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第十三話:仕組みがわかりゃ全然怖くねえ

『ウ"ゥ"ゥ"ゥ"ァ"ァ"ァ"……!』


「クソッ、これ一対一じゃなかったら絶対殺されてただろ……俺」


ひたひたと歩いてくるゾンビを前に、俺はゆっくりと下がりながらゾンビを引き付ける。

……入口の方まで戻れば、多分先輩と会える確率がある。

だが下がりすぎてはターゲットが外れ、フリーの状態になってしまう。

せめてゾンビの一体くらいは倒しておきたい。

幸いにも狂人とスケルトンは未だに斬り合いをしていて、互いのHPバーを削り合っている。

周囲にモンスターが湧いている様子はないし、今ならゾンビと一対一で殺せなくはない。


「チッ……先輩たちは何してんだ?」


俺が今いる所だって廊下の半ばであって、そこまで奥ってわけでもない。

なんなら、精々が十メートル程度の所。

そろそろ先輩の姿くらいは確認できてもいいんだが、何故か後ろを向いても何も見えない。

……先輩が別のルートから探索を始めたとか言うオチだったら泣くぞ、俺。

いやまぁこんな風になったのも俺の一言が原因なんだけども!


「ふぅっ」


俺は呼吸を整え、SPの自然回復を待つ。

こんな奴相手にこれ以上SPポーションを使っていたら先が思いやられる。

……左上に表示されているパーティメンバーのHPバーへ変化はない。

それどころか、MPにもSPにも変化がない。

これは……恐らく二人とも無事で、まだモンスターと遭遇すらしていないと言うことか。

それとも、俺がやったようにモンスターの同士討ちをさせて瀕死になったところを通常攻撃で倒しているのか。

メニュー画面からマップを出せば、どこにいるかはわかるんだろうが……生憎目の前にゾンビが迫っているせいで、今ここで立ち止まっているのすら危険な状態だ。

ゾンビを倒したらすぐさまメニューを開いて確認したい。


「……せあっ!」


俺はゾンビの足元を剣で斬りつけて、ゾンビをグラつかせる。

よし、いくらHPが削れなくとも足を斬りつければグラついてはくれる。


「毒撃!」


小鬼王の剣の固有スキル、毒撃をゾンビへとヒットさせる!

よし、いくら防御力が高かろうと、毒の状態異常なら持続ダメージでHPの削れ具合もわかる。

が、それはラグか事実なのか。

出来れば前者であって欲しいんだが……ゾンビのHPバーの所に毒のアイコンが出ない。

そして毒状態特有の紫色の泡のようなものが体から出てきていない。


「……嘘だよな、オイ」


出来れば嘘だと信じたい。

でも、目の前のゾンビは毒属性が効かないのが至極当然、と言う顔でこちらに向かってきている。

やべえ、本格的にどうしよう。このゾンビ強すぎるだろ。


「ああもう、なんか嫌になって来た……なっ!」


俺はゾンビの足に蹴りを入れ、またグラつかせる。

クリティカル狙いを理由に盾で側頭部を殴り、そのまま回転しながら右足の踵で、顎を蹴り飛ばす!

だがゾンビが完全に倒れる前に俺はに俺はエクストーションを顔面へと叩き込む。

ゾンビが完全に転倒したところで、俺はジャンプしながらゾンビの首元へと剣を突き刺す。


「これでどうだ!?」


いくらなんでも、このクリティカルだらけの攻撃を当てまくればHPバーはそれなりに削れてもおかしくはないはずだ。


『ウゥゥ……ゥゥゥ……』


ゾンビは苦しくうめいたと思うと、HPバーが残り数ドットだった。

……どうして急にこんなダメージを与えられたんだろうか。

まぁいい、あとはトドメを刺すだけ。


「ノックアウトだ」


俺はゾンビに刺さっている剣を、顔面を滑らせるかのように抜いた。

……こんだけ刺したのに血が一滴もついていないのは、全年齢対象のVRMMO故か。

で、ゾンビはポリゴンとなって砕け散り、ガラスが割れるような音を響かせながら消えた。


「……ゾンビものだと、頭を潰したりするのが常道だけど、VRだとやっぱ死体が残らねえんだな」


俺の知っている某ゾンビゲームだと、頭を潰すとゾンビは確実に死ぬ。

勿論体に銃を撃ち込んだりナイフで斬りつけたりすることで倒せたりもするのだが――

頭を残していると、起き上がって襲い掛かってきたりすることがある。

だから火炎瓶で燃やしたり強力な銃で頭を撃ち抜いてたりするんだが、VRなら死ねば死体は消える。

そしてこのゾンビは、別段復活するとかそんなことはないみたいだ。


「まぁ、頭を真っ二つにして殺せば死んだ扱いに……な――」


俺はブツブツと独り言を言いながら、気づいた。

何故ゾンビがやたらとタフながらも、急激に倒せた理由を。

そうか、コイツは頭が弱点で頭に攻撃を受けると大きくHPバーが減るんだ。

だから……最初のカウンターは大ダメージを与えられたわけか。

つまりコイツはクリティカルさえ出しまくれば、割と簡単に倒せるってことか。


「なぁんだ、仕組みがわかりゃ全然怖くねえな!」


俺は安心してそう呟いて、ゾンビのドロップアイテムを確認する。

……ボロボロの服、腐った肉……ゴミアイテムばっかじゃねーか。

入るGも0だし、CPだって1たりとも手に入らないけど。


「あ、経験値は美味いな」


俺が今まで戦っていたモンスターよりも、経験値が凄い美味い。

あと一体倒したらもうレベルアップ出来てしまう。

……レッサー・アースドラゴンの時の撃破経験値も加味して、だけれども。


「さて、あとはそこの二体を仕留めるだけか」


『ギャァッ!』


『カタッ!』


奇妙な声を上げながら斧を振るう狂人と、それを剣で受け止めながらカチャカチャと骨を鳴らすスケルトン。

両方のHPバーはもう三割程度……自己再生能力のようなものは薄いとみていいか。


「んじゃ、頂くか」


俺はダンッ、と床へ踏み込んでからスキルを詠唱する。

そして、狂人とスケルトンの頭目掛けて――


「セカンド・スラッシュッ!」


「グガァッ!」


「ゲタァッ!」


狂人とスケルトンの口から上を横薙ぎにして真っ二つにした。

クリティカルが出て、HPバーを全損した二体のモンスターは消滅。

それと共に俺に経験値が入ったが、狂人の経験値量はスケルトンやゾンビよりも多い。

あ、ついでにレベルも上がった。

で……まぁ、ドロップの方は相も変わらずショボい金にショボい装備だ。

鋼の剣も今となっちゃ大したことないし、耐久値が限界寸前じゃねえかこれ。

狂人の持っていた鉄の斧……うん、これも売却モノだ、なんなら捨ててもいい。

やっぱりドロップ品はしょっぱいな。


「で……先輩とハルはどこにいるのやら」


俺は先輩とハルを探して見るが、全然見当たらない。

玄関前でスタンバイしてると思ったんだが、何でか玄関前にすらいない。

……どっかに移動したんだろうか。


「戦闘中だったら気付かねえだろうけど、チャットでも送るか」


俺はメニュー画面からチャットを呼び出し、パーティの欄に切り替えて。


『今どこですか』


と書いて……送信。

で、だ。


「チャットが届くまでの間に、お前らまとめてぶった斬ってやるか!」


狂人、ゾンビ、ゾンビ、スケルトン。

四体のモンスターが俺の近くにポップして、ゾンビは俺に近寄って来た。

種がわかれば、ゾンビなんぞただの木偶の棒だ。


『ウ"ゥ"ゥ"ゥ"……』


『ア"ァ"ァ"ァ"』


「ふっ!」


俺はダンッ!と床を踏み鳴らすように踏み込み、ゾンビ二体の前に立つ。


「セカンド・スラッシュッ!」


ゾンビの頭へスキルを放つ。

……凄いことに一撃で二体のHPバーは六割ほど減った。


「お・ま・けぇぇっ!」


セカンド・スラッシュを振り終えた状態から俺は逆袈裟斬りにするように剣を振り、ゾンビの頭を更に斬る。

そこから盾殴りと刺突で二体のゾンビの顔面を吹き飛ばす、そうしてゾンビたちが倒れて消えた所でスケルトンと狂人が俺に斬りかかってくる。

スケルトンの攻撃を剣で受け止め、狂人の斧の振り下ろしを盾で受け止める。

……結構重い攻撃するじゃねえかよ、狂人。


「こういう場合は……っと!」


鍔迫り合いに近い状態になっているならば、一度下がるべし。

俺は力を抜いて後ろへジャンプして下がり、スケルトンと狂人の体制を崩す。

よし、スケルトンにはエクストーションで……!


「エクス――」


「セカンド・ジャベリン!」


「は!?」


スケルトンの頭にどこからか投擲された槍が刺さった!


「【アックス・スロー】!」


「ちょ……」


そして槍が飛んできた方向と同じ所から斧が飛んできて、狂人の頭に直撃!

……スケルトンは倒れなかったが、狂人はポリゴン片となって消えてしまった。

俺はすぐさまスケルトンの頭にスキルで剣を二回ほど叩きつけ、スケルトンのHPを全損させる。

なんかかてえなコイツ。クリティカルを合計三回も食らわせたのに倒せなかったぞ?

しかしゾンビを倒した分で俺のレベルは上がったが……狂人一体分の経験値を横取りされた。

ファーストアタックで倒した以上、斧を投げた奴は素知らぬ顔でもするんだろうが……今の行為は明らかに横取りで、完全な妨害行為に等しいだろう。


「……おい!そこにいんのか!?」


「は、はい!」


女の声がして、俺はそいつを睨みつける。

どうやら槍を投擲した奴だ。

背中にデカい槍を背負っていて、青い髪……そして槍に反するような低身長。


「す、すみません……」


ランコだった。


「……なんで、今槍を投げたんだ?」


「苦戦しているように見えたので。

ここのフロアの雑魚敵は、レベル20台なら数人で倒していくのがセオリーなんです」


「そうか、俺はさっきゾンビも狂人もスケルトンもソロで倒した。

さっきだって、あの状態からスケルトンと狂人を倒せなくはなかったぜ?」


「それは、まぁ……玄関付近のゾンビやスケルトンは私たちでも倒せなくはないです。

でも、一つ一つの部屋にポップするゾンビたちはレベルがとても高いんです。

だから、てっきりそっちのスケルトンたちに襲われてるのかと……」


部屋から湧いて出てくるスケルトンだ?

そんなもんがなんでわざわざ廊下に出てくるんだ。

と、思いつつも俺はランコの後ろから来る影を睨む。

ランコはまだスケルトンを倒すのにアシストしたと見ていい。

だが、今の斧を投げた奴は妨害行為な以上、見逃すわけにはいかない。


「……クリティカルが出て一撃で倒せるとは思いませんでした。

ただ、貴方を助けようと提案して攻撃に参加したのは僕の判断です。

どうか、ランコさんを責めないでください」


手斧を持ち黒いフルプレートアーマーに身を包んだ、俺よりも頭一つ分ほど小さいやつが平身低頭の姿勢で来た。

……まぁ、本来なら腹にでも当ててグラつかせるつもりだったんだろう。

ただ、俺が狂人の体制を崩させていたから、頭に当たってクリティカルが出て……ってことか。


「あぁ、わかったよ、わざとやった奴ならもっと開き直るか腹立つ態度取るしな。信じるよ」


黒いアーマーの男は俺の言葉を聞いて、また頭を下げ始めた。

……しかし、ランコの仲間にこんな奴がいたのか。

狂人にクリティカルを出したとは言えど、一撃で殺すあたりかなりの攻撃力を持ってそうだな。

なんでリザードマン・ロード戦にコイツを連れてかなかったんだ?


「……で、名を聞いてなかったな。誰だお前」


「あ、はい。自己紹介してませんでしたね。

僕の名前は【アイン】です。レベルは30で、ランコさんとはつい先日知り合いました」


「そうか。そいつはすげえな……あ、ところでランコ、ユージンとヤマダはいねえのか?」


「お二人とも、リアルで用事があると言っていたので」


挨拶をしてきた黒いアーマーの男、アインのレベルを聞いて驚いた。

30か……見た所、重戦士って感じだし、攻撃力が結構高いんだろうな。

んで、ランコの言う所じゃユージンもヤマダもいねえのか。


「じゃあ、パーティはそこのアインとお前だけなのか?」


「まぁ、二人でも雑魚相手なら囲まれさえしなければ倒せますし……アインくんは強いんですよ」


「そうか、じゃあ俺も仲間に入れてくれ。

同じところにいて敵の取り合いになると、互いにPKするようなことになりそうだしな」


俺はメニュー画面からパーティ勧誘の項目を開いて、アインとランコに送る。

二人は頷いてそれを承認し、パーティの欄に二人の名前とHPバー等が表記された。

……ランコのレベルもいくつか上がってるようで、23になっていた。

あ、そういや俺もレベル上がってたから、ステータスポイント振っとかないとな。


「で、先輩たちはどこにい――」


「ここだ」


「でああああああああっ!」


すっかりといなくなった先輩がどこに行ったのかと気になって振り向くと、真後ろに立っていた。

俺は驚いて飛び上がって大きな声まで出した。

ハルはなんか背中を見せた奴の背中を引っぺがす人形みてえな奴っぽい形で先輩にしがみついていた。


「……いっ、いつからそこに?」


「最初からだ。スキルで周囲の姿に溶け込んでいて、お前の戦いぶりを見ていた。

随分と成長したことが分かったぞ、ブレイブ」


「あ、え、そ、そうなんすか。そりゃどうも……って、ハル、お前は何やってんだ?」


「いや……おんぶ?」


「なんで疑問形?」


「その……私はこういう隠れる系のスキル持ってなかったので」


あぁ、先輩につかまっていれば効果を発揮できるとかそういうタイプなのか。

……だからと言ってそんな背後霊みてえなしがみつき方する意味あんのか。

わざわざ装備フル解除までするか?


「なんと言うか、個性的な方ですね」


「いや、さっき孤立してたのは俺の自業自得だ。

だから憐れんだ目でこっちを見てんじゃねえ、アイン!」


「あ、貴女が噂のランコさんでしたか!」


ハルが先輩の背中から降りて、ランコの事をじろじろと見まわしている。

ランコが首を傾げていると、ハルは手をポンと叩いた。


「よし、大丈夫ですね。貴方は特に問題なさそうです!」


「何の問題だよ」


「乙女の秘密ですよ、先輩」


「まぁ、人数が増えるのは悪いことではない。

この屋敷は経験値の入りが上手い以上、強くなれるプレイヤーは多い方がいいからな。

それに……正直な話を言うと私はランコと言う者にも興味があったからな、フフフ」


ハルが意味不明な発言を残す中、先輩はランコに興味津々のようだった。

何でランコに興味があるのかはわからないが、このパーティならボスが来ても負ける気はしない。

アインの戦闘スタイルとか、ステータス構成は知らないがランコがパーティを組んだってことは、恐らく俺かそれ以上の強さを持ってると見ていい。

……現に、レベル6個も離れてるしな。


「んじゃ、ランコの言う強いゾンビとやらと……戦ってみますか!」


「あぁ、経験値を沢山稼ごう、ブレイブのためにもな!」


「えぇ、次のイベントでは目指せ、千人斬りです!」


「僕も次はイベントに参加して、頑張ります!」


「私はこのゲームを、全身全霊で楽しみます!」


俺たちは輪になって手を出し合い、重ねる。


「じゃあ、行くぞ!」


「はい!」


先輩の一声に、俺たち四人は声を揃えた。

……なんだか不思議な感覚だ。

最初は先輩に誘われたから、と言う感覚でまた始めたVRMMOが……今は楽しく感じる。

これが、大事な友達たちのいるVRMMOの楽しさか。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:24

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:56(+44) AGI:60(+34) DEX:0(+15) VIT:26(+54) INT:0 MND:30(+34)


使用武器:小鬼王の剣、小鬼王の小盾

使用防具:龍のハチガネ、小鬼王の鎖帷子、小鬼王の鎧、小鬼王のグリーヴ、、革の手袋、魔力ズボン(黒)、回避の指輪+2


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