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第百十九話:真の魔王の新戦力

 【試練の間】……そこは、ダンジョンじゃないようでダンジョン、という場所。

 先輩がソロで攻略した、というのも納得出来るような構造。

 内容はシンプルとのことで、頭使うのが苦手な俺でも問題のないところらしい。


「つーか、前回よりも楽になってんじゃねえかコレ」


 レベル上限を60まで解放するのに挑んだダンジョン、あそこはちゃんと攻略ギミックがあるらしい。

 俺たちはいきなりボスのいる部屋に入ったから、あんな変な攻略の仕方になっただけのようで、実際は他のフロアや部屋を探して、モンスターたちを弱体化させたりするものだったらしい。

 だからまぁ、そういうギミックとかのない今の試練の間は比較的楽らしい。


「で、まさかたったこれだけとはな」


「兄さん、協力してくれただけでも感謝しようよ」


「いいや別に責めちゃねえよ、ちょっと驚いただけだ」


 話は戻ると、今回その試練の間に挑むメンバーは七人ポッキリ。

 いやぁ、本当は集う勇者全員で参加しようと思ったんだけれども。


『すまんがリアルで用事がある、田舎のジジイに呼ばれた』と先輩。

『ごめんなさい、昨日から親戚が家に来てて……!』とアイン。

『俺、補習受けることになっちゃって。すまないッス』とユージン。

『悪いが動画の編集で忙しい、後日にしてくれ』とイチカ。

『ごめん、家族で旅行行くことになってて』とシェリア。

『お隣さんの子供預かるから、ゲームやる暇なくてさ。ごめん』と鈴音。

『また〆切ブッチしたら殺されるからー』とスター。

『ほし……じゃなくてスターさんの手伝いしなきゃなので!』とムーン。


 と、皆丁寧に行けないことに謝ってから断った。

 で……集まれたのは、集う勇者からは四人。集えない勇者だ。


「四人集まっただけでもマシかなー……」


「そうだね、ユリカが来てくれて私は嬉しいよ」


「一新した装備の見せどころですしね!」


 準備運動をしながら呟くユリカに、ニコニコ笑顔のランコ、ワクワクしてるハル。

 ランコとハルは装備を新調したので、ステータスもアップしてホクホク笑顔だ。

 ま、装備の一部は俺のストレージの肥やしとなってたアダマンタイト装備なんだけどね。


「で……組むのがまさかお前らとはな」


「不服か?」


「いいや、むしろ助かるよ」


 で……その僅か四人の俺たちに同情したのか、三人ほどついて来たメンバーがいるのだ。


「ブレイブと決闘するなら、お互い出来る限り最高のコンディションでいたいからな」


 真の魔王、ギルドマスターのカオス……これ以上ない程の戦力だ。

 正直王の騎士団からディララが派遣されるよりも、ずっと嬉しい。

 あぁ、いや別にディララを貶してるとかそういうわけじゃあないのだ。

 カオスなら足並み合わせで移動が遅くなることもないし、魔法の出が早い。


「ふむ、集う勇者と顔を合わせるのは初めてか……悪魔たる我を使いこなせるか?」


「ただの混人ディーマンだろ、お前……」


 で、そのカオスについて来たメンバー……どうやら真の魔王の新しい戦力なんだとか。

 小規模ギルドのマスターだったのが、真の魔王に挑みボコボコにされて統合されちゃったギルドのマスター。

 悪魔らしい角や黒を基調とした装備で固めた男、【ディアブレ】。


「フッ、我が名はディアブレ。SBOに君臨せし悪魔である! 決して混人などではない!」


「こんなんだけど、実力は確かなんだ」


 こんなん呼ばわりされてるけど、確かに装備は強そうなんだよな。

 見た目からしてレアそうな物ばっか身に着けてるし。


「はぁ……落ち着きがないわよ、ディアブレ」


「フン、我は常日頃から落ち着いているが? 貴様はどうなのだ【サンドラ】」


 サンドラ、と呼ばれたメイド服を纏う少女はため息をつく。

 どうやらサンドラはディアブレとの古い仲らしい。


「初めまして、集う勇者の皆さん。

真の魔王でギルドサブマスターを託された、サンドラよ」


「託された……? どういうことですか?」


 サンドラの言葉に違和感を抱いたハルが手を挙げて質問する。

 すると、カオスがサンドラの前に立った。


「それについては俺が説明する」


「おう」


 カオスは少しばかり真剣な顔をした。


「オロチは……引退したんだ」


「引退?」


 ユリカが首をかしげると、カオスは空を見上げた。

 ……まさか、現実で死んだとかじゃあないだろうな。


「元々彼女がいたらしいんだけど……リアルで結婚したんだってよ」


「おめでたいことですね、それは」


「めでたい話かよ……」


 一瞬でも変なことを疑ってしまった俺が情けない。

 ……カオスの目からは涙がこぼれているが、放っておこう。


「……まぁ、なんにせよ真の魔王のサブマスは変わった。

これからはこのサンドラをよろしくな」


「あぁ、そうだな……よろしく頼むぜ、サンドラ」


「えぇ。よろしく」


 サンドラは俺が差し出した手を取り、握手をしてくれた。

 ……女の子の手って、何でこんなに柔らかいんだろうなぁ。

 先輩も鍛え上げられた体なのに、握手などをすると手が柔らかく感じる。

 自分の手は結構ゴツゴツしてるだけに、この感触は好きだ。


「……いつまで手を握っているのかしら」


「すまんつい」


 ハルとランコの痛い視線が背中に突き刺さるし、前方からのサンドラの視線も痛い。

 ……女の子を怒らせちゃいけないってのは、こういう意味でもあるんだよな。


「まぁ気を取り直して、行くぞお前ら」


「そうですね、パッパと攻略しちゃいましょう」


「またレベル上げが出来ると思うと、楽しみで楽しみで仕方ないですね!」


 カオスがダンジョンの入り口前に立ち、パネルを操作している。

 これからダンジョンに挑む、って意味のウィンドウが俺たちの前にも出る。

 ランコとユリカは楽しそうにニコニコしながら、もう背中の武器を抜いている。

 ディアブレも腰から杖を取り出しているし、俺も腰の剣を抜いておく。


「では行くぞ、我らが新たな門出に!」


「更なる力を求めて」


「いざ参らん、ですね!」


 ディアブレとサンドラ、そしてハルがノリノリでカッコイイ台詞を言い放つ。

 ……真似したくなったけど、俺は何も言わずにカオスの後ろに立つ。

 今回はカオスがリーダーなので、まかり通る云々は言わないで置くことにした。


「転送開始」


 カオスがポチッとウィンドウをタッチすると、俺たちの転送が始まり――

 ダンジョン内部へ出て来た俺たちは、お互いがいるかどうかを確認。

 マップを表示して、念入りに確認したところで武器を構える。


「最初の相手は……オークか!」


「それも、雰囲気結構変わってる奴ですね……」


 ハルが前に出て盾を構え、サンドラがスカートの中からナイフを取り出す。

 ディアブレはもう詠唱を完成させたのか、杖の宝石から光を放っている。

 カオスは日米親善試合で使っていた玉座のようなものに座っている……何の効果があるんだろう、コレ。


「にしても、デケえオークだな」


 この試練の間は、短い間隔だが一体一体強力なボスが部屋ごとに待ち構えている。

 ダンジョン侵入して早々に身長3mはあるであろうオークが相手。

 武装はデカい鉈を一つ、鎧などは身に着けてはいないが硬そうな体だ。


『腹が減った』


「……初撃で強力な攻撃が来る、ガードを頼む」


「了解!」


 カオスは予知でもしたのか、それともゲーマーとしての勘か。

 巨大オーク……正式名称『デーモン・オーク』の行動を見抜いていた。

 デーモン・オークはなんと、片手に魔法のようなものをチャージしている。


『【ヒューマン・イート】!』


「流星盾!」


 口と目がついただけの化け物のようなものが、三体ほどこちらに向けて飛んでくる。

 ハルの展開した流星盾はそれを阻むが……徐々にヒビが入っていく。


「チッ……攻撃力高めだな」


 カオスは氷のトゲを生成し、流星盾を喰らい始める化け物を貫く。

 デーモン・オークはドシドシとこちらに向けて走って来る。

 ……カオスとディアブレを攻撃させたら、確実にこっちの負けだ!


「ゴブリンズ・ペネトレート!」


「レディアント・ブレード!」


 俺とユリカの二人が、走り込んでそれぞれデーモン・オークに突きを放つ。

 だが、そこまでのダメージは入らずデーモン・オークは止まらない。

 ダメージを与えた俺たちを放置して、カオスを狙いに来た!


「止まるがいい、【エクスプロージョン】!」


「【フォース・スロー】」


 ディアブレとサンドラのスキルが放たれ、爆発と共にナイフがデーモン・オークの胴に突き刺さる。


『うっとおしい……』


「狙いは我か! ならば相手をしてやろう!」


「ヘイト・フォーカス!」


 デーモン・オークの視線はディアブレに向いた。

 だがハルがすぐにヘイト・フォーカスで矛先を変えさせる。

 その隙に、詠唱を済ませたランコの槍が頭に向けて投擲される。


『グウウウ!』


「いよっし、クリティカルヒット……」


 まともなダメージが入ったようで何よりだが……デーモン・オークのHPバーは三本。

 一本の内の一割もまだ削れてないとなると、長期戦は避けられなさそうだ。


『ヒューマン・イート!』


「それはもう……見ました!」


 ハルはスキルを使わず、剣と盾でデーモン・オークのスキルを弾く。

 その隙に、こっちの行動が出来る!


「ッラァァァ!」


『フン』


 俺は飛び上がり、デーモン・オークの頭目掛けて剣を振るう。

 それは鉈で弾かれるが……続くユリカの攻撃がデーモン・オークの腹を切り裂く。

 更にはランコの槍が膝元に突き刺さり、俺たち三人が離脱したところで。


「滅べ、【ニュークリア・ブラスター】!」


「【ブラスト・スロー】」


 巨大な爆発が二度も立て続けに起こり、デーモン・オークは爆撃に包まれた。

 体のあちこちに焼け跡のようなエフェクトが残ってる所で。


「焼けろ」


 カオスの放った火炎が、巨大な柱を作るようにデーモン・オークを焼く。

 ヒュー、こりゃとんでもない勢いの炎祭りだ……こっちも燃えそうだ。


『グ……ウウエッ……』


 デーモン・オークのHPバーがもう一本削れてしまった。

 全身を攻撃してるから、クリティカルヒットはするだろうけど……スゲーな。


「パターン追加されるぞ!」


「皆さん! 集まってください!」


 カオスの一声に皆が反応し、ハルの後ろに転がり込む。

 デーモン・オークは震えて唸ったと思うと、口元に何かを溜める。


『スゥゥゥゥゥ……ゴアアアアアアアッ!』


「メギドバースト」


「えっ」


 デーモン・オークの口からは赤黒いビームのようなブレスが放たれる。

 ハルがそれを盾で受け止めようとしたところで、カオスのメギドバーストが先に放たれる。

 爆発のエフェクトが起こるが、サンドラが何らかのスキルを使ったのか煙を晴らす。


『ヌゥゥゥァ!』


「せぇっ!」


 ドシドシと走るデーモン・オークの攻撃に盾を合わせるハル。

 ガァン、と金属音を立ててハルが少しばかりノックバックするが丁度いい。

 上手い具合に下がってくれたおかげで、こっちもやりやすい。


「フェニックス・スラスト!」


「クロッシング・スラッシュ!」


「流星槍!」


 焼けた痕の残る腹にフェニックス・スラストが突き刺さり、顔には十字の傷。

 更には膝へ星々を纏った槍が突き刺さり、デーモン・オークは体制を崩す。

 いつもならここで俺が追撃しているが……今回はすぐに飛びのく。


「さぁ、この一撃を受けるがいい! 【プロミネンス・ノヴァ】!」


 ディアブレの杖から放たれた紅炎がビームのように形を作り、デーモン・オークを焼いた。

 炎属性の攻撃を立て続けに受けたからか、デーモン・オークの火傷は増えてゆく。


「これ以上炎系はマズいな」


 カオスが顎に手を当ててそう呟いた。

 何故……と思っていたら、俺の疑問はデーモン・オークが解消してくれた。

 なんとデーモン・オークのHPバーが三本目に到達すると、火傷が消えた。


『ヌゥゥ……もう炎は効かぬぞ』


「やっぱそうなるよなー……」


「予想してたのか?」


「あぁ、同じ属性でゴリ押しするって戦法が流行ってたからな。

そういう対策を練って来るとは思ってたんだよ」


 SBOでは、同じ属性攻撃を浴びせていくとダメージが加算されるというシステムがある。

 なんでも、火傷したところに更に火が付いたりしたらもっと痛い……みたいな理論だそうで。

 で、結果的に属性攻撃が通るボスはそうやってゴリ押しするのがちょっとした流行だったようだ。

 ……俺たちはやってなかったけどね。


「じゃ、今度は炎属性以外がいいですね」


 ランコは槍をクルクルと回してから持ち直す。

 さっきまで投擲メインで使っていたが、今度は近接用か。

 カオスも玉座から降りて杖を構える。


『ンヌァァァ!』


「ッ……! さっきより重い……!」


 デーモン・オークの薙ぎ払いをハルが受け止めるが、今度は吹っ飛ばされた。

 ハル程の防御力でも吹っ飛ばされるとなると、コイツの攻撃力はかなり高くなっている。

 一発受けようものなら洒落にならないな!


「五月雨突き!」


「流星剣!」


「【リボルヴ】!」


 ランコの槍による十連撃、俺の流星剣に加えてユリカは回転しながらデーモン・オークを斬りつける。


「エクスプロージョン!」


「ブラスト・スロー!」


 ディアブレの爆破と、サンドラの投擲も合わさってダメージは結構出てる……

 だが、なんとデーモン・オークは徐々にHPを回復し始めてやがる、なんてこった。


「マズいな……回復もすんのか」


「ならそれを上回る速度で攻撃するだけだよ!」


「そうだね、よし……行くよ!」


 俺は長期戦覚悟で弱気になるが、ランコとユリカが俺たちを元気づけてくれた。

 カオスたちも少し嬉しそうに笑い、各々の武器を構える。


「ニュークリア・キャノン」


「ニュークリア・ブラスター!」


「トルネード・スロー!」


 二種の核撃と竜巻を纏った短剣がデーモン・オークに放たれる。

 HPは……減っているが、すぐに戻り始めている!


「チッ……鬼化! 諸刃の剣! ゴブリンズ・ペネトレート!」


『グワアアア!』


 俺は鬼化+諸刃の剣で一気にステータスをブーストし、必殺の一撃を放つ。

 だが、それでもデーモン・オークは倒しきれない!


「まだまだ!」


「私たちが!」


 今度はユリカが二本の剣をぶん投げ、デーモン・オークの目に突き刺した。

 更にランコが喉元に槍を刺すという、現実ではグロ必至のコンボを見せてくれた。


『アアアアアア!』


「ヤバッ……」


 が、それは武器を手放す行為なのでユリカたちに攻撃手段はもうない。

 デーモン・オークは目と喉に刺さった剣と槍を投げ捨ててから鉈を振りかぶる。

 鉈には赤いライトエフェクトが纏わされ、それが絶大な威力であることを示している。

 ハルでも受けようものならダメージは免れないし、下手をすれば死ぬ。

 だったら!


「チッ……!」


 カオスが氷のトゲを放つが、デーモン・オークが振り下ろす鉈は止まらない。

 このままデーモン・オークの前に立つ俺たちに当たる――


「なんて、間抜けな話があるかよ」


『グヴ……!』


「久々の、フォース・カウンター。だぜ」


 デーモン・オークの頭部に俺の剣が突き刺さり、HPを全損させた。

 フラフラと後ろへ下がったデーモン・オークはバタリと倒れ――

 その体をポリゴン片にして砕け散らせた。

【真の魔王に挑んだギルドたち】

日米親善試合後、戦力を拡大しようかと考えていたカオスに喧嘩を売ったことが発端で、完膚なきまでに叩き潰されて統合されてしまった哀れなギルドたち。

ディアブレが所属していた方は20人、サンドラが所属していた方は15人程のギルド。

これで真の魔王もギルドメンバーが3桁越えである。

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