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セブンスブレイブ・オンライン ~小鬼勇者が特殊装備で強者を食らいます~  作者: 月束曇天
第六章:大体作者が思いつきで始めて迷走する奴
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第百二話:今日で最後だね

「あの……何、してるんですか?」


「ふーむ……んんー……んー?」


 キョーコはじーっと、じーっと、じーっと……じぃぃぃっとユリカを見つめてる。

 流石にユリカもコートで自分の体を隠そうと体を傾け始めている。


「品定めでもしてんのかお前」


「そんなに見つめられたら、ちょっとヤなんですけど……」


「あぁ、悪い。ついクセでさ」


「どんなクセだよ」


 キョーコはパッと見つめるのをやめた……と思ったら、今度はユリカの体のあちこちを触り始めた。

 ユリカは『ちょ、やめてください……』と言っているがお構いなしだ。

 引き剥がしたいが、これも何か重要な事なのかもしれないので手は出さない。

 先輩に引っ付いてたら問答無用で蹴っ飛ばして階段から放り投げるけれど、ユリカならば多分大丈夫だろう。

 変なライン越えたら、ランコが街中でも死ぬほど攻撃するだろうし。


「ふーん、ふむふむ……なるほど、わからん。時間の無駄だなこりゃ」


「ちょっとこの人2、3回ブッ殺していいですか」


「落ち着けユリカ、殺すのは武器作って貰ってからにしとけ。あと俺にもやらせろ」


「兄さん、落ち着いたなら殺すのはやめようよ」


 じろじろ見つめてべたべた触ってこの様なら誰だって怒るだろう。

 俺もユリカも手を出さずに我慢していたのだから。


「いや、ほら。アタシにもワケがあってさ、『一定の熟練度を越えた鍛冶屋は、アバターを触るだけでそのビルドに最適の武器がわかる』って噂を聞いたんだよ。

だからその実験しようと思ってたわけで……このとーり、許して許して」


「聞いたことねえよ、そんな噂」


「そりゃそうとも。SBO鍛冶屋界隈での噂なんだし」


 何の界隈だよ、とツッコミたいが我慢しておこう。

 とっととユリカの剣を作って貰ったら、さっさとお暇しよう。

 早く百合香のための打ち上げをやってやりたい。


「……で、本題に入りますけど」


「おう、確か剣を作るんだったよな。

どんな剣を作るんだ?スピード系? パワー系? 長さとか形は?」


「片手直剣、両刃の奴を二本で……えーと」


 ユリカは具体的な剣を示そうと思ったようだが……替えの剣はないらしい。

 仕方ない、元相棒のためだ……と俺はメニューを開く。


「ん」


「あ、ありがとうございます」


 腰の剣帯から小鬼帝の剣・改を鞘ごと外してユリカに差し出す。

 ユリカはそのままそれを受け取り、キョーコに見せた。


「これくらい強い剣を、作って貰いたいんです」


「ほーん……ブレイブの持ってる剣か。重さとか、カラーに希望はあるか?」


「この剣より少しだけ重くしてください、色はまぁ……ちょっと暗めの奴で」


「りょーかい……じゃ、アタシに任せろ」


 キョーコはニッ、と笑うと俺の剣をユリカからひったくった。

 俺たちが口を開く前に店の奥へと行ってしまったので、どうしようもない。

 まぁ、少しすれば俺の剣も戻って来るだろうし、心配はいらないか。

 もし剣が見るも無残な姿になってたら……全財産かけて弁償くらいやって貰うか。


「多少時間かかるだろうし、武器でも見てくか?」


「予備の剣とか欲しいですし、一応見ますか」


「あ、じゃあ私も」


 キョーコの店も武具は大分変わっていて、初めて見た時とは大違いだ。

 鋼シリーズやプラチナシリーズが並んでた頃はもう懐かしい。

 今はもうそれらは隅っこの方にやられていて、別の素材の武具が目立っている。


「……【アダマンタイター】、か」


「気になるのか」


 ユリカとの決闘前、キョーコに貰った装備一式。

 そう言えばアレ、アダマンタイトで出来たって言ってたっけ。

 ユリカの眺めている片手直剣と、全く同じものなはずだ。


「お金に余裕はあるので、買おうと思います」


「即決かよ」


 ユリカはアダマンタイターを二本購入し、ストレージにしまった。

 で、ランコはランコでまたアダマンタイト製の槍を買っていた。

 くそう、俺は買う必要ないけど……スカンピンなのが悔しい。

 出来れば、アダマンタイト以外の装備も気になるから買ってみたいんだよな。

 小鬼帝シリーズも気に入ってるけど、俺だってMMOゲームプレイヤーだ。

 いつも使ってる奴がどうであれ、他の装備に魅力を感じることくらいある。


「少年がトランペット眺めてるみたいになってるよ、兄さん」


「悪いかよ」


「いや別に、ただなんかそういう目な人初めて見たから」


「そ……」


 俺は金を貯めようと決意して、キョーコの武具が並ぶケースを見るのをやめた。

 ……そういや、メガロスを倒した時のドロップアイテムって分配してないんだよな。

 金は自動で均等に割り振られてるけど、メガロスからドロップしたアイテム。

 あれは撃破したユリカが持ってるはずだけど。


「そういやユリカ、メガロスって何ドロップしたんだ?」


「メガロスが使ってた凄く大きい剣の複製みたいな両手剣と、同じような盾……あとは腰巻とかでしたよ」


「ふーん……分配ってしなくて良かったのか?」


「あぁ、これラストアタックボーナスですから」


 ……逆に言えば、それ以外のアイテムはドロップしなかったってことね。

 そういや、アーサーもゲットした人の物って言ってたっけ。

 じゃあ、分配とかなんてする必要はないワケだな。


「おまたせ」


「はえーよ」


まだ全然時間経ってねえだろ……と思ってキョーコを見る。

と、その両手に抱えられていた剣は……無数にあった。


「何本あるんですか、これ」


「あー、全部で五十本くらいはあるな。

いやまぁ、ホントはもっとあるけど……種類は五十くらいってことでな」


「兄さん、なんかヤな予感するんだけど」


「奇遇だな、俺もだ」


 ガシャガシャガシャガシャ……とキョーコは片っ端から剣をカウンターに並べる。

 並べられない剣は、壁に立てかけたり床に置いたり……バチが辺りそうだ。

 で、キョーコはその中から一本の剣をユリカに差し出す。


「ほい、じゃあまずその剣だ」


「え? これ……ですか」


 ユリカはなんだか不満そうに剣を振る。

 軽いみたいだけど、これじゃないって顔だ。


「それを、ブレイブの剣に叩きつけてみな」


「えー嘘ぉ……」


 キョーコは俺の剣をユリカに手渡した。

 原始的なその実験方法に呆れるランコ、げんなりする俺。

 そもそも、比較対象が俺の剣なのはいいけども。

 耐久値が存在しない剣を叩いて、意味なんてあるのか?


「普通にステータス見りゃいいだろ……」


「ちっちっちー、武器ってのはステータスが全部じゃねーの。

本人が持って、手に馴染むかどうかってのが大切なんだよ」


「なんか、思ったよりもめんどくさいんだね」


 まぁ、俺も大して剣を振るったわけじゃないから仕方ないな。

 何せずっとこの剣とフェニックス・ブレードだったんだ。

 だから、ここはキョーコの言葉を信じてみよう。


「じゃあ……試しますね」


「おうっ、存分にな」


「スーッ……フーッ……――せいッ!」


 深呼吸の後に、ユリカから剣が振り下ろされた。

 小鬼帝の剣・改に叩きつけられた剣は、見事に折れた。

 キョーコはそれに怒ることはなく――


「ほほぅ、こんな硬いのか……折りがいがあるぜ」


「おいコラ、さり気無く俺の剣折るの大前提にしてんじゃねえ」


 っつーか、小鬼帝の剣は武器破壊とか効かないんだっての。

 前に実験の一環で先輩にやって貰ったことがあるけど、刃の部分を真横から先輩の必殺スキルを放ち続けても折れなかったんだし。


「んじゃ、次」


「はい、せいッ!」


 ……と、こんな様子でユリカは片っ端から剣を俺の剣に叩きつける。

 そんな光景が十や二十で聞かないほどの数が繰り返され――


「全部折れましたね」


「だな」


「何だったんだ今までの時間!?」


 キョーコの剣をポッキポキと折っただけで、進展ゼロ! マジでなんだったんだ、この時間!


「凄い意味のない時間だったね……赤字経営みたいだよもう」


「ま、最初からこうなるってわかってたけどな……ほらよ」


 キョーコはメニューを開くと、二振りの剣をユリカに手渡した。

 ……両方とも緑色で片方の剣は俺の剣そっくり──っていうか同じ形と色だ。

 違いがあるとしたら、俺が剣の柄の先っぽにつけていたカスタムアイテムがないくらいだ。


「これは……なんですか?」


「【小鬼帝の剣・偽】だ。

ブレイブの剣を、鍛冶屋としてのあたしのスキルで複製した」


「……驚くほどステータスが低いですね」


 確かに、ステータス画面を見てみると確かに弱い武器だ。

 鋼の剣と大差ない値……小鬼王時代の頃の方が強いくらいだ。


「で、だ……」


 キョーコはもう一本の剣を指して示した。

 今度は、アダマンタイターの刀身が黄緑色になったもの。

 よく見ると鍔と柄の形も若干違うな。


「アダマンタイター・改。

アダマンタイターと、その小鬼帝の剣・偽を合成してみた」


 今度はアダマンタイターと同じステータスだ。

 だが、スキルにはゴブリンズ・ペネトレートと似たスキルと思われる【アダマン・ペネトレート】がセットされていた。


「んで、今度はこっち」


「これも、アダマンタイター・改……」


「でも、素材が違うだろ」


 キョーコが取り出した二本目のアダマンタイター・改。

 今度は刀身の色も鍔も柄も元のアダマンタイターと同じだが、スキルがまた違った。

 【アダマンメイデン】というスキルがセットされていたのだ。


「あの、これって何で作ったんですか?」


「よく聞いてくれた、これはアダマンタイターと……」


「と?」


「王の騎士団の副団長、ランスロットのアイアンメイデンの針だ」


「え」


 ユリカは驚きの余り、貰った剣をガシャーンと落とした。

 鞘に収まっていたおかげで、床に突き刺さったりはしなかった。

 ま、そもそも破壊不能オブジェクトだから刺さらんけど。


「それって、どういうことなんですか?」


「あぁ、発動中のアイアンメイデンの針を折って貰ったらアイテム化しててな、それを武器に合成したら似たようなスキルが使えるようになったんだよ」


「それはすごいですね……」


 固まるユリカの気持ちを代弁するように、ランコは頷く。

 ……で、結局のところ一番知りたい所がわからない。


「凄いのはわかるけどよ、じゃあ何で剣折ったんだ?」


「あぁ、実はメイデンがセットされてる方のアダマンタイターは、いつか誰かに渡そうと思って予め剣は作ってたんだよ。

小鬼帝の剣・改のコピーはさっき、カウンターの下でこっそり作ってさ、アダマンタイターと合成する時間を剣折りで稼いだってワケ。

で、剣の方は捨てても売っても大して変わらないような在庫処分だから気にすんな」


 ……普通に時間かけて工房でやればよくね? というツッコミをする気力も湧かなかった。

 何でそんな違法薬物をアレコレするギャングみたいな真似してんだコイツ。


「それで、この剣って代金はおいくらなんですか?」


「んー……こんなもんかな」


 キョーコはピンッ、とユリカに向けて指を弾く。

 ユリカはキョーコから提示された額と思しきプレートを眺めるとメニューを操作して、金の入った袋をドスンとカウンターに置いた。


「ありがとうございました」


「いや、こっちこそ毎度あり。

今後とも、キョーコ武具店を御贔屓に」


「今度は、私の防具とかもメンテお願いしますねー」


「おーう」


 と……支払いを済ませ、俺たちは外へ出る。

 もう辺りは暗くなり、時刻も18時を回っていた。

 急がないと、百合香のための打ち上げも出来ないな。


「……疲れたし、落ちるか」


「そうだね、私もそうするよ」


「じゃあ、私も試し斬りは明日にしますよ」


 ユリカは背中にある剣をチラリと見た後、メニューを操作してログアウト。

 俺とランコも続いてログアウトし――




「よっこらせっと」


 意識が戻った直後に、ハードを外して起き上がる。

 ベッドから降りて……ARデバイスを起動。

 先輩と盾塚、優真にもメッセージを送ってから冷蔵庫の中身を確認して――

 鞘華にも先輩たちが来るかもしれないことを伝える。

 あとは、ひたすらに食材を捌いて行くだけの簡単なお仕事をする。





「……百合香、今日で最後だね」


「そうだね……人生で、一番楽しい日々だった」


「でも、百合香が帰ったってまだ終わるわけじゃねえだろ。

同じ学校、同じクラスなら……また思い出は出来る」


「あぁ、例えどれだけ離れようとも、仮想世界でなら会えるだろう」


「それに、ご近所さんならまたこういうことも出来ますよ」


「ええ、ですから……今日はめいっぱい楽しませていただきますよ」


 百合香、鞘華、俺、先輩、優真、盾塚。

 集う勇者のメンツの半分が、一つの家の下に集まってくれた。

 俺たち兄妹お手製の料理が並び、手にはグラスと飲み物。


「さぁ皆、今日は飲んで食べて……明日めんどいへいじつへの活力にしようぜ! 乾杯!」


「乾杯!」


 最高の字に、最低のルビを振りながら乾杯。

 カラン、とそれぞれのグラスが音を立てて――ご馳走が減ると共に、皆の笑顔が増えてゆく。

 SBOを始めなければ、見れなかったであろう光景。

 頑張った自分に、皆に感謝しながら、俺はグラスの中身を飲み干した。

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