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第百三十三話:冬将軍

『キーーーングーーーン……』


『愚か者どもめが……!』


「やれやれ、あんなボスが急に出てくるとは。

念のためでフル武装してきて良かったよ、いやホント良かったよ」


「そうだな、やっぱり雪合戦の時ほどフル武装しとけば助かるな」


「全くだ、想定外の事情でも備えがあれば怖くないものだ」


「ですね。これなら安心できます」


「いや、お前ら何俺にくっついてんの?」


 バラバラの場所にいたはずのアーサー、カオス、イアソーン、KnighTはさり気無く俺の後ろに立っている。

 しかも、俺の真正面にはフィールドボス二体……攻撃を防げないことはないが、何故俺に。


「仕方ないだろうブレイブくん、ギャラハドはさっきタダカツくんと相討ちになってしまってね。彼ほどの者が油断して雪玉で死ぬとは思いもしなかったよ、ハハハ」


「あぁ、今日はタンクメンバー連れてきてないからさ、ごめんなブレイブ」


 アーサーとカオスはてへっ、なんて言うが……KnighTとイアソーンは無言だ。

 クソッ、今は守ってやるけど後で後ろから蹴っ飛ばしてやるぜ、この野郎ども。


「なるべく一か所に固まって防御行動を取れ! それが出来なきゃ回避だ! けど、バラバラになりすぎると、各個撃破されるぞ!」


「で、でもそんなこと言っ――ギャア!」


「マジかよ」


 辺りをウロチョロと逃げ惑うプレイヤーたちに向けて叫ぶが、なんとキングスノーマンがモブを産んだ。

 あの巨大な雪だるまから、ポコポコと子分みたいな奴が出て来た。

 大体ゴブリンと大差ないサイズ、青い帽子を被り青い靴を履いた白い肌の何か。

 名前は【ジャック・フロスト】……妖精みたいな奴か?


「モブの割に結構強いみたいだね、並のプレイヤーじゃ苦戦するみたいだ」


「数があんまりいないだけマシだけど、メガロスの時よりも厄介だな……!」


 武器を持たずに、ジャック・フロストたちは殴り掛かってくる。

 正直今の俺からすれば大したことはないが、スターやムーンたちは苦戦している。

 助けに入りたいが、この戦いで重要そうなカオスやアーサーを放るわけにもいかん。


「畜生、割とジリ貧だな、この野郎!」


『ぬぅぅぅァァァ!』


「チッ、流星盾!」


 ジャック・フロストを蹴り飛ばし、頭を斬りつけて撃破したところで、俺に振り下ろされる刀。

 冬将軍の透き通るように白い刀が俺の流星盾と拮抗するが、反撃の隙としては申し分ねえぜ!


「フェニックス・ドライブ!」


『集え』


「わお」


 なんと冬将軍は、その場にいたジャック・フロストを肉壁にした。

 ジャック・フロストは爆散して消滅するが、冬将軍はダメージゼロ。

 キングスノーマンの方は……別のパーティが攻撃しているが、ダメージは薄い。

 炎属性の攻撃の通りはいいみたいだが、炎属性に限ってジャック・フロストが肉壁になる。

 そのせいで上手く弱点を突きづらいみたいだ。


「となると、接近するしかないか」


 ゼロ距離でフェニックス・スラストをブチ込めば、何とかなるかもしれない。

 だが、守り役である俺がそんなことをするのは難しいだろう、なら。


「KnighT、ゼロ距離で最大火力ぶっ放せるか」


「あのジャック・フロストを潜り抜けることが出来れば」


「ならイアソーン、カオス、アーサー。お前たちで露払いを頼む」


「承った、雑魚狩りは俺の得意分野だ!」


「あぁ、任された!」


「僕を露払いに使うとは、君も中々成長したね!」


 俺の伝えた作戦通りに三人は動き出し、積極的にジャック・フロストを狙う。

 一方で俺は、KnighTをすぐ近くに置きながら冬将軍の攻撃を受け続ける。

 ガァン、ガァン、ガァン、と音を立てながら刀と盾がぶつかり合う。

 だが、大悪鬼シリーズへと進化した俺の盾は簡単に破られはしなかった。


『カカレイッ!』


「オーガ・スラッシュ!」


 が、流石フィールドボス……専用スキルで超高速の攻撃をぶっ放して来た。

 刀が白く輝き、氷のようなエフェクトと共に横薙ぎ一閃。

 俺でもギリギリでスキルによる相殺が間に合い、何とかKnighTも俺も無事だった。

 が、余波で他の関係ないプレイヤーが巻き込まれてしまった。


『首狩リノ太刀!』


「ッ……! フォース・シールド!」


 先輩が以前俺に向けて放ったことのある即死技を、シールドにぶつけさせて無力化する。

 あっぶねぇもん持ってるなコイツ……俺じゃなきゃ死んでたかもな。


『ヌルァァァ!』


「フォース・カウンター!」


『ぬぅぅっ!』


「今だ、KnighT!」


 冬将軍の縦切りにカウンターを合わせ、冬将軍をグラつかせた。

 俺は下がりながらKnighTに指示を出し、KnighTは俺と交代するように一歩踏み込む。


「受け取りなさい……! ヘルフレイム・バースト!」


『ヌァァァァァァァ――ッ!』


 本来なら中距離で放つであろうKnighTの必殺スキルが、ゼロ距離で放たれた。

 爆発するような火炎が連続して冬将軍へと襲い掛かり、冬将軍は全身を焼かれる。


「下がれKnighT、多分これじゃあ落とせねえぞ!」


「えぇ、わかっています。恐らく彼は周囲の雪で体力回復をするのでしょうから」


「……え、マジ?」


「えぇ、あちらで戦っているキングスノーマンがそうしています。

彼等が現れてから急に雪が降り始めたのは、そういうことでしょう」


 確かに雪は降っているが……これは演出じゃなくて、アイツらへのバフか。

 そう言えば、SBOはスキルの威力も天候とかに左右されるんだったっけな。

 日照りが強い時は種類にもよるが、炎属性のスキルの威力が上がったりするし。

 氷属性の攻撃も、こんな雪じゃ威力は上がるんだろうな。


『グルルァァァ!』


「ってヤベッ!」


 冬将軍はいつの間にか刀に氷を纏わせ、逆袈裟斬りを放ってきた。

 何とか反応して盾で受け止めることは出来たが、これは氷属性の攻撃。

 即ち、この天候で威力が増強されている!


「がっハ……!」


「ブレイブ!」


 俺は派手に打ち上げられ、背中から地面に落ちて、強く叩きつけられたような衝撃を味わう。

 痛みこそないが、尋常じゃないほどの不快感と現実感が全身を駆け巡る。


「大っ、丈夫だ……!」


『その首貰ったァ!』


「させるかよ!」


 冬将軍は地面に落ちて這いつくばる俺を無視し、KnighTへと斬りかかる。

 だが、俺はこれくらいの感覚には慣れっこだ、だからすぐに立ち上がって動けるんだ。


「助かりました……!」


「いや、こっちのミスだからな。むしろこっちがすまん」


 俺はKnighTへ向けて振り下ろされた刀を受け止めながら、俺は周囲を確認……ほとんどのプレイヤーはキングスノーマンとジャック・フロストとの戦いに忙しい……それ即ち、基本的に俺たちでこの冬将軍を倒さなければならないと来た。

 しかし、この冬将軍……HPバーが氷で覆われ始めたせいで、残量がわからなくなってきてしまった。

 回復速度も、回復量も、そもそもどれくらいのダメージを与えられているかすら。


「ジリ貧ですね」


「あぁ、アーサーたちが雑魚を止めてくれててもこれじゃあキリがねえな」


 冬将軍の攻撃を捌きつつKnighTへ応答するが、こっちも手一杯だ。

 そもそもプレイヤーたちの大半はキングスノーマンの方の対応で大忙しなのだ。

 冬将軍を俺とKnighTだけでこうして止められているのは、冬将軍がおまけみたいなものだからか。

 いや、十分おまけの域を脱してるレベルの強さだけどさ、コイツ。


「では、私に考えがあります……!」


「あぁ、なら聞くぜ」


 KnighTの考え、それは実に脳筋でありなんとなくKnighTらしさを感じる。

 が、他に冬将軍を仕留め切る方法がないというのならば仕方ないだろう。

 俺自身、それを否定して代替案を出すことも出来ないのだから、大人しくそれを実行するまでだ。


「では、作戦通りに!」


「おう!」


『死ねィ!』


「流星盾!」


 俺は冬将軍の攻撃を流星盾で止めてから、KnighTと共に左右へと散る。

 冬将軍の行動パターンはどういうものなのかはよくわからない。

 実際、ヘイトだけならダメージを与えているKnighTの方に行ってもおかしくない。

 だが冬将軍は俺から倒そうとしているところが良く見える。

 なら、普通の敵とは違うアルゴリズムをしている可能性がある、となれば。


「左右からの攻め……さぁどうする!」


「ここで仕留めますよ、ブレイブ!」


 念のため、言葉にも反応する可能性も考えて揺さぶるような台詞も吐いておく。

 で、冬将軍が取った行動は。


『アァァァ!』


「やっぱそう来るよな」


「ですね」


 左右ではなく背後、つまり後ろに跳んで俺たちを正面に捉えようとしていた。

 だが、奴は俺たちに夢中になっていたが故に周りの注意がなっていなかった。


「コレ、燃やしていい奴?」


「おう。全力で頼むわ」


 冬将軍が後ろを振り向いた時にはもう遅かった。

 だって、そこにはカオスが立っていたのだから。

 そう、作戦の内容は実にシンプルかつ脳筋だし作戦というには拙い。

 だが俺たちみたいなデタラメな奴には、これでいいのだ。

 俺とKnighTで挟み撃ちと見せかけて、カオスのいる方向へと誘導。

 後はカオスの判断に任せ、ブラフをかけても俺たちが攻撃を決めるだけなのだ。


「んじゃ、黒焦げにしてやるよ!」


『ガアアアアアアアアア!?』


 二本の杖から放たれるカオスの炎の魔法は冬将軍の全身を一気に燃やし始めた。

 巨大な炎の柱が立って、足の先から頭のてっぺんまで炎に包まれている。

 冬将軍はそこから逃れる術も持たず、ただダメージボイスを叫び続けるだけ。


「チッ、MP結構使ったのに原型残ってら」


「でもこれなら倒せるな」


「えぇ、鎧がなければ物理攻撃も通りやすくなるでしょう!」


 武者装束、と言っていいのか……分厚く着込んでいた冬将軍の鎧はもうない。

 あるのは雪のような和服、そして彼が握っている刀だけだった。

 ……顔は変わらず、作り物っぽい顔でなんともミスマッチな姿だ、ハゲてるし。


『おのれぇぇぇ……許さんぞ、人間共がァァァ……!』


「お前に許しを請う道理なんてねえよ」


「ブレイブ、確かにその通りですが悪い顔してますよあなた」


「ほっとけ」


 確かに悪い顔してるかもだが、ちょっとくらい悪い事させてくれ。

 こっちは悪党ってイメージで有名な鬼の装備を纏ってんだ。

 それっぽい行動とかしてみたいし、何よりもいい子ちゃんじゃつまらねえしな。


『ヌァァァ……!』


「居合か」


 冬将軍は刀を腰に納め、居合の構えを取り始めた。

 このまま攻撃してもいいが、恐らくこれは大技――となれば、受け止めてから攻撃を返した方がダメージの効率は良さそうだ。


『クラエッ!』


「【硬化】!」


 大悪鬼シリーズになったことで追加されたスキルを使って、放たれた斬撃を受ける。

 文字通り全身を硬くし、防御性能を格段に高めることで物理攻撃耐性を高めれば!

 盾、鎧と組み合わせてこれくらいの攻撃なら……!


「ぐっ、あああぁぁぁっ!」


 受け切れた、が……凄まじい衝撃が左腕から背中まで突き抜けて来た。

 居合でこの威力、刺突だったら間違いなく貫かれていた。


「ブレイブ! HPが……」


「攻撃しろ! 俺を気にするな!」


「……はいっ!」


 KnighTは俺を気に掛けて駆け寄ってくるが、俺は冬将軍へ剣の切っ先を向ける。

 彼女はそれだけで走り出し、銀色の剣を握りしめて構える。


「【炎天斬】!」


『ウグアアアアア!?』


 ヘルフレイム・バーストのような広範囲中距離技とは違う、新たな属性剣。

 その威力はバーニング・ソードのような初期の頃の属性技とは比にならないだろう。

 恐らく、俺にフェニックス・スラストと同等かそれ以上の威力。


「さっきよりも効いている……ここで畳みかけるぞ、KnighT!」


「えぇ、ここで出しきります!」


 俺はKnighTが攻撃していた時にポーションで補給を済ませた。

 ので、今度は攻撃のためにバフを使ってから走りだす。


「カースフレイム・フェニックス・スラスト!」


「【爆炎刺突撃】!」


『ガッ、ハ……!』


 俺たちの全力の炎属性攻撃を受けて尚、冬将軍は刀を握って構える。

 ……この構えは、さっきの超高速斬撃――!


『カカレイッ!』


「させるかよ!」


「待ちなさい、ブレ」


 KnighTが何か言いかけた時。

 冬将軍の攻撃は既に放たれ、超高速の斬撃が俺の盾と接触――せず、刀は盾と鎧をすり抜けて俺のアバターを斬った。


「ぐ……あ……!」


 ビリリリ、と襲い来る冷たいようでとても熱い痛み。

 VRゲームは全般的に痛みを軽減される処置がある。

 だが、強すぎる痛みは軽減できずにこうして襲い来る時がある。


「KnighT……! 行けェッ!」


「わかりました……それがあなたの覚悟ならば!」


 KnighTはそう言って剣を握り、全身を炎で包む。

 周囲の雪を溶かし、炎の衣を纏う姿は焼かれているようにも見える。

 俺のフェニックス・アーマーとそっくりな姿。

 だが、俺と似たように燃えている彼女はとても美しく見えた。

 俺とは似て非なる姿、まるで炎に包まれる聖女だ。


「さぁ、清められなさい! 【炎天・聖十字剣戟】!」


『があああああ! 崩れっ、崩れる……! 我が、存在が……溶けて……消え、る……!』


 KnighTの放った十字を描く炎の斬撃は、冬将軍を溶かした。

 HPバーは凍りついて見えないが、冬将軍はその姿をドロドロに溶かした。

 そして、周囲の雪と同化するように消えてその場にはドロップアイテムだけが残った。


「大丈夫ですか、ブレイブ」


「あぁ、一応耐え切った。HP1だけど」


 俺はポーションでHPを回復しつつ、KnighTへ応答。

 で、KnighTの足元に落ちていたアイテムを拾ってみる。


「【将軍の心臓】……ね」


 冬将軍を動かしていたエネルギー炉みたいなもののようだ。

 武器や防具の強化に使えそうだが、これを持つのは俺じゃあないだろう。


「ほらよ」


「あれ、いいのですか?」


「あぁ、お前が討ち取ったんだしな」


 俺は将軍の心臓をKnighTに手渡してから、彼女に背を向けて歩きだす。

 ……今だに雑魚を産み出し続け、驚異的な生命力を誇るキングスノーマンを倒すために。

 ジャック・フロストはカオスやアーサーが倒し続けているから数はそんなに変わらない。

 だけど時間をかけ過ぎれば彼等とて消耗するし、キングスノーマンと戦ってるプレイヤーも持たないだろう。

 集う勇者やアルゴーノート、朧之剣のメンバーなども防戦一方だし、ここらで俺たちの出番だ。


「KnighT、お前はもう休んでていいぜ」


「いいえ、キングスノーマンを倒すのならば私も戦います。

GianTたちが戦っているのに、私一人が休むわけにもいきません」


「そっか、じゃあ行こう」


 俺はKnighTと共に雪原の上を走り出し、キングスノーマンへと向かう。

 アーサー、カオス、イアソーン……しばらく持っててくれよ!

プレイヤーネーム:KnighT

レベル:80

種族:人間


ステータス

STR:148(+200) AGI:100(+90) DEX:0(+) VIT:25(+75) INT:0(+) MND:20(+70)


使用武器:炎熱剣・ヴランヴェルシュ・改

使用防具:真・ヘル・ヘルム、聖炎の鎧・改、獄炎衣、アダマングリーヴ、聖炎の籠手・改、フレアスカート、祝福のロザリオ

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