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第百二十二話:ランスロットの企み

「あ~、んっ……んむんむ……美味いっ!」


「んー、やっぱりVRはどれだけ食べても太らないのがいいですよねー。

それに加えて、手軽に美味しい味を楽しめるなんて最高ですよ!」


「よく食べますねー、二人とも……」


 屋台で購入したハンバーガー……に、似た料理を頬張りながら満面の笑みを浮かべる二人のプレイヤー。

 シェリアさんとハルさんの食べっぷりに私、ユリカは感心に似た何かを覚える。

 ハルさん、リアルでも凄い食べるけど……食べた物はどこへ行ってるんだろう?


「ねえハル、今度はあっちのお店に美味しい串焼きがあるんだけど」


「ホントですか? お金はまだまだありますし、食べちゃいましょうか!」


「ユリカは食べる?」


「えっ? あー、私はいいです」


「そう、じゃあ四本ね……」


 二人で二本ずつ食べるんだな、とか思いながら私は串焼きの屋台に走る二人を見る。

 にしても……第四都市って随分と商店が多いんだなぁ。

 毎日がお祭り騒ぎの如く、あちこちで屋台に人が屯しているし。

 なんだったら、屋台じゃない場所にも大所帯の人が集まってるし……。


「ん……? んん……?」


 ぞろぞろと動く人たちの中で、私は見慣れた人を発見した。

 あれはランスロットさんと……その部下たちの騎士たち――

 と、N・ウィークさんだった。

 どちらも私にとっての副団長同士が、立ち止まり互いに見つめ合っている。

 ので、私はシェリアさんとハルさんに心の中で軽く謝罪して話し合う二人に近づく。


「フ、このような時でも騎士総出とは暇のようだな、ランスロット」


「休日故、皆暇を持て余しているのだ。それより、貴殿は一人かな。N・ウィーク」


「あぁ、生憎私の可愛い後輩とその妹はリアルで用事があるのでな」


「それは好都合」


 ランスロットさんはそう一言だけ言うと、周りの騎士たちに目配せ。

 すると、彼等はN・ウィークさんを取り囲んだ。

 その動きは罪人を連行する騎士団……って、MMOじゃマナー違反どころじゃない問題! 立派な行動妨害だし、VRMMOならハラスメント行為に相当するもの。

 まぁ、彼女なら街中でもスキルを放てば抜けられる包囲なんだろうけど。

 それでも今ランスロットさんがやっていることは……!


「……なんのつもりだ?」


「なに、私も騎士だ。手荒な真似はするつもりはない。

ただ一緒に来てくれるだけ、それだけで構わない」


「フ……私が街中で騒ぎを起こさないほど、利口な女に見えたか?」


「見えるとも。ここは人が多い……刀を抜けば他者を巻き込むだろう?」


 ランスロットさんの言葉に、N・ウィークさんはムッとしながらも黙ってしまう。

 街中ではHPバーは減らない……それでも、アイテムの耐久値は減る。

 だから、今ここで広範囲スキルなどを放てば装備品や衣服に傷がつく。

 下手をすると修理不能なまでに壊れたり、折角買ったものが台無しになったりすることもある。

 もしそうなってしまえば、集う勇者の看板的存在である彼女は迷惑プレイヤーと認定されてしまう。

 N・ウィークさんもそんなことは当然わかっているからか、諦めたようにため息を吐いた。


「……ならば好きにしろ」


「物分かりが良いようで何よりだ」


 私はN・ウィークさんを連行するランスロットさんたちを尾行することにした。

 方法は至ってシンプル。気配を消す熟練度スキル、【ハイディング】を使うだけ。

 幸いにも私のコートは地味で黒いものなので、物陰や日陰に潜めば基本バレない。


「……どこ、行くんだろ」


 ここは第四都市だし、王の騎士団のギルドホームはない。

 だのに、ランスロットさんは全く違う方向へ歩き出している。

 ……まさか、とは思うけど。


「行く先はギルドホームのではないのだな」


「ギルドホームに行けば、アーサーがいるのでな」


 ハイディング同様に熟練度スキルの【聞き耳】も持っているので会話は聞こえる。

 やっぱり、ギルドホームじゃない場所に向かっているみたい……となると彼らはN・ウィークさんをどこへと連れて行くのか。

 フィールドにでも呼び出してPK……はないだろうし、ハラスメントになることはしないだろう。

 セクシャルハラスメントなどはアカウントBAN確定だし、彼がそんなことをする人には見えない。


「アーサーに知られては、マズいこととでも言うのか?」


「そうだな……彼なら私を止めるだろう」


 アーサーさんに知られちゃいけないこと……ホントに何をしに来たのかわからないな。

 と、私が彼らの目的について全くわからないまま尾行を続けていると。

 ランスロットさんたちは人気の少ない都市の端っこで止まった。

 そこにはボロっちくて小さい、如何にも安そうなプレイヤーホームがあった。


「ここだ」


「フ……金持ちのお前たちにしては随分とケチくさい場所を選んだのだな」


「勘違いしないで貰おう、あくまで人に知られぬためだ」


 と、ランスロットさんはN・ウィークさんと共にその小屋の中に入る。

 ……建物の中に入られると、私の聞き耳じゃまだ盗聴出来ないんだよね。

 かと言って、これ以上近づくと陰がないから周りの騎士に気付かれる。 

 騎士たちは小屋の中に入らず、周囲を警備しているし……街中じゃなきゃ全員斬れるのに。


「……はぁ、仕方ないか」


 私はこのまま潜んでいても仕方ない、と判断したので。

 超加速と超加力を使って――――


「ハァッ!」


「!? な――ごあっ!」


 ドア前を守っていた騎士に向けての全力タックル。

 現実なら私の肩の方がイカれてただろうけど……VRなので無問題。

 騎士は私のタックルで壁に体をぶつけ、よろめいたのですぐにどかす。

 そしてそのままドアを蹴飛ばし、小屋の中に転がり込み、すぐに背中の剣を抜いてランスロットさんに向ける!


「……ユリカか」


「何故君がここにいる?」


 N・ウィークさんとランスロットさん、どちらも怪訝な目で私を見つめる。

 そりゃあそうだよね、だって人が寄り付く理由もない都市の端っこ。

 狙いすましたかのようなタイミングで、私が突っ込んできたんだから。


「……集う勇者と王の騎士団でこういうやり取りがあったら、誰だって気になりますよ」


「ほう、そうか……丁度良い。ユリカ」


「なんですか」


「N・ウィークのように、君もまた引き抜きたいと思っていたのだよ」


 ……彼の言いたい事はなんとなくだけどわかった。


「引き抜き……要は、私に王の騎士団に戻れってことですよね」


「そうとも。君を拾った男が誰か、忘れたとは言わせんぞ」


 ランスロットさんは強い視線で私を睨んでくる。

 けれど、私は王の騎士団を一時の感情でやめたわけじゃない。

 あの場所から降りて、一度フラットな視点になるため。

 頂点にいる人の近くで胡坐をかいていちゃダメだと思ったから。

 だから、私は王の騎士団から集う勇者に入ったんだ。


「残念ですけどランスロットさん。私は嫌です」


「ほう、拒む理由があるとでも?」


「誰よりも、大切な友達がいるから」


「あぁ、ブレイブ・ワンの妹のことか。彼女も引き抜くつもりであるとも」


 この人……ただ単純にN・ウィークさんや私が欲しいだけじゃなさそうだ。

 第一、王の騎士団から私が抜けた所で大して戦力に変化があったわけじゃない。

 日米親善試合でのあの戦いぶりが、それを証明している。


「フ、なるほどなランスロット……貴様はそこまでして集う勇者を落としたいか」


「私の考えに気付いたとでも言うのか? N・ウィーク」


「あぁ、お前は私とユリカとランコを引き抜いて、集う勇者の戦力を削ぎたいのだろう。

王の騎士団が築き上げて来た地位……それを脅かすブレイブの存在は、お前にとっては気に入らない。

ならば打ち倒すよりもその力を奪うべしと、私たちの引き抜きに走ったというところだろう?」


「……そこまで言われてはご名答と言わざるを得んな」


 なるほど……けれど、アーサーさんは嫌いそうだな。このやり方。

 あの人は真っ向からブレイブさんを叩き潰したことに喜びを覚えてたみたいだし。

 N・ウィークさんが入ってくることには歓喜しそうだけど、ランスロットさんを褒めはしないだろう。


「それで? お前の言葉程度ではテコでも動かん頑固な私たちを、どうやって引き抜くつもりだ? ランスロット」


「では……決闘で決めるというのはどうだ? 剣で語るのは君たちも得意であろう」


「……私たちに受けるメリットがないと思うんですけど」


「勿論、こちらもそれ相応の条件をつける」


 ランスロットさんの目はいつになく本気……意地でも勝ちたいらしい。

 そこまでして、集う勇者が目障りだと言いたいのか。

 それに、私たちは受けなくたってデメリットがあるわけじゃない。

 元々あって当然のことを奪おうとしているのは、彼の方なのだから。


「ほう……まぁ良い、私を納得させる条件があるのなら言ってみろ」


「決闘を受けて貰う権利、それを言い値で買おう。

そして、私が決闘に負ければ何でも好きなものを三つ差し出す。

だが私が勝てば、ユリカ、N・ウィーク、ランコの三名が王の騎士団へ加入して貰う」


「……言い値ってことは、上限値ナシですよね」


「あぁ」


「じゃあ……これで」


 私が王の騎士団に所属していた頃の話だけれど。

 ギルドで使うお金を貯蓄している部屋があって、そこには皆が貯めたお金があった。

 集う勇者は基本ギルドとしての資金じゃなくて、個人でお金をやりくりする方式。

 一方で王の騎士団は大規模なギルド故に、ギルドメンバーの稼いだお金の内の何割かを一か所に集める……という方式で、多額の資金を一か所に集めているのだ。

 その額が今はどれくらいなのかは知らないけれど、私が所属していた頃の額は覚えている。


「11437564G、これなら決闘を受けます」


「言い値で買うとは言ったが……まぁ、構わん」


 ランスロットさんはそう言って、一枚の羊皮紙を取り出して差し出して来た。

 私の提示した金額が書かれていて、ランスロットさんの署名もされている。


「小切手ですか」


「それだけの金を持ち出すには今すぐと言うのは難しいのでな……それに、私が勝てば結局それは王の騎士団の共有財産となるのでな」


「フ、だがまぁいい……これでこちらも決闘を受けるのが確定した」


 N・ウィークさんは自信満々みたいだ。

 でも、ランスロットさんは第三回イベントで彼女に敗北している。

 それなのに、彼は負ければとんでもない損害を出す真似をしているのだ。

 この条件は私たちが勝った場合、ギルドメンバーの指定も可能と見ていいだろう。

 となると、ディララさんやアルトリアさんなどを指名すれば戦力は大きく削がれる。

 だのに、ランスロットさんはわざわざ勝負を挑んできたということは――


「……すみません、N・ウィークさん」


「どうした、ユリカ」


「この決闘、私が受けてもいいですか」


「ほう……何か、考えでもあるのか?」


「えぇ、しっかりとした考えが」


 ランスロットさんには、N・ウィークさんを確実に殺す術があるってことだ。

 そうでなければ、こんなリスクまみれな勝負を挑むはずがない。

 だったら、N・ウィークさんを戦わせてはいけないし、ランコを戦わせるのも嫌だ、なら戦うのは私じゃなきゃ。


「フン、誰が相手でも変わらぬこと……」


「へぇ、誰でも必ず殺せる新しいスキルでも手に入れたんですか」


「それはどうかな」


 反応から見ても、なんか企んでるっぽい。

 そういう笑みが見えるし、何かしらのスキルや武器があるのは間違いなさそうだ。

 ……決闘の詳細についても、キッチリを話し合わないと。

 何かしらの思惑が働いているのだとしたら、何から何まで警戒する。

 そうしなければ、洒落にならない事態になってしまう――


 と、私は強く心に命じてから新たな話し合いに臨むのだった。

プレイヤーネーム:ユリカ

レベル:70

種族:人間


ステータス

STR:100(+250) AGI:123(+100) DEX:0(+10) VIT:30(+50) INT:0(+) MND:25(+75)


使用武器:金剛狼樹剣、ソウルブレイカー

使用防具:デビルコート・改(黒)、デビルチェーンメイル・改(黒)、耐魔ブーツ・改、休魂手袋、疾風のスカート・改(黒)休刃の鞘×2


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