第十話:フレンド
HPバーが一本削れたリザードマン・ロードは会話イベントに入った。
……このゲームのエリアボスとかはHPバーが一本削れるたびに喋ってくれるのか?
まぁ、スキルのクールタイムとか回復の時間をくれるのは嬉しいけどな。
『グゥゥゥ……おのれ人間……!我を、討つか……!』
「あぁ、ブッ倒してやるッスよ!こちとらもう既に三回も殺されてるんスから!」
「先ほどの宣言に倣うのならば……私たちは貴様の肉で酒宴を広げてやろう!」
「私たちは負けない!だって、仲間がいるから!」
「あぁ、皆。必ず勝つぞ!」
体が軽い、とても晴れやかな気分だ。
頼もしい仲間……安心できる仲間……守りたい仲間。
VRMMOで、またそんな存在と巡り会えるとは思っても居なかった。
楽しい、もう何も怖くないくらいだ。
「ガァァァ!」
「来るッス!」
「わかってるぜ、ファスト・シールド!」
リザードマン・ロードはカトラスを振り下ろしてくる。
俺はファスト・シールドで威力を軽減してから盾で受け止め、弾く。
スキルの詠唱をしていたユージンとランコは、俺が攻撃を弾いたのに合わせた。
「乱れ突き!」
「ダブル・ライジング!」
ランコの攻撃は三回ほど盾で受け止められたり、空振りこそしたが残りの二撃はちゃんと当たった。
ユージンの攻撃は四発の内、最後の一撃だけはクリティカルが出て、HPバーの一割を削り取った。
HPバーの変化は乏しいが、やはり俺の毒が効いているのかチマチマと削れている。
「フシュルルル……」
リザードマン・ロードは何故かノックバックでもしたかのように下がった。
なんだ……?
「グルァッ!ギャアッ!」
カトラスを横薙ぎ、そして切り上げのように振るい始めた。
ホントになんだ……?
『我が眷属よ……出でよ!』
「リザードマンがポップしたッス!」
「雑魚を呼び出すとはな……!これでは数の有利も取れん!」
リザードマン・ロードよりも一回り小さい……俺たちくらいのサイズのモンスターがポップした。
武器はリザードマン・ロードと同じくカトラスとバックラーだ。
だがHPバーは一本だし、サイズも小さいしそこまで脅威でもないだろう。
現にたった二体しか出てないし、ランコがいれば大丈夫……と信じてよう。
「ランコ、お前一人であのリザードマンたち倒せるか?」
「いや……どうせなら、この秘密兵器をリザードマン・ロードごとまとめて食らわせてやりますよ!」
「……そんなことが出来るのか?」
「あぁ、出来なくはないだろう。
ランコの習得している雷属性のスキルなら、水性たるリザードマンたちには良く効く」
「ただ、ソレって溜めがいるんでヘイト管理が大事なんスよ。
今まで使わなかったのは、溜めてられる余裕がなかったからッスねぇ……」
ユージンとヤマダがこっちをちらちらと見ながら話している。
……つまりはアレか。
俺があのリザードマン二体と、リザードマン・ロードを引き付けろと。
「あぁわかった、多分死ぬから頼むぜ。絶対に決めろよ、ランコ!」
「お願いするッスよ、ブレイブさん!」
「じゃあ、スキルのチャージを始めますね!」
ランコは槍の穂先をリザードマン・ロードへ向けた。
すると、槍の周りに雷のライトエフェクトが走り始める。
バチバチバチバチ……と、スパークするような音が段々と穂先に集まっていく。
「ガァッ!」
「ギャッ!」
「グォァッ!」
「ああもう、SP消耗デカいからあんま使いたくなかったが……お前ら耳塞いでろ!」
ヤマダはスキルを詠唱しているランコの後ろに立ち、ランコの耳を塞ぎ始めた。
ユージンはワケがわからないと言った様子で耳を塞ぎ始めた。
俺は三体揃ってカトラスを振りかぶってくるリザードマンたちの攻撃を弾く。
ロードの攻撃は避け、雑魚二体は剣と盾で弾き――
「咆哮!」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!』
このスキルは、SPの最大値に関わらずして絶対にSPの七割を持って行く。
まぁ、その代わりボスモンスターであろうと絶対に怯み状態に出来るのが売りだ。
因みにこのスキルは今の俺が仮にSP満タンの状態で放とうと、これを使ってしまえばセカンド系スキルは全部使えないのが悩みだな、畜生め!
SPの最大値がアップするような装備とかが欲しい。
今下半身装備で使ってる魔力ズボンとかはSPも増やしてはくれるんだけどな。でももうちょい欲しい。
「な、なんスか今のスキル……」
「恐らく、私が先日風の噂で聞いた……咆哮と言うスキルだろう。
SPの七割を消費する代わりに、あらゆるスキルの詠唱を強制解除、及び必ず怯み状態へと入らせる……例え味方であろうと。
耳を塞げばレジスト出来るようだがな、お前たちのように」
俺はアイテムストレージからSPポーションとHPポーションを取り出しておく。
SPポーションだけは二本取り出して一本は残し、HPポーションと一緒に雑嚢の中に入れる。
「ランコのスキルはあとどれくらいで打てる!?」
「ちょ、ちょっとわかんないッス!
ただ、あのスキルは溜め始めてから二十秒くらいチャージがいるんッス!」
「どんだけだよ!」
ソロでなら死にスキルになるだろそのスキル!
だが、超高威力ってことだけはわかった。
「咆哮で怯ませられてる時間は十秒が限度だ。
ヤマダも、そんだけ待っててくれば動けるから待っててくれよ……!」
俺はユージンに目配せして、スキルの詠唱に入る。
リザードマンとロードは見事に止まっててくれるので、こっちもスキルの詠唱をしてられる。
と、こっちのスキルの溜めが終わったところで、リザードマン・ロードがこっちへ向かってきた。
……当然、お供のリザードマンたちも一緒にな。
「ギャウゥッ!」
「セカンド・カウンタァァッ!」
二体のリザードマンのカトラス左右横薙ぎ、リザードマン・ロードのカトラス振り下ろし。
一回のセカンド・カウンターでは防げない……が、ロードの攻撃さえ受けなければいい。
普通のリザードマンの攻撃なら、まともに受けても俺のHPバーは残っている。
そして、セカンド・カウンターはリザードマン・ロードの胸に袈裟斬りでまともに入ったが……やはり硬い。
「ユージン!」
「はいッス!【ダブル・スラスト】ッ!」
ユージンの放った突きは惜しくもリザードマン・ロードの首に当たった。
頭でないとクリティカルは出てくれないので、HPバーの減りは薄い。
「ガァッ!」
「ギャオッ!」
「ギャウァッ!」
「ぐっ!くっ!っと!」
阿吽の呼吸で斬りかかってくるリザードマンを弾いて引き剥がしていると、今度はロードの攻撃が来る。
何とかすんでの所で躱したり弾いたり出来ているが、段々と俺のHPバーは削れていく。
この防具に自然回復がついていなかったら多分死んでるなこれ。
「ユージン、お前はスキルの詠唱をしててくれ!」
「は、はいッス!」
リザードマンたちの連携が厄介だと言うのなら……根本から崩して、ロードを叩いてやる。
「ファスト・シールド!」
「ギャッ!」
「セカンド・シールド!ふっ!セカンド・スラッシュ!」
リザードマンたちの連携を邪魔するように盾を出現させ、リザードマンたちをどかす。
そしてシールドを足場に、セカンド・スラッシュをリザードマン・ロードへ向けて放つ!
だが盾で防がれ、ダメージは与えられずじまいだ。
「クソッ……ランコ!まだか!?」
「ええ……丁度、今溜まり切った所です!」
「そうか!ならっ……一発デカいの頼む!」
俺は隙を晒した状態になっていたが、斬りかかって来たリザードマンを蹴りで払い、バックステップ。
そしてズボンのポケットにしまっていたSPポーションとHPポーションを飲み干す。
HP、SP共に八割ほどまで戻って来た……のであとは自然回復に任せよう。
「フシュルルル……!」
リザードマン・ロードが舌を伸ばして来たので、俺は盾でそれを受け止める。
すかさずリザードマンが俺に斬りかかってくる。
普通なら、それを弾いたり避けたりするが……俺は逆に思いっきりロードに近づき、リザードマンたちに俺を追わせる。
「ファスト・シールド、セカンドシールド!
今だランコ!俺ごとブチ抜いても文句は言わねえ!」
「【ライトニング・プロテクション】!」
ヤマダが俺に雷耐性を付与する援護魔法をかけてくれた。
「デスペナルティを受けようとも、知りませんからね……!
【メガ・ライトニング・スピア!】ハアアアァァァ――ッ!」
それは……まるで、落雷でもあったかのような轟音が鳴り響いた。
そして、音にも勝る程の閃光、そのライトエフェクトは俺の目を瞑らせるには十分だった。
「ッ……く……どうなってる……?」
けたたましい音が鳴りやみ、目が開いた時。
俺のHPバーは、残り一割どころか数ドットになっていた。
「わーお……すげえ威力」
シールド二枚+防御アップⅢ+ガードアップ+ライトニング・プロテクション、その上にリザードマンたちが壁になっている。
その状態で盾を構えていたと言うのに、俺のHPをここまで減らす大技。
どんだけの威力なんだよ……と、思っているとそのスキルをぶっ放した当の本人であるランコはぐったりとしていた。
ヤマダがランコを介抱するように抱きかかえていて、ユージンは何やら喜んでいる。
「……何があったんだ?」
「あ、ブレイブさん!
見てくださいよ!ラストアタック・ボーナスでいい武器が出たッス!」
「は?」
ユージンは俺を手招きすると、ストレージから二振りの短剣を俺に見せて来た。
それは刃が水色の物と、青色の物があった。
「なんだそれ?」
「リザードマン・ロードにトドメを刺した時に貰えた武器なんス。
今まで店売りの短剣しか使ってなかったんで、攻撃力が上がって俺感激ッス!マジで!」
「えーと、つまり?何があったんだ?」
「それは私が説明しよう。ユージンはドロップ品を確認していてくれ」
俺が閃光に目を包まれていた時。
ランコの雷属性の大技メガ・ライトニング・スピアとやらはリザードマンたちを消し炭にした。
リザードマン・ロードもHPバーがあと一割ってところまで落ちたようで……
残ったのが最後の三本目の内の一割だったからか、ユージンのスキル一発で倒せたようだ。
で、今に至るわけだが……
「そんな奥の手……どうやってそんな低レベルで入手できるんだ?
どう見ても今の威力は、レベル40台でもなきゃ出せねえだろ」
推測の域と言えば推測の域だが……ガチガチに防御を固めた俺を、余波だけで瀕死まで持って行くんだから十分すぎる威力だろう。
「まぁ、それは私の援護魔法とデバフが生きた結果だ。
元々、HPバーの一本目を削り終えた時点でランコはスキルの威力を上げるブーストスキルを使用した。
そこに、私のパワーアップ、及び雷属性攻撃の威力が上がる【ライトニング・アップ】……威力が高かったメガ・ライトニング・スピアを最大限に強化したと言うことだ」
「ほうほう……じゃ、デバフってのは?」
「デバフに関しては、ブレイブ殿が一人で粘っている間にこっそりとかけておいた。
小声で詠唱していたので、気付かれなかったようだが……元々リザードマンは雷属性が弱点、そこに雷属性へ弱くなるデバフを付与だ。
更には【ガードダウン】もかけていたので、防御力と雷属性への耐性はかなり下がった」
「なるほどな」
……で、あの威力でリザードマン・ロードは消し飛ぶ寸前までいったわけか。
なんで耐性まで付与して貰った俺がここまでダメージを受けたかは、恐らく強化だけであれだけの威力を出せるからか。
「ところで、何でランコはぐったりしてるんだ?」
「め、メガ・ライトニング・スピアは……その……SP全消費と、プレイヤーへの疲労の状態異常を与えるスキルなんです……」
そりゃ、あんだけデカい威力が出せてもおかしくねえよな。
むしろこんだけ代償を取らせて、更には強化までしまくったのにリザードマン・ロードのHPバー二本分未満だ。
となると、ランコの元のステータスが低いのか……リザードマン・ロードのVITかHPがよっぽど高いのか。
「まぁなんにせよ、これで俺の頼まれた事は果たせたわけか……じゃ、ドロップ品の分配とと行こうぜ」
「じゃ、俺ラストアタック・ボーナスの短剣だけ貰うんで、あとはお三方で分けてくださいッス!」
「俺はGだけ貰えればいいぜ。
素材は全部譲るから、好きに使ってくれ」
「では、私とヤマダさんで半分ずつ素材を分け合えば、いいか……」
「あぁ、そうだな。此度の決戦は、皆の力が組み合わさってこその勝利だ。
各々に好きな物を持ち、この戦を……とこしえに胸に刻もう」
ヤマダの一言で、俺たちは今日遊んだことを、思い出の1ページへと残した。
VRMMOで、一緒に戦った……この楽しみ。
それは、とても大切な思い出として、これからも残り続けるだろう。
だから……今回限りなんて寂しいことは言わない。
「……良かったら、フレンド登録しないか?」
「え?いいんスか?俺、あんまり友達がいなかったんで感激ッス!
むしろこっちからよろしくッス、ブレイブさん!」
「えぇ、私たちもいつも三人だけでしたから、新しいフレンドが増えるのも、悪くないですね……」
「心強い友が出来たものだ」
俺の一言を、皆は快く受け取ってくれた。
その日から……俺のフレンドリストには新しい名前が三つも乗ったのだった。
プレイヤーネーム:ブレイブ・ワン
レベル:22
種族:人間
ステータス
STR:53(+42) AGI:60(+32) DEX:0(+15) VIT:26(+42) INT:0 MND:30(+22)
使用武器:小鬼王の剣、小鬼王の小盾
使用防具:小鬼王の鎖帷子、小鬼王の鎧、小鬼王のグリーヴ、革の手袋、魔力ズボン(黒)、回避の指輪+2