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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第六章:大体作者が思いつきで始めて迷走する奴
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第百七話:トライアスロン、決着

 SBO・トライアスロンイベント――

 それは多くの参加者が集い、同時に散っていったイベント。

 そんなイベントで、先頭を走る四人が本気の潰し合いに発展した一方で。

 ハルとアインの二人は騎乗のゾーンを越え、第三種目に挑む。


「はぁ……はぁ……走るのは、苦手ですね……このビルドを恨みます……!」


「なら、僕にもチャンスが来たみたいですね!」


 ハルのAGIでは先頭集団は愚か、アインにすら追いつけなかった。

 そのため、アインは急にハルとの距離を離して前へと進んでゆく。

 ハルは後ろから追ってくるプレイヤーがいないかと振り向くが、そんなプレイヤーはいるはずがない。

 一緒に参加したユージンは第一種目の水泳でアルゴーノートの船に轢き殺されたが、そのアルゴーノートや様々なプレイヤーはブレイブ・ワンによって倒された。

 そして、参加した多くのプレイヤーたちは海のゾーンでカオスに凍結させられたり、アルゴーノートの船や王の騎士団の戦車に轢き殺されていたり、騎乗のゾーンで馬を扱うことに失敗したりと、かなりの数が失格になっている。

 とどのつまり、自分が最下位であるはずなのだが――


「オオオオオオオオオッ!」


「え……!」


 土煙を巻き上げ、雄叫びと共に足音だけで轟音を鳴らす化け物。

 アルゴーノート最強のプレイヤー、ヘラクレスが走って来たのだ。

 彼は自身で投げた鉄柱に飛び乗って第二種目を越えた。

 ので、あとは第三種目でひたすら走るだけの簡単なお仕事である。


「ひっ、ちょっと待っ――あうっ」


 ハルは慌ててヘラクレスの走るコースから逃れようとするが、運が悪かった。

 自分の足が絡まり、ガッ……とその場でコケた。


「グオオオオオアアアアア!」


「あ、これ死ぬ――エ”ン”フリ”ャ”ィ”ッ!」


 獣のような叫びをあげて走る巨漢にそのまま蹴り飛ばされたハルは宙を舞った。

 そう、それはまるで天高く跳び跳ねた魚のように。

 そしてそのまま動くことなく、ハルは自由落下して頭から地面と激突しHPを全損する。

 ヘラクレスの爆走はそのまま続き、後ろからアインを潰すことは観戦している誰の目にも察せられた。



 ――――そして、そのヘラクレスが目指す先頭集団は。


「【ニュークリア・ブラスター】!」


「カースフレイム・フェニックス・ドライブ!」


「エクスカリバーッ!」


「神天ノ太刀!」


 四人のプレイヤーの必殺技が入り乱れていた。

 移動しながらではあるものの、最早バトルがメインと化している。

 この状況に俺──ブレイブ・ワンは非常に困っている。

 逃げようにもカオスが邪魔だし、全員殺すにしてもキツすぎる。

 先輩とアーサーに多分不意打ちは効かないし、した瞬間俺がカモになる。


「トライアスロンだってんなら、もうちょい平和にやろうぜ! カオス!」


「悪いけど俺は足が遅いんだ、速いお前らに勝つにはこうするしかなくてな!」


「愚かだね、ブレイブくん……トライアスロンなんて建前さ。

大体ここに集ってるプレイヤーの目的なんて、『全員殺す』くらいだろうに!」


「いやそれお前だけだろ、アーサー!」


 俺はシールドを足場にしながら空中を移動し、カオスの氷を逃れる。

 同時に、ジャンプして斬りかかってくるアーサーの攻撃をしゃがんで躱し――

 シールドから飛び降りて、諸刃の剣を使って三人との距離を離す。


「クソッ、付き合いきれるかってんだよ……!」


「そうかい、それは残念だ」


「なんで追い付いてくんだ……よッ!」


 アーサーだけが俺に追い付いて来たので、俺はゴブリンキングを召喚。

 すぐにまた走り出すが、ゴブリンキングは一撃で倒された。

 アーサーは奥の手を出して来たか、第三回イベントで使ってたバフスキル。

 となると、諸刃の剣だけじゃ逃げ切ることは出来ねえ。


「鬼化!」


「へぇ、随分速いね」


 俺は鬼化で全ステータスをアップさせる。

 それを諸刃の剣の効果によって、STRとAGIに転換する。

 これによって、今の俺はAGI極振りのプレイヤーにも劣らぬ速度を出せているだろう。

 尤も……集中してないと、すぐに事故起こしそうになるけどな!


『キシシシ……!』


「ッ! あっぶね……」


 いきなり目の前にモンスターが出てきたせいで、ぶつかるところだった。

 すんでのところでジャンプして何とか避けられた……ホントにあっぶねぇ……けど、これは好都合。

 後ろから追っかけてくるアーサーへの妨害に丁度いいな。


「……なんて、あの野郎がこれくらいで止まるわけねえか」


 俺は一直線の道を走りながらも、敢えて真横に跳んだ。

 すると、俺がいた位置を光の大槍が通り過ぎていった。

 数秒経つとドドドドド……と土煙をあげながら走るアーサーの姿が見える。


「フェニックス・ドライブ」


「バースト・エア」


 アーサーへの妨害用に向けて放った不死鳥は、風によって相殺された。

 だが、俺は既に走り始めているからアーサーとの距離は十分に離れている。

 このまま行けば、優勝は確実。


「ゴールへ到達はさせないよ、ブレイブくん!」


「だったら是が非でも行ってやるよ!」


 移動しながら攻撃するタイプのスキルを使ったアーサーは俺に追い付き、剣を振り下ろす。

 俺はそれを小さなステップで避け、サード・スラッシュを放つ。

 躱されたが、アーサーはバックステップで攻撃を避けた……なら、間合いから外れた今がチャンス。


「お先」


「バースト・エア!」


「チッ、流星盾!」


 諸刃の剣を解除し、流星盾でバースト・エアを止める。

 すぐに諸刃の剣を使い直すがその一瞬の間が空いたせいで、今度は俺がアーサーに抜かれた。

 いや、だがすぐに追いつける! 俺自身の足を信じろ!


「ッラァ!」


「君も中々に食らいついて来るじゃないか……!」


「ハッ、こっちの台詞だ!」


 俺とアーサーは、いつの間にか腰の剣で斬り合いを始めながら走っていた。

 利き手で剣を振るいながら、お互いの剣を弾き合うだけ。

 ほぼ走るのがメインとは言えども……随分と面白いことになっちまった。


「ブレイブくん、今なら交渉の余地もある。諦めるのはどうかな!」


「ぬかせ! 交渉するったって最終的にお前が得する奴だろ!」


「ハハハハハ! バレては仕方な――ッ!」


 愉快に笑っていたアーサーが、急に飛びのいた。

 何があったんだ、と俺は横を向くと――


「アアアアアアアア!」


「ギャアアアアア!?」


 半狂乱になって走ってくる、アルゴーノートのプレイヤーがいた。

 筋肉モリモリマッチョマンの狂人とでも言えばいいのか。

 上半身は裸、下も腰巻をつけているだけで素足、右手には鈍器のような剣。

 レイドボス戦で見た男……ヘラクレスだった。


「マズいぞブレイブくん、このままじゃ優勝できなくなる」


「その手には乗らねえぞ!」


 共闘してヘラクレスを止める、だとか体のいい事言って俺を出し抜く。

 恐らくそれがアーサーの筋書き……なら、俺のやることは一つだけ。

 諸刃の剣は解除したが……まだコイツ等を抜いたままリードできるくらいは余裕がある。

 鬼化はまだ続いているし、超加速のクールタイムも終わっている。


「超加速!」


「くっ、超加速……!」


 俺とアーサーはヘラクレスに追い付かれないようにするべく、ひたすら走った。

 妨害手段が奴に通じる通じない以前に、重要なのはコイツを一位にしないこと。

 というわけで、あとはもう純粋な速さ比べになってくるわけだ。


「マァデエエエエエエ!」


「なんか君のこと狙ってないか!?」


「知るか! 多分俺と見せかけてのお前だ! 多分お前の責任ンンン!」


「ふざけるな! どう見ても君に殺意マンマンだろあのゴリラ! 第一僕はアルゴーノートとそんなに関わっちゃいないんだ!」


「うるせえ! 俺はあんなゴリラに恨まれるようなことなんて――」


 あ、さっきしたわ。

 アイツの船長の船、思いっっっ切り燃やしたわ。

 あぁ、そういうことだったのね、と納得した。


「あぁ、ごめ、さっきアイツの船燃やしたんだったわ」


「何してんだ君! キレたヘラクレスはカオス以上に面倒なんだぞ! そもそも普通に戦うだけでも面倒だと言うのに! クソッ! 本当にこれはトライアスロンなのか!?」


「お前が言うな人外魔境の聖騎士! お前のせいでトライアスロンじゃなくなってんだよ!」


「うるさい! 君だって小鬼まみれの剣士だろう! 第一ノリノリで戦ってるのは君も同じだろう!」


 と、俺たちは段々近づいてくるヘラクレスから逃げるように、涙目になりながら走った。

 勿論、罵倒やら『お前が止めろ』『君が止めてくれ』と押し付け合ったりして――

 ゴールまで近づいて来た。


「うおおおおおお! 勝利の女神よ! 僕に……僕に自由なる勝利の輝きをぉぉぉっ!」


「あああああ! せんぱあああい! 俺のこと応援しててくれぇぇぇっ!」


「ブレイブ・ワン、ブッコロス!」


 俺含め祈る者二名と、俺のことぶち殺す気満々なバケモン一体。

 ほぼほぼ全員半狂乱になりながら、鼻水とか涙とかをぶちまけて走る。

 ゴールテープは目前、一位になれば! 一位になることさえ出来れば!


「……あれっ」


「アイツは……?」


 ゴールテープが見えた時、人影があるなとは思っていた。

 どうでもいいなんて思っていたけど、それは今にもゴールテープを切りそうなユリカだった。

 まさか、俺たちが争いをしていた間に先回りしていたとでも言うのか!?


「あ、どうも皆さん。お疲れ様でーす」


「てっ、ちょっと待てぇぇぇ!」


 手を伸ばして懇願する俺の言葉を嗤うように、ユリカはゴールした。

 ユリカ一着ゴール……そして、俺は不幸にもバランスを崩してスッ転んだ。

 その隙に、アーサー、続いてヘラクレスがゴール。


「あ、俺殺すの後回しなのね……」


 と、すっかりと落ち着いてしまった俺は再度走り、四位でゴール。

 そこから二十秒ほどで、先輩がぜえぜえ言いながらゴールしてきて――

 カオス、ランコ、その他諸々のプレイヤーと続いた所で、トライアスロンは有事まみれで終了し た。

 ……もう、二度とやりたくないと思った。


「一位おめでとう、ユリカーっ!」


「ははっ、ありがとー!」


 一位になり、金メダルとトロフィーを手にしたユリカに抱き着くランコ。

 二位の銀メダルと銀のトロフィーを持って、やや悔しそうにするアーサー。

 三位の銅メダルと銅のトロフィーをイアソーンに預け、俺を見つめるヘラクレス。


「ブレイブ・ワン」


「あ、ハイ……なんでしょう」


「コロス」


「ひえええええっ!」


 俺は全速力で走り出した。

 ゴールしても、このフィールドではプレイヤーへの攻撃は可能らしい。

 だからなのか、それともそうでなかったとしてもなのか、ヘラクレスは物凄く怖い顔で俺を追いかけて来た。


「ガアアアアア!」


「え!? ちょ、僕――ギャアッ!」


「いや待て待て待て! なんだその攻撃方ほ――ギャアアア!」


 ヘラクレスはなんと、やっとの思いでゴールしてきたアインの頭を掴んだ。

 そして、思い切り俺に向けてぶん投げて来た。

 回転しながら突っ込んでくるアインを避けることも斬ることも出来ない俺は、見事に死んだ。

 そう、顔面へのクリティカルヒットで。




 ――――目が覚めると、見慣れたギルドホームだった。

 幸いにもデスペナルティはないようで、失ったものは何もない。

 で、メッセージ通知が来ていたので開く。


『トライアスロンイベント・4位報酬』


「……惜しかったなぁ」


 大量のポーションやクリスタルにGなど、様々なものが入っていた。

 あぁ、今頃ヘラクレスやアーサー、ユリカはいい武器貰ってんだろうな。

 確かにイベント参加特典には丁度いいアイテムかもだが……あそこでコケなかったら、俺が三位か二位だったと思うと悔しい。


「クソッ、次のイベントじゃぜってぇ負けねえからな……アーサー」


 と、俺は新たに決意をして、ギルドホームの中に入る。

 他のメンバーと一緒に感想会をするために。


「でも、今後は落ち着ける期間で、しばらくは何もねえかもなぁ」


 だが……この時の俺はまだ知らなかった。

 トライアスロンイベントなぞ前座であり、もっと大きなことが裏に潜んでいることを。

 遠い海を越えたその先にいる、男との戦いがあることを。

トライアスロンイベント・順位内訳


1位:ユリカ

2位:アーサー

3位:ヘラクレス

4位:ブレイブ・ワン

5位:N・ウィーク

6位:カオス

7位:ランコ

8位:アルトリア

9位:オリオン

10位:タダカツ

11位:カイナス

12位:アイン

13位:ニナ


失格:いっぱい

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