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第百三十五話:女子会

 朧之剣、ギルドホーム。そこには広い庭に大きな屋敷が建っていて、周りは2mはありそうな白い壁に囲まれている。

 広さは集う勇者のギルドホームと同じくらいで、大人数で入っても暮らせそうな場所。

 将来的に規模を拡大していく予定なのか、と本人に聞いているけど答えは返ってこない。

 そんな場所に、今私たち──六人の女性プレイヤーたちが集まっていた。


「なんだか、このメンツってのも意外ですよね」


「はは、確かに。年齢も所属ギルドもバラバラですもんね」


 庭に広がる大きな円卓、そこに集まるのはSBOでも上位に位置する女性プレイヤーたちだ。

 円卓に並ぶは六人が持ち寄ったお菓子に紅茶にティーセット。

 正に、女子会と呼ぶにふさわしい空間が形成されている。


「この場に集まっていただいただき、まことに感謝いたします」


 この円卓に私たちを集めた張本人は、朧之剣ギルドマスターのKnighTさんだ。

 彼女は白を基調とした綺麗なドレスを身に纏っていて、そこに金髪が相まって、普段の力強い騎士のような姿からは想像できない美人さんになっている。

 用意してくれたお茶はSBOの中でも現行トップクラスの品質を誇るもののようで、いい香りがする。


「なに、私も男ばかりの騎士団で肩が重くなっていた所、感謝するのはこちらだ」


 王の騎士団に所属していて、KnighTさんのライバルであるアルトリアさん。

 彼女は青を基調としたドレスで着飾っていて、KnighTさんと似て非なるベクトルの美しさがある。

 持ち込んだシュークリームはギネビアさんお手製のものらしく、とても美味しそうだ。


「そうね。面倒な悪魔と魔王のお世話だけじゃ、私もこのゲームを楽しめないし……時には、こういう集まりは心が安らぐわ」


 真の魔王の新たなサブギルドマスターにして、カオスさんのメイドであるサンドラさん。

 彼女はいつものメイド服を着ているけれど、肩の力を抜くと言わんばかりに着崩しているからかセクシーだ。

 持ってきてくれたパイは彼女のお手製で、様々なフルーツが乗っていて美味しそうだ。


「いやー、なんだか場違い感が凄いや……」


「法事で集まる大人の中にいる子供の気分ですね。いや、実際そうみたいなんですけど」


 集う勇者の一軍にして看板、ネット民を盛り上げる存在であるランコとハルさん。

 ランコはオシャレを意識した白いドレスを纏い、いつもよりも可愛さ三割増しだ。

 持ってきたビスケットは最近料理スキルを習得し始めた彼女のお手製で、素朴な味がすることを私は知っている。

 ハルさんはオシャレ服を持っていないのか、鎧を脱いだだけの姿……確かに場違いっぽさはある。

 持ってきたケーキはSBOでも話題のケーキ屋のもので、様々な種類を用意するのにはきっと骨が折れただろう。


「まぁまぁ、今日は女子会……招かれた側の私が言うのもアレですけど、無礼講で楽しみましょうよ」


 それで、私――集う勇者のユリカは、出来る限りの明るい笑顔をニコッと浮かべてハルさんとランコの緊張をほぐす。

 今日の服は黒がメインだけど、いつもの黒コートじゃない礼服のドレスなのだ。

 持ってきたのはチョコレート……これは凄く面倒なクエストをクリアして手に入れたレアなアイテムだ。


「菓子も茶も揃った……まさに、女子会に相応しい空間だな」


「そうですね、今日は思う存分食べて飲んで語り合いましょう!」


 アルトリアさんとKnighTさんの言葉を皮切りに、私たちはそれぞれのお菓子に手を伸ばした。

 私はアルトリアさんが持ってきてくれたシュークリームを一齧り、そして紅茶で軽く流す。

 うーん、やや苦みのある皮に甘い甘いクリーム、それを程よいバランスに調整してくれる暖かな紅茶。

 二人が並ぶときも華やかだけど、お菓子の組み合わせまでベストマッチだなんて思いもしなかった。


「美味しい……集う勇者じゃ味わえない美味しさだぁ」


「そう。それは良かったです。そのお茶は朧之剣の苦労の結晶でしたから」


 KnighTさんは胸を撫でおろして喜ぶ。

 ……もしかして、茶葉から採ってきたりとかしたのだろうか。

 とかなんとか、それぞれのお菓子を褒めたりなんだりしつつ時間が経ったところで。


「そう言えば思ったんですけど、皆さんって名前の由来とかあるんですか?」


 ランコが何気なーく放った一言。

 その一言が、私たちに波紋を呼んだ。


「名前の」


「由来」


 私たち五人はお互いの顔を見合わせたり自分の手を見つめたりする。

 ……なんだかんだ付き合いのある人たちでも、聞いたことがなかったような話だなぁ、ソレ。

 ランコの名前の由来とか、まだ聞けてなかったがだけになんとなく聞いてみたいと思ってたんだよねー。


「では、私から話しましょうか」


 KnighTさんがそう言ってから、紅茶を一口飲む。

 そしてカップをソーサーに置いてから、KnighTさんのお話が始まった。


「私には、幼馴染がいました」


 幼馴染。私にはいないけど、いる人にはいる奴だよね……小さい頃からの腐れ縁的なの。

 私にも幼馴染が欲しいや、タイムトラベルして歴史改編出来ないかな。


「その幼馴染はお金持ちで、私よりも広い広い家に住んでいました。

まぁ、私も一軒家に住んでいたので十分大きかったのですが……彼女はもっと大きな家でした」


 KnighTさんが身振り手振りで説明してくれるので、その大きさはなんとなくわかる。

 その幼馴染の人の方は大金持ちって感じで、KnighTさんの方は中流家庭って感じだったようでしょうか。


「彼女は姫のような振る舞いをし、とても上品な方でした……本当に、おとぎ話のお姫様のように美しく、優しく……」


 ふんふん、上品なお姫様……ね。

 クラスにそれっぽい子はいないので、ちょっと想像しづらいなぁ。

 お姫様みたいな振る舞い、って色々あるし……けど、漫画とか小説では見たことある気がする、語尾にですわ、ってつける人とか。


「ですが、彼女は体が弱く学校へ行くことも一苦労でした。

小学校、中学校、高等学校……どれにおいてもその生活は苦労が絶えませんでした。

私は彼女のことをとても可愛そうな人だと思っていたのですが……彼女は体の弱さを嘆きながらも挫けることはなく、今も立派に大学に通いながら私に様々な物を与えてくれる良き友なのです。

サークルでは中心人物となっていますし、彼女は本当に私の大切な存在なのです」


 生まれつき体が弱い人、よくいるけど……それでもKnighTさんに何かを与え続けたんだ。

 とってもいい人なんだろうなぁ。

 私はイジメにくじけて引きこもっちゃったけれど、その人はきっと心が強い人なんだろう。


「故に私は『彼女に恩返しがしたい』と思い、騎士のように彼女へ仕えることから始めて……この仮想世界でもそうするため、この名を名乗りました」


「おぉ、なんだかドラマチック……!」


「守る者のために……素敵です!」


 ランコとハルさんは感激していて、アルトリアさんはパチパチと拍手をしている。

 サンドラさんは……あんまり興味がなさそうで、むしゃむしゃとビスケットを食べている。

 にしても、この仮想世界でもってことは彼女の幼馴染がここにいるんだろうか。


「では……次はアルトリア。貴方の名前の由来を聞かせていただけますか?」


「む、私か……しかし、特に面白いことはないぞ?」


 アルトリアさんはやや申し訳なさそうな顔をしつつも、由来を語り始めてくれた。


「私には十五ほどの姉と、一つ上の兄がいる。

その兄は勿論のこと、アーサー……名の由来は『円卓の騎士』で有名なアーサーだ」


「えぇ、凄くカッコいい王様のお話ですよね」


 そう言えば、ランコは円卓の騎士の物語を読んだことがあるって言ってたっけ。

 私はライトノベルくらいでしか覚えてないから、そういう知識は残念なものだ。


「私と兄はSBOを始める時、『どちらがアーサーにするか』と揉めた。

が、私は女だ……女であるが故に、アーサーという名は似合わなかった。

ので、アーサーと言う名前の派生形であるアルトリウス、それを女性名詞にしてアルトリア、と名乗ったのだ」


 アルトリアさんはそう語り、申し訳なさそうにしつつチョコレートを食べる。

 ……なんて言うか、KnighTさんの後だとなんだか喜劇的なお話だ。


「なら次は私ね。私の名前の由来は好きなゲームのキャラからパクった、このアバターもソレ由来、以上」


「一言で終わらせるんですか……もっと深い意味とかあると思ってました」


 サンドラさんはすごーく簡単に説明してから切り上げ、お茶を飲みつつビスケットを食べる。

 うーむ、お話をするとかそう言うのよりも、ただただお菓子を食べに来たって感じだ。

 ハルさんもそれには驚きを隠せないようだった。


「ほら、次は集う勇者たちでしょ、ん」


 サンドラさんはランコを顎で指して、お茶をグビりと飲んだ。

 なんて言うか……オンオフ激しいのかな、サンドラさんって。


「あー、じゃあ私だけど……私もそんなに深い理由はないんですよね」


 リアルネームと一文字もカスってない名前なのに、そんなに意味はないのか……私やハルさんはリアルネームをそのまま使ってるだけに、ちょっと不思議な気分だ。

 本名と違う名前を言うってのは、理由でもないと少し喉に違和感が出てくるんだよね。

 気分的な問題だけどさ。


「リアルの話なんですけど」


 と、どうやらランコの名前の由来はリアルの生活から来たようだ。

 何だろう、何が由来だったんだろう。


「私、一年くらい前に陸上部に入ってたんですよ。

走ると気分が良くなってて、小さい頃はかけっことか大好きでしたし。

でもまぁ、イジメられたから部活もやめちゃって」


「い、イジメ……」


 ランコの話の途中ながらも、『イジメ』というワードでKnighTさんは表情を曇らせる。

 彼女もまた、私たちと同様にそういうことに何か縁があってしまったのか。


「だから、仮想世界でくらい思い切り走りたいな。って思ってこの名前を付けました」


「いや……十分深いよ、ランコ」


 現に、ランコのその願いはもう叶っていて……今の彼女は天空すら駆け抜けるのだ。

 ただ飛ぶだけの私よりも、天すら歩くのは彼女の特権そのもので、私よりずっと凄い。

 よし、私も話そう。ランコが話してくれたなら今すぐ私も話そう。


「次は私でいいですか?」


「うむ、ユリカの名の由来は私でも聞いたことがないから気になるな」


 アルトリアさんは興味津々みたいで、菓子に伸ばしていた手を膝元に戻した。

 ……本当に、彼女には色々と気に掛けられていたんだなぁ、私。


「私の名前の由来は――」


 私はイジメを受けていて、現実世界での自分の弱さを嘆いた。

 運動神経は平均未満、努力したってそれが実を結ぶことはない壊滅的なセンス。

 勉強だってダメダメだし、人と趣味を合わせることも出来やしなかった。

 それでも、自分は普通の人みたいに生きることが許されたって良かったハズなんだ。

 だから、仮想世界で強くなって……いつか現実世界の人間にその強さを見せつける。

 そのためには、名からリンクさせなければ……と、謎の使命感を持った私は今の名前を付けたのだ。

 リアルネームと同じ、ユリカという名前を。


「辛いこともあったのだな、ユリカ……お前の立場なら私もそうしていたかもしれん」


「えぇ、そうですね……強くなるために一歩を踏み出そうとしたことは偉大です」


 アルトリアさんとKnighTさんは何か胸を打たれたのか、ジーンと感動している。

 一方でサンドラさんはケーキをパクパクと食べていて、『子供っぽいわね』という視線を向けて来ただけだった。

 ランコは既に聞いているからか、特に動じた様子はなくお茶を飲んでいる。

 うぅ、やっぱり人に話すもんじゃないな……私の過去及び名前の由来なんて。


「じゃあ最後は、私ですね」


 最後は言わずもがな、ハルさん。

 彼女の名前の由来エピソードが語られ始めた。


「これは私が中学二年生の頃のお話です」


「……今の私たちと同じくらいの頃か」


 私はボソッ、と呟いた。

 彼女もまた14歳の頃に、そう言う転機のある出来事があったのかぁ。


「当時の私は髪を桃色に染めて、オシャレをしていました。

髪は自由、という学校の校則を言葉通りに受け取った結果です」


「でも、別にそれって――」


「えぇ、何一つ問題はありませんでしたし、誰もそれを咎めることはありませんでしたよ。

私のクラスメイトも一年生の頃から髪を染めている生徒はいましたし、二年から髪を染めた私はむしろフツーなくらいです」


 ランコが言いかけた言葉に先回りして答え、ハルさんは話を続ける。

 SBOだと彼女は茶髪だけど、リアルだと桃色の髪なんだよね……逆でしょ、フツー。


「ですが、やはりそれは生意気に見えるものなのでしょうね」


「生意気?」


 KnighTさんは首をかしげるけれど、まぁそう見られることはあるだろう。

 たまに、古い価値観を引きずった親に育てられた子供とかもいるのだ。

 だから『髪を染めるのは悪い』だなんて持論を持ち出して来て、自分勝手な正義を振り翳す人がいる。

 私は出会ったことないけど、ちょっと前に勇一さんがなんか言われてるのを見たっけ。


「廊下で会った上級生に『親から貰った髪を染めるとは何事だ』なんて言われまして。

その頃の私は剣道部に入ったばかりで、まだまだ力も何もないか弱い女の子でした」


 リアルでの春さんの力を見ると想像出来ないけれど、どうやら事実みたいだ。

 今の春さんなら小玉西瓜くらいなら拳一撃で割れるらしいけど、二年前はそうでもなかったみたいだ。


「なので、『指導してやる』だなんて、教師でもない人にお説教されそうになった時。

先輩が、その手を止めてくれて……『悪いモモノキ、待たせたな』なんて言って私の手を引いてくれたんです。

それで『あぁいう馬鹿の言葉とか無視しとけよ、お前は何も悪いことしてねえしな』って言って……きゃーっ」


「……モモノキ?」


 ランコも私も、勇一さんが過去に春さんを呼んだ時の名前を復唱してから首をかしげる。

 春さんの苗字は盾塚、だし……モモノキなんて名前じゃないハズなんだけどなぁ。


「えぇ、全然違う名前でした。先輩はその頃は私のことを覚えてもいませんでした」


「えーっ」


 同じ部活に入ってたのに……? ランコは『あり得ない』って顔をしているし、KnighTさんもアルトリアさんも頷いていて、勇一さんの残念な所が明らかになった。


「ですが、私はだからこそ感銘を受けたんです」


「何故に」


 私が突っ込むと、ハルさんはうっとりとした顔をする。


「だって、それって先輩が私のことを『有象無象』って思っていたんですよ。

先輩はそんな有象無象のことでも助けてくれて、前に踏み出す機会をくれたんです。

だからこそ、私は先輩に私の名前を覚えて貰うべく、仮想世界でも強調したんです! それに、アバターが茶髪なのも、先輩に私の地毛を見て貰いたくって、古い写真から再現したんです!」


 ハルさんはドンッ、と胸を叩いてから言い放つ。

 うーむ……やっぱりゲームの名前とは、皆色々と思ってつけてるんだなぁ。

 なんだか、この中じゃサンドラさんが凄く浮いているように見える。


「なによ」


「あぁいえ、随分美味しそうに食べるなぁって」


「甘いものが好きなのよ、リアルじゃ太るからこんなに食べられないもの」


 サンドラさんはこの話に最初からいなかったかのように、ずっとお菓子やお茶に手を伸ばしていたのだった。

 彼女もまた、とてもマイペースな人物なんだなぁ……と、思ったところで。


「さて、次に何か面白いお話は――」


 と、KnighTさんが言って、私たちの女子会は加速した。

 今度はサンドラさんにも興味ある話題かな、と期待して……女子会が終わるその時まで胸を躍らせていたのだった。

 あぁ、やっぱり仮想世界でも人と繋がれる……だからこそ、この馴れ合いを楽しむのが大切なんだなぁ。

朧之剣・ギルドホーム

まだ人数が7人ぽっちだったころの朧之剣がお金を貯めに貯めた上で、格安で購入したギルドホーム。

とても汚れている上に悪霊が住み着いている、という物件だったがKnighTたちで掃除をし、悪霊を成仏させると言うイベントによって元の屋敷に戻ったと言うエピソードがある。

因みにGianTが一回玄関のドアを破壊したことがある。

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