第百五話:ハゲるよ
「ハハハ、随分と面白い話だったよ。ブレイブくん」
「笑うんじゃねえ! こっちだって本気でやってたっつーの!」
「いやまぁ、初見のダンジョンをたった四人で挑む無謀さは笑わせて貰ったけど。
君たち四人が撃破されたことに関しては、笑い話というよりも驚きの方が多いかな」
嘘くせぇ笑みを浮かべながら、アーサーはテーブルに置かれた茶を飲んだ。
ランコのことが心配だったから、俺は復活してから直ぐあの館の方に駆け出したのだが、何故か館は消滅していて、そこには廃墟のような建物しか残っていなかった。
そんな摩訶不思議かつ奇妙奇天烈なことを体験しただけでなく、ランコは俺が来るまでの間に倒されていたみたいで、ダンジョンがなんであんな風に壊れたかなんてのは知らないみたいで。
兎にも角にも、あのダンジョンはランコでもあっさりやられるくらい敵が強くて、特に……あれ? そういや俺ってどうやってやられたんだっけな。
あの亡者たちは確か、誰かが倒してたような気がする……のに、よく思い出せない。
「まぁ、そのダンジョンについてはまた近々聞かせてもらうとしよう、どこのダンジョンかなんて僕は知らないし。
第四都市解放戦ではリーダーとして少しばかり頼りなかったようだから、汚名返上ついでに君たちの攻略に参加しようじゃないか」
「あ、そ、そうか……で、他に用件はあるのか?」
そう、そうだ、アーサーはいきなり俺を呼び出したのだ。
何故なのかは見当はつかないし、取り敢えず近況報告はしたが。
わざわざ呼び出してくるってことは、結構大事なことなんだろう。
「そう急がなくてもいいじゃないか、ハゲるよ」
「うっせ、俺は毛の伸び早えからハゲとは無縁だよ」
お茶請けに出されたシュークリームを一口で食べ、茶で流す。
あぁクソッ、嫉妬したくなるほど美味い。
王の騎士団はこういう飯関係にも敵なしだって言うのか。
「茶菓子で落ち着いたようだね。じゃあ、そろそろ本題に入らせて貰おうか」
「おう」
アーサーは指をパチンと鳴らす。
すると、なんと床からアルトリアが出て来た。
どういう仕組みなんだこの建物。
「頼むよ、アルトリア」
アルトリアがコクン、と頷いて何かパネルを操作すると。
黒板には、『運営のお知らせ』と出て来た。
で……アルトリアがまたパネルを操作すると、それが切り替わる。
「ミニイベント、開催……?」
「Nから聞いたよ、君はあまり運営のお知らせを読まないタイプだとね」
「あ、あぁ……まぁ、あんまり読まねえな」
イベントがどうたら、ってのはチラッと見たかもしれない。
だが、ミニイベントがどうとまでは聞いてなかった。
「それで、そのイベントの内容って何なんだ?」
「あぁ、ちょっとしたお祭り競技だし、基本はほのぼのしてるものさ」
アルトリアがまた画面を切り替えると、そこには海、馬、走る人の絵が映っていた。
テレビかなんかで見たことあったな、こういう奴。
「トライアスロン、さ」
「一つだけおかしくねえか」
「あぁ、SBOには自転車とかないからね……馬で代用するんじゃないのかい」
しかも、よく見ると『※馬はレンタル式です』と書かれてる。
更によく読むと、乗り物とかはレンタルでなくてもいいみたいで、要は地面に自分の足をつけなければ良いみたいだ。
「景品とかあるのか?」
「あぁ、上位五位以内に入れば大量のGとアイテムが贈呈される。
三位は選べるレアアイテムチケットを三枚、二位はそれに加えて激レア武器を一つ、一位なら更に激レア防具もセット。
で、五位未満のプレイヤーは参加賞としてそれなりの額のGが貰えるだけさ」
「……それ、どれくらいの奴が参加するんだろうな」
「さぁね、でも……王の騎士団で上位五位を独占させて貰うよ」
「へぇ、上等だ。第三回イベントじゃお前に負けたけど、今度は俺たちが勝つぜ」
俺とアーサーは、目からバチバチと火花を散らして睨み合う。
今度こそ勝つ、と決めたからには……とイベントの詳細に隅から隅まで目を通す。
イベントの開催日は休日とわかったので、すぐに皆に参加の有無を聞く。
『参加するとも』
『当然参加です!目指すは集う勇者で上位独占です!』
『俊足の俺が一位取ってやるッスよ』
『参加しなきゃ損じゃんそれ』
『休日なら問題なく参加できます』
『前はいいとこなしでしたし、今度こそ参加します!』
と、先輩、ハル、ユージン、ランコ、ユリカ、アインからは前向きな返事だ。
っつーか、参加をもう決めているようで参加予約をしておいてるらしい。
俺もすぐにしたけれど、他の奴らは……と、メッセージを確認する。
『悪いけどその日バイトだから、無理かも』
『リアルで用事あるから無理ー、ごめんねー』
『悪いが興味はない』
『ごめんなさい、その日は冬期講習会で……』
『ちょっと〆切がヤバいものがあるんで、パスします』
シェリア、鈴音、イチカ、ムーン、スターはパスみたいだ。
登場してまだ全然出てないってのにそれでいいのかお前ら、読者に忘れられるぞ。
「情報サンキューな、アーサー」
「あぁ、君との直接対決……形式は違えど楽しみにしているよ」
「おう……俺以外の奴に負けんじゃねーぞ」
「君もね」
と、そう言いながら俺は王の騎士団のギルドホームを後にした。
結局、昨日はダンジョンに行っただけで第四都市をロクに見ていない。
なら、トライアスロンにいるかもしれないものを探すのもアリだろう。
「……水着とか売ってっかな」
冷静に考えたら、泳ぐのには水着が必要不可欠なはずだ。
なら、第四都市に水着を売っているエリアがあってもおかしくないハズ。
どこだ? どこにあるんだ……? と辺りを見回していると――
「アレか」
水着が店頭に並んでおり、アロハシャツ姿のおっさんが目に入る。
涼しそうなデザインだな。
「すみませーん」
『いらっしゃい、何を買ってくんだい』
水着……色んなデザインが並んでいるが、ありきたりな物ばかりだな……シンプルなものばかりで、なんか被りそうだ。
「……お、これは……ゴブリン?」
俺の持っている盾みたいに、ゴブリンの顔の入った水着があった。
海パンだけじゃなく、上着もセット……コイツぁいいな、趣味悪いけど。
ここまでゴブリンだらけの装備使ってたら、ゴブリンって種族自体に愛着も沸いてきたので、買わずにはいられない。
幸い、値段は安いしレイドボス戦で入った収入のおかげで、問題なく買えるぜ。
「……買っちまった」
ストレージにある水着を眺めながら、俺はフィールドに出る。
いや、別にフィールドで水着になろうってわけじゃあない。
ただ、トライアスロンでは自転車──基、SBOでは馬を使う。
だから騎乗に慣れておきたいわけなので、今まで使ってなかった小鬼帝のグリーヴの付属スキルを使う。
「【騎乗・狼】!」
『ワオーン』
ゴブリンには狼に乗ったりする個体がいるが、俺のは正にそれだな。
小鬼の帝が乗るのに相応しい、乗用車くらいのサイズがある狼が出て来た。
イベントでは自前の乗り物を用意しても構わないみたいだし……乗り物はこれで行こう。
「よし、じゃあ早速練習始めようぜ……えーと、ブレウルフ!」
『わふっ』
かーなーりテキトーにつけた名前と共に、俺は狼を走らせる。
大きいので移動には快適だし、【騎乗補正】というパッシブスキルのおかげで落ちない。
安定して乗りこなせるのはかなりいいもんだし、何よりも結構楽しいぞコレ。
モンスターを轢き殺すんじゃあなく、縫うように動かすのが楽しい。
壁走りとかも出来るし、乗りながら剣を振ったりするのも出来るし、シールドを踏ませてジャンプさせることも出来るし、使い勝手良くてハマりそうだ。
ダンジョンとかじゃ使いにくいだろうけど。
「ハハッ、こういうのも悪くねえな!」
……と、俺は狼とのロデオを楽しみ、一日を終えた。
今回は短めな上に特に書く事ありません。