんですけど」


まぁ、経験値が美味いのは事実だ。

今ので俺のレベルが32まで上がったし、アインも35、ランコも30、ハルも35……先輩にも経験値が行ったはずだが、一個も変動はない。

レベル35以降は上がり辛くなってんのか?

と、思いつつも俺は自動均等分配される金とドロップ品を見ながら、ポーションを二本飲み干した。

よし、HPは自然回復でそのまま回復するだろうし、ランコがくれたポーションはしばらく自然回復のバフがかかるみたいだ。


「さて、先輩の方は……」


俺たちが先輩の方を振り向くとわかってはいたんだが、一騎当千してた。

相手の数が千体ってわけじゃないんだが、先輩はどんな反応速度してんだ。

ゾンビたちの攻撃をB級アクション映画かのような避け方をして、返しの一太刀だけでゾンビの首を刎ねている。

スケルトン、狂人も同様にスパスパスパスパ、と斬られて次々に消滅していく。

経験値の一部が俺たちにも入るが、正直今はそれよりも先輩の刀捌きの方にしか目が行かなかった。

あ、また俺のレベルがアップしたぞ……ここの経験値、ちょっと美味し過ぎるんじゃあないのか?

実質的にパワーレベリングだろ、これ。


「……ふぅ、まぁまぁの特訓にはなったな。

相も変わらず、経験値やアイテムは酷い物だが」


先輩の動きを見て、アレコレと考えていると……いつの間にか先輩は全てのモンスターを倒し終えていた。

シンプルなプレイヤースキル、そしてステータスに物を言わせた戦闘能力……そりゃこのゲームでもトップ3に入れるわ。


「すっげえ……すっげえ、なんつーか、すっげえ……」


「えぇ、なんて言うか……これを前にすると、私も語彙力を失いますよ」


「やっぱり、ランキング三位ってだけありますね」


俺、ハル、アインは刀を腰に納めてから水を飲んでいる先輩を見て口々に呟いた。

ランコはただ槍を握りしめて、何故か先輩をじっと見続けていた。


「さて、ゾンビも殲滅したことだ。

三階を目指して進もう、迅速に」


「三階?地下に進むんじゃなくて?」


「地下に行くには、灯りと鍵、それだけでなく特殊なアイテムが必要だ。

鉄格子だから蹴って開けることも出来ないし、斬ろうにも破壊不能オブジェクトだからな……流石の私も破壊不能オブジェクトを相手には何とも出来ん」


先輩はそう言ってから、まずは二階に上がるための階段へと足を進めた。

……まぁ、二階も一階とそう変わることはなかった。

先輩が『最短で行くぞ』と言ってから、ほぼ雑魚は無視する形で通っていた。

どうしても避けられないように廊下を通せんぼしているのがいれば……


「【幻影刀】」


先輩が姿を消して、モンスターの頭にスキルをぶち込んで一撃必殺!と言う形だった。

と、一階での戦闘の半分もない程の時間で二階の探索を終え、俺たちは三階についてしまった。


「三階には宝箱がいくつかある。

そこからなら今までの戦闘に見合う報酬も手に入る。

それに、レベル35以降はここで貰える経験値が大幅に下がる。

だから、35以上は皆三階に集まるわけだ……アレとかな」


先輩が指差すと、三階の個室を見て回っているプレイヤーがいた。

……大きな戟を背負った男と、これまた大きな槍を背負った男だ。

片方は赤と黒を基調にした重装備だが、もう片方はかなりの軽装だ。


「あの男たちは……【真の魔王】だな」


「真の魔王?なんすかソレ」


「ギルド名ですよ、前回ランキング二位のプレイヤーがギルドマスターです。

で、サブマスターが……」


ハルが言いかけた所で、部屋から出て来た……人型のナニカがいた。

大鎌を背中に背負い、どう見ても人とは思えない姿をしていた。

うん、アレは完全にモンスターだな。人じゃない。人と信じたくない。


「先輩、アレ……アレがここのボスなんですか?」


「いや違う、あれは真の魔王のギルドサブマスターにして、前回ランキング四位の【オロチ】だ」


「どう言うセンスしてたらあんな人外染みた姿になるわけ!?」


どう見たってプレイヤーじゃないような姿だ、だってなんかもう化け物そのものな姿だもん。

破滅、とか言いながら鎌振るってそうじゃん、強い奴探し求めてそうじゃん、弱音吐いた部下を斬首しそうじゃん、破壊の衝動に溢れてそうじゃん!


「ランコ、アイン、俺がおかしいのか?

普通ならあんな見た目してるプレイヤーはいないって思う俺がおかしいのか?」


「あ、私もあのプレイヤーは……変な姿だと思ってました」


「僕も同じです、アレはちょっと……」


ただ、ランコはオロチよりも別の物を見ている気がした。


「ランコ……お前オロチよりも気になった奴でもいたのか?」


「え、あ、その……あの槍を背負った男の人が気になってて。

同じ武器を持っていると、なんかこう、対抗心が湧いてきちゃって!」


「あー、それもわからなくはないな、俺もそんな気持ちになったこと他ゲーとかであるし」


ランコの言いたいことはまぁ、あの軽装の男が背負っている槍が気になるんだろう。

ランコと同じデザインの武器だったし、気になる理由もなんとなくわかる。


「まぁなんにせよ、向こうの三人は行ってくれた。

下手に出くわすと戦闘になる可能性が高いからな」


「え?なんで戦闘に?」


「真の魔王にいる内の一人の男が、PVP好きの戦闘狂なんですよ。

あの、赤と黒を基調にした戟使い、【ホウセン】ってプレイヤーが。

因みに前回のイベントのランキングでは、八位と好成績でしたからねー」


「そうだったんですか……だから見つからないように隠れてたんですね!」


アインが納得した表情だが、俺はイマイチ納得いかない。

先輩ならあのオロチとやらも倒せたんじゃないのか?

五対三だったら、堂々と勝負を挑んだって勝てる気がするんだがな。


「言っておくが、真の魔王と直接戦闘をして勝てるなどと思うな。

私は前回のイベントで確かにオロチを倒したが、ほぼ不意討ちに等しい形だ。

直接戦ったら負ける可能性もなくはない……と言っても、簡単に負けはせんがな」


先輩が俺の肩に手を置きながらそう言ってはいるが……先輩が負ける姿が想像出来ねえ。


「それに、今は争いの時じゃあない。

今は協力して、モンスターを倒すのが先決だ。

一人一人では私たちは弱いかもしれんが、協力する事こそ大切だろう?」


今こうして三階にポップしたゾンビやスケルトンを一撃で倒しながら言われてもな……

俺とハルの出番がまた薄くなってくるような気がしてきて、胸の中に一抹の不安を覚えた。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:33

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:60(+53) AGI:70(+43) DEX:0(+15) VIT:33(+63) INT:0 MND:30(+43)


使用武器:小鬼王の剣、小鬼王の小盾

使用防具:龍のハチガネ、小鬼王の鎖帷子、小鬼王の鎧、小鬼王のグリーヴ、、革の手袋、魔力ズボン(黒)、回避の指輪+2

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