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第十二話:レベリング

「……で、どうだ?新しいスキルの効果は」


「えぇ、割と望んでた効果なんでバッチリですよ」


スモール・アースドラゴンの討伐を終えて、クエストを報告。

その手順を踏み、報酬として手に入ったスキルブックを先輩から貰って、アイテム欄からそれを選んで使用して、俺は新たなスキルを手に入れた。

そのスキルは先輩の言ってた通り俺にとって必須スキルだし、戦況に応じての使い分けを求められるものだけれど、かなり良いスキルだ。


「スイッチスキル【諸刃ノ剣】。

防御力をゼロにする代わりに、その分の数値を全て攻撃力へ合算。

更には魔法防御を、攻撃力同様に素早さへと合算させるスキル。

スイッチスキル故に戦況に応じていつでも発動と解除を一瞬で可能とする……フフフ、使い勝手の良さならば現状ではトップレベルのものだな」


先輩が効果を熱弁してくれたが……それはスキル説明を見ればわかる。

が、口に出すと怒られそうだからここは黙っておこう。

因みに、防具でのVITやMNDのアップも、このスキルの影響を受けられる。

要はこれを使うと防御力も魔法防御も完全に0になるわけだが、攻撃力や素早さは爆発的に上昇する。

盾持ちの俺としては大切な部分がいくつかダメになるので、常に使っていられるわけじゃないけれど、本当に瞬間火力は凄いことになるはずだ。


「先輩には臨機応変な使い方が求められそうですね、先輩のビルドって私よりもちょっと攻撃と防御の中間寄りですし」


「それはわかってはいるんだが……いざ考えたとしても、机上の空論になっちまうだろうな。

口で言うのは簡単だけどよ、瞬時に発動と解除をするのってスキルのイメージを練るのを限界まで速くしてようやく出来ることだろ?

それに、いざ実戦になると、ついつい敵の攻撃を受けてばっかだからなぁ」


癖で盾を出したりすれば、防御力0なんだし大ダメージは免れないし、最悪死ぬ。

そう思うと、このスキルを使うのは限られた時だけだろう。


「なんにせよ、スキルはどれだけ持っていても悪いことなどない。

故に、次のイベントにスキルでもなんでも増やして強くなれ、ブレイブ」


「え?次のイベント?」


「あれ、先輩知らないんですか?

今度のアップデート告知があるんですけど、新しく行ける土地の解放、及びそれの記念で二週間ほど後に、イベントがあるんですよ」


イベント……記念……もしや、それは。


「それって、先輩が参加して……三位だったアレですか?ほら、ちょっと前に話してくれたやつ」


「あぁ、参加の受付は今からでもやっているから参加しておいた方がいいぞ。

因みに上位十位以内に入賞すれば豪華賞品がもらえるからな。

私のこの羽織も、前回イベントで三位だった時に入手したからな、フフフ……」


わーお……先輩がどんな時でも変えたことのないこの羽織。

イベントで手に入るレア装備だとするのなら、参加してみたい。

ここ二週間、ゲームに当てる時間を少しばかり増やせば何とかなるだろうか。

いや、それでも先輩たちの高みに届くには足りないかもしれない、俺一人じゃどうにもならないかもしれない。

なら。


「……先輩、恥を承知で頼んでいいですか?」


「うむ、なんだ?お前きっての頼みならなるべく受けてやろう」


俺は決意した。先輩たちと同じところに行きつくために、汚いって言われても今ばかりはズルをしようと。

一緒に遊びたいし、楽しみたい、そのための効率化をするべくして、ちょっとしたズルをする。

そう考えて、俺はその場に正座してから――


「全力でパワーレベリングしてください!お願いします!」


「出来るか!この愚か者が!」


「あふんっ!」


目をカッと見開いてから先輩に頼み込んだが、即座に顔面を蹴り飛ばされた。

俺にとってはご褒美の一種だけど、あんまり笑みは浮かべてられない、だって先輩怒ってっし。


「ブレイブ……いくら私がお前のために出来る限りのことをしようとは思ってもな……パワーレベリングだけはダメだ。

それは、ゲームを楽しむだの強くなるだのの先にある物ではない。

確かに効率的ではあるが、私としては最底辺の行為そのものだ。

次頼んで来たら、その首をたたっ斬るぞ」


「……すみませんでした」


「わかれば良い……まぁ、似たようなことなら出来なくはないが、そっちならやってやれるぞ」


「詳しく」


「ならばついて来い、死ぬ覚悟があるのならな」


先輩はアイテムストレージから何か取り出すと、俺に投げて来た。

俺はそれをキャッチすると、アイテムの詳細が表示された。


【龍のハチガネ】


頭装備か。そういや、ゴブリンキングシリーズには頭装備がなかったな。

ハルから貰ったり、宝箱で手に入れた鋼の装備一式も兜を忘れてたし。

先輩がチラチラとこっちを見てる辺り、とっととつけろって感じだな。

……まぁ、折角だしつけておこう。


「で、さっきの……パワーレベリングに似たようなこと、ってなんすか?」


「簡単なことだ。少しレベルの高い狩場でお前を戦わせる、それだけだ」


……ヤな予感しかしない、と俺の頭の中の中ではそう思っていたが――

イベントまでにたった二週間しかない以上、強くなる他はない。

だったら、是が非でもここはレベル上げをすべきだ。

何せ俺のエクストラシリーズは、レベルと数値が比例して上がっていく。

なら、ここでレベルをどどーんと35くらいまで上げられれば、かなり強くなる……と信じたい。


「よし、ついたぞ」


「あの先輩、ここ……どう見ても死ぬ未来しか見えないんすけど」


先輩の案内について来て辿り着いたレベリングスポット……それは明らかに不気味な雰囲気を漂わせている屋敷のような大きな建物。

ダンジョンだろう、十中八九。


「大丈夫ですよ先輩。こないだ私もここで戦いましたけど、軽く10回くらいしか死んでませんし」


「レベル40代ってどんな壁があんの!?」


待て待て待て待て待て待て。

先輩のレベルは42、ハルのレベルは丁度30。

俺のレベルは23だ。


「……先輩、帰っていいですか?」


「ダメだ」


「妹に呼び出さ」


「嘘ですよね、ソレ」


……うん、殺される、このゲームで確実に俺が殺される。

レベルは上がるだろうけど、多分滅茶苦茶死ぬ。

けど、レベルは上がる。


「くっ……ぅぅぅ……仕方ない、背に腹は変えられん!」


「よし、行くぞ。なぁに怖がるな、死ぬのは誰だって経験することだ」


「ええ、ここ経験値だけは美味しいですから!」


「畜生めええええっ!」


出来れば初デスはもっと強大な敵との戦闘でしたかったが……雑魚戦でこのゲームの死を体感しておくのも悪くはないか。

そう信じて、飛び込むしかないだろう。

先輩が鉄の門を蹴り飛ばすと、俺たちは中へと突入。

すると勝手に門が閉まったので、俺は心臓がドキンと跳ね上がった。


「この屋敷は、思わぬところからの奇襲がある時もある故、覚悟して進め」


「あ、はい」


俺は剣と盾を構えながら、慎重に歩く。

先輩は居合が基本スタイルなのか、左手こそ刀の鞘に添えているが右手はフリー。

ハルは大盾を前にしながら何故か殿をやっている。なんでだよ、前行ってくれよ。


「ところで先輩、ここってダンジョンっすよね。俺、あんまり準備とかしてこなかったんですけど」


ポーションは買い溜めしておいたとは言えど、ダンジョン攻略で十分な量とは言えない。

ましてや頻繁に死ぬほどの攻撃力を持ってる相手なら、常に体力を全快させなければならないだろう。


「いいや、ここはダンジョンではない、ダンジョン風な建物だ。

現に、侵入する際のパネルが現れないだろう?」


「あ、ホントだ」


「ここの屋敷は広いが、マップは既に出回っている。

もしはぐれた時はそれを使って私に近づいてみろ」


先輩が丁寧な解説を挟んだところで、先輩はまた扉を蹴り飛ばした。

……玄関の扉、明らかに引いて開けるっぽい形してるのになぁ。


「相も変わらずN先輩は物騒な開け方しますね。

……一応コレ、引いて開けるタイプの扉なんですよ?」


「こっちの方が手っ取り早いだろう。

逃げる時も普通に走って逃げられるからな……それと、私的な理由もある」


「し、私的な理由って?」


「私のバニー姿をスクショして楽しんでいたプレイヤーへの若干の怒りだ」


うわぁ……VRMMO界の闇を見た気がする。

先輩のアバターはリアルとほぼ遜色のない姿だ。

そんな状態でバニー姿……スクリーンショットを撮られて、掲示板で拡散……俺が見たところじゃ、このゲームの人ってあんまり露出少ない装備が多いもんな。

いやまぁ、稀に薄い装備を着てる人もいるけどさ、バニースーツはなかったぞ。


「ブレイブ、貴様は彼奴等と違う存在であることを祈るぞ?」


「そうですか、申し訳ないことに俺はあれでご飯二杯はいけるんですけど……」


「そうか、ならば死ね」


「ちょっ――おっぎゃあああああああああああああっ!」


先輩は殺意を込めたような目でこちらを振り向いたと思うと、俺の首を掴んで――

メジャーリーガー顔負けのパワーと速度で俺を投げ飛ばした。

投げられた俺は、空中で無様な姿勢のまま垂直に飛んでいき廊下の奥の方へと倒れた。


「だあはっ!」


くっ、先輩め……今ので俺のHPが三割ほど削れたじゃねえか……どんなパワーしてんだ。


『ゲッゲッゲ』


『ケタケタケタ……』


『ウ"ゥ"ゥ"ゥ"ァ"』


……倒れている俺を見下ろすモンスターは三体。

【狂人】【ゾンビ】【スケルトン】だ。

狂人は手斧を握り、スケルトンは鋼の剣と思しき物を握っている。


『クククカカカカカ!』


「せ、セカンド・シールド!」


俺をプレイヤーと認識するやいなや、いきなり斧を振り下ろして来た狂人。

その斧をセカンド・シールドで受け止め、剣を振りかぶっているスケルトンにちらりと視線を向け――

体を起き上がらせ、後方へジャンプして何とか体制を立て直す。


「せ、先輩め……恨むぞ!」


ちょっとからかうつもりで言った言葉がこんなことを招くとは……これからは色々と自重しよう。


『ァ"ァ"ァ"』


ゾンビが手をこちらに伸ばしながらひたひたと足音を立てながら向かってくる。

だが動きは鈍い!そしてこの程度で俺は簡単に止まらない!


「ファスト・カウンターッ!」


ガガァンッ!と、俺のカウンターはゾンビの頭へとヒット。

よし、クリティカルが出た。

一撃とはいかずとも、HPは八割くらいは削れたんじゃないか?ん?


「……嘘だろ」


ゾンビのHPバーは四割程度しか削れていない。

俺のクリティカル攻撃でこうなんて、かなり硬いのか。


『ウ"ウ"ウ"!』


「ちっ!くっ、こ、っ……のぉぉぉっ!」


ゾンビは俺の剣を掴んできたので、振り払おうとしたが……力が強すぎる!

どうなってんだコイツのパワーは!STR値が尋常じゃねえだろ!


「ファスト・シールド!」


『ウ"ゥ"ッ!』


「食らえ!ファスト・スラッシュ!」


俺がファスト・シールド発動させると、俺とゾンビの間にシールドが出現したことで引き剥がせた。

そして、そのまま追撃のファスト・スラッシュでゾンビを袈裟斬りにする。

体ごと両断とまでは行かないが……あと一撃くらい当てれば。


「えええええ!?」


さっきのファスト・カウンターで、クリティカルを出せば四割ほど削れたHPバーは、なんと数ドットしか削れていない。


「な、なななななななんでえええ!?」


『ケタケタケタ!』


『フフフ!』


「っと!っぶね……!」


ゾンビの背後から狂人とスケルトンが斬りかかって来たので、俺はサイドステップで回避する。

ってかコイツらおかしいだろ。

ゾンビに至ってはどんなVITとSTRしてんだ。

移動速度こそ遅くても、この硬さとパワーはヤバい。


『ケーッタッタッタ!』


スケルトンは腕を一振るいすると、剣を持っていない方の腕がバラバラになって……一本の鞭のようになった。

器用な真似だとは思うけども……理解不能だ!


「どういうギミックだよ!」


『フアアアハハハハハハ!』


「お前はさっきから笑ってばっかだなこん畜生!」


狂人が笑いながら斧を振りかぶって来たので、俺はスケルトンが横薙ぎに振るってきた骨鞭の軌道を見る。

そして、その軌道は俺目掛けての物である以上、俺が立っていた位置へ――

狂人を蹴っ飛ばす!


『クアハッ!』


「ケタッ!」


すると、狂人は途端にスケルトンの方へと向き直る。

そして斧を振り上げてスケルトンへ襲い掛かった!

よし、仲間割れ作戦大成功だ。

……ホントはそんな作戦考えてねえけど、ダメージが入ったからには良しだ。


『ウ"ゥゥゥ……』


「よし、一対一ならお前くらい硬くても負けやしねーよ!」


俺は掴みかかってくるゾンビの腕を剣で払う。

もちろん剣を掴まれないように、手首の位置を狙ってだ。

こんな状況で出来るのか?と言われたとしたら、俺は自信を持って答えられる。


「剣道部……舐めんじゃねえッ!」


剣を両手で握り、掴みかかってくるゾンビの腕だけをひたすらに集中攻撃!

ゾンビは蹴りも遠距離攻撃も行ってこない!

だったら腕だけをひたすら弾き続ければ……HPバーは数ドットずつでも削れ……てねえ!

HPバーはさっきと全然変わらずで、倒せるもんも倒せないような状況だ!


「クソッ……さっきから変だ。なんでカウンターの時はあんなダメージが出たんだ……?」


『ウ"ッ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"……』


「もしやコイツ」


カウンタースキルが弱点とか、特殊なパラメータ設定なのか?

モンスター一体一体の設定を……実はそれをいじられているのだろうか。

ゾンビと言うモンスター自体、カウンターに弱いと言うのだろうか。


「だったら!」


俺はSPポーションをストレージから取り出して飲み干す。

ゆっくりと向かってくるゾンビを相手に少しずつ下がり、スケルトンと狂人を巻き込まないように引き寄せる。

すると、争いをしているスケルトンと狂人たちの位置から、ゾンビはそれなりに離れてくれた。

何があっても、間違ってもカウンターで巻き込むような位置じゃあない。


『ウ"ゥ"ゥ"ァ"!』


「くらえ!セカンド・カウンタァァァッ!」


両腕で覆いかぶさるように攻撃してくるゾンビを盾で弾き、腹へ剣を突き刺す!

クリティカルこそ出ないが、カウンタースキルが弱点なら……これでどうだ!


『ウゥゥァ』


「 ダ メ じ ゃ ね え か よ ! 」


俺は本日何度目かもわからないバックステップ。

ゾンビのHPバーは数ドット程度しか削れていない。

なんでだ、どうして倒せないんだ!

カウンタースキルが弱点とかそんなんじゃないのか!?

と、俺はたった一つの簡単な事実すらも忘れ――

ゾンビを倒せないことに頭を抱えるばかりだった。

プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン

レベル:23

種族:人間ヒューマン


ステータス

STR:54(+43) AGI:60(+33) DEX:0(+15) VIT:26(+53) INT:0 MND:30(+33)


使用武器:小鬼王の剣、小鬼王の小盾

使用防具:龍のハチガネ、小鬼王の鎖帷子、小鬼王の鎧、小鬼王のグリーヴ、、革の手袋、魔力ズボン(黒)、回避の指輪+2

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